4-6 涼の資源探査2
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ネンゴ大臣は探査に同乗することを望んでいる。それで具体的にどういうことをやっているかを自分の目で確かめて、出来ればノウハウを得て装置を買って自国でも探査を行いたいのだ。それは、自分の政治家としての野心もあるが、貧しく遅れた自分の国の状況を改善したい思いがある。
ネンゴは、首都のポートモレスビー付近の大きな部落の首長の一族である。子供の頃から学業の成績は良かった。だから奨学金を得て、オーストラリアのメルボルン大学に留学できた。その中で実感したのは、PNGの人は、オーストラリアの白人にとって土人なのだ。
もともと、ニューギニアという言葉は、ここに来たイギリス人が、チリチリ頭の濃褐色の肌で、外見が黒人種の原住の人々を見てアフリカのギニアと同じと思ったことだ。だから新しいギニアとなった。そして、PNGはオーストラリアの保護国であった。
独立した今でも、政治的・経済的に完全に支配されている。当然行き来が多いが、時々PNGの要人である大臣などが空港において密輸で捕まったりする。それは、残念ながら無実ではない。PNGの政治家のみならず高級官僚は、基本的に自分の利益が第一であると思ってよい。
だから、少ない予算が効率良く使われることはない。海外からの援助にしても、機会あれば自分の利益に結びつけようとする。特に中国の援助については、その時のわいろによって、借金でとんでもない負の資産を買わされる事案もある。
ネンゴはそうした状況を見て、若い頃は変えようと躍起になってやってみたが、孤立するのみであることに気付いた。だから、時間をかけて力を付けることを心掛け、30代で地方議員、40代で国会議員になり、現在51歳で主要閣僚である鉱業大臣である。鉱業生産が35%を占めるPNGでは、鉱業大臣の地位は重い。
桐山に知り合ったのは3年ほど前であり、面白い男と思った彼とは友人に近い付き合いをしている。彼は、インドネシアで銅の大きな鉱脈を見つけるなど、プロの鉱山屋(山師とも言う)である。彼がPNGに来たのは、その地層を調べて火山国のPNGには必ず金などの大鉱脈があると思ってのことである。
幸い、過去の成功でそれなりの財産はあるので、手弁当でこつこつ調べている所でネンゴに出会い、意気投合した訳だ。ネンゴは、日本に起きた近年の技術革新については興味を持って追っていた。そこから涼のことも把握している。だから、真柄教授に資源の探査機のことを聞かせたのはネンゴである。
まあ偶然であったのだが、ドンピシャで涼がその種の装置を開発し、そしてその探査先を探していたという状況であった。彼は『これは運命だ』と確信している。だから、実際に自分が探査機に乗れることに少年のようにドキドキしている。
ちなみに、探査スカイカーは機材で塞がれている部分もあるので3人が定員になる。基本的には探査はドライバーが一人で可能である。探査は、1,000mの高度から電磁波を地上に放射しながら、速度300㎞/時で飛ぶ。この際の電磁波は、高周波の強度は弱いものであり浸透性は高いが生物には無害である。
資源の可能性がある検知値が出ると、チャイムが鳴るので数値を確認して、必要に応じその位置に戻って周波数・強度を変えて詳細調査を行うことになる。しかし、一人で長時間の運転はまずいという判断から、当面は2人で交代運転するシフトにしている。
なお、日本から調査員は10人来ているが、トラック・ドライバーやボーリング・マシンの運転にローカル・スタッフを15人雇っている。だから、ローカル・スタッフが探査機の交代要員になることも想定している。また、トラックやボーリング・マシンの移動に当たっては、道路網がお粗末なPNGなど途上国ではなかなか不便である。
