帰り道
その日私はいつもより下校時間が遅くなってしまい、普段使わない近道を使って家路についていた。
ぽつぽつと小雨まで降ってきてしまい、早く帰らねばと小走りになる。
いつもの帰り道より暗くほとんど明かりが無いので不安な気持ちを燻ぶらせていると、住宅が続いていた右側の道がいつの間にか竹藪に変わっていた。
ちらりと見た竹藪は不気味で、小雨による寒さも相まってぶるりと体が震える。
ずっと小走りでい続けるのも疲れを感じ、歩きにしたが、一向に家の近くの道に合流できる感じがしない。
前に1度ここを通った時は早く家に着いたのだが。
そもそも、その時こんな竹藪などあっただろうか?
怖さと疲れで良くない方へ思考が変換されていると私は首を軽く横に振り、歩みを進めた。
やはりおかしい。歩けど歩けど全く違う道を進み続けているような気がする。
気付けば民家は無くひと気など一切感じない。
どんどん焦りが心を支配してきて走るが、道を抜けるどころか竹藪に広がる闇に飲み込まれているようだ。
聞こえてくるのは小雨と自分の足音だけで、妙に静かなのも気味が悪い。
いつもの帰り道でちゃんと帰ればよかったと後悔するが、反省は家に帰ってからにしようとなんとか切り替える。
ふと竹藪の奥に視線を寄越すと白い何かがいくつか見える。
もしかしたら民家の明かりかもしれないとそちらに近付くが、ぼんやりした輪郭がはっきり見えた時、私の体に戦慄が走った。
白い着物のような服を着た人が、列になって歩いている。
俯いた横顔は目が落ち窪んで青白くて全く生気が感じられず、体は後ろの竹が透けて見える。
ゆっくりゆっくり進み続ける彼らの足は服の下から存在しない。
「……ぅ……ぁ」
足に力が入らず尻もちをついてしまい、体は血の気が引き、がたがたと震えが止まらない。
早くこの場を離れたいのに体が動かない。
あの服は親戚の葬式に参列した時に見た記憶がある。
亡くなった人が着る死装束だ。棺の中の親戚も同じ服を着ていた。
じゃあやっぱりあの人達は……と、どうしようもない恐怖と焦りと不安の中なんとか体を叱咤させて少しずつ立ち上がる。
と、私の耳に川の流れる音が聞こえてきた。
あの人達は川に向かって歩いているようで、自分の体も少し引っ張られているような感覚がして血の気が引く。
あの川を渡ってしまえば二度と戻っては来られないと頭の中で警鐘が鳴り響いた。
足をもつれさせながらも走ってきた道を戻り、無我夢中で走り続け、気付いた時には家に帰っていた。
明るい時間帯に再びあの竹藪のあった場所を訪れたが、民家があるだけであの鬱蒼とした竹藪は存在しなかった。
あの時、あの場にとどまり続けていたらどうなってしまっていたのだろう。
私はあれからもう帰り道に近道を使う事は無くなった。