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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第4章 変貌した地球世界
43/54

4-3 GPFの始動

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 国連の総長は、現在はイギリスの元首相であるレイモンド・マーシャルである。一連の国連改革で、トップである事務総長(Secretary General of the United Nations)は総長(President of the United Nations)となり、一段と強い立場になった。


 つまり、事務方のトップであるという立場から、本当の意味で代表になったわけで、責任も一段と重いものになる。役割として極めて重要になるのは、GPF出動の命令あるいは提議をする権限が与えられたことである。その場合、多数の人命に係わる緊急の出動案件においては、総長の責任で出動させることができる。


 また、GPFの役割に『人道にもとる状況を解決する』というものがあり、これについては、総長が本会議に提議してGPFによる調査または出動をはかる。そして過半数以上の賛成が得られたら、理事会で再度協議して調査・出動の是非を決める。


 このように慎重な対応をするのは、GPFによる行動は国の主権を無視したものになりえるからである。ただ、公然たる審議と行動によって問題の状態が隠蔽され、または被害者を処分(殺す)などのことをする恐れがある場合には、総長の判断で調査を行うことが許される。


 ただ、このような議決を得ない出動においては、GP8+3による理事会において、審査して適正であったかどうかのチェックを行う。ちなみにGPFは規模こそは小国の軍隊レベルであるが、実力は世界一である。だから当然その指揮官にフリーハンドを与える訳にはいかない。


 そのため、その監視役として国連にはGPF管理官が3名おり、2名が文官のマイア・ワトソンとケン・ロバートソンで、1名は武官であるダニエル・サマーエルである。世界平和情報局:GPI(Global Peace Interagency)のトップのマイケル・コナーが、GPF関連の情報を含めた総長のアドバイザーになっている。


 これら管理官3名が、基本的にGPIからの情報を元に、総長に出動あるいは調査などの行動の提言をする。総長からのGPFへの命令を、GPF司令官へ伝達することは管理官の役割である。このように、基本的に国連としてのGPFへの命令は総長からになる。


 だが、緊急時に総長が命令を出来ない状態の場合には、GPF管理官が代行して行うこともできる。ちなみに、GP8+3というのは、GP8で主要議事の決定を独占するのは問題があるということで、各国の国連代表者によって選ばれる3カ国の委員を加えるものである。以前の国連の非常任理事国みたいなものだ。


 だから、総長を途上国あるいは中進国の者には任せられないということで、GP8の閣僚以上の経歴のものが理事会で選定され、総会で承認されることになっている。GPFは国連総長と管理官のコントロール下にあることから、国連の武力部門であるということになる。


 GPFへの予算は、各国の国連への拠出金とは別枠で、GP8からの拠出金によっている。総予算は初期拠出金が300億ドル、その後は年間100億ドル足らずである。この組織が、拠出金を出す8ヵ国の軍の代替になるので、この金額は安いものである。ただ、これは本部アースプロテクション基地にある機材と人員の費用にGPIの費用を加えたものである。


 だから、各国基地に駐在する本部隊の予算はこの中に入っておらず、各国の基地の設営費、運営費、人件費などは基地のある各国から直接払われている。だから、これらの部隊は母国への帰属意識を失わないようにしている。彼らは、本部基地と定期的に相互訪問して共同訓練をする。


 この中で、お互いの基地の在り方と運営状況を知るわけで、これも一種のPGFへの監視手段の一つであり、おかしな動きを察知しようというものだ。


 レイモンド・マーシャル総長は、GPF管理官の3名であるマイア・ワトソンとケン・ロバートソンにダニエル・サマーエルに加え、GPI局長マイケル・コナーとGPFの初仕事を練っているところだ。


「なるほど、候補はカロンビアの軍事と言うより麻薬カルテル政権に、ガンバブエとゼンビア紛争か」

 マーシャル総長の言葉に、コナーが頷いて言う。

「はい、ミャンマーの真似のコロンビアに、実際に戦争状態になっているガンバブエとゼンビアです。後者はすでに800人を超える戦死傷者を出しています。これらは問題が明らかですから、総会でも説得がしやすいですよね」


 ミャンマーの真似というのは、2021年にミャンマーで起きたクーデターである。これは、国軍が武力によって政権を握り抗議する市民に発砲するという恥ずべき事件である。この件は、結局ゲリラに民衆が合流して軍に対してゲリラ戦をしかける事態になって、内乱状態になった。そこで、下級士官が再クーデターを起こして上層部を拘束して解決したものだ。解決は2025年のことであった。


