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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
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1-7 核無効化装置の性能確認成る!

よろしくお願いします。誤字脱字報告感謝します。それにしても多いですね。

 自衛隊は軍隊であり、その主体である防衛省、中央研究所も同じ体質である。従って、その職員には『働き方改革』などの言葉は似合わないし、当然協力業者にも同じ対応を要求する。涼もそれなりに巻き込まれたが、未成年の彼については手加減されており、夜中に呼ばれることはなかった。


 そういうことで、核無効化装置の実用化は戦場にいるがごとく急速に進んだが、その過程では防衛装備品のトップの売り上げの四菱重工の職員と、その協力業者のメンバーが50人ほども召集されている。このプロジェクトは、防衛大臣の御墨つきになっていて、費用は当然後清算である。


 結果として、資料を入手して1ヶ月後には機能試験を行うための試験機ができ、早速試験を行うことになった。これは、八丈島近海で連絡艇『みわ』に載せた試験機で発生させたパルスで、10㎞先に遊弋する護衛艦『おおよど』に載せた核分裂物質のU235のサンプルの無効化が可能かという試験である。

 ただ、この時点ではまだ小型大容量電池はできていないが、それは艦の電源で賄う。


 パルスを発生させる『みわ』は無人であり、『おおよど』からの信号で起動する。両方の映像は、中央研究所において20人ほどで見守るモニターによって映されている。見守っているのは、防衛事務次官の吉川太郎、中央研究所の八坂や宮坂空将も含み、むろん涼も呼ばれて来ている。


 防衛大臣の春日は、2日前の閣議でロシアの核兵器の脅威が話題に出た時点で、初めて首相をはじめ閣僚に、核無効化装置の実用化の作業について打ち明けている。彼の言い方は、世の常識から外れた技術を用いた装置であるので、完全な自信は持てないけれど、絶対欲しい技術なので実用化の試みはせざるを得ないということだ。


 それに対して、財務大臣の麻山が揶揄して言った。

「まあ、かの連合艦隊司令長官の山本五十六が、水を石油に変えるという詐欺師に騙されたというからな。とは言え、無効化できるという触れこみだったら無視はできんだろう」


 春日は、『それほど信ぴょう性のないものじゃない』と思いムッとしたが、まあ麻山は実用化の試みをすることは認めているので、胸をさすって言い返すのは押さえ、その言葉は無視して言った。

「それで、今の予定では2~3日で機能試験をして、実際に核分裂物質の不活性化ができるかどうか確認が出来る予定です。これは海上で、10㎞離れて機能するかどうかの確認を行います」


「ええ!春日大臣、そんなに進んでいるの?」

 首相の岸辺が声を上げたが、麻山も含めて閣僚は皆驚いた顔をしている。それを見て、春日は胸のすく思いであった。大臣就任以来の2年は、ロシア、中国、北朝鮮がらみで、正面からではないが閣議で責められることが多く、胃がいたくなる思いが続いてきたのだ。


「ええ、中央研究所を始め、皆が最大限の努力してくれましたから。いずれにせよ、あと数日です。結果はすぐに報告します」

 春日の言葉に岸辺総理が言う。


「海でやるなら、それはモニターで見られるのだろう?私もリアルタイムで見たいな。官邸に繋いでくれませんか?時間を空けて是非見たい」

 首相の言葉に半分ほどの閣僚が自分も見たいと賛同する。


 そのため、モニターの映像は首相官邸にも繋ぐことになった。研究所で見る予定だった春日は、官邸で見ることになり、山根官房長官、岸辺首相に加え他に都合のついた5人の閣僚が見守っている。画面の『おおよど』に乗って試験を指揮している嵯峨野が、画面に顔を映してしゃべっている。彼は1ヶ月の奮闘による疲れだろう、随分やつれた様子だが、目は輝いて力がある。


