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「蛍光灯と校務員さん」



ある日の午後のHRが始まる直前、神原はふと教室の隅を見上げた。


(……あの蛍光灯、点いてないな)

天井の列に並ぶ蛍光灯のひとつだけが、白く沈黙していた。


授業中も少し暗かったことを思い出す。だが、誰も気にしていない。

自分が高校生だった頃――あの頃の自分も、きっと気づいていなかっただろう。


放課後、神原は一人で校舎の端にある校務員室へと向かった。

金属製の扉をノックすると、渋い声が中から聞こえる。


「ん? どうした、生徒さん」

「すみません。教室の蛍光灯が切れてまして。自分で交換しますので、新しいのを一本いただけますか」


灰色の作業着姿の中年の校務員は、驚いたように眉を上げた。


「自分で交換? あー……いや、そういうのは先生経由で頼んでもらわないと……危ないからな。学校の決まりでね」

「そうですか。すみません。じゃあ、先生に伝えておきます」

「いやいや、教えてくれてありがとう。普通、生徒が気づいても言ってこないからね。助かるよ」


神原はにこりと笑って頭を下げた。


「いえ、慣れてますから(笑)」

「……ん? はは、面白いこと言う子だね」


翌日。蛍光灯は無事に交換されていた。

それだけのことだったが、神原がまた校務員室に顔を出した時、そこには妙な“親しみ”が漂っていた。


それからというもの、昼休みにすることがないと校内をぶらぶら。設備関係のちょっとした不具合や疑問を見つけては校務員室に報告に来るようになった。

校務員さんとは大人の話ができた(笑)というのは少し大げさかもしれないが。教師とはまた違う立場で話してくれる校務員さんは中身が老人の神原には話しやすい職場の同僚のように話すことができた。


「君、ほんとに高校生?(笑)」と校務員に笑われ、

「ねぇねぇ神原くんは、また校務員さんのとこ行ってるの?」とクラスの女子に冷やかされる。


だが、そのからかいの中には、どこか楽しそうな空気があった。

“変わってるけど、悪くない”。

神原はそれを敏感に察しながらも、あえて気に留めるそぶりは見せなかった。


(こういうの、会社でもあったな……)

(裏を支える人ほど、ちゃんと見ておかないと)


教室の天井を見上げる神原の目は、今日も静かに光る。(笑)


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