4-11 中国のクーデター余波と国連の活動
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国連のレイモンド・マーシャル総長は、GPF管理官の3名である文官のマイア・ワトソンとケン・ロバートソンに武官のダニエル・サマーエルに加え、情報機関GPI局長マイケル・コナーと中国のクーデターについて話をしている。
「この中国のケースでは、クーデター政権は随分我々GPFを意識していますね」
管理官で文官のケン・ロバートソンが言う。
「ええ、それもそうですね。随分よく調べています。でも、この政権は国民には随分受けているようですから、GPFの出動はできないでしょうね?」
「まあ、ウイグルとチベットにも乗り込んで、直ぐに収容所に入っていたものを出している。それに、香港で制限なしの臨時選挙をやるって言っているから、GPFを出したら逆に非難されるよ。それに、市民を圧迫している様子もないしね。軍事政権なのに前よりずっとましだ。黄将軍はできるね」
このマーシャル総長の言葉にコナーGPI局長が応じる。
「黄は嘗て軍の最高の出来星と言われていた人物です。蘇前主席に逆らって干されましたが。今回の彼らの行動は、軍の解散を前提のものですね。そのように言っていますし。
中国経済については前の政権は見栄を張って隠していましたけど、実態は黄が言う通りで随分苦しいようです。だから、軍事費を無くしたいというのが本音だったようです。どの道、彼らの営々として整備してきた軍備は概ね無用の長物になりましたしね。
やはり、インフラや都市開発への野放図な集中的な投資が今にきて大逆流しています。それに、中国品質のインフラの問題です。今後は維持管理で大変でしょう」
それに対し、文官のマイア・ワトソンが言う。
「だから、6兆元というのは極めて大きいのです。軍人の離職手当に1人10万元としても2,000億元ですからね。だから、一般の中国人は自分達にも還元されるということで浮かれています。でも本当に取り戻せるのでしょうか?」
「うん、出来ると思うよ。かつてはスイスなどの銀行は、犯罪者の預金も守ろうとしたけれど、結局アメリカの力に屈した。だから西側の銀行は政府には逆らえないし、不正行為をした者には政府は厳しい。この場合には、中国人の対象の預金には中国の政府が不正行為を認定する訳だ。
それにどう考えても、役人だった個人が100億ドルなどの預金を持っているのはおかしいよ。それにしても今回の6兆元という数字には驚いた。中国のわいろ文化というのは凄まじいね」
ケン・ロバートソンが最後はしみじみと言う。
「とは言え、孤立していた異形の国であった中国が国際社会に帰ってきた訳で、好ましいことではある」
マーシャル総長が言うが、コナーGPI局長が異論を唱える。
「ですが、かの国はなりすますのがうまいですからね、それに所詮はクーデターを起こした軍事政権でもあります。まだ、油断ない監視は必要だと思います」
「でも、彼らが言うように本当に民主的な選挙をやれば、過去の共産党独裁とは違いますよね」
コナーに対し、文官のマイア・ワトソンが反論するが、そこで武官として管理官のサマーエルが軍事的見解からこの件の論評する。
「彼らは、軍事的にGPFに敵しえないことは承知している。だから、対外的に出てくることはあり得ない。GPFに勝てる手段としては、人民を人質にとっての行為であるが、それは黄将軍の知られている所からすればないだろう。だから、いずれにせよGPFの出動案件ではないし、監視すればよい話だ」
「うん、ダニエル(サマーエル)の言う通りだ。確かにまだ解らん。だから、今後を見守る必要があるということだ」マーシャル総長が言ってこの話にはけりがついた。
そこで、マイア・ワトソンが言う。
「これは、GPFの案件には直接関係はないのですが、日本がやっている資源探査のことです。大発見に関して、パプアニューギニア(PNG)とインドネシアで大騒ぎになっていますよね。あれは、そもそも国連でやるべきことではないですか?
