「神原、青春を噛みしめすぎてバレる」
昼休み。
教室の隅で、湊と香織がまた小声で言い合っていた。
「今日こそさ、ちゃんとプリント返してよ?」
「お前が返してって言う顔が面白いんだよなぁ」
「何それ、意味わかんない!」
周囲の友達はニヤニヤしながら二人を見守り、
湊と香織本人たちは、互いの気持ちに気づきながらも、
絶妙に“一歩手前”で止まる。
その様子を、少し離れた席から――
神原が、箸で弁当をつつきながらニコニコ見ていた。
(ああ~青春……いいねぇ……。
そうそう、こういう距離感ね。
たまらんよな、こういう空気……)
頬が緩みっぱなしだ。
その神原の“幸せそうな表情”に、
ふと視線を向けている女子が三人ほどいる。
由奈
「……ねぇ、また神原くん、あの顔してるよ」
沙弥
「うわ、ホントだ。じーっと見てるし」
百花
「完全に……なに? 保護者?」
三人は口元を押さえてクスクス笑った。
神原はそんな視線に気づかない。
いや、気づいたところでどう反応すればいいのか分からない。
目を細め、鼻歌まじりに弁当の卵焼きをつまむ。
「いいなぁ……若いっていいなぁ……」
「青春最高……」
つい独り言が漏れる。
由奈・沙弥・百花
「「「出た……!!」」」
三人の女子は、机越しに小さくハイタッチした。
「高校生で“青春最高”って……ふつう自分で言わないでしょ」
「いやでも……なんか可愛いんだよな……」
「おっさん臭いけど憎めないわ」
そんな視線が向けられているとも知らず、
神原はニコニコしながら、また湊と香織の方を眺める。
(この“もどかしい感じ”がいいんだよ……
ああ~、この空気……実に……実に……)
そしてまた、ぽつりと漏らした。
「青春は……尊い……!」
静かな教室に、
妙に重厚な“おじさんの感慨”が響いた。
三人の女子はもう笑いを堪えられない。
「……神原くんのそのセリフ、父に聞かせたい」
「いやうちの叔父さんでもそんなこと言わないって……」
「ねぇ、誰か録音すれば?」
三人はまたクスクス笑いながら、湊と香織の方を見た。
――すると、湊と香織まで気づいていた。
香織が小声で
「……ねぇ、最近神原くん、私たちのこと見すぎじゃない?」
湊も小声でそれに答える。
「いや……悪い意味じゃない気がするぞ。
なんか……すっげぇあったかい目で見られてる」
「それが余計恥ずかしいんだってば……!」
しかし神原は、そんな二人の気恥ずかしさにも気づかない。
ただただ、心の中で反芻していた。
(ああ……若さが、まぶしい……!)
そして次の瞬間――
また独り言が漏れる。
「青春……永遠に……!」
由奈・沙弥・百花の三人
「「「だから誰だよアンタ!!」」」
女子たちのツッコミが飛ぶのは、もう時間の問題だった。