だから、日向クリエイティブでは現在中型の重力エンジン貨物機を製作している。これは、長さ30m×幅20m×高さ6mのずんぐりした形状であり、小さめの広場で降りられる。名前は『カメさん』である。
基本的には現在いるニューブリテン島内で有望鉱床が見つかれば、トラックでボーリング・マシン等を移動させる。しかし、ニューギニア本島で見つかれば、2ケ月後に出来上がる予定のカメさんで移動させる。
ネンゴは桐山の運転する探査スカイカーに乗った。ネンゴも、スカイカーを持っていて運転しているのでその動きには驚きはない。PNGにおいてもニューAVは、すでに普通の交通手段になっており、スカイカーもかなり普及している。道路事情が悪いPNGでは、地上を走る車は不便なのだ。
だから、人々は無理をしてもスカイカーを買う。幸い、これはEVに比べても高いものではない。しかし、電子的な仮想空中通路の構築がないままでの導入であることと、スカイカーの免許制度は作ったが、わいろで合格させがちであるために運転未熟による事故が多く、死亡事故もしばしば起きている。
「ネンゴ大臣、まず有力なのはこの部分、ラバウルの40㎞南のルブカと呼ばれる地域だ。火山性の花崗岩の一帯だから、金の鉱脈の可能性がある。まずここに行く」
機が地上1,000mに到達し一旦停止して、桐山が助手席に座るネンゴに、前にあるスクリーンに地図を映して見せて説明する。スカイカーは揺れないので書類を広げても問題ない。
「おお、やってくれ」
専門家は尊重するタイプのネンゴは、窓から辺りを見回しながら言う。
「ではここから50㎞だから、ゆっくり30分かけて飛ぶ。電磁波を照射しながら飛ぼう。いいか、今から電磁波の照射をする。今、スイッチオン!ほら、ここにランプが点くとONだ。それから、このスクリーンのここに座標が示される。深さ方向がこれ、深さに沿ってギザギザが現れているが、ギザギザは電磁波のまあ抵抗みたいな指示値だ。これが、大きく振れるとそこに金属の鉱床がある可能性がある」
「うん?石油とか石炭は判らんのか?」
「いや、今のような普通の土質だとこの程度の値だが、石油や石炭は抵抗が違うので、この程度に低く出る。ただ、今回の調査は地質的に金属に的を絞って調査しているから、今回の調査ではそれらは見つかる可能性は低いな」
「なるほど、しかし石油・石炭が存在する有望な地層も判っているので、それも調査してみたいな。これらは少し前ほどの値打ちはないが、重要な化学材料になるからな」
「ああ、それも後でやってみよう。ただ、ニューブリテン島には有望な地域はなかったような?」
「そうだ。本島のみだ」
「うん!ちょっと振れたな。しかし弱いし、範囲が限られているので、小さい鉱床だな」
「ふむ、だがあるのが判るわけだ。深さは50mほどか。何かは分からないのか?」
「引き返して、周波数を変えてやれば絞れるが、これだけではなにかは判らんな、しかし鉄よりは比重は大きいようだ」
「ほうほう、素晴らしい。この装置はいいな。売ってもらえんかな?」
「ああ、多分売ってくれるよ。そう言う方針だ。なにしろ、涼もその家族も十分財産を持っていて、更に儲けようとは思っていない。それに、彼がこの仕事を始めたのは資源の値上がりを防ぐためだし、発見して出来れば貧しい人々は豊かになる原資にするためだ」
「ああ、そうだろうな。涼はあれだけの技術を見返りなしに公開しているからな。まあ、それは我々にはありがたいことだ」
「さて、また反応があった。たぶん石炭の小さい鉱床だな」
「うん、深さ30m~40mの範囲か、ところでこの平面的な検知範囲はどの程度だ?」
「ああ、1,000mの高さで径50m位だから、まあジャストポイント部分しか分からない。だから、局所的鉱床は見つけるのは無理だ。例えばダイアモンドなんかはまず無理だね」
