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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第4章 変貌した地球世界
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4-13 2040年の世界、資源探査と貧困撲滅

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

次で終話の予定です。

 2040年、資源探査は順調に進んでいる。チームは、日向クリエイティブ所属で5つある。それぞれ探査スカイカー10機を持ち、今では国単位でなく地形を重視して範囲を決めている。どの国も自分の国を優先して欲しいと要望しているが、順番は日本政府に一任である。


 また、もっとチームを増やせという要求は国連で強いが、諒がこの探査は一過性のものであることを理由に増やすことは断っている。つまり、一旦探査した場所を2度目に探査する必要は基本的にはないから、全地球を終わったら、それで探査は終わりであるということだ。


 ただ、探査は地表全面を行う訳でなく、地質調査の結果を分析して有力な場所に限っている。従ってベースの地質調査の結果が不正確である、または特異な鉱床であれば見逃すことがある。だから、現状のところ地球全土を終わるのに5年を考えているが、その後も探査を続けることはあり得る。


 もっとも涼は月や太陽系の他の衛星や惑星を考えているから、これらはまだ先はあるが。そして本格的に探査を始めて4年が過ぎ、すでに第1優先の地域である貧困撲滅の対象国、及び中進国の探査は終わり先進国にかかっている。


 その際に解ってはいたが、原油・ガスの探査は殆ど出来ていない。これは当然のことで、浅い層に原油層・あるいはガス層がある場合はまずなく、地表から100m~200mの層を探る探査法では見つからないということだ。今では、原油やガスの発見は少し前ほど価値が無くなっているので良いが、少し前だと『役たたず』と言われるところであった。


 ちなみに日本は、日向クリエイティブのチームとは別に、経産省主導のチームで探査が行われて2年で終了している。その結果、新発見は殆ど見込みがないだろうと言われていた予想を覆して、金・銀、銅、クロム、ニッケル、水銀、鉄、亜鉛、石炭など、日本であれば採算ベースに乗る鉱床が見つかった。


 特に、岐阜の山中で見つかった金・銀鉱の鉱床は金が1,000トンを上回り、銀はその10倍と推定されている。これらは、全部の精錬後の価値で21兆円程度とされて、世界で続々と見つかる発見に比べても、さほど小さなものではない。もともと日本は金属資源は豊富な方である。


 こうした鉱床の発見は、いわゆる遅れている国や地方で多く、その規模も大きいものが多かった。それは当然のことで、人が多く住む地域で科学技術の発達しているところでは、資源は様々な方法でくり返し探されている。ただ、露頭が地上に現れていない場合には見つけることは難しい。


 しかし、鉱床の規模が大きければどこかで地上に現れる。つまり、地上に全く出ていないような鉱床は規模が小さい場合が多いわけだ。実際の大当たりだったPNGのキクナ鉱山にしても、その後の開発により3ヵ所で露頭があったことが確かめられている。殆ど人が来ず、調査もされていないから未発見だったのだ。


 そういうことで、とりわけ貧しい国で、人口密度が低い国ほど大きな発見が多い傾向はあった。そして、海岸際で土砂など堆積物に覆われた平原ではその種の発見は殆どない。少なくとも丘陵かまたは山岳地域が、そうした大規模な発見地区になる。


 しかし、残念ながら国の配置や位置は、地下資源を考えたものではない。だから、資源量に大きな不公平が生じるのは避けられない。その意味ではPNGは、石油を除きかつ先進国を除けば資源量で世界のトップ5に入っている。同じ条件で、世界No.1は中国であったが、その多くがチベットとウイグルにある。


 中国については、チベットとウイグルでは、漢族が入り込んで原住の人々に対して圧政を布いているとの問題が指摘されていた。そして、クーデター政権の調査によってもそれは事実であった。だが、すでに収容所に収容した人々は解放され、補償金が支払われている。


 元来、両地区は武力侵攻で中国に併合されている。そして、年月が経ち両地区の人口は漢人の方が多くなっている。そして、現状の文明状況において、どちらが適応しているかと言えば漢人であろう。だから、仮に原住の人々を政府が公平に扱ったとしても、漢人の方が能力の面で優位に立つことになる。


