情けない人生…
カーテン越しに差し込む午後の陽が、白く乾いた病室の壁をぼんやり照らしていた。
窓の外からは、かすかな蝉の声が聞こえる。けれど、病室の中にその音が染み込むことはなかった。そこだけが、時間の流れから切り離された空間のようだった。
ベッドの上で、男が浅く息をしている。
頬はこけ、皮膚は土色に近い。額に浮かぶ汗は拭われず、呼吸のたびに喉がかすかに鳴った。
半ば開いた口からは、乾いた声がこぼれる。まるで自分の影に向かって語るように、独り言のように。
「なんで、あんな生き方しかできなかったんだ……」
「俺は……ほんと、最低の父親だった」
「お前たちには、何もしてやれなかったな……」
繰り返されるのは、後悔と自己憐憫だけ。
恨みがましい目で天井を見つめながら、掠れた声で呟き続ける。
息子と娘は、ベッドの脇に立ったまま、返す言葉を見つけられなかった。
父の姿はあまりにみじめだった。
そしてその姿が、「これがこの人の最後なんだ」と思わせるには、あまりにも情けなかった。
――なにか言ってあげなきゃ。
そう思っても、心のどこかで「またか」と思ってしまう自分がいる。
この数ヶ月、病院に通うたびに同じことの繰り返しだった。
嘆き、謝罪し、過去を悔い、そしてまた嘆く。
責めるつもりはない。
けれど、もう限界だった。
せめて最後くらい、少しでもまっすぐでいてくれたら――
その願いは、叶えられることはないのだと、娘は気づいていた。
父の呻くような声が止まり、部屋に沈黙が戻った。
その沈黙を破ったのは、娘の小さな、けれどどこかに鋭さを含んだ声だった。息子は黙ってた。視線は父親ではなく、窓の外だった。二人はもう何十年もこの父親とは暮らしてはいなかった。そう…それはもう半世紀にも…
「……やめてよ、そんな言い方……」
娘のその声に、父は反応しなかった。
あるいは、聞こえていたのかもしれない。
けれど、まるで聞かなかったふりをするように、ただ虚空を見つめていた。
――どうして、最後までこうなの?
娘は問いを口にはしなかったが、その眼差しがすべてを物語っていた。
これが、この人の人生の締めくくりだということが、どうしようもなく哀しくて、虚しかった。
息子はただ相変わらず窓の外に視線をやっていた。
一見すると普通の親子のようだった。しかし、父親はそう思えなかった。
病室の時計が、コツ、コツ、と音を立てていた。
ただそれだけが、静かに時を刻んでいた。
ある日とうとう容態は急変した。
この男がもう長くは生きることはない。
男はこの生死の間を彷徨う時ですらひたすら人生の後悔を続けていた。




