入学式
神原浩一は、深呼吸をした。まだ信じられない。鏡に映る若い顔、制服。ツヤのツヤの髪…
「……どうやら本物か…」
いや夢だとしたらこのまま何もしないで寝てればいいんじゃないか…
思わず手で顔を叩いてみる…
何も起きない…
目覚めてから何度もこんなことをしている。
思わず笑ってしまう…
「何回やってるんだ(笑)」
もう死んだんだ…
死んだとしたら、生まれ変わってる?
これが転生…
それなら今までの記憶があるのはどうなんだ…
そんなことを考えてると人の声がした。
どうやら家族がいるようだ。耳をすます…
父親らしい人と母親らしい人の会話…
その口調、声…聞き覚えのあるもの。
少し部屋のドアを開けて聞き耳を立てる。
懐かしくもない、聞きたくもないその声は紛れもない両親の声だった。
これが生まれ変わりとしたらまたあの親と付き合うのか…
生まれ変わった意味なんてどこにあるんだ…
下から聞こえてくる声の内容はまだ起きてこないことに腹を立ててる父親だった。
もう夢で生まれ変わりでももなんでもいい…さっさとここから離れるんだ。
もう何十年も前に両親は他界している。
なのにまた繰り返す…
これはなにかの罰ゲームか…
人生やり直しの…
机の上をざっとみて入学式の案内文があったのでそれに目を通してみる。
学校へ行く準備だ。
不思議なことに自然と身体が動く。
無意識のうちに通学バッグを手に取り必要なものを入れていく。
恐る恐る階段を降りてみる。
朝食が用意されているテーブルには両親と思われる夫婦がいた。
呆然としている浩一に母親らしき人が声をかけた。
「おはよう浩一、早く食べなさい」
言われるままにそれらしく
それらしい席に座る。
「おはよう」
浩一がそういうと
父親らしき人物が一言話す。
「おはようじゃないだろ。おはようございますだ…」
その瞬間浩一は理解した。
ああこの人は自分の父親なんだ。
そう。
もう20年以上も前に他界した若い頃の父親だった。
というよりは、そういう父親に似ていた。
言葉にはうるさい、何かといえば人の批判、反論から入る。
そういう特徴があるとすぐ理解した。
「おはようございます…」
とりあえずそう返しておいた。
傲慢で独善的な父親にはとりあえず従う素振りをしとけば事なきを得る。
それが付き合い方だ。
机の上にあった入学式の案内の書面を確認して忘れ物がないようにする。
「通学路はわかるのか?」
その心配は杞憂だった。
外へ出ると同じ制服を着た高校生が結構いた。
「こいつらについていくか…」
歩きながら浩一は考えていた。
これは夢か…
三途の川を渡る前の夢…
それにしてはリアルな夢だ…
目が覚めるのか?
夢なら成すがまま…
そのうち覚めるだろ…
そう思いながら歩いていた。
高校は歩いてすぐだった。
大きな日本庭園の公園に隣接していた。
敷地には大きな木が何本もあり、どれも風格と、歴史を感じさせた。
その木の奥には辺りの風格とは馴染んでいないピンク色の木造校舎があった。
きっと歴史のある高校なのだろう。
その木造校舎が歴史を表していた。
入学式の会場、体育館の空気は張りつめていた。
みな初めての環境に、期待と不安を抱いて落ち着かない様子を見せていた。
その中で、神原はただ静かに座っていた。
動揺していた。だがそれを顔に出すことはなかった。
転生などというありえない事態に混乱しながらも、表情ひとつ崩さず、周囲に合わせて動いた。
「……まあ、幸いか。誰もがぎこちない。おかしな振る舞いも、初日なら不自然じゃない」
人生経験の長い年長者ならでは冷静に、自らの異常を「自然に隠せている」状況を分析する神原。
その異様なほどの落ち着きは、逆に目立っていた。