 苗主席率いる中華共和国は、世界の普通の一員として受け入れられるために必死である。そのため何としてもそのイメージを変えなくてはならない。だから、すでに国及び省レベルの普通選挙を行って正当性を確保している。しかし、依然としてその弱点が、チベットとウイグルそれに香港であった。


 ここで、香港は制限なしの選挙を行い、従来の政治体制に戻したことで問題を解消した。しかし、チベットとウイグルは国連の調査団を受け入れた結果、基本的に施政者は漢人のみで、原住の人々が低い立場に置かれていることは事実であるとの結果になった。


 しかし、資源探査の結果発見された莫大な資源は、絶対に手放せない。そうなると、宝の山に住んでいたということで、漢人より優遇するしかないということになった。そこで、道路、電力、上下水道などのインフラと彼らの住居を整え、優先した職の斡旋を行っている。


 それでも不満な者はいる。だが仮に独立して、平均的に人々が満足できるかと言えば怪しい。国連としても、原住の人々をそれなりに優遇してくれるなら、中国政府がそのままやってくれた方が面倒でないことは確かだ。だから、国連としては『見守る』が、現状の政府の施策は容認ということになっている。


 ところで、発見された資源の額の大きさのNo.2はカザフスタン、No.3はシベリア共和国である。アフリカで見つかった資源は全体としては大きいが、それほど広大な国がないためNo.5にコンゴ共和国が入っている。なお、No.4はPNGであるが、オーストラリア・カナダなどが資源探査を終われば、この中に入ってくるかもしれない。やはり広大な国は有利である。


 一方で貧しくて資源が少ない国もあった。例えばバングラディシュやベトナム、南米のカリブ海沿いの小国などであった。貧困撲滅プロジェクトにおいて、最初に必要になるのはインフラや産業施設への投資である。この資金は、ある程度は無償援助になるが結局は国としての借入金である。


 そこに豊かな資源があれば、場合によっては利権の譲渡またはその利益による借入金の償却ができる。無論、これらの借入金は投資によって生まれた利益で償却できるように設計されている。しかし、償還のための原資は国としての取り分から支出するので、国民が得る利益が減るわけだ。


 つまり、資源を売ってその利益が出れば、その国というより国民に入ることになる。だから、資源がない場合に比べ国民が豊かになる速度は格段に早くなる。探査による資源が、2.6兆ドルとされているパプアニューギニア(PNG)は、人口1,300万人の国民一人当たりで20万ドルのボーナスを貰ったようなものだ。


 このように、資源探査は貧困撲滅プロジェクトに大いに影響を与えている。貧困撲滅プロジェクトは、一応一人当たりGDP1万ドル以下の国約100カ国を対象としたものだ。尚、それ以上は80カ国である。計画は、個々の国ごとに現状の解析、問題点と課題の抽出を行い、経済成長のための対策を策定している。


 大抵は、まずは公的投資として、劣悪な住環境の改善を行うと共に、道路、電力、上下水道及の整備を行うプログラムになっている。それに加えて、民間セクターへの融資制度を創設している。後者は、地元で消費する物品の生産を行う企業者等への生産・流通への投資を推進するものである。


 この投資によって、国を挙げての規模の大きい建設が始まることになる。そのことで、物品の大規模な消費が起き大きな雇用が生まれ、消費が促進されるので、その消費を賄う現地での生産を促し起こす。こうすることで、その国の経済が力強く回り始める訳だ。


 加えて、その都市整備やインフラ投資の成果として、スラムの集まりに比べて大幅に価値の高い都市が形成されることになる。電力については、都市部の電力不足はすでに日本の援助で解消されており、加えて電力料金の大幅な値下がりによって、エアコンなどが普通に出回り始めている。


