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「わからないことはすぐ聞く」を実践する


五限目、現代文の授業。

坂上先生が板書しながら解説していた。


「この『象徴』という言葉、ここでは筆者の“内面の状態”を……」


「先生、それは筆者の言う“比喩”とはどう違うんですか?」


坂上先生は一瞬止まった。

声の主は神原。手を挙げることもなく、自然に口を開いた。


「……ああ。なるほど。“比喩”は具体から抽象へ。“象徴”は抽象を担わせる具体。つまり、方向が逆なんだ。わかるかな?」


神原は頷いた。


「ありがとうございます。つまり“象徴”は抽象を借景で描くようなものですね」


坂上先生はちょっと驚いた表情を浮かべ、黒板に説明を補足した。

そのやりとりに、教室の空気がほんの少しだけ変わった。


次の授業。数学。


戸田先生は黒板の数式を淡々と進めていた。

静まり返った教室。生徒たちは沈黙。

その中でまた神原が口を開いた。


「先生、この定理って“成り立たないパターン”ってありますか? どんな前提が崩れると使えないとか……」


戸田先生は苦笑しながら言った。


「また君か。いい質問だ。確かに、こういう条件では成り立たない。そこまで気づくのは珍しいな」


黒板に例外を追記する。


後ろの席で、いつも黙っていた生徒が、小さな声でつぶやく。


「……ああいうの、聞いてみたかったんだけどな」


神原は真面目に勉強することにしていた。

この年代の記憶力はすごい。

自分にもこんな時代があったことが信じられないくらい。

スポンジが水を吸うように頭に入ってくる。

それが気持ちいい。

気持ちいいから勉強する。

働きながら勉強することは難しかった。

できる人もたくさんはいるが。

自分にはできなかった。

性格もだが。だんだん老化していく頭を鞭打ちながらはかなりストレスだった。

今は全然違う。

自分がこの年代の時は正直真面目に勉強に取り組んでなかった。

恥ずかしい話だ。

なんか斜に構えてそれを理由にああでもないこうでもないと言って…

それが失敗だったことがわかったのは社会に出てからだ…

今度はそんな失敗したくないしするわけにはいかない。

それの理由がもう一つ。

この神原という人物がもし実在するならこの子にも自分と同じ人生を歩ませるわけにはいかない。

親御さんの気持ちも考えなければならない。

こんな考えが浮かぶのも親としての経験があるからなんだろうなあと思っていた。

子供の人生を可能性を親が、大人が奪ってはいけない。

それは神原が自分の子供に対する自分自身の贖罪でもあった。


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