今の形だと、日本が利権を取って、それから他国に調整しながら分けていく感じですよね。これは後々問題になるのでは?」
「うん、そういう見方もあるだろうね。しかし、これはうかつに手を出せない。まず、元々これはある私企業が始めたものだし、その技術の開発者もその企業の担当者だ。この開発者かつこの事業の推進者は例のR情報の出所だ。R情報なくば、近年の新発電システム、ニューEV、重力エンジン・スカイカーもなく、この国連の改革もなかったのだ。
それに、国連で見つかった資源を分配するのは難しいよ。全ての国が権利を主張して収集がつかない。これは日本政府に任せておいて、彼らが無理と手を挙げたら介入すればよい」
マーシャル総長の言葉にワトソンも含め全員が頷く。マーシャルはそこでさらに言葉を重ねる。
「ところで、日本初の様々な技術による波及効果についてここで少しまとめておきたい。
今や、重力エンジンのお陰で、アクセスに困る土地は無くなった。そして、新発電システムがあれば無限の電力を使えるのでどこでも灌漑ができる。しかも、肥料の問題も解決したから、実質地球の陸地全てが、農耕を含めて人類に使える土地になった。
今後の我が国連の最大のテーマである貧困撲滅は、資源探査の成果もあって順調に進むだろう。その結果、途上国の出生率は急激に下がる。最新の予想、これは資源探査の効果は含んでいないが、これによると、地球の人口は2150年に115億人でピークアウトする。
そして、その人口であれば、地球上の土地は十分人々を住まわせることができるのだ。水や食料さらにスペースを争うこともない。勿論、そこに調整は必要だ。今は不毛の土地ということで、広大な面積に少数の人が住むところが多くある。そうした土地に人々が移り住む必要はあるだろうね。
そこにおいて、国連の出番がある。ただ、すでにその方向で動いているのはシベリア共和国だ。あそこは、今凄い勢いで鉱山と農地の開発が進み、日本やGP8の国々さらにロシアから人が集まっている。あと数年で人口は独立時の2倍を超えるだろうね。
例えば、チベット、ウイグル、さらにモンゴル、PNGもそうだな。南米にいくとアマゾン、オーストラリア、アフリカのサハラ周辺など、今後資源も見つかり人が住めるようになる。食料も十分採れるだろう。だから、人類の未来については悲観する必要はなくなったのだ」
いささか長広舌であったが、皆の考えていることの集大成だったようで感激した顔をしている。
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ところで、国連はイスラエル・パレスチナの問題にも取り組み始めた。この件で最近の問題は、2023年~24年にかけてのイスラエルのガザ侵攻等により、全部で4万8千人の死者がでた事件である。
元々は、パレスチナの過激派であるハマスの、イスラエル侵攻と一般人殺害、さらに人質を連れ去ったことが起こりであった。強硬な姿勢が国是であるイスラエルは、世論が沸騰し政府は面子を失ってハマスの壊滅を宣言した。そして、ハマスの支配する人口220万のガザ地区に侵攻した。
ハマスのイスラエルへの突然の侵攻により、民間人を中心に1,200人が殺され250人が連れ去られた。誰が見ても、凶暴な蛮行でありかばう余地はない。しかし、報復のため220万もの人口のガザ地区へ侵攻し大部分を廃墟にして、かつ数万の民間人を殺したイスラエルの行為も蛮行である。
それも、どちらかというと、ガザ侵攻はイスラエル政府の面子のための拙速な行動であった。また、イスラエルの人々は相対的に貧しいパレスチナ人を見下げる姿勢があり、対してパレスチナ人はイスラエルとその人々を憎んでいる。だから、侵攻によって逃げまどう人々に、イスラエル兵が優しいはずがない。
最終的にこの件は、世界からの非難に耐えられなくなったイスラエルが兵を引いて収まった。しかし、イスラエルはガザ地区の占領を続けたが、そうなると破壊した街の復旧も自分でやらなくてはならない。そのため、国連の委託統治にしようとした。
しかし、そのような虫のよい話はないと拒絶されて。その後、国連とアメリカが動いて、ガザはパレスチナ自治政府の施政地区になった。ちなみに、過去ガザはパレスチナ自治政府の施政地区であったのだが、選挙でハマスに負けたのでハマスの施政地区になったのだ。その理由は自治政府の腐敗であったという。
ところで、イスラエルがパレスチナの地に国を創立したのは第2次世界大戦後である。これは、イギリスの教唆によって、2千年前に自分達の領土であったという理由で住んでいたパレスチナの人々を追い出してのことである。その後徐々に占領地区を広げていって、今のイスラエル領を確保した。
だから、占領された所に住んでいたパレスチナ人は怒るし恨む。そして、パレスチナ人はガザとヨルダン川西岸地区に住んでいるが、そこの外交権・軍事権などはイスラエルが持っている。そのためあちこちにイスラエルは検問所を設け、通るものを厳しく検問する。この検問所は外国人でも結構感じが悪い。
