4-14 終章 2050年、国際連合政府設立
永く読んで頂いてありがとうございます。
これで完結です。
誤字脱字のご指摘ありがとうございました。
2050年10月1日、国際連合政府(GUN:The Government of United Nations)が成立した。これは、軍事権を国連が握って以来議論されてきたことであり、真に国連が国家を超越したことの証明であった。この成立には、一つにはGPFが発見した異星文明による球体のことが広く知られたことがある。
この球体は深宇宙探査機によって発見され、位置を特定されたそれをギャラクシーが回収した。回収したのは火星軌道付近である。重力に依存する重力エンジンによる惑星間航行については、惑星や月軌道から離れるほど加速度は小さくなることを考慮する必要がある。
例えば、地球表面から地球半径の半分である1万㎞離れると重力加速度は45%、半径の2万㎞離れると25%になる。だから、38万㎞離れた月に行く場合には、地球の重力が大きいうちにその方向に思いっきり加速することになる。そして、月の重力を使って減速して到着し、帰る時は加速を行う。
今回のケースで、火星軌道でその球を回収するには、地球重力で加速して向かい、到着時に水噴射のジェットパルスで減速して回収する。さらに引き返すときはジェットパルスで加速して地球に向かい到着時には地球重力で減速し着地する。結局、本部基地を出発して9日間で帰還している。
球体は直径1m弱であったが、詳しく調べられた。その結果として、自己で移動する機能はなく、電波による情報収集を行う機能があることが判った。また20時間毎程度の間隔で、未知の波動の発信を行っているが、波動は全く変化しないので、単なる位置を知らせるための信号と判断されている。
そして、カバーの材質が未知の合金であり、その中身が明らかに地球由来のものではないと判断されている。つまり、知性のある何者かが太陽系に来るようにその球を放ち、情報を収集し集めた情報を回収する予定であったということになる。
しかし、涼にとっては腑に落ちないことであった。ヒロの記憶ではそのような発見は覚えがない。だから、あり得る話としてはR情報による技術加速が、何者かの注意が引いたということである。しかし、ヒロのいた未来においても、時間は遅れても同じ技術は結局は実用化しているのに発見していない。
とは言え、その調査結果が発表された時には、世界中で大騒ぎになった。つまり、異星文明が現実にあり、その存在が地球を探っている。直接コンタクトしてこない時点で、友好的とは考えにくい。だから、太陽系の監視網の構築と、異星人に備えたGPFの装備強化が国連で決議された。地球の代表としての国際連合政府が成立する機運が生まれたのだ。
ちなみに、貧困撲滅プロジェクトは2045年に成功裏に完了した。その時点で、GDPの最低の国も年1.5万ドル以上になっている。その過程で、様々な資材や中間財が大量に必要になり、この種の生産力のある中国はGDPを大きく伸ばした。とは言え、中国はごまかしていた値を修正して昨年で15兆ドルである。
ちなみにアメリカは殆ど伸びず30兆ドルになっており、日本は3位で7兆ドルを超えた。中国は汚職した共産党員の財産を没収したこともあり、貧富の差をなくすような政策を取っている。その結果、比較的平等になったと言われており、暴動は殆ど起きなくなっている。
一方で、アメリカは極端な貧富の差があるのは従来からであるが、その格差が固定化されてきた。ようやく保険制度が導入されたものの、かつての中国のように暴動が頻発する国になった。このために、軍から転じた保安隊の活躍する場面が非常に多くなっており、すでにアメリカは民主主義の手本などと思う者はいない。
従って、アメリカの現大統領は行き過ぎた自由という言葉を嫌って、『規律』というスローガンを使い始めている。年間2万人を超える死者を出している銃については、アメリカ最大の問題であるが、漸く規制法が成立しようとしているものの、頑固に反対する者も多い。
貧困撲滅プロジェクトの意義は、一つにはアクティに手が出なかった人も飲み始めたことだ。このことで、人々が賢くなった。その一方で、全ての成人がスマホを持つようになった。そのことで、本当の意味で世界中の人々が身の回り、世界に起こっていることを理解するようになった。
そして、労働者としての質が上がり、他国に伍して競争できるようになった。そうなると、あるグループを搾取したり、利益を独占ということが出来なくなっている。国家間の争いの場合には、国連の調停機関が機能している。この場合、判決に当たってはAIによる判断も尊重する規定になったので、恣意的な判決は出せない。
このことで、諸々の争いは減ったかというと短期的には却って増えた。これは、今までは搾取され騙されても判らなかった人々が、そのことに気が付くようになったことが大きい。しかし、そういうことが多く発生すると、簡単には騙せない、そして解決に時間を要するという意識が常態化する。