 また、電子バッテリーの普及は、貧しくインフラが整っていない国の生活を変えている。フィリピンなどは中進国に分類されるレベルだが、電力線が繋がっていない地区や家が結構ある。そのような所でも、バッテリープラス太陽光発電でテレビは見られている。


 そこにエアコン、冷蔵庫、テレビなどを使っても、1ヶ月以上使える数万円の電子バッテリーが現れたのである。この場合電子バッテリーの励起工場が必要であるが、日本政府が優先的に無償援助で建設している。つまり、電力線がなくとも文化的な生活が送れることになった。


 それに電力線があっても、電力料金の低下によって増えた需要に対応できない場所が過半数になっている。このため、場所によってはバッテリーで電力を賄う集落・家が増えている。


 また、途上国にはエンジンのみを買ってきて、町工場で作った華奢なボディに載せたジプニーとかトクトクとか言う乗り合い自動車が庶民の足になっている。これらも、電子バッテリーとモーターの組み合わせのEVに改装済である。このように、途上国においても励起工場は早くから必須のインフラになっている。


 つまり、5年ほど前から貧しい途上国においても脱石油は急速に進み、電化製品はあばら家においても普通に出回っていた。加えてスマホは人々の必須のアイテムであるので、人々は世界の動きを知っているわけである。そのため、貧困撲滅プロジェクトは圧倒的多数によって待ち焦がれる事業になっていた。


 このプロジェクトにとって、GPFの創立によって1/3になった世界の軍事費の大幅削減、資源探査による対象国の資源の大幅増は極めて大きい後押しになった。とりわけ後者は、投資資金の確保のみならず、採掘や精錬による設備投資による消費拡大、雇用の確保に大きな効果がある。


 また、前者はプロジェクト対象国にとって、軍という雇用先の消滅というデメリットはあるものの、軍事費の削減による自己財源の確保に効果がある。さらに、援助国にとっては、軍事費というGDPの1%から3%に及ぶ軍事費が大幅に減っている。


 だから、時限的な支出と位置付けているプロジェクトへの集中的融資が、国民感情の上でも可能になった。そのため、プロジェクトの策定時に最も懸念された、『資金』の確保が『資源』の部分だけ余剰になることになった。その余剰は速度と質を上げることに費やされた。


 貧困撲滅プロジェクトの、2035年時点の結果として以下となる。

 ①GDP年5千ドル以下の国は昨年末時点でなくなった。

 ②2030年での対象国102国の平均GDPは年6,500ドルであったが9,500ドルになった。

 ③43カ国がすでにGDP年1万ドルを超えた。

 ④対象国において昨年の餓死者の報告はない。


 順調であったと言えるが、対象国のトップの年間GDPが1.5万ドル超えたことから、対象国かた外れる国が生じている。それに対して、対象から外れるのは早すぎるという苦情、また成果に差がありすぎて不公平などの苦情がでている。


 それに応じて、対象から外す限界を年間GDPを2万ドルに上げて、さらに各国内の貧富の差を解消するための貧困層の支援プロジェクトを立ち上げることになった。また。国として豊かになっても、地域によって濃淡があるのは当然である。


 だから、一定の経済的実力がある国は指導はするが、自前で手当てをしろということもはっきり打ち出した。また、今回対象になって国としては経済的に嵩上げされた国についても、やはり地域によって貧富の差はあるので、その解消を行うことも上記のプロジェクトに含むことになった。


 ―*-*-*-*-*-*-*-*-


 安藤 勝は、12年ぶりにパプアニューギニア(PNG)ニューブリテン島のラバウルにやって来た。ここは、良港であることもあって、航空基地を含む旧日本軍の一大基地があり、終戦時にまだ10万人の大軍が残っていた。ただ、直近に火山があり、1994年のラバウル火山の爆発で4mの火山灰に埋もれてしまった。


 そのため、州都であったこの町から、大部分の住民が南に30㎞のココポに移った。安藤は部分的に復興したラバウル周辺のインフラ計画の上水道専門家として、12年前に数ヶ月ココポに滞在して現地調査と改善計画を策定した。


