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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
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1-5 核無効化装置

よろしくお願いします。

 翌朝、涼に防衛省の嵯峨野主任研究官から電話があり、電車で市ヶ谷に来るように依頼された。家から電車の駅まで5分であるため、電車で移動するのがもっとも早いのだ。ヘリという話もあったが、そんな目立つのは困るので断っている。


 ちなみに、学校については、防衛省が手を回して、涼が必要な時には県の教育委員会に休暇の許可がでるようになっている。これで、休みとは記録されないいわば公休である。しかし、定期テストは普通に受ける必要はあって、欠点をとると進級ができないと言われている。


「その時は、研究所で缶詰になってもらって、詰め込みで勉強してもらいますよ。ハハハ」

 嵯峨野は笑い飛ばすが、まあ全く学校を休んでも、教科書の内容は覚えているので、欠点を取ることはない。


 そういうことで、昨日に続き今日も公休の涼は、電車に乗って35分で市ヶ谷に着く。駅に着くと、私服の美山研究官が迎えにきている。彼女は気が強そうだがスタイルはよく、出る所は出ていて好みのタイプだ。なにか眠そうであるので、並んで歩きながら聞く。


「美山さん、眠そうですね。夕べ遅かった?」

「ええ、昨日から大変ですよ。所長を始め、制服組の将官の方もきて、データや図を見ながら夜中の12時までやっていました。その傍ら、実務レベル者はデータを整理して、一応の道筋を立てたようです。なにしろ我々の組織は軍隊ですからね。あまり時間内とかいう意識はないんですよ。

 私なんか、ぺえぺえはお先にと言う訳にはいきませんので、朝の段取りもあって寝たのは3時間くらいです」


「ふーん、それは大変でしたね。それにしても、概ねの整理が出来たというのは早いね」

「ええ、でも結局ネックになりそうな装置や部品を整理したということで、それの解決に時間を要すると、実用化の時間の目途が付かないこともあり得るということのようです」

「うーん。そうだろうね。まあ聞いてみてからだね」


 防衛省もの構内に隣接した研究所の衛士のいるゲートで、美山は敬礼し、涼はペこりと頭を下げて入る。美山が訪問者表に書き込んで涼の胸に着けるネームプレートを受け取る。涼の今日の服装は、春の気候に合わせた、ポロシャツにブレザーである。


 美山に案内されて、あるビルの1階に入ると、すぐにドアがありその前に衛士が立っている。

「美山研究官です」

 美山が敬礼すると、衛士は彼女のネームプレートを確認して、「どうぞ、お入りください」と言ってドアを開けて入るように促す。


『中々セキュリティはしっかりしているな』

 そう思って中に入る美山に涼も続く。中は100㎡位の大きな会議室であり、広めの机を集めて4つの島ができて、それぞれに人が群がっている。それぞれ、上着を脱いでラフな姿になっているは、全部で50人位はいるようだ。流石に防衛省であり、女性は1割以下である。


「日向涼さんを案内してきました!」

 美山が大きな声を、張り上げると、室内の皆が一斉に顔をあげて涼をみて、「「「おお」」」と声を上げて、如何にも待っていたという雰囲気である。


「涼君、まずこちらに来てくれるかな?」

 嵯峨野研究官が自分の島に涼を呼ぶ。不満そうな他の島の人たちが多いが、すでに話はついているらしく、声は上げない。涼が声に応じて、嵯峨野に近づくと「ここに座って」と椅子を示される。


 涼は素直にその椅子の前に行って、その島の10人を超えるメンバーに頭を下げ、「日向涼です。今日はよろしくお願いします」そう言って座る。


「いや待っていたよ。大体資料を読み解いて、製造するにあたってのネックになる点を拾いあげました。その結果がこれです」

 嵯峨野が傍にある1m×2mほどのディスプレイを指すと、そこには涼が渡したデータの資料から切り抜いた模式図とそれに引き出し線がでて、記号とコメントが書かれている。


「丸のついているのは実用に問題ないもの、三角がメーカー等と揉んで開発が必要だけど、それほど問題がないもの、ぺけが今のところ目途が立たないものという分類だ。それで、結局ぺけになっているのは、超小型大容量バッテリーだね。

 だけど、この図と別の仕様書に型番があるということは、製品化されていて、その製法は涼君のデータベースにはあるということだよね?


