る。
五分短編小説:2001字~2500字
『第5回 五分企画』
『弥生 祐様の主催する5分大祭の企画参加作品です』
この【恐ろしい話】に登場するかも知れない、もしくは連想させるかも知れない、人物名。地名。団体名。文脈。は全て架空の物であり、色々フィクションです。
また、間違いなく危険な行為(笑)が含まれている為、不用意に真似をされると思わぬ怪我に繋がる恐れがありますので、十二分に御注意下さい。
(DEEP三昧)
丁度良い会話の区切り目を見極め、
彼女は左手の味噌汁碗もそのままに声を掛ける事にした。
いつもなら無口に朝食を済ませてしまう次女が珍しく話しかけてきた為、
食卓を囲んでいた糸江家の面々はヒタ… と箸を止め次女に目を向けている。
取り立てて『根暗な子』と言うわけでも無いのだが、中学の2年生にしては快活さに乏しく
淡々と事を済ませてしまう性格であった。
朝の食卓に飛び交う明るい会話に対し、聞き手に徹するのみで
相づちを返す事すら稀な子が、無表情で少し眠たそうにも見て取れる
相変わらずな眼差しを姉や母、一つ違いの弟に向けたままお味噌汁をすすり、
ズズズ〜〜‥‥
こくっ こくっ
ゴクンとお味噌汁を飲み込むと、薄く息を吸い込んだ。
「こんな場所を思い浮かべて欲しいの」
◆―― 1.
『その場所には確実に何かが・・・・ 』
――――◆
風。 人の居そうな気配というものが無く、
車の走る音さえ聞こえない真夜中の車道に、
風の唸る音だけが時折強く鳴っている。
辺りは道路脇に生い茂る濡れた雑草地と夜の霧雨に湿る車道を、
より濃い闇で覆い挟むべく鬱蒼と続く樹木と土の領域。
気温は低く、緑の生命力を感じる生臭い蒸し暑さとは対極の、
生物的な物音や臭いの排斥された不気味で陰気な静寂と深い闇が
林間の奥を支配していた。
車通りの日がな一日乏しいこの車道が霧雨と宵闇の黒に染まってからというもの、
今夜はまだ一度も仄暗い常夜灯ごと車のライトに射し払われてはいない。
その車道に仄暗く灯る常夜灯の照明は濡れた路面には不十分で、
何本かの黒い帯に汚された薄い白線を辛うじて灯し、歩行者通路の
存在を訴えている。
その先を数十メートル進むとトンネルがある。
やっと弱々しくも橙色に照らされ続ける洞の奥へと呑まれていく。
・・・・そんな場所の
鬱蒼とした闇の奥、
真っ暗に濡れる茂み、
それとも、
添え花の浮かぶ仄暗い、
それとも、
トンネルへと入る、
◆―― 2.
『うしろに 』
――――◆
私はいつから、ここにイるの‥‥
いつから。
あのときガラスに、
男が‥‥、車が‥‥
「くるま が
ああ、 そうよ。
「そぉ よぉ
暗闇に混ざる女の黒髪が揺れている。
ゆっくりとその唇が開き、その顎の輪郭までを闇と同化させる前髪から
薄く白い唇が覗く。
濡れた長い髪が濡れた露草と絡まり、
緩慢な声も最後には感情と溶けて掠れて消えていた。
「欲し い の
言葉の最後には唇だけがその感情を追い、暗い濃淡を揺らしていた。
「だから、ずっと
イるのよ。ここに。
私にはイるの。
そう。「あの車の、
低い低い唸りと、砂利をぢりぢり轢く音。
――女が光に包まれる。
・
・
・
・
車内に戦慄が走っていた。誰も微動だに出来ずにいるのは
恐怖の為だろうか。
運転席の男はハンドルを握ったままでいる。
その首に‥‥女の手が重なり、指は猛禽類の爪を思わせる様に
固く硬直している。
そうして男に跨る女の顔は血に濡れたショートカットの髪が貼り付き。
その女の目は驚愕で大きく見開いて、男の脚先の暗闇へ向けられていた。
「あ‥‥ ぁ まさ
掠れて言葉が続かない。
男の脚にベッタリ絡む長い黒髪。浮かぶ薄く白い口許と
脚にすがりつく透けた細腕。
男に跨ぐ女と凝視し合う闇の中の目が、目一杯に見開かれ
驚愕に引き攣り始める。
唇が戦慄く。
「イ‥‥ る
「イる
せっ
せっ
「先客が居るぅぅぅーーーーーー!!!
