神原、バレンタインに全力で浮かれる」
2月に入った頃から、学校全体の空気が少しずつ落ち着かなくなってきた。
「え、チョコどうする?」
「いや無理、私なんか渡せないし!」
「渡すしかない!押すしかない!」
そんな会話が廊下や教室のあちこちで弾ける。
――そして、そのすぐ近くで。
神原は、机に肘をつきながら“聞き耳を立てていた”。
(……きたきたきたきた! この雰囲気……!
これぞ青春の祭典、バレンタインデイ!
高校生に戻っただけでも奇跡なのに、バレンタインまで味わえるなんて……!)
頬が緩むのを止められず、
ふと聞こえてきた会話に、ひとりコクコクと頷く。
(ふむふむ。あの子は手作りチョコ作る気か。いいねぇ若いねぇ。
お、そっちの子は当日まで悩むタイプだな……ふふっ、尊い……)
そして、また別の女子グループの声が聞こえてくると――
「……よしっ!」
なぜか小さくガッツポーズした。
その姿を真正面から見てしまった女子・美羽は、
ぽかんと口を開けてしまう。
「…………ねぇ、神原くん」
「ん? どうした、美羽さん」
「なんで……今、ガッツポーズしたの?」
神原はパッと笑顔で言う。
「いやぁ、楽しくて楽しくて。
こんな青春イベント、楽しむしかないだろ?」
「……楽しむ?」
「そりゃ楽しむよ。ワクワクするだろ?
若者たちが恋に悩んだり、ドキドキしたり、
チョコ作るか作らないかであーだこーだしてるの、最高じゃないか」
「……いや、私は別に……関係ないけど…」
美羽は肩をすくめる。
バレンタインには興味ゼロという顔だ。
その言葉に、神原は優しく、しかし妙に説教くさい声で言う。
「美羽さん、もったいないぞ」
「え?」
「“今しか楽しめない”時期ってあるんだ。
恋愛の悩みも失敗も、全部ひっくるめて青春なんだよ。
関係ないって言ってたら、過ぎてから後悔するだけだ」
「……後悔?」
「そう。あと十年経ったら、こうやって言うんだ。
“あの時の私、なんであんなに臆病だったんだろう”ってな」
美羽は目を見開いた。
クラスの誰も、こんな“人生反省レベルの話”はしてこない。
神原はさらに楽しげに続けた。
「美羽さん、好きな人……いないのか?いるんだろ?」
「っ!?いないって!」
「もったいない!絶対に!今のこの時が最高なんだし、今しか経験できないんだぞ!恋は大人になってもできるけど、この時代の恋はなんていうのかな…新鮮なんだよ!わかる?」
「なんかさ…言いたいことはわかるんだけど…言い方がオッサンだよ(笑)」
「じゃあさ、もし私に好きな人がいたらどうしたらいい?」
「簡単だ。
渡したいなら渡せばいい。
言いたいことがあるなら言えばいい。
俺も手伝うぞ。渡す場所の確保とか、タイミングとか、段取りとか」
あまりに明るく、
まるで恋愛カウンセラーのように言う神原に、美羽は呆れた。
「……そんな軽く言える?」
「軽くじゃないさ。
でもな、恋愛ってのは“動かなきゃ始まらない”んだよ。
どのみち失敗したって、死ぬわけない。だったら賭けてみろ」
「…………」
美羽の心が、わずかに揺れる。
「……私でも、できるかな」
「できるさ。俺が保証する」
「なんでそんな自信あるの?」
「そりゃもちろん――」
と、神原は自慢げに胸を張り、
「俺は青春イベントに命かけてるからな」
「……意味わかんない!」
美羽は笑いながら、思い切りツッコんだ。
でも、その顔は明らかに――
さっきより少しだけ、勇気が灯ってい