そうなると、悪賢い層は争いに時間を費やす無駄を悟り、騙すこと、誤魔化すことを諦めることになる。日本人が正直というのは、このような過程を経て今に至ったのだと思われる。
ところで、GUNのトップGUN総長(President of GUN)は前イギリス首相のマイケル・サマーズである。初代UN総長から4代目に当たり、また初代と同じ元イギリス首相に戻ってきた。やはり、世界の多くを植民地にしていたイギリス人の情報収集力、交渉能力は卓越したものがある。
その点では、前任のアメリカ国務長官だったジム・ロジャーズは、腕力任せという部分があった。また、前前任のフランス元首相のミッシェル・ドナバンは、やや世界全体を見るという観点が弱い。そういう意味では、日本人の総長にはまだ時間がかかると言われている。
GUNが成立しても国連の組織そのものは余り変わっていないが、正式に軍権をもつことになった。つまり各国は戦争を行う権利を失った訳だが、当然反対した国はあった。特に激しく反対したのはアメリカであるが、他はそれほど抵抗をしなかった。
これは、やはりすでにGPFがあって、兵力が小さいのにも係わらずその戦力が突出している。だから、各国とも『戦争はGPFに任せておけばよい』ということになっている。その点で圧倒的に戦力が高かったアメリカは納得がいかないということだ。
戦争をするに至るには色んなケースがある。日本がアメリカと戦争に入ったのは、国の存続を脅かされた、というよりお前の好きなようにはならないぞ、という理由だろう。ただ、日本を戦争に引きずり込むため、アメリカのやったことは、相手は悪漢だから何をやってもいいという奴で相当悪質である。
日本の真珠湾攻撃の後の、アメリカの立場はやられたからやり返すという奴だ。その後のソ連の数々の侵攻は、大抵言うことを聞かないからという理由である。アメリカのベトナム戦争、中国のベトナム侵攻は言うことを聞かないからである。インドとパキスタンの戦争は境界線、つまり領土紛争である。
そうやってみていると、過去には良くあったが、近年において領土や資源を狙っての戦争は少ない。アメリカは、相当前ではあるが、メキシコやフィリピンでは領土戦争をやっている。しかし、今では領土や資源を望んで戦争は起こすつもりはないだろうが、生意気な奴をやっつける手段を離したくないということだろう。
このように、国連のみに軍権を持たせるという案件に、最後に反対するのはアメリカのみになった。しかし、そうなってみると、なし崩し的にアメリカ国民の大多数は賛成ということになった。かくして、めでたく総会で反対無しに国連が地球の軍権を握ることになった。
そうなると「次は地球政府だ!」となる訳で、そう叫ぶ者が多い。だが、まだまだ国ごとの貧富の差、教育程度の差も大きくさらに、近所同士程仲が悪いという問題がある。貧困撲滅プロジェクトにしても、莫大な投資をしたわけだが、無償援助の部分は小さく、多くの資金は殆ど利子無しではあるが融資である。
同じ『国』であれば、貧しい地方に豊かな地方からの税で投資をして、貧しい地方を豊かにするというのは普通である。これは『同じ国民だから』という理由で納得している。しかし、世界を一つの国にした場合、同じことをして、豊かな国であった地方が納得できるかと言えば否であろう。
しかし、今後数十年あるいは100年を過ぎる内に、国連及びGUNも、どんどん変革しながら、徐々にその機能を拡大していくだろう。そして人々の意識は『地球市民』になっていく。
―*-*-*-*-*-*-*-*-
ところで、涼は40歳であり、GUNの日本選出の代議員になっている。涼がR情報をもたらした当人であることはすでに世界的に知られている。そして、2035年時点では、R情報なしには日本及び世界がこのような理想的ともいえる状況になることはあり得なかったということは、すでに公知の事実である。
つまり、それなくしては核戦争が起きている可能性が高く、エネルギーで行き詰まり、気象変動で苦しむ暗い世界であっただろう。当然、貧しい国はより貧しくなり、大勢の餓死者を出したであろう。また、地震の予測のみでどれだけの人々は救われたか、人々は忘れていない。
このようにして有名になった涼は、与党から請われて国会議員になった。31歳の時であった。すでに世界的に知られ尊敬されている涼は、地元においては全員が知っているいわば英雄である。だから、選挙は与党幹部からの応援も断って行ったが、3人区で半分の票を取る圧勝であった。
ちなみに、国会においてであるが、新しく当選した議員は通常、当分の間は発言力がない。だが涼の場合には、総理大臣など政権の幹部になっている全ての議員が涼に助けられた経験がある。それで「やりにくいから、誘うのは止めよう」という意見もあったらしい。
