4-1 変わった日本と世界との関係
読んで頂いてありがとうございます。
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
2035年、日本は平和だった。しかし、過去数年国全体で産業界に大変な変革が起き、多くの人が職種の変換を余儀なくされた。その意味で、数年は皆が忙しくなり、必ずしも好ましい変化ではないので、社会がぎすぎすしていたが、生活が便利になっていったことは事実である。
貿易について俯瞰すると、必需的な輸入品目が減り、輸入の絶対額が減った。一方で日本にしか作れないもの、または競争力のあるものが増え、輸出額はむしろ増えた。減った輸入品は、まず石油、天然ガス、石炭などの鉱物性の燃料である。
昨年の石油の輸入量は、年間5千万kLであり、嘗ての1億5千万kLを超えたレベルから1/3以下になっている。これは最終的には潤滑油や石油化学原料に使われるので4千万kL程度になると見られている。
天然ガスについて、嘗ては年間1,000億㎥を超えていたが、昨年では300億㎥となっている。これも、やはり化学原料として使われるので最終的には200億㎥になると見られている。
石炭については、ピークの1億7千万トンから6千万トンで1/3程度になっているが、石炭化学原料に使われるので、最終的には3千万kL程度に落ち着くと見られている。
また肥料のリンの輸入量の年間40万トン、カリウムの50万トンは鉱物性の燃料に比べると量は可愛いが、資源の枯渇が石油以上に顕著で急速に値上がりしている。これらは原子変換によって、シリカとカルシウムから国内で作られるようになって、それぞれ年間500万トン余り輸出されて世界の価格安定に貢献している。
これらのみ見ても、国として海外に支払う輸入額が年間30兆円あまり減っている。
輸出については、アクティに加え、R情報によるマジカルカッター・ペイスト、マイティ、電子抽出型発電システム、電子バッテリー、バッテリーの励起工場、アルミ鋳造モーター及び各種熱変換装置など、海外でも作りはじめているが、まだまだ圧倒的な競争力を持ってる。
また、2030年ごろから商品化が本格化したが、数世代進んだICT関係の機器、ソフトウェアが売り出された。これは、重力エンジンのコントロールのために高性能AIの開発の必要があったため、開発・実用化されたものである。
R情報を元に、有機人工脳が実用化され、さらに複雑なデータを元に高速処理するためのソフトウェアが開発されて、その過程で新OS『アウェイク』が実用化された。
これらは、重力エンジンのコントロール装置としてはすでに用いられていたが、この周辺技術はアメリカの独壇場であり。ここに楔を撃つことは危険である。このため、民生用としての販売についてはタイミングを計っていた。結局2031年に日本の3社からコンピュータ用に新OS『アウェイク』が発売された。
アウェイクは内部メモリー16GB程度のコンピュータで使え、既存のofficeなども使える。しかし、なによりの特徴はofficeの発展版になるソフトウェアの『テラ』に最適合していることである。テラは文章作成ができ、その過程で表を作成して挿入すること、図を作成して挿入すること、写真や画像を自由に取り込むことなどが出来る。
また入力方法は既存のコンピュータではキーボードで行うことになる。しかし、同時に有機人工脳を装備してアウェイクに最適化された新コンピュータ『レボルト』が日本メーカーから発売された。これによれば、キーボードにより入力が出来るが、音声によることもできる。
考えながらの音声による入力は、間違い、曖昧などの問題が生じやすいが、この入力システムは脳波を捉えて言わんとすることを導くことができる。これは『しでん』の操縦システムに使われている方法である。
そして、有機人工脳を使ったスーパーコンピュータもすでに開発されている。これは、同じ機能で言えば大きさでは従来の1/5、発熱量は1/10、電力消費量は1/10であり値段も1/3程度になる。これらのものは数世代進んだもので、明らかに既存のものに比べ優位性があるが、既存のものも使えることは確かだ。
従って、現在特に日本では急速に入れ替わってはいるが、世代交代には5年以上はかかると見られている、このように、コンピュータやソフトウェアでは、すでに技術ではアメリカを凌いでいて、ITC分野での貿易収支も3年前はマイナス15兆円であったものが、まだまだ過渡期の昨年でマイナス5兆円になっている。
このように、2028年以降数年間に極めて大きな技術革新があり、それは将来に向け非常に好ましいものであった。しかし余りに急激な技術革新による社会的・経済的混乱がひどかった。これは主として石油であったが、資源価格が際限なく上がる様相から政府が焦って導入を進めたためである。
