5.
「ノア、国はいつ出るの?」
「私はいつでもいいよ。リリアにタイミングは任せる」
国を出る前に少し町の様子を見に行きたいな。
昨日の私のノアの件がどう処理されたのかも気になるし。
「少し町の様子を見てから出発しよう」
「わかった。一緒に行こっか」
「うん」
ノアと一緒に町の様子を見に行くことにした。
***
町の人には、一応国王の娘だし私の顔は知れ渡っているので、ノアの魔法で新しい服を作ってもらった。
「魔法って便利なんだね」
「うん。私たちはこれが当たり前だから便利だとは思ったことなかったけど」
魔女は生まれつき魔法が使えるらしい。
人間なんかが練習して身に着けられるものではない。
「それはそうと。ほんとにこれ着るの……?」
「それはそうでしょ。似合ってるよリリア、可愛い」
「か、か、か、可愛い!?」
可愛いなんて言われたのは少なくとも私が物心ついてからは初めてだ。
それにノアの用意してくれたこの服……
ひらひらの可愛らしいスカート。
こんなのを着たのも初めてだ。
いつも使用人用のメイド服と町に出かける用の身軽な服だけだったから。
なんかノアといると、新しいことがいっぱいだな……
「よし、あとはこういうのもやっちゃお」
次にノアが魔法で出したのは母様やお姉様方の部屋で見たことのあるメイク道具だった。
「こんなの私に似合わないって……」
「大丈夫私に任せて!」
ノアは自信満々にメイク道具を握り始めた。
これ何言っても聞かないやつだ……
まあメイクには興味あったしちょっとくらいいいか……
「じゃあ任せる」
ノアに椅子に座ってと言われ椅子に座ると、ノアが私の前で顔を触り始めた。
新鮮だ。
メイクもだが、誰かが私の顔をこんなにじっくり見てくれるのが新鮮だった。
「リリアってメイクしなくても素が可愛いからやりやすいよ」
「……」
私の耳から頬までが真っ赤に染まった。
やはり可愛いと言われるのは慣れない。
少し照れてしまう。
***
「はいっ! 出来上がり!」
ノアから渡された手鏡を見ると私の顔はまるで別人のようだった。
髪も無造作に下げてただけだったけど、綺麗に結われている。
「すごい、まるで別人みたい……」
「まあ変装するためのメイクだからね」
「ノアは変装しないの?」
ノアは私の変装をするだけで全然自分の変装をしていなかった。
「私は隅でリリアのこと見守っておくよ。なんかあったらすぐ駆けつけるね」
ノアと町を歩けないのは少し残念だが、本人がそう言っているのなら仕方ない。
「わかった」
***
森を抜け町に入る手前。
「じゃあ私は近くで町の人たちに気づかれないよう隠れてるから」
「うん。行ってきます」
そう言い手を振るとノアは笑いながら手を振り返してくれた。
町の中に入るのは少し怖かったが、ノアがしてくれた変装のおかげで全然ばれそうにはない。
こんなに堂々と町を歩けるなんて……
今までは視界に入るだけで、痛い視線を送られていたが今はそれがない。
「おいおい、聞いたか? 昨日魔女を助けたあの国王の娘帰ってないらしいぜ」
男二人組がケラケラと笑いながら話していた。
私のことだ。
「ああ、聞いたぜ。まああんな民衆の前で堂々と助けたらそりゃあ戻れないよな」
「国王は死刑にするって言ってるらしいぜ」
私の顔は青ざめた。
呼吸も荒くなってきた。
そのまま膝から崩れ落ちてしまいそうだったが、何とか踏みとどまり呼吸を整えた。
わかっていた。父様が娘だろうと情けをかけない人だってことを。
しかも今私は嫌われる呪い付きだし、なおさらだろう。
でも、一日で死刑と決めるのではなく少しは……何日かは迷って欲しかった……
『リリア大丈夫……?』
ノアの声だ。
でも近くにはいない。
『魔法を使って話かけているの』
魔法を使って私の脳に直接、話しかけているらしい。
「うん……大丈夫。もう戻る……」
『わかった。待ってるね』
よろよろに歩きながら、ノアのいる森へ戻る。
***
ふらふらになりながらもなんとかノアのもとへ着いた。
「ちょっと、リリア大丈夫!?」
ノアは私の情けない姿を見て心配していた。
「うん、大丈夫。みんなが私をいいように思ってないことには慣れていたはずなんだけどな……。情けないよね……」
「そんなことないよ……!」
ノアは私の体をぎゅっと抱きしめた。
あたたかい。
昨日も抱きしめてもらったけどやっぱりノアの体はあたたかかった。
「リリアは情けなくないよ……! 今までみんなからの仕打ちに耐えてきたんだもん……! そんなこと言わないで……」
「……ありがとう、ノア」
私もノアの体をぎゅっと抱きしめ返した。
***
「落ち着いた?」
ノアは私の耳元で優しくささやいた。
「……うん」
「今日まで休んで、明日出発しよっか」
「……うん」
ノアはそのまま私の手を引いて家へ向かった。
ノアは私のことを大事にしてくれる。
昨日会ったばかりだけど、ノアの優しさは私の悲しさを吹き飛ばすくらい温かかった。
今日はしっかり休んで明日には覚悟を決めよう。