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神童と天使のラブゲーム

乳母は語る!侯爵令息と男爵令嬢の恋模様

作者: 真央幸枝

(わたくし)は侯爵家のご嫡男ルカ様の乳母、教育係を経て、現在侍女頭のアマンダと申します。

私は自身の子を出産後に亡くし、夫であった子爵に離縁を言い渡され、涙に暮れていたところを侯爵夫妻に救って頂きました。


ご長男ルカ様は、それはそれは見目麗しい赤子でありまして、私のお乳を一生懸命吸うお姿には、亡くなった我が子を重ね、つい込み上げてくるものがございました。

私の命に代えてでも、生涯お守りしようと誓ったのでございます。


ルカ様は侯爵家の人々から愛され、健やかにお育ちになり、その類まれなる美しさから、社交界では『麗しの天使』などと呼ばれ、それはそれは、見る者の正気を奪うほどでありました。


誘拐未遂事件も一度や二度ではございません。


護衛も侍女の数も尋常ではありませんでしたが、致し方なかったのでございます。

ただ、10歳くらいになるとルカ様は、憂いを帯びるようになりました。何事にも熱量がないのでございます。


常軌を逸する婦女方、監視の厳しい環境。

この世の絶望を感じ、冷めていたに違いありません。


ですので、この頃から、侯爵夫妻は監視の目を緩め、ルカ様に多少の自由をお与えになりました。



ところがある日、貴族御用達の洋品店で、ルカ様がお買い物を楽しんでいる最中、侯爵家の馬車に、突然ご令嬢が乗り込んできたのでございます。

何でもルカ様がお座りになっていたクッションが欲しいのだと、獣のように喚いていらしたとか。


ルカ様のお部屋を整え、帰りを待っていた私は、その話を聞いて、心の臓が止まりそうになりました。

ルカ様にお怪我がなくて心底安堵いたしました。


やはり・・・ルカ様は婦女子を狂わすお方なのだと、侯爵家では認識を改め、その上で確固たる婚約者を据えようという結論に達したのでございます。


婚約者選定茶会には、伯爵籍以上のご令嬢を招くことになりましたが、旦那様がどうしても呼んでみたいご令嬢がいるとおっしゃられました。


王都の外れ、郊外寄りの小さな男爵領のご令嬢、フローラ様であります。

フローラ様は国内外で天才少女、神童などとお呼ばれになっておりました。



茶会に初めて現れたフローラ様は、奥様に対して、他の誰よりも体幹見事なカーテシーでご挨拶をされたのでございます。


「本日は素晴らしいお茶会にご招待頂き、心より感謝申し上げます。侯爵夫人のガーデンはとても素晴らしいと評判で、わたし、胸を高鳴らせています」


大人に習った定型挨拶の中に、子どもらしさを覗かせる。大人たちを感心させるには十分でございました。


それに何より『美しい』『綺麗』なご婦女が多い貴族社会で、フローラ様は『愛くるしい』『可愛い』という言葉がぴったりのご令嬢だったのでございます。


ルカ様も一目見て、感じるものがおありだったのでしょう。それなのに、ルカ様の第一声が、


「何だ子どもじゃないか。僕はセクシーなお姉さんが好きなのに、童顔ペタンコか。この世も末だね。ああ、麗しの天使も泣くに泣けないよ」


奥様や男爵夫人が固まる様子が誰の目にも明らかでした。どう取り繕おうかと悩んでいる大人たちをよそに、今度はフローラ様が、


「まぁ!それは良かった。私もアンタと婚約なんて御免被りたいわ。アンタのその顔、虫唾が走るったら。何が天使よ。堕天使じゃない。きも」


衝撃のひと言を投下させたのでございます。

終わった、と誰もが思い、重い雰囲気の中、お茶会が始まったのでございます。


ところが意に反して、ルカ様は次のお茶会にもフローラ様を呼んで欲しいと、旦那様に頼まれていました。

奥様が驚きで目を見開いたお顔が忘れられません。


ええ、ええ。私も同じ気持ちでおりましたとも。


『天使じゃなくて堕天使じゃない。きも』


などと、この世の最愛、ルカ様を侮辱したのでありますから!



しかし、我々大人の想像を斜め上を行く出来事が、次の茶会で起きたのでございます。


ある伯爵家のご令嬢が、ルカ様のお座りになっていた椅子をうっとりと眺め、撫で回し、かと思ったら、臀部の当たっていたところの匂いを、恍惚とした表情で嗅ぎ始めたのであります。


片付けをしていた使用人たちはすっかり動転して、言葉をかけることすら忘れてしまいました。

そこへフローラ様が颯爽と現れて、


「アンタには貴族令嬢としての誇りはないの?