「ええ、ありますよ。ただ、製法は解っていますが、残念ながらいちから作る必要があります。とは言っても。必要な数は数千でしょうから、それほど大げさな製造設備は要らないでしょう」


 涼の言葉を、かたずを呑んで聞いていたその島のもの達は嵯峨野を含めて、その言葉を聞いて大きく息を吸い頷いた。少し間をおいて嵯峨野が言う。


「航空機に載せる、または地上ステーションからそのパルスを発生させるのであれば、この爆発ともいえる瞬間の大電力によるパルス発生装置に必要な電力を送ることが出来るようだけど、ミサイルに積む場合は現状のバッテリーでは、全く容量が不足するのだよ。それで、小型発生装置の目途が立った」


「ということは、やはり、基本はミサイルに積んで核ミサイル基地の核を無効化するのですね?」

 涼の質問に嵯峨野は「うん、そうです」と答え、付け加える。


「ただ、この情報は自衛隊としての最高機密であることを承知してほしいね。まあ涼君については、その情報の1次供給源だから今更だけど、他の人たちには漏らさないようにしてほしい」

「ええ、そうですね。本件については気を付けます」


 頷いて答える涼に嵯峨野は言葉を続ける。

「君の言葉で、バッテリーについては安心したよ。この超小型大容量バッテリーについては、この核無効化装置のみならず、われわれにとっては非常に重要な技術になる。その点は君も判ってくれると思うけど?」 


「ええ、兵器にはバッテリーは必須ですし、コンパクトな方がいいですからね。それに自動車・航空機のみならず大容量バッテリーは小さくて充電が容易な方がいいことは間違いないですね」

「その意味で、この図の超絶高性能のバッテリーが実用化されれば、軍事についてもそうだけど民事の活用で大変なことになるな」


「うーん、そうなると少し後と考えていたけど、このバッテリーの実用化は急ぐかなあ」

 涼の言葉に、正面にいる若い男性から声がかかる。

「私は、研究所の第3研究室でミサイルを研究している梨田と言いますが、そのバッテリーについてはどんな原理で蓄電するのでしょうか?」


「うん、それはね。開発が始まった発電機は結局銅から選択的に電子を取り出す仕組みです。つまり、触媒回路を使えば、金属の中の中性子を電子に変換できるということだ。だから、その変形になるけれど、媒体から電子を大量に取り出せるように条件付けをするわけだ。大体、媒体㎏当たり500㎾h程度の容量になるかな」


「じゃあ、電力によって充電というのは出来ないのですか?」

 再度の梨田からの質問に答える。

「ええ、できないですね。基本的に触媒装置を使った活性化装置を備えたで工場で行うことになるので、取り外してその活性化工場に運び、再活性化して再度セットということになる。ただ、ケーシングがそれなりの費用がかかるので、10㎾h程度以下は使い捨てになるな。今の乾電池のようなものです」


「ほお、1㎏で500㎾hですか?凄いな」

「ただ、バッテリーそのものはケーシングなどでその4倍位の重量になるよ」

「ちなみに、その媒体というのは何になるのでしょうか?あ、私は研究所の佐川ですが、まさにバッテリーも研究テーマの一つです」

 20歳代に見える若い男性技官が聞く。


「基本的に、銅合金ですね。ちなみに発電機もバッテリーも、媒体の金属な伝導率の高い方が良いので銀が最良です。ただ、銅とは2割程度しか変わらないので、コストから銅を使っています。とは言え、軍事なんかで大きさと重量がコストより重要な場合銀を使うことも考えられます。

 ちなみにアルミですと、銅の3割落ちくらいになります」


 スラスラ答える涼は、あたかもそのような情報が常識の社会に育ったようであり、その知識の根源はなにか不思議に思う者も多い。聞いていた50代に見える女性が聞く。

「ええ、研究所の牧田ですが、日向さんはその全く新しいバッテリーに詳しいようですが、どこで、その知識を得られたのでしょうか?」


 涼はアチャーと頭を抱えたい思いだった。かれは未来において、ある必要からこのタイプのバッテリーについて詳しく調べたことがあり、その知識を調子に乗ってうっかりしゃべったのだ。しかし、彼が応えるまでもなく嵯峨野から待ったがかかった。

「牧田さん、それと皆さんもその点は秘匿事項AAクラスになりますので、よろしく」


 そういうことで、その話は収まり、それぞれのメンバーからそれぞれ抱えている質問に順次答えていった。嵯峨野のいる島の質問がおわったところで、嵯峨野が声をかけてくる。

「涼君、ここの皆の質問は終わったようだから、あちらの島に移って、次はあっちとこっちと順次質問の面倒を見てくれないかな?」


「はい、判りました」

「それと、今からバッテリーの開発については、専門メーカーの湯治電池を呼びますので、その後話し合いに付き合って下さい」


「ええ!早いですね。まあ、判りました。ではその前に、その関係のデータを引っ張り出して、別にUSBメモリーに入れておきます。ちょっとそこで作業しますよ」

「うーん、君のそのデータ、くれぐれもちゃんと守ってよね」

 嵯峨野は、涼がバッグから取り出したハードディスクを見てしみじみ言う。


「それは、大丈夫ですよ。僕が自主的にやる以外、これは開けませんので」

「バックアップは取っているのだよね?」

「勿論です。まあ、どうやっても盗まれることはありません」


「でも、君がいないともう誰も取り出せない訳だよな………」

「うーん、まあその点がありますから、一度話しておいた方がいいですね。まあ政府も交えてかな。とは言え、政治家が入ると信用できないからなあ。防衛省の組織としての方がいいかもね」


