親としての後悔
遠くの夕陽を眺めながら、静かに息を吐く。日差しは西に傾き、床に長く影を伸ばしていた。
そのときだった。
背後から、そっと声がかけられる。
「……大丈夫? 顔色、悪いわよ」
振り返ると、そこには“母親”がいた。
――いや、転生後の、俺の「母親」役を演じているこの世界の女性が。
神原が“息子”として暮らしているこの家庭で、食事、洗濯をしてくれるその人が、心配そうに眉をひそめていた。
その言葉に、神原は首をすくめるようにうなずいた。
何も言えなかった。ただ、黙って立っていた。
……こんなふうに「大丈夫?」なんて聞いてくれる親が、うらやましかったんだ。
言葉にならない想いが、胸の奥に澱のように溜まっていく。
俺は、あの子達に一度でも――
「大丈夫?」なんて、言えたことがあっただろうか。
思い返せば、ろくに向き合いもしなかった。
朝早く出て、夜遅く帰って、たまの休みに時折しか顔を合わせた記憶がほとんどない。
学校から送られてくるプリントで、なんとなく学校生活は把握していた。
「仕方なかった」と思っていた。
仕事が忙しかった。
心が苦しかった。
家庭というものが、怖かった。
妻が先立ったあと、俺はたいして何もできなかった。
だから、実家に任せっきりに。
それからのこれからの先のことなんて何も考えなかったし、考えられなかった。
ただ毎月の仕送りだけで父親を名乗っていた。
会いに行く勇気もないくせに、「いつでも連絡してくれていいんだよ」なんて、メール一通で済ませていた。
それがどれほど無責任だったのか、いまならわかる。
でも、あのときは――自分が崩れてしまうのが怖かった。
いったい、あの子たちは俺をどう思っていたんだろう。
いつもどこか遠くにいて、肝心なときにはいない、口だけの親。
名前だけの「父親」。
頼れるはずもない、かりそめの存在。
「……ほんとに、なんでもないの? 顔、暗いわよ?」
母親の声が、再び現実に引き戻した。
神原は小さく笑った。
あくまで“高校生の息子”として。
演技でもいい。嘘でもいい。今は、この世界にいるためにそうするしかない。
「平気。ちょっと疲れただけ。ありがとう……母さん」
その言葉に、彼女はほっとしたように微笑んだ。
やわらかな笑顔だった。
そしてその笑顔を見ながら、神原は、思った。
――あの子にも、こうして向き合ってくれる誰かが、今どこかにいてくれているだろうか。
もしそうであってほしい。
今さら俺に、父親を名乗る資格なんてないけれど。
この世界で、誰か一人でも救えるのなら、少しは――報われるのかもしれない。
日が沈みかけた空を見つめながら。
心の奥で、子供達の顔を浮かべながら。