近年における問題は、イスラエル領の外のパレスチナ領にイスラエルが勝手に住宅地を作って入植地と称している。当然それは、パレスチナ人から何も補償もなく取り上げている。これは、国際的に非難されているが、イスラエルは無視している。
イスラエルがこのように強気なのは、アメリカがその後ろ立てになっていることがある。アメリカには750万人のユダヤ系の人が住むが、彼らの投票率は高く、富裕層が多いために政治的に強い。大統領もユダヤ系の支持なしには当選は難しいと言われる。
しかし、今の国連はアメリカの拒否権でなにもできない存在ではない。だから、新国連成立の早い内にバレスチナ人国家の樹立と、入植地のパレスチナへの返還が総会で決議された。また、GP8+3の会議でもアメリカは反対したが多数決で決議された。
それは、イスラエルとアメリカも覚悟はしていたのだろう。カウンターでイスラム教の武装組織の解体を提議してきた。当面はヒズボラ、アルカイーダなど所在がはっきりしている10団体であったが、世界中のこの種の組織12が追加された。これらはテロの温床になっていることが認識されている。
だから、20%程度の反対票はあったが総会で決議され、GP8+3では満場一致で決議された。そして先にこれらの武装組織の攻撃から始まった。全部で、23ヵ所の軍事基地がターゲットと認識され、中東時間2035年10月1日午前8時に一斉に攻撃が始まった。
アル・ジラスはヒズボラ所属の16歳の少年兵士である。毎日、厳しい訓練に耐えているが、銃を持ち的に撃つのはすっきりするし強くなっている気がする。特に迫撃砲は威力が凄くもっと撃ちたいが、滅多には撃たしてもらえない。金がかかるからだそうだ。
しかし、集められて、語学や算数の勉強は仕方がないと思うが、イスラムの大義などを聞くのは何をいっているかよくわからず退屈だ。もともとアリは、9歳の時に部落から攫われてここに来ている。食い物は元の家より良いから、悪くないと思っている。それに、ここでは女とやらしてくれる。
女は白、黒、茶、黄と色々だが、皆攫われるか買われて来たものらしいが、結構美人もいる。
ところで、昨日集められた時、国連でGPFが俺たちを攻撃することが決まったと言うことを聞かされた。だから、警戒しろっていうけどどうやって警戒するんだ?俺は戦闘ということで何度か出動はしたが、空振りで戦闘の経験はまだない。本音では戦闘は怖い。だって弾に当たったら死ぬんだよ。
GPFというのは、宇宙から来るらしいし、アメリカからあっという間にここに着くという。だから、いつもは武器庫にある小銃が各々に配られた。見張りも、いつもより3倍位いる。上官の『将校』は、敵はここに女がいるのは知っているので、いきなり撃ってきたり爆撃はしないと言っている。
その日の朝、日は高くなり始めたころ、見張りに立っていた俺は、近づいてくる何かに気がついたが、音はしない。「おい!何か来るぞ!」と俺が叫んだので、その声に何人かがそっちを見た。
だが、それは高さ1000mほどの上空をあっという間に通り過ぎた。そして、通り過ぎるそれからバラバラと何かが落ちてくる。俺から100m程離れたところにも落ちたが、球のような何かだ。
それからは、シューという音が聞こえるが何も見えない。しかし、暫くすると頭がぼんやりしてきて、立っていられなくなり、それからは何も覚えていない。気が付くと、地面に横たわり、足をワイヤーを使った拘束具で縛られていた。そこには、持っていたはずの銃はない。
周りを見渡すと、見慣れない軍服を着た連中が動き回り、あちこちに置いてある椅子に座っているものもいる。そして、仲間が俺と同じように横たわっている。後で尋問を受けた際に聞いたことだと、彼らはGPFの兵であり、自分達は落とした容器から噴出した催眠ガスで眠らされたということだ。
このキャンプにいた2千程の兵士は全て拘束されたという。さらに捉えられ性奴隷にされていた女たちは皆解放されたらしい。ただ、彼女らで怒りが収まらない何人かが、キャンプの『将校』達のあれをちょん切ったらしい。俺たち下っ端は勘弁してやれとGPFの兵士が説得してくれたそうだ。
活動歴の長い『将校』は沢山人を殺しているので、どうせ死刑だから構わないと、尋問したその兵士は笑って言った。さらに彼は俺を意地の悪い顔で見て言った。
「女たちも精神衛生も大事だからな。やり返すのも必要なことだ。お前もちょん切られても仕方がなかったんだぞ。女たちが攫ってこられたのを知ってやったろう?」
しかし、俺はその兵士の言い分は解らなかった。俺だって攫ってこられたんだぞ。
このように、GPFは催眠ガスで基地の連中を眠らせて拘束した。多くの基地で男女の捕虜がいて、解放されたが、多くが性奴隷にされていた。それも、これらの過激派組織の悪質性をアピールするのに役だった。この結果を見たイスラエル政府は、パレスチナ国家の樹立と入植地の放棄に合意した。
その代わりに、彼らはシベリア共和国の10万㎢程度の平原に入植地を得て、100万人ほどの国民を住まわせる決断をした。