「ここのケースには、核分裂物質である5グラムのウラン235が入っています。これは鉛等で遮蔽していますが、放射線は漏れています。今その放射能を測ります」


 彼は画面中で、ガイガーカウンターをケースに近づけて計測し、その値で固定して画面に値を見せる。

「5シーベルトですね、被爆1時間で人体に害があるレベルです。では、核無効化パルス発生装置のパルス発生のスイッチを入れます。繰り返しになりますが、パルス発生装置は10㎞離れた海上の『みわ』に積まれており、『みわ』は安全のために無人です。


 ご覧のこのポータブル操作盤の電源を入れます。現在この青ランプが点いていますが、核弾頭であれば赤になります。今回は核物質の量が核弾頭に比べ微量なので検知が出来ないため赤にならないのです。でも距離は10㎞ですので、パルスの効力の範囲内ではあります。


 このスイッチを押しこめば、発生装置が起動します。画面のパルス発生装置を見ていてくださいね。では10数を数えてスイッチを入れます。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、オン!」


 画面中のパルス発生装置が、まばゆい光を発した。しかし、『おおよど』では何も異常はないようだ。

「ここ『おおよど』では何も感じませんでしたね。さて、肝心の放射能を測ってみます」

 嵯峨野はそう言って、カウンターをウランが入ったケースに近づける。そして、顔を計器に近づけ「おお、減っている、減っているぞ!」そう叫ぶ。さらに値を固定して画面に写すが、満面の笑みである。


「ほらご覧ください。最初のレンジでは測れないので、一つレンジを落としてようやく測れるレベルに落ちています。0.02シーベルトですから、これでは、到底核分裂の連鎖反応は起きません。つまり、この装置は核兵器の無効装置として使えます!」

 嵯峨野は、最後の言葉を叫ぶように言う。


 中央研究所においても、首相官邸においても、期せずして「「「「おお!やった」」」」との声と拍手で沸いた。とは言え中央研究所においては、これでひと段落とはいかず、量産に入り兵器として完成させる必要がある。だから、これからが本番だと事務次官が気合を入れている。


 ただ、彼は秀才の常で、この装置については否定的で、研究所からの予算申請に対しても渋っていたが、積極的になった春日大臣の押しに乗って来たと言う面があった。それが、成功してみれば、自分の手柄のように言うが、この種の話は全ての組織に言えることで、居合わせた連中は苦笑するしかなかった。


 首相官邸にいる春日は、早速、岸辺首相、山根官房長官、甲斐外務大臣と核無効化装置を日本が握っているという状況を、どう生かすかの話し合いに入った。焦点は前任のスペード大統領が、アメリカファーストを掲げ、何かと身勝手な要求が多いために、深刻な対立をし始めているアメリカとの関係である。スペードは高齢のため任期で引退したが、同じ共和党のラッセル大統領がその路線を引き継いでいる。


「春日さん、私も今日の結果は大変なことだと解るよ。君らのそれに関するリーフレットを見たが、利用の方法として攻撃型と迎撃型がある訳ですね?」

 改めて4人でソファに腰かけてから、岸辺総理が春日大臣に聞く。


「ええ、その通りです。迎撃型は航空機に装置を積む場合、または地上ステーションですね、大型の航空機また地上ステーションであれば、有効範囲100㎞は確保できるでしょう。一方で攻撃型というのは、ミサイルに積んで、各基地の10㎞の範囲でパルスを発することで、核弾頭を無効化するものです」


「ということは、迎撃型であれば探知出来れば我が国でも使うことに問題はない。攻撃型は相手の領土に侵入して一種の攻撃行為をすることになる。だから専守防衛を掲げる我が国とって実施には問題がある。それに、疑問なのはそもそも核兵器の位置がわかるのか?北朝鮮などは、隠していて場所が判らないと言っているけど、どうなの?」


「ええ、迎撃型については、法的に基本的に問題はありません。また、この装置には核分裂物質を検知する仕組みが付属しています。ですから、迎撃するとき核でない場合にパルスを出すような間抜けなことはありません。これは、攻撃型の場合でも同じなので、核弾頭の効力範囲に入ったらパルスを出すような仕組みになります。