 南米のカロンビアも、軍がクーデターを起こして軍部独裁を布いている。ただ軍が表に出ているが、実態は麻薬王と呼ばれるマルコスが主導したと見られている。カロンビアは100万㎢の国土に5,000万人の人口であるが、一人当たりのGDPは15,000ドルと中進国レベルである。


 ガンバブエとゼンビアは双方とも隣り合ったアフリカの内陸国であるが、互いの国境で世界最大級と言われるタングステン鉱床が発見された。タングステンは、比重が金に近い重い金属であるが、鉄の強度を上げるための合金に使われる重要な資源である。


 中国がその大半を産出する国であったが、最近生産が細ってきて急激に値上がりしている。発見は、スウェーデンの援助によるガンバブエでの資源探査チームによるものだ。これに対し、ガンバブエとゼンビアが鉱床の取り合いの小競り合いだったものが、本格的な紛争になっている。

 どちらも一人当たりのGDPは2,000ドル以下の貧しい国であるため、推定された莫大な資源量に目がくらんだのだろう。


 マーシャル総長が決然として言った。

「よしやろう。テストケースだ。明日は総会の日だから、電光石火で議決をして理事会にかける。サマーエル君は、GPFに話を通しておいてほしい」

「はい。それで、同時にやりますか?あるいは順に?」


「同時だ。話が私の所に来たということは、シミュレーションは済んでいて、すでに必要な戦力を割り出しているよね?」


「はい、ただ、どちらもそれなりに難しい作戦になります。カロンビアのケースは知っての通り、大規模な市民の抗議活動が起きて、軍が発砲しています。さらに、麻薬組織のギャングによる犠牲も確認されています。そのため、確認されただけで、すでに200人以上が犠牲になっています。この中で、麻薬カルテルのギャングが抗議活動の指導者を脅しにかかっているようです。

 軍もギャングもせん滅して良いなら簡単なのですが、そうもいきませんので難しいのです。だから、ガス弾と、疑わしい相手の脳波による有罪判定機を使います。これは司法官を伴っていく必要がありますね。

 さらに、ガンバブエとゼンビアについては、これもどっちが悪いとも言えませんから、せん滅と言う訳にはいきません。警告して聞かなければ、双方ともガス弾の全面使用になりますね。無力化して分けさせることになります」


「ふーむ、そうだな。敵として相手を武力で制圧すればよいなら簡単だが、それは出来んケースがほとんどだ。まあ、カロンビアのケースはすでに国連として非難決議は出しているので、それなりに強行はできる。この場合には抵抗されたら反撃は当然できる。

 腐った軍の施設・装備は潰して構わんな。それと、マルコスか、あの麻薬カルテルのボス。奴の屋敷というか要塞は潰していいだろう。あの国の諸悪の根源は麻薬組織だ。これの掃除は徹底的にやろう。そこで、相手に犠牲が出ても仕方がない」


 マーシャル総長の言うことが過激である。よほど、国連大使の連中とのやり取りでストレスが溜まっているのだろう。それに、欲に駆られて武力で市民を制圧したミャンマーの軍も最悪だったが、カロンビアのケースは麻薬カルテルも絡んで国の乗っ取りだけにもっとひどい。


 軍の武力で市民を脅し発砲するのみでなく、ギャングが抵抗運動のリーダーとその家族を脅すのみならず害している。情報部の調査ではいくつも悲惨で惨たらしいことが起きている。『こいつらはせん滅しなければならない』というのが全員の共通の思いである。


 ギャングという存在がのさばるのは、彼らが殺人を犯しても、現行犯で逮捕できない限り犯行を証明するのが難しいためである。『疑わしきは罰せず』と言う奴だ。とは言え、その精神は貴ぶべきであり、魔女狩りに代表する冤罪を防ぐには必要なことである。


 しかし、テロリストもそうだが、ギャングや常習犯罪者はその精神を悪用して世にのさばる。しかし、通常の社会では、疑わしきは無罪の者のような疑わしき存在はつまはじきされるので、自ずからはびこるには制限がある。


 その点で、カロンビアのように中進国で、全体としてはさほど貧しくないが、貧富の差が極めて大きい場合にはギャングが英雄視されるようになる。当然、このような社会は上から下まで腐敗している。正義の概念がひっくり返っているのだ。


 GPFが紛争を治めるためには、警察のような役割を求められることは当初から想定されていた。そこにおいて、当然『疑わしきは罰せず』の精神である必要がある。そうなると、明らかに武器を持って攻撃してくる相手には反撃できるが、武器を持っていないケースは攻撃できない。