だから、議員個人としては破格の発言力がある。それに目をつけた超党派の若手の議員から、『地球新世紀』の会の会長にと口説かれて受けた。これは、75人の40代中心の彼らが、今後は日本がどうやって地球世界に溶け込んでいくか、という政策を出すための会である。
すでにそれなりの注目は集めているが、涼が会長になって更に注目度は高まったことは確かである。なお、涼は日向クリエイティブの役員は続けているが、資源探査はその時点ではすでに手を離れている。また、会社でやっている様々な開発も、優秀な人々がいるので方向のみの相談に乗れば進んでいく。
国会議員としての政府から依頼されている役割は、国連との連携であり、特に探査された資源と貧困撲滅プロジェクトの関連についての管理である。資源探査結果に関して、日本政府が利権に口出しする関係上で涼が適任ということで担当している。
資源探査を始めたのは涼ということは、広く知られている。このため、涼が入ると当該国、日本、国連の交渉はスムーズにいくことになる。さらに、国連においても、近年の大きな技術開発が涼のお陰であることは良く知られている。そのため、国連における存在感は日本の国連大使より遥かに大きい。
そのような経緯で、GUNの議会に日本からの代議員3人の内の一人に涼がなるのは、既定の話である。彼は、第1回GUN議会に出席している。横に座るのは、同僚の三橋紗理奈であるが、彼女は国連職員を経て、国会議員に当選した女傑である。さらにもう一人は香川瑞士であり、彼も国会議員である。
つまり、GUN議会の代議員は、大部分が出身国で国会議員をしている。彼らは年間50日余の議会に出席する以外は、地元で議員生活をすることになる。これは、ハイパーライナーが普通になり、移動が格段に楽になったお陰である。
現在は国連に参加した国の数は101になっているが、これは強引に国連が合併を進めた成果である。各参加国は最小1議席を確保しており、最大の中国とアメリカは4議席、日本は3議席あり、全部で520議席となっている。
涼達が見守る内に、GUN総長のマイケル・サマーズの初回議会での演説が始まった。
「ご出席の議員の皆さん。そしてこの様子を視聴されている世界の皆さん。本日は世界政府とも言えるGUN議会の最初の会議であります。
現在我がUN政府は、役割こそ従来の国連と大きくは変わりませんが、軍事に関しては地球を代表するものとなりました。つまり、GPF以外の軍は非合法であることになりました。
これは人類史に特記すべきことであります。過去我々人類は延々と争って来ました。その中で幾多もの人命が損なわれ、その数倍の人々を悲しみの中に突き落としました。そして、それは近代になるとどんどん激しくなり犠牲者が急激に増えました。
さらには核兵器という、人類を滅ぼすことのできる兵器が登場するに至り、我々人類は絶滅の危機にあったと言って過言ではありません。しかし、それは核無効化装置により克服されました。
さらに脅威であったのは、人間の活動の結果による気候変動、さらにそれと表裏一帯であった化石エネルギーの枯渇によるエネルギーの行き詰まりであります。
しかし、これも触媒回路という新たなシステムが生まれ、これによる廃棄物なしのほぼ無限の発電システムの出現によって解決されました。
さらに、重力を操る重力エンジンの登場は、人々にとって地球を劇的に小さくし、地表全体に容易にアクセス可能にすることで有効に利用できる道を開きました。このことはまた、人類にとって大きな障害になりつつあった人口問題を解決することになりました。
また、貧困は紛争の種になり得る大きな問題でありました。そして、国連は過去15年全力を挙げて貧困撲滅プロジェクトとそのフォローに取り組んできました。結果として、まだ貧困が根絶とはいきませんが、すでに飢えは無くなりました。また、一つの指標として、最貧国とされた国もかつて中進国と言われたレベルに上がってきました。
そして、おそらく次の10年においては、貧困撲滅は完全に達成できると確信しています。そうなった時には、全ての人々は自分を地球人類の一員として考えられるだろうと思います。またその時には、本当の意味での地球統一政府が出来あがるものと考えています。
現状の最新・最良の予測によれば、人類の未来に大きな障害はありません。つまり、我々は自分のまたその子や孫の将来の世界を憂うる必要はないのです。今後、我々国連政府の役割はさらに増してきます。しかし、その円滑な運営には各国のみならず全ての地球の人々の共感と協力が必要です。
どうか皆さん。今後の国連政府の今後を、温かくかつ厳しく見守ってください。そして、かつその活動に積極的に参加をして下さい」
新作を今日から書き始めました。
「異世界令嬢、日本に現れ大活躍!」という題名です。
著者名から入って下さい。