そこに、あまりに都合のよい技術が実用化されたために、その普及に国を挙げて急いだのである。しかし、これらの技術の普及は、将来への暗い予想を一掃するものであった。その予想とは核の脅威、エネルギー危機、地球温暖化、食糧危機、様々な資源の枯渇などであった。
核の脅威は核無効化装置の実用化によってすでに解決された。各国の核廃棄は順調に進んだわけでなく、廃棄することを同意しても、その手続きに文句をつけてなかなか進まない。イギリス・フランスはあっさり宣言半年後に核無効化装置で無効化して、IAEAの査察を受けた。
イスラエルは、核無効化装置の存在から、これもイギリスなどとほぼ同時期に無効化したし、イランもしぶしぶ無効化した。インドとパキスタンは国連が仲に入って同時に無効化した。アメリカは5,000を超える弾頭があるので、状態をチェックしつつ無効化していったので最後に処分したのは2032年12月であった。
中国は、導入に苦労しただけにもったいぶったが、アメリカが処分したことを確認した後無効化した。いずれも、国連で決めたようにIAEAの査察を受けて無効化を確認している。瞬時に核を無効化できるこの無効化装置が無ければ、核弾頭の廃棄は長い時間を要したであろう。
また、エネルギー危機と地球温暖化は表裏一体のものであり、エネルギー源の大部分を占めている鉱物性資源は枯渇が目に見えている。
そして、その燃焼のために発生する二酸化炭素により起きている地球温暖化と、その結果による気象変動は、人々の目に見える形で脅威として迫っている。すでに、二酸化炭素が地球温暖化を招き、それが気象変動を生んでいることを否定するものはいない。
この2点について解決策は実用化され、すでに解決は時間の問題である。つまり、物質を改変して電子を取り出す形で電力を生むことで、実用的に無限のエネルギーが得られるようになった。このことでエネルギー問題は、副作用がなく、かつはるかに安価に得られるという形で解決したのだ。
また結果として、鉱物性の燃料を燃料として使う必要がなくなり、その部分の二酸化炭素が発生しなくなる。このため、大気中の二酸化炭素の濃度は、数年内にピークアウトし減少に転じる。だから気候変動も20数年かけて収まっていくと推定されている。
食糧危機は、一面でエネルギーの問題でもある。つまり、食料生産は土地と水、肥料に人手があればできる。世界には塩害化、採算が取れないなどの理由で放棄されている農地は沢山ある。つまり、土地はあるのだ。塩害化は灌漑不足であり、その水はエネルギーを使えば運べる。淡水が無ければ、エネルギーを使えば海水の淡水化も可能である。
肥料のうち窒素はエネルギーを使って化学で空気から取れ、リンとカリウムはエネルギーを使えば原子変換で作れる。人手はEVタイプエネルギーの機関で機械化すればよい。つまり、エネルギーが安く豊富に使えれば食料生産は増やせる。
資源枯渇にしても、アルミなどのように物質はあっても資源の濃度が低いために集め、精製するコストが採算に乗らないから足りないのだ。リサイクルも同じであるが、近年では資源の価格が上がってきているので、採算に乗ってきているものが多い。また、地球上の不便な場所にはまだまだ資源はある、
シベリアで知られていなかった鉱山が多く発見されて、すでに採掘が始まって話題になっている。このように、近寄ることも難しかった所には、まだこうした資源が多く隠されている。その点で、重力エンジン機の登場で、事実上不便な場所などないことになったので、こうした資源は活用できる。
また、別の太陽系は無理にしても、重力エンジンによって月や太陽系の惑星やその衛星で資源を採取することも考えられる。
このように、人々が将来に持つ暗いイメージは、すでに一掃されたと論じる識者も多く、心配性の日本人も将来に明るい展望を持てるようになってきた。これは、新技術に適応するための産業改変の5年ほどを、夢中で駆け抜け落ち着いたところでの思いである。
日本の一人当たりのGDPは少しずつ伸びて6百万円程度になっている。これは、国際収支が大きな黒字になっているほか、アクティの効果もあって生産性が伸びていることと、人々の活動が活発になってきたために内需が伸びている。そして、このような要因が複合したためである。
生活面で、食料は国産が増えてやや値上がりしているが、電気料は大きく下がり、その中で上下水道料金や乗り物料金、その他の生活必需品の値段も長く落ち着いている。このように、生活費はそれほど変わらない一方で、若い層の収入を増やす政策が効果を表している。