 その後涼は部屋の各島のグループを回って、質問に答えていったが、質問を整理できていないものが多く、それに対しては勢いつっけんどんな回答になる。


「私が回答できるのは、お渡しした資料についてですので、それをちゃんと読みとかない状態で、曖昧な質問をされても、答えようがありません。もうすこし、きちんと内容を把握されてからの方がいいと思いますが」


 よく解らない質問をしつこく続ける50歳代後半に見える名村という主任研究員にそう言うと、彼は真っ赤になって言い返す。

「なにを、無礼な。高校生の分際で。博士号を持つ私に言う言葉ではないだろうが。そもそも、昨日の今日でこれだけの内容を読み解けるはずがないだろうが!」


「ええ?嵯峨野さんのグループは細かくではないと思いますが、ちゃんと全体を把握して問題点を抽出していましたよ。それに、そもそも、僕は今日では早すぎると言ったのを、急ぎたいと言って今日にされたのは、防衛省側ですよ」

 涼がそういうと、白髪のおじさんが手を広げて宥める。


「まあまあ。そこまでだ、名村さん。日向君も申し訳ない。実際に我々はまだ全体を掴み切っていないのは事実だ。また我々の質問内容は、他のグループとも調整してまとめるので、別途回答して頂きたい。

 日向君は、それでよろしいでしょうか?それに嵯峨野君のグループは進んでいるようだけど、他の2つも我々と大同小異だと思う。だから、私が行って調整してみる」


 そのおじさんは、空将という偉いさんだったらしく、涼が同意したのを受けて、他グループを回って、彼等については今日回る必要はないということになった。だから、午後にバッテリー関係の話をするための時間調整で、美山の案内で研究所の立派な来客や幹部用の食堂で早めの食事を取ることになった。


 その席には、研究所所長の八坂とその部下である嵯峨野とさきほどの宮坂空将が同席した。まだ、涼にはこのような社会的に上のクラスと同席の経験はないので緊張するが、皆で何かと話かけてきてリラックスをさせようとしているがよくわかる。


 やがて、宮坂空将が話しかけてくる。

「涼君ね。航空自衛隊には多くの航空機が配属しているのだけど、ほとんどがジェット機なんだよね。ジェット機は加速が鋭いし、速いけど値段が高いし、しょっちゅう手入れが必要だし、それが結構難しいのよ。そしてなにより、燃料を馬鹿食いする上に、うるさいときているから人家が多いところでは使えないのだよね。

 嵯峨野君に聞いたのだけど、涼君はジェット機でない飛行機を知っているとか。どんなものが教えてくれないかな?」


「ええ、まあ。そうですね。ええと、今の空を飛ばす様々な推進機関は結局物質を噴射したり、空気をかき混ぜることで推進力を得ていますよね?」

「うん、ジェットとプロペラはそうだよね」

「一方で、重力というのは、そういう推進なしに一定の方向に推進しますよね?」


「うん、そうだ。そして我々は重力のような力を発揮することはできない」

「その重力を遮断する、また任意の方向にそらす方法があるのですよ。重力のような力を発生する方法もありますが、これはとんでもなくエネルギーを使うので実用的でないとされています」

「ふんふん。それは航空機に使えるのかな?」


「ええ、重力を遮断することで、条件によりますけど、極めて少ない動力で飛べるのは解るでしょう?それに、重力の方向をコントロールすることで推進力に変えられますので、今のジェット機程度の速度は簡単に出ます。

 ただ、重力の働きの弱い宇宙空間においては利用できる力がないので、結局は物質を噴射するしかない訳です。もっと、エネルギーをもっと効率よく力に変える方法はあるとは、言われていますが、その技術の糸口はつかめていません」


 そのような話から、その重力制御エンジンの設計データを出すことは、決まってしまった。涼と別れた宮坂空将はにこにこしながら、八坂所長に話しかける。彼らは防衛省では同格であるが、天才と言われた研究畑の八坂は宮坂より4つ年下である。


「いやあ、話しかけてよかったよ、八坂さん。大収穫だ。長く、航空自衛隊はアメリカの技術に頼ってきたが、かれらの物つくりは明らかに革新性が落ちていて、下手をすると中国にも劣る。それを打破する、エンジンの設計図と仕様書が入手できるのだからね」


「うーん。まさに涼君のもっているハードディスクは宝の山だね。何とかわが研究所が手に入れたいものだ」

「私もそう思うが、無理はしないようにね。それにしても、こうしたデータがあることを見ると、涼君はその技術が普通に使われているところにいたはずだ。一方で、涼君が日本の埼玉で生まれて育ったのは間違いないから、転生という奴かな」

「まあ、いずれにせよ。我が日本にとっては、そのデータあってだけど、救世主だな」


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