 地震と共に火山の爆発の予測も公表された気象庁のJMAFによると、2年後に再度火山の爆発があり、ラバウルは再度2mの火山灰に埋もれることになっている。安藤がやってきたのは、上水道の専門家として火山の爆発によって損傷する施設の評価と、断水なしにどうやって機能を保全するかの調査である。


 PNGは、すでにGDPが1.5万ドルを超え、日本の無償援助対象国ではないが、技術援助はするという対象である。安藤は過去に実施された改善計画の担当者として呼ばれた訳だ。


 日本からPNGは、現在では首都ポートモレスビーと新ラバウル空港へ直行便が飛んでいる。12年前は直行便は無かったが、PNGには資源探査による巨大資源の発見もあって日本企業が多く進出している。また、時差のない常夏の国というキャッチコピーで、日本観光客の人気のスポットになっている。

 過去で不安の種であった治安は、資源発見以来本気になった政府の行動もあって劇的に改善した。


 ラバウルでは、10万人以上の日本兵が数年駐在して、現地の人と比較的穏やかに共存していた。さらに観光スポットとして、美しいビーチと噴煙をあげる火山、イルカ観察などもあって、羽田から週に3便の直行便が飛んでいる。無論機体はハイパーライナーであるから、1時間強で着く。


 ちなみに、日本の玄関口は国際・国内を含めて羽田になった。成田は滑走路が必要であった時代に作られた飛行場であり、大部分の乗降客の出発・目的地が都内である。なのに、滑走路が不要になって面積的に羽田で対応可能になった今、わざわざ50㎞離れた成田飛行場は使わなくなるのは当然である。


 その意味で、主要都市と20㎞以上離れた日本国内の飛行場はすでに移転している。地方空港であれば、重力エンジン機は300×200mあれば十分スペース的に収まるし、騒音もないのだから都市近郊の農地などで十分取得できている。


 安藤は、羽田から新ラバウル空港までの宇宙を抜けての1時間の飛行を経て空港上に着く。そこから、空港への鉛直降下で改修されたターミナルビルが目に入る。以前は空港に降りて地上を歩いていたところが、機体から直接繋がるボーディングブリッジで通関ゲートまで歩く。


 通関後ロビーに行くと、ホテルからの迎えが来ている。懐かしいラバウル空港からココポまでの20㎞余りをEVの車窓から眺めた。緑に覆われた山側の景色や左手に見える海の景色は変わらないが、ガタガタだった道路は良くなり、途中にある家がしゃれた感じになっている。


 また、どの家の前もあった大きなタンクはもうない。以前は、上水道の給水地区は限られていたので、多くの家では生活用水は屋根に降った水を溜めて使っていたのだ。だが、今では安藤が計画した改善計画に基づいて、豊富な地下水による水道の水を使っている。


 ココポの街の街並みは変わらないが、沿道の家やビルが立派になっている。以前泊まったバンガローだったホテルが9階建ての高層になってロビーも立派になっている。だが、スタッフの人懐っこい客先対応はあまり変わりはないようだ。


 EVによる交通量は格段に増え、街を走っていたぼろ車がなくなり、普通であったトラックの荷台に乗っていた人は見なくなった。町ゆく人について、以前は良く見た汚れ破れた服を着た人はいなくなって、裸足の人も見ない。もともと陽気な人々であるが、笑顔の人が増えたような気がする。


 しかし、ラバウルは余り変わってはいなかった。これは5年前に7年後の火山の爆発は予言されていたので、2mの火山灰に埋まる家の改修はしないということだ。とは言え、判っていることだからと、現地の人々はこれを深刻には受け止めてはいない。安藤は予定通り、調査と共に現地技術者との協議を行い、1週間の旅を終えて羽田に帰った。


明日から新しい連載を始めます。

またよろしくお願いします。

2025年、12/2文章修正。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  良い流れで世界が発展していますね。中国も上により強い権力が監視しているという状況だと、表面上はそれなりにちゃんとした行動が出来る人たちですから、チベットやウイグルの人たちも今後の状況…
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