トンネルを走り続ける車に発狂モノの怪奇現象が響き渡る!
そして男は3速へ戻したギアに手を載せたまま、
マニュアル車の運転に集中している。
暫く続いた沈黙の後、上から突き刺す様な言葉が降りてきた。
「‥‥降りなさいよ。
「私が先なんだから。
そして、とても赦せない事をされた。
足で頭踏まれたのだ。
その足元で答える。
「貴方が消えてよ。
足元から聞き捨てならない事を言われる女。
「だいたい貴方は、手痕すら残せてないくせ‥‥ゲシッ!と、
言い切る前に蹴りつけられて流石に飛びかかった時。
その髪に掴みかかる寸前で再び衝撃に襲われる。
「 う そ
ルームミラー越しに同じ光景を見た女も驚愕の表情を浮かべ、
戦慄く唇が声にならない言葉を追っていた。
うそでしょう
後部座席の真ん中に十代前半位の女の子が座り、
微動もせず私達を見続けていたのだ。
外の霧雨に濡れる衣服の所為か、少し後部座席が濡れている。
そして後部ドアのガラスに映らない、
その落ち着き払った小生意気そうな表情で、硬直した二人を‥‥いや、
その向こうにある長細い鏡をいつまでも見つめていた。
車がトンネルを抜け出した瞬間、運転する男の左足がクラッチペダルを素早く踏み。
ペダルが踏み切らない内に足が離れた時には、
ギアが既に真下の4速へと降りている。
ぐんぐん加速する車のテールランプが、
そのトンネルからも見えなくなって、
霧雨の降る夜道の先へと消えて行った。
「・・・・
「おばさん、邪魔。
◆―― 3.
『むぃ/Muy』
――――◆
仕事で早く出た父を除く糸江家の朝食は、一転して戦慄にて冷え込む。
姉は俯いたまま小声で呟いている。
「むぃ‥‥駄目よ」
「やめて‥‥」
弟は伏せって頭を抱えていた。
血の気の引いた真っ青な表情で震えている。
無理もない。
今まさに、ただ『この場に居る』と言うだけで、恐ろしい大罪の
荷担者にされようとしている所であった。
母親だけが状況が飲み込めないのか、
不思議そうな表情で次女を見ている。
そして、
「おばさん、邪魔‥‥って言った所で」
「目 が 覚 め た の」
母が箸を落とした。
姉は優しく微笑み。引き攣った口許で、
「む 夢依ちゃん?」
「これからよね? また大きな展 「ごふぇんなふぁい(御免なさい)」
しかし行儀悪く遮られてしまった。
夢依はお味噌汁を少しだけ啜って。
ズズ‥‥
落ち着き払った調子で。
「展開は既に文字数調整に入っています」
長女がバタンと伏せると同時に弟が騒ぎ出す!
「俺は無関係だ!」
「ここから出せぇー!出せよぉぉ!!」
弟に夢依が手を添える。
「落ち着いて」
「夢依姉ぇ‥‥」
「どの隙間にそんな文字の余裕があるの?」
絶望に静まり返る家族を余所に、
ズズズ〜〜‥‥
夢依はお味噌汁を綺麗に飲み干し。
少し眠そうにも見て取れる、相変わらずの落ち着き払った眼差しで。
「ひとつ位ならね」
「こんなのがあっても良いと、私は思うの」
最後まで、目を通していただきまして。
本当に有難うございます。思えば『なろう』に登録し初投稿しましたのが、丁度去年の5月。
そんな5月に、初めて企画と言うイベントに参加し、初めてのオリジナル短編を『5分作品』と言う形で投稿する。まさに今気付きましたが、感慨深くさせられます。
5分大祭企画。本当に参加して良かったです。
そして、『5日』の投稿作者に選んで下さった主催者さま♪作品内容的(汗)にもありがとう御座います!
『なろうには、こんな作者も居るよ。』くらいに皆様のお心にお留め戴ければ幸い絶頂ですねぃ♪
(DEEP三昧)
◆―――
最後に一つ。
次女のフルネームに遊び心があったり‥‥
―――◆