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人型機動兵器リリウム・ノクス  作者: 波浪


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1/8

第一話 「人であることが、起動条件」

世界が終わる直前の音は、

泣き声よりも静かだった。


崩壊した都市の地下、

非常灯だけが灯る格納庫で――

ユリは一体の兵器と向き合っていた。


それは、

“人間機動兵器”と呼ばれている。


全高十五メートル。

人の骨格を模したフレーム。

白と黒の装甲に包まれた、

あまりにも“人に近い姿”。


機体名――

《リリウム・ノクス》


「……本当に、彼女しかいないのか」


背後で軍人が呟く。

誰に向けた言葉かも分からない。


「適合率、九十八パーセント」

「これ以上の数値は存在しません」


冷たい声が答える。


ユリは、拳を握りしめた。


自分は兵士ではない。

訓練も受けていない。

ただ、都市が落ち、家族を失い、

生き残っただけの――普通の少女だ。


「……どうして、私なの」


その問いに、誰も即答できなかった。


やがて、技術者の一人が言った。


「君はまだ、“人間でいようとしている”」


意味が分からなかった。

この世界で、それが何の価値を持つのか。


コクピットに乗り込むと、

空気が変わった。


狭い。

近い。

まるで誰かの胸の内に

包まれているような感覚。


神経接続端子が、背中に触れる。


《人間同期プロセス、開始》


その瞬間、

視界が闇に沈んだ。


――誰かが、いる。


「……来たの?」


少女の声。

柔らかく、どこか寂しそうな声。


「あなたは……?」


ユリが問いかけると、

声は少しだけ笑った。


「私は……たぶん、

 ここに残った“人間”」


《同期率、急上昇》


警告音が鳴る。


「待って、私はまだ――!」


《起動条件達成》


世界が、はじけた。


地上は戦場だった。


無人機動兵器群イクリプスが、

建物を、道路を、人を、

何の躊躇もなく破壊していく。


「ユリ! 聞こえるか!」

通信が飛ぶ。


返事をする余裕はなかった。


――動きたい。


そう思った瞬間、

《リリウム・ノクス》が歩き出した。


操縦桿はいらない。

命令もいらない。


考えただけで、身体が応える。


「……これ、私……?」


避ける。

跳ぶ。

構える。


すべてが自然すぎて、

怖くなるほどだった。


敵機が砲撃を放つ。


ユリは叫んだ。


「やめて!」


その感情に応じるように、

背部の花弁が展開する。


白い光。


次の瞬間、

高周波ブレードが敵を切り裂いた。


爆炎。


勝利。


……なのに。


「……あれ?」


胸の奥が、

ひどく軽い。


思い出そうとした“父の顔”が、

ぼやけている。


《戦闘終了》


静寂の中、

あの少女の声が囁いた。


「ねえ……

 あなた、何か失ったでしょう?」


ユリは答えられなかった。


ただ、分かってしまった。


この兵器は、

人間であることを、代償に動く。


それでも――

それでも戦わなければ、

誰も守れない。


ユリは、静かに呟いた。


「……次も、行く」


その言葉に、

誰かが――

とても嬉しそうに笑った気がした。

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