みっともないからやめなさい」


などと言いながら、首根っこを掴み、手刀を喰らわせ、気絶させたのでございます。

そして、乱雑に床に転がせてから、


「まあ!緊張されたご令嬢が気を失われましたわ!誰か!ご令嬢をお運びになって!」


そうしてお屋敷から、うまいこと追い出してしまわれたのでございます。

それはそれはあまりにも鮮やかな手さばきでございました。

情け容赦はない、とはこの事でもあります。


「この変態痴女が!穢らわしい!」


フローラ様の呟きを、私は聞き逃さずにはおりませんでした。



その後、またもやご乱心になった侯爵家の令嬢が、何とルカ様に馬のりになるなどと暴挙に出られました。

さすがに護衛が止めようと入った矢先、またもフローラ様がひょっこり現れて、ルカ様を見事、救出されたのでございます。


一連の騒動の顛末を聞かされた旦那様は、大声でお笑いになられました。

フローラ様を婚約者候補ではなく、ぜひルカ様の侍女に任命したいと仰せでありました。


私も賛成でございます。

あのような冷静な対応のできる侍女がルカ様のお側にいれば、私共もより安心でいられますから。


ところが当のルカ様が、婚約者はフローラ様以外にあり得ない、と宣言されたのであります。



侯爵家では連日、話し合いが行われました。

フローラ様の文武の能力は申し分ございませんが、いかんせん、家格が低いのと、上流貴族としての資質が足りないのでは、との事でした。


ルカ様に対しての敬意が一切ないことも問題視されました。



またも茶会に呼ばれたフローラ様は、大人たちには見事な対応をされますが、ルカ様には遠慮のない対応なので、見かねた旦那様が、その事をフローラ様に指摘されました。


「君はルカに対して、随分な態度でいるが、大人たちに対しては猫を被っているってことなのかな?」


「まさか。どちらも本当の私の姿です。

大人の世界に対する態度と、子どもの世界に対する態度が違うだけです。

子ども時代はほんの一瞬です。

貴重な子ども時代に、大人社会、貴族社会を持ち込ませないで下さい。

子どもだからこそ、区別差別なく正直に付き合えるのです。

そこがご不満でしたら、私を二度と侯爵家に呼ばないで下さいませ」


ルカ様を始め、使用人たちの心を鷲掴みにした瞬間でございます。



その後もフローラ様は、ルカ様に望まれ、侯爵家に呼ばれました。

ルカ様とオタマジャクシを育て、カエルに成長する過程を観察したり、セミの抜け殻を取ったり、職人級の泥団子を作ったり、植物を育てたり、語学を教え合ったり、時には人体の急所を学ばれ、護衛たちと手合わせしたりと、ルカ様は活き活きと過ごされるようになりました。


ただ、ルカ様と婚約を結ばれた後も、フローラ様はどこか一歩引いたご様子で、いつでも婚約解消してくれて良いと啖呵を切っておられました。

フローラ様が婚約者であることを、ご不満に思うご令嬢たちがあまりに多かったためであります。


それとフローラ様自身が、殿方を好きではない、とも言っておられました。


「友だちとしてなら、ルカはいい。賢いし、好奇心も旺盛だから。でも異性としては見られない。私、下半身で行動する男が大嫌いなのよ」


分かります。分かりますとも。

私が離縁された理由も、子が亡くなっただけではありません。元夫には愛人がいたのです。


だけど、私にはルカ様にはフローラ様しかいない、と確信しておりました。


ルカ様の自然な笑顔を引き出すのはフローラ様。

ルカ様を助けるのもいつもフローラ様。


そして、ルカ様のお誕生日近くになると、私にも花束を贈って下さるのもフローラ様。


「アマンダのお子の墓前に」


初めて花束をもらった時は戸惑いました。


「・・・だって、ルカの乳母だったのでしょう?」


フローラ様のひと言で、私は号泣してしまいました。

子の墓はない、と申し上げると、フローラ様とルカ様は、侯爵家の庭にジューンベリーの苗木を植えて下さいました。その根元には、亡き子の髪が埋まっております。



現在、春になると花を咲かせ、果実も収穫できるようになりました。その果実でフローラ様とルカ様と、ジャムを作るのも使用人たちの楽しみのひとつとなっております。


使用人たち一同は完全にフローラ様の味方です。

貴族学園が夏休みに入り、フローラ様が侯爵家に長期滞在されるのを、使用人たちはルカ様と同じくらい楽しみに待っておりました。


ルカ様がそのご容姿で、婦女を夢中にさせるのならば、フローラ様はそのお人柄で、人々を魅了させるのでございます。


それから・・・

ルカ様の理性を失わせるのも、フローラ様、ただおひとりしかおりません。


私は見てしまったのでございます。

ルカ様がフローラ様の紅茶のカップに、眠り薬を投入したところを。

それはかつて、ルカ様ご自身が被害に遭われて、押収した薬。


私は緊張してしまいました。ルカ様はどうなさるおつもりなのでしょう。万が一、フローラ様に危害を及ぼす場合には、私が身を挺してお守りしようと決意しましたが・・・



「ルー。抱っこ」


などと、フローラ様が薬の副作用で、せん妄状態に陥ったのであります。


「!」


ルカ様もフローラ様の豹変ぶりに驚愕しておりました。


「フローリー、ルーに抱っこしてほしい」


「フローリー・・・?」


ルカ様の理性のタガが外れた瞬間でございます。


その後のルカ様の行動は・・・こほん。割愛させて頂きます。

ただルカ様の名誉のために申し上げますが、ルカ様はフローラ様が嫌がることは一切しておりません。

ただ、まぁ、あの・・・唇と鎖骨辺りは、いつもうっ血されておりますが。許容範囲として黙認して頂きたいと存じます。


最後の砦は、結婚式まで大事に取っておくそうでございます。ほっ。



はい。そうです。結論。

フローラ様は俗に言う『ツンデレ』令嬢だったのであります。普段はその本性をお隠しになり、ルカ様にも他のご令嬢にも冷たい態度を取っておられます。



結婚後、デレが現れるのかは未知数でございます。


私は・・・運命のバカップル、いえ史上最高の相思相愛夫婦が誕生するのでは、と密かに楽しみに待っているのであります。


いつもありがとうございます!

申し訳ありません。

感想フォームは閉じさせて頂いております。

m(_ _)m

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