おはよう
今の世界の神原浩一は目を覚ました。
その名前もあとでわかったことの一つだった。
見慣れない天井。聞き慣れないスマホのアラーム。
老いた身体の痛みも、目を開けるのに必要な意思力も必要なかった。
しばらく天井を眺める…
夢か…
死ぬ前に夢をみるんだな…
また眠ろうと目を閉じる…
またスマホのアラーム音…
いつまでも止まらない…
夢なのに…
仕方なく手を伸ばしてみる…
不思議な感覚だった…
体が動くのも夢だから…
これは全て夢…
そう言い聞かせて夢に身を任せる…
次に目を開けるとまださっき見た天井があった。
まだ夢なのか…
死ぬ前の夢…なんて長いんだ…
それともこれが死後の世界…
目を動かして見えてきたのは見慣れない部屋…
どうせ夢なんだからと思い切り腕を上げてみる。
そうやって体を動かしてるうちにとうとうベッドから出て起き上がって立ってみる。
部屋にあった鏡に映ったのは自分とは全く別人。
それも年も全然違う。
だらしないスウェットを着て寝癖のついた髪。
どうみても10代…
顔を触ってみても感じるものがある。
こんな夢もあるんだと不思議だった。
そして……制服。
これが一番おどろいた!
彼は思った。
「……高校生だと?」
これは絶対死後の世界だと思った。
死後の世界をいろいろ語ったものはたくさんあったがこんなのは見たことはなかった。
病院のベッドで、死に際に浮かんだ数々の後悔。
神も運命も何も信じてはいなかったが、これはきっと“やり直す”ために与えられた機会なのだと感じた。たとえ夢の中だとしても…
そして——今日が、入学式の日だと気づいたとき、彼は小さく笑った。




