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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
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1-4 始まった核無効化装置と新発電機の実用化試行

宜しくお願いします。

 また、その会では資料を貰えない段階では自分の組織に帰って内部を説得できないとの意見も出た。それはもっともなことであったが、とりわけ核無効化の技術に関して秘密保持の必要性を強調することで皆が納得した。特にその点は防衛省中央研究所の岸川から、マキノ工機を含めてセキュリティの甘さの非難と共に秘密保持の重要性が強調された。


 一方で、発電システムについては、実際に機能が確かめられたら、核無効化技術に比べ遥かに広い範囲で、全世界的に全力で普及に取り組む必要があることが確認された。更に、今の段階情報が洩れても、とりわけ大きな危険性はないとの指摘があった。


 その結果、実用試験終了までマスコミには発表はしないことは確認されが、実用化の加速のために。参加者の組織内では広く知らせる必要があることが強調された。このため、その場で説明資料とデータが配布され現状でできる限りの準備にかかることが決められた。


 また、その当日に岸川に呼ばれた防衛省中央研究所の所長の山瀬がやってきて、涼から直接話を聞いた。それをどう受け取ったか、2日後から日向家とマキノ工機について、防衛省の通称防諜部の管理下に置くことになったことが、やって来た人員と共に通知された。


「ええ!家に2人、僕と家族の皆に護衛が着くの?そんなあ」

 日向家に防諜部の現場キャップと共に説明に現れた中央研究所の岸川は、苦情を言う涼に苦笑しながら言う。


「もし、この話が漏れたら、ロシアあたりは数十人態勢で涼君や家族の誘拐班を送り込んできますよ。だから、基本的には涼君の本件への係わりは漏らさないようにしますが、こうした秘密というのはどこかから漏れるものなのですよ。

 君だって、君の家族が誘拐されたり、ロシアや中国、ひょっとしたらアメリカに連れていかれ、閉じ込められて働かされるのはいやでしょう?」

 そう言われると、涼もなにも言い返せなかった。


 動きの遅いはずの官庁である防衛省が、これだけ早いアクションを取るというのは、政府の防衛省への強い圧力のせいである。実際に日本政府は、ロシア及び中国の核に対してそれだけ政府が危機感を募らせているのだ。


 ロシアに対しては、日本政府はウクライナ侵略に関して、世界の先頭に立って非難し、かつウクライナ復旧に率先して協力している。このため、ロシアが核を使うとすれば日本に対してという可能性は低くない。それに、日本は核を持たない『安全な敵』である。


 これは、いろいろ訳アリのアメリカの交代した