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人型機動兵器リリウム・ノクス  作者: 波浪


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第六話 「機体の中のユリ」

最初に失われたのは、

時間の感覚だった。


昼も夜もない。

眠りも、目覚めもない。


ただ、

《リリウム・ノクス》の奥深くで、

ユリは“在り続けて”いた。


――私は、生きてる?


問いは浮かぶ。

でも、答えはもう、

必要ではなかった。


外の世界は、

音として伝わってくる。


整備音。

足音。

遠くの警報。


そして――

一つだけ、はっきり分かる存在。


アオイ。


彼女が近づくと、

機体の中が、少しだけ温かくなる。


「……ユリさん」


呼ばれるたびに、

胸の奥が、微かに震えた。


それが“感情”なのか、

ただの残響なのか――

もう、区別はつかない。


「今日ね……」


アオイは、

機体の前で話す。


戦場のこと。

生き残った人たちのこと。

空が、少しだけ青くなったこと。


ユリは、

黙って聞いていた。


いや――

聞いている“ように振る舞っていた”。


理解はできる。

でも、

喜びも、悲しみも、

以前ほどは動かない。


それでも。


「……ユリさん」


声が、震える。


「私……

 たまに、怖くなるんです」


ユリは、

返事を探した。


言葉は、

もう“選べない”。


代わりに――

花弁が、淡く光った。


それで、十分だった。


出撃。


今度の搭乗者は、

アオイ一人。


ユリは、

操縦を“補助する”。


最適解を示し、

危険を避け、

迷いを、少しだけ削る。


完璧な支援。


――でも。


「……ユリさん」


戦闘の最中、

アオイが呟く。


「……私、

 間違えそうでした」


その言葉に、

ユリの中で、何かが軋んだ。


間違えること。

迷うこと。


それは――

人間である証。


「……間違えて、いい」


ユリは、

初めて“強く”思った。


その瞬間、

支援アルゴリズムが、

わずかに乱れた。


警告。


《補助精度、低下》


でも、

アオイは生き延びた。


帰還。


アオイは、

コクピットを降りる前、

そっと呟いた。


「……ありがとう」


その言葉に、

ユリの中で、

確かな輪郭が生まれる。


――私は、

 まだ、

 誰かのために存在している。


夜。


格納庫に、

誰もいない時間。


ユリは、

自分自身に問いかける。


――私は、

 兵器?


――それとも……

 人間の、続き?


答えは、

まだ、出ない。


ただ一つ、

確かなことがある。


アオイが名前を呼ぶ限り、

私は消えない。


《リリウム・ノクス》の奥で、

ユリは、

静かに“息をした”。


たとえそれが、

呼吸ではなくても。

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