 しかし私の意見では、迎撃型の場合はその確実さに疑問があります。これは地上ステーションであれば確実ですが、数が多くなりますし、移動する航空機の場合には対応が間に合わない恐れがあります。

 また、理念的に地球上から核兵器は一掃すべきでしょう。その場合には攻撃型で、最低ロシア、中国、北朝鮮の核兵器は無効化したいものです」


「なるほど検知の仕組みもあるのだな。うーん。だけど、春日さんの言うことは良く解るが、そうするとアメリカの力を借りる必要があるな。甲斐さん、アメリカは乗ってくるだろうか?」

 首相の問いに甲斐外相が考えながら応える。


「私は乗って来ると思います。ウクライナ侵攻にしても、ロシアの核が無ければ通常兵器でNATO、米軍はロシアを圧倒していますので、彼らが直接出張ってきて、3ケ月で片付いているでしょう。また、北朝鮮にしても彼らを甘やかせているのは、結局核あればこそです。


 まして、中国に関しては核があるから、彼らはあれほど強気で出ているのです。私はアメリカの複数の閣僚から『核が無ければ』という嘆きを聞いています。また、ラッセル大統領はスペードの後継者ということで、当選していますが、必ずしもその路線を支持している訳ではありません。だからそれほど、エキセントリックではありませんので、すんなり認めると思います」


 そこに山根官房長官が口を挟む。

「そうですね。私も同じ意見です。アメリカの国としての意見は国務省ペースですが、国防省はかなり考えが違います。多分彼らは、核無効化という技術があれば、ロシア、中国、北朝鮮については強制的に核を無効化すると思います。


 さらに他のインド、パキスタン、イスラエル、イラク、南アなどについては話し合いというか脅迫して廃棄させるでしょうし、イギリス、フランスは自主的に廃棄するでしょう。アメリカも時間は少しかかっても廃棄するでしょうよ」


「ふーむ、とは言え、アメリカについては、核兵器に莫大な投資をしているが、廃棄に繋がる無効化装置の使用を議会などが認めるだろうか?」

 尚も言う首相に、女房役の官房長官が説得する。


「あれは、基本的にアメリカにとっては必要悪であり、他国が放棄すれば率先して放棄すべきものです。コストについて、無くなれば経済的に困ることはなく、莫大な維持費が必要なくなります。まあ、その分は通常兵器の予算が増えるでしょうが。結局核兵器の減価償却は終わったはずですよ。

 またまだ新任のラッセル大統領は功績を欲しがっています。『世界から核を無くした大統領』、最高の功績じゃないですか」


 その話を受けて、まず岸辺総理がラッセル大統領に電話をして、非常にポジティブな返事をもらい、その話を受けて春日防衛大臣がアメリカのマクガン国防相に電話した。その結果、在日米軍から司令官ライム中将以下10人が防衛省中央研究所に訪問して、核無効化装置そのものとその実験結果のデータ入手し聞き取りを行った。


 それを彼らが本国に連絡した結果、アメリカのロサンゼルス郊外の陸軍試験場で実際の核兵器を使って試験を行うことになった。使ったのは陸軍のMC-NS-6という型番の200㎜の核砲弾であり、その上空をトマホークミサイルで通過させて、ミサイルに積んだ装置でパルスを発生させるというものだ。


 日本の試験で、パルス発生による人体に悪影響はないことは、設置した計器によるデータとして出ているので、航空機に載せて発動しても良かったのだが、より実態にそった実験ということになったのだ。核砲弾の周囲には防衛省からやって来た嵯峨野の他、アメリカに駐在している防衛省の技官に、アメリカ側の技官と制服組が5人ほどいて、トマホークを捉えているレーダーを見ている。