近年では、服装であれば、ブランドの高級品より、それなりの質は要求されるとしてもバランスが重視され、それより人としての教養、人柄に重きが置かれるようになっている。また、都会での賑わいにそれほど価値を置かない人が増えた。
これは、映像技術の高度化とスマホの融合によって、映像の臨場感が進化し出かける必要を感じなくなっているからとみられている。また、買い物にしても配達用の無人小型スカイキャリーがあり、必ずしもマーケットに行く必要が無くなっている。とは言え、マーケットでの買い物を楽しむ層も一定いるが。
そのような意識の変化あり、スカイカーの急速な普及も手伝って、都会を離れて、嘗ての過疎地に住居を持つ者が多くなっている。そのため、日本全国に人口の偏りが無くなって、都市の密度が下がり、地方の密度が上がるという現象が起きている。
これをもって、近年では人々は一つ高い段階に入ったという識者もいる。確かに、人は変わってきたという論者がおり、そのように自分思う人も増えている。一つにはアクティの働きもあるのだろう。認知症が殆ど無くなって、寝たきりという人も非常に少なく、人々は75歳程度まで無理のないレベルで働いている。だから、国の財政は大助かりである。
この中で、着実に子供の数が増えている。世の中が穏やかに便利になり、経済的に生活にゆとりができたことで、家庭には子供がいるということが再度普通になり特殊出生率は2.0に届くところまできた。しかし、人口ピラミッドの若年層は細っているので、人口の減少は当分続く、
だから、現在1億1千万弱の人口は、2060年頃にだいたい8千万人で止まると考えられている。
2034年末で、すでに発電は全て電子抽出型発電になり。自動車もニューEVタイプが90%を超えた。熱関係の石油や石炭使用について、産業用は製鉄の高炉が一部残っているだけで、残りは全て電気式に代わっている。しかし、やはり家庭用についてはまだガス炊きが相当残っている。
また、工作機械はマジカルカッター、マジカルペイストによる金属の切断・分子接着に重力操作のマイティを組み合わせた様々なタイプの加工機が標準的に使われている。さらに、起重機はすでにマイティが標準になって、クレーンは使われなくなった。
特に、フライキャリーが普及してからは、船体にマイティを装備して荷受け場所に直接着けば、港から工場や倉庫などの小運搬と荷下ろしが不要になる。また、マイティによって大容量・大質量の運搬が可能になり、工場で大きな部材を組み立てて現場に作った基礎に据え付けるという工事が普通になった。
つまり、マイティで浮かした大容量の部材をスカイカーで引っ張るのだ。海で台船に乗せた荷をダグボートで引っ張るようなものである。しかも、マイティがあれば荷下ろしもできる。
運送業者の切なる要望に応え、フライキャリーの製造も急速に進み、すでに国際的な荷運搬はフライキャリーによるものが50%を超えた。距離が長いほどコストに差があり、5,000㎞程度のバラ積の運送にはトン当たり1:3のコスト差が生じているが、これに港からの小運搬は含まれていない。
そして、地域による利便性に差がないということが認識され、確実に地政学的な変動がすでに生じている。つまり、シベリア奥地、ロシア内陸、中国のチベットやウイグル地区、中央アジア、アフリカ内陸、南アメリカ内陸、オーストラリア内陸など、何の値打もないと思われた地域も今やアクセスは他と変わらないのだ。
しかもアクセスの手段が時速800㎞で飛び、燃料は不要なので、地球のどこからでもコストにはさほど差はない。このため、さしあたって先述の地域での水源の有無、資源の再探査がすでに始まっている。特に大河が多く温暖(というより暑い)な、アフリカ中央部は農業基地として期待がかかっている。
旅客航空に関しては、2,000㎞を越える路線は、確実にハイパーライナーの独壇場になるべく移行が進んでいる。だが、まだ機体の数が揃っていないので、このうち1/3程度の路線はグラビィプレーンが使われている。
この場合にも距離が長いほどハイパーライナーが有利であるが、残っている3,000㎞のグラビィプレーンの路線の場合には時間で2倍、コストで1.3倍の差がある。これで10,000㎞であれば、時間で6倍、コストで2.5倍の差が生じる。
旅客航空業界の問題は、彼らは概ね2万機を重力エンジン機に変更した。だが、間もなくグラビィプレーンは飛行距離2,000㎞以下の短距離専用となって、必要数は1万5千機であるので余剰が生じる。
なお、ハイパーライナー機は飛行距離2,000㎞以上では、グラビィプレーンに対し平均的に3.5倍以上の回数のフライトを熟せる。つまり、長距離フライト用の従来機2万5千機の代替とすれば、必要なハイパーライナー機の数は7千機強ということになる。
なお、ハイパーライナー機の価格は従来のジェット旅客機と価格は大差がない。