 そうして、躊躇っているGPF隊員はテロリストなどには良い的であるため、兵に犠牲が多くなる。これを解決するために考えられたのが催眠ガス弾である。嘗てロシアにおいて、警察組織が暴動や人質のいるテロに対して催眠ガス弾を使うのは常態化していた。


 つまり、彼らは人体実験を繰り返してきた訳だ。当初のものは重い後遺症が残る代物であったが、改善が進められて今や、ガスを吸って寝ている者が6時間程度で後遺症なしに起きるガス弾を開発している。このガス弾は、経済援助もあってGP8に対して協力的になったロシアから有償で技術供与があった。


 さらにこのガス弾は、覚醒スプレーにより数分で覚醒させることができる。ただ、この場合には強い頭痛が起きるので、テロリストとして疑わしい相手にしか使わない。このガス弾とスプレーはGPFの標準装備になっている。


 しかし、更なる問題がある。それはテロリスト或いはギャングと疑わしい者を捕まえても、彼或いは彼女がそういう存在であるかどうかは簡単には判らない。この点は、重力エンジン機の操縦装置に使われている脳波による意思疎通のシステムが解決した。


 つまり、この有罪判定機:GJM(Guilty Judgement Machine)はアタッシュケース程度の大きさに有機人工脳とAIが入っており、2つのヘッドフォンによって被疑者と尋問者が繋がる。尋問によって罪の種類、犯行の回数、犠牲者の数など相当に詳しいことが判る。GPFでは、殺人の有無と人数で取りあえず拘束し、逃亡を試みたら射殺可となる。


 尋問結果はメモリーに残るので証拠能力がある。すでに国連では、このGJMの有効性を認めており、司法判断に使えるものとして認めている。現在、世界中の国々の国会で、このGJMを裁判の司法判断に使うかどうかの審議を行っている。


 しかし、これは結構揉めている。嘘がバレちゃうのだから、まあ普通は嫌がるよね。一般に地位が高い人ほど隠していること、嘘をついていることは多い。だから、『刑法犯に限る』という条件付きで認められることになりそうだ。GPFが使う場合には、暴力犯が相手だから上述の条件がついても問題はない。


 話が逸れたが、マーシャル総長らの話し合いはまだ続いている。マーシャル総長が聞く。

「ところで、ガンバブエとゼンビアのケースの問題点を議論しておこうか、サマーエル君?」


「はい、鉱床と思われる地点、まさに国境だったらしいのです。そこで、調査結果がジンバブエ側の依頼だったこともあってに重機を入れて試掘を始めたのです。それを、ゼンビアが権利を主張して止めに入ったのですが、無視されて騒ぎが大きくなったようです。

 結果的にて、互いに数千の軍が争う紛争になってしまいました。すでに3回の会戦を行って死傷者800人になるそうです。昨日の時点では互いに陣地を作って引く様子はありません」


 サマーエルの説明に、マーシャル総長が応じる。

「まあ、数千億ドルといわれるタングステンの鉱床だからな。貧しい彼らの国だけに、まあ過剰反応するのは解らないでもない。だけど、また国境を完全に跨いでいるとはまた厄介な位置だな。だけど、これは中に入って国境を厳密に決めてやって、自分の国境の範囲を採取させるしかないだろう。


 調整官のエドガー・サミュエルと補佐官を行かせるので、GPFの部隊に同乗せてくれ。両方の国の担当者を集めて協議させる。私から双方の大統領に話をしておくよ。なので、互いの軍を引かせて、その話し合いの場を作ってほしい。ギャラクシーを空中に浮かせるなどして呼びかければ引くだろう」


 マーシャル総長は翌日の総会でGPFの出動案件として2つの案件を議決にかけて、90%以上の賛成票を得た。GPFの活動そのものに反対の国があるので、反対票はやむを得ない。軍事政権の代表のカロンビアの大使は無論反対したが、ガンバブエとゼンビアは賛成した。これ等の国は結果として出た犠牲に引きたかったらしい。

 その後、GP8+3の理事会では全議員の賛成を得てGPFの初出動は決定した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] NATO軍とNOTO軍の揺らぎもですね
[良い点]  やはりこういう組織のトップはイギリス人が適任なんでしょうね。日本人がトップになるには、ある程度の年数が経ってそれなりの前例が出来上がらないとダメかもしれない。  ちょと情けないけどそれが…
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