暫くの飛行の後に桐山が言う。
「さて、最初の目標地点が近づいてきた。うーん、っと。反応はあるが……。範囲が狭いし、深い。100m以上か。残念ながら採算ベースには乗らないだろう。だから、ここは諦めよう」
「ああ、賛成だ。とりあえず一通り見て、その結果によってはまた引き返すこともあり得るな」
「ではポイント2に向かおう。南下して70㎞だな」
そのように、2人は探っていく内、小さい反応は無視するようになった。そして、開始後2時間が過ぎて、九州ほども面積のあるニューギニア島の中央付近の最高峰ウラウン標高2,300mの手前で、大きな反応に当たった。
「おお、これは大きい。多分地層的には銅だな。深さ30mから120m以深か。長さもすでに1㎞を過ぎている。うーんと、切れた。長さ2.5㎞だな。では、飛び回って平面を決めるか」
「ええ!まだ一日目だぞ!それも僅か2時間。凄いぞ、凄い!いやあ、大鉱床だ」
「まあ、もう少し調べてだ。2時間ほどかかるぞ」
桐山はまず推定鉱床の上を飛び回って平面形を図化して、面積を約5㎢と算出した。さらに降下して電磁波発生器の供給電力を増やして深さ250mまで測れるようにした。そうすることで、平均層厚を180mと算出して、鉱床の量を約9億㎥と割り出した。
さらに、周波数を変えて測定することで、鉱石は銅で間違いなく、その含有量は2.5%程度となった。従って、鉱石の比重は2.6程度なので銅としての資源量は5,900万トンである。現在銅は2万ドル/トンであるので、金属にした場合の値打は1.2兆ドルである。
PNGの国家予算は年間120億ドルであるので、なんと100年分に相当するのだ。この計算結果を示すと、ネンゴは呆然となってしまった。
「おい、桐山。これどうするよ?大統領や首相に言えば大騒ぎになって、………。いや秘密にしろっていうな。多分、自分の取り分をまず確保しようとする。下手をすると暗殺チームを送り込んでくる」
彼は腕を組んで考え込んでしまった。それを見て、桐山が言った。
「おい、ネンゴ。発表しろ。今日発表するんだ。そうすれば、もはや誰にもどうにもならん。
それに、これはほんの一日の成果だぞ。まだニューブリテン島の半分以上と、広大なニューギニア島の半分が残っている!」
「あ、ああ。そうだな。そうだ、今日発表だ。世界中に知らせるのだ。これは誰も文句を言えない俺たちPNGの資源だ。大統領や首相や閣僚連中は文句をいうだろうが、反論してやるよ!『この喜びを国民みんなに早く伝えたかった』ってね」
すぐさま州都ココポに帰ったネンゴは、州知事のマイケル・ネゴンゴを呼んで、記者会見の段取りをさせた。鉱床の位置はかろうじてココポのある東ニューブリテン州に入っているのだ。
午後6時に緊急記者会見は始まった。東ニューブリテン州ローカルのENB放送は、全国ネットのPNG放送の傘下にある。何かと話題のネンゴ大臣の緊急記者会見、それに州知事のマイケル・ネゴンゴが血相を変えていたという話から、PNG放送のネットワークで全国放送となった。
ネンゴに、首相のケン・オクズレからスマホで連絡があった。
「おい、ネンゴ。なにを勝手なことしている。何を発表するつもりだ?」
「ああ、オクズレ首相。まあよさそうな可能性のある鉱床が見つかったのですよ。国もこの所いいところがないので、明るいニュースと思ってね」
「ふん、可能性か。しかし、そんな発表は取り分を決めてからだ。今回はもう決まったようだから仕方がないが、今後は気を付けろ。分かったか?!」
「はあ、分かっていますよ」
スマホを切りながら、ネンゴは「ふん!」と鼻を鳴らした。
「守銭奴め。今回の話はお前らが扱えるオーダーのものではない。発表を聞いてあたふたしやがれ」




