「神原、青春カップルを見守りすぎて捕まる」
――バレンタイン、一週間前。
神原には、この日が近づくと胸がざわめく理由があった。
それは湊と香織だ。
(ついに、この2人も動くのか……!?
前にあんなこと言っちゃったし……
香織さん、湊くんに渡すのかな……? どうなの……!?)
胸のワクワクが止まらない。
気がつけば――
神原は香織の“動向を毎日チェック”するようになっていた。
(今日は放課後どっちの方向に帰る?
買い物袋……持ってる? あれチョコ材料?
え、週末に駅前? デート……? いや違う!?
なんだその微妙な距離感! あああ青春!!)
興奮しすぎて、休みの日まで香織の近所を歩いてしまう。
(いやいや、俺はストーカーじゃない。観察だ。見守りだ。保護者だ。
そう、青春の観察者……!)
自分に言い聞かせながら、木の影に隠れて香織が買い物袋を抱えて歩くのを見守る。
そして――その翌日。
駅前の雑貨店。
香織が出てきた瞬間。
香織
「……神原くん?」
「っ!!」
神原の体が跳ねる。
(バ、バレた……!? いや気のせい……違う方向見てるだけ……?)
香織
「そこ、隠れたつもり……?」
ふと見ると、神原の後頭部が明らかに植え込みから突き出ていた。
終わった。
神原は観念し、ゆっくりと顔を出した。
「……どうも」
「どうもじゃないよ。なにしてるの?」
香織は怒るでも呆れるでもなく、
本当に“素直に”尋ねてきた。
神原はしばらく沈黙し――
「……香織さんが湊くんに……チョコ渡すのか、気になりまして」
「…………」
香織の肩が、小さく震えた。
「ぷっ……あはははは!!」
本気で笑い始めた。
「な、なにが……?」
「いや、ごめん。
まさかそんな理由でこそこそしてたなんて……!
神原くんってホント、変わってるよね」
香織は買い物袋を抱えたまま、にこっと微笑む。
「渡すよ、チョコ」
「ほ、ほんと!?」
「うん。だって……湊、告白してくれたから」
神原の脳内で花火が打ち上がった。
(きたぁぁぁぁ!!!!!
青春イベント成功おめでとうううう!!)
思わず両手を高々と上げてしまう。
「よっしゃああああ!!」
「だからなんで神原くんがそんなに喜ぶのよ!」
「あ、ごめん……。でも、嬉しくて……。
香織と湊がほんとに……」
「うん、知ってる。
あの時“さっさと付き合え”なんて言われたのはびっくりしたけど……」
「……言いましたね」
「でもね、それでなんか、私も湊も気持ちが軽くなったの。
あ、もう隠す必要ないんだって思えた。
だから……あの一言、感謝してる」
香織はふわりと笑った。
神原はぐっと胸が熱くなり、
「そ、そこまで言われると……なんか……その……」
「嬉しい?」
「嬉しすぎて……ちょっと泣きそう……」
「うそでしょ!? なんで(笑)?」
香織は笑いながら歩きだす。
「じゃあね、神原くん。
もうストーカーみたいなことしないでよ?」
「……気をつけます」
「気をつけるんだ!それだけかい(笑)」
去っていく香織を見送りながら、
神原は胸の奥でじんわりと温かさが広がるのを感じていた。
(……よかった。
少しでも誰かの青春を後押しできたなら、それだけで……)
そして――口の端が自然とゆるむ。
「青春……最高……」
通りすがりの男子高校生に変な目で見られたのは、言うまでもない。