 嵯峨野はパルスが発生したら検知できる検知器を持って、それを監視している。それをよそにレーダーを監視している技官が言う。

「マークミサイルのことの高度5マイル(8㎞)、距離は現在9マイル(14.4㎞)、8(12.8)マイル、7(11,2㎞)マイル」数秒後に嵯峨野が、「今パルス発生!」と叫び、瞬間後レーダーの監視技官が「6(9.6㎞)マイル」と言いながら嵯峨野の方を見ている。


「さて、予定通りの距離でパルスが発生しました。その砲弾を確認してください」

 嵯峨野の言葉に、米軍の技官がトランシーバーで連絡して、ジープに乗った技官や将兵がわらわらとやって来る。彼らは万が一などと言って核の被害を避けられる1㎞以上離れていたのだ。


 核の専門家の数人が、砲弾を囲んで計器で測っていたが、まもなく、責任者らしきその一人が立ち上がり肩をすくめて言う。

「確かにこの砲弾は無効化されているよ。絶対に爆発しないな」

 この様子は、ペンタゴンと大統領官邸でもモニターされていたが、通信の信頼性の面から日本には繋いでいない。この結果を受けてラッセル大統領は、翌日軍のトップと閣僚を官邸に召集した。


「トム(マクガン国防相)、日本からの例の装置の概要と、昨日のテストの結果を皆に説明してくれ」

 大統領の言葉に、マクガンはパワーポイントを用いて、核無効化装置の仕組み、その機能、使い方などを説明し、昨日のテストの結果を示した。


「諸君、解ったかな。我々は地球上の核兵器を根絶する手段を手に入れたのだ。ロシア、中国、それに北朝鮮などがでかい面をしているのは、全て核あればこそだ。核抜きでは我が国は圧倒的な強者だ」

 暫くの沈黙が落ちたが、国務長官のベンソームが口を開く。


「確かに、近年ではウクライナで我々は歯がゆい思いをしてきました。そして、核をもって脅してくる悪ガキは手に負えないということが判りました。なにしろ、命の値段がロシアや中国また北朝鮮とは違い過ぎます。彼らは100万が死んでも平気ですが、我々は耐えられません。


 事実、ロシアはウクライナ戦争で7万8千の死者を出しましたが、現在の我が国があのような愚行でそれだけの死者を出せば、それこそ吊るされます。だから、核を廃絶するというのには賛成です。ですが、わが国は核兵器に莫大な投資をして、営々と維持してきました。


 そしてそのことで、核の傘を提供してきました。このコストは国際社会とやらに払って貰う必要があります。まあ、その装置は日本が実用化したらしいですが、さっき言ったコストからすれば、当然その技術は取り上げて、我々のものにする必要があります」


「ふん。なかなかそうは都合よくいかんだろう。日本としては守りを固めるだけで良いのだからな。それに、どうも日本にはまだまだ隠し玉があるようだぞ。例えば、事実上無限のエネルギー源とか、反重力とか、超小型大容量バッテリーとか聞こえてきて、すでに実用化に入っているという」


 CIA長官のカーターの話を受けて、大統領が皆を向いて指示する。

「うむ、ベン(カーター長官)その点は早急に調べ上げろ。別段対立する必要はないのだから、わが国に最も利益があるように導けばよいのだ。それに、あの国はかつてほど経済規模が大きくはないから、締め上げても大した利益はない。いずれにせよ各部署で入って来る情報にそって、抜かりなく対処してくれ。


 しかし、核の廃絶はやりたい。基本的にはロシア、中国、北朝鮮は、急襲して無効化する。イギリスとフランスは自分で放棄するだろうし、他は脅して手放させる。聞かなきゃあ強制だ」


 大統領の断固たる顔をみて、部屋にいる皆は彼が自分の功績を挙げるためとは解っていた。しかし、自分がその立場であれば同じことをするだろうと思い何も言えなかった。それに確かに、地球上からの核廃絶は正義であり、子供たちに胸を張って誇れることだ。


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[気になる点] ベクレルとシーベルト毎時を混同してませんか? また0.002ベクレルを測定するためには最低でも500秒かかります。実際には空間放射線量に隠れて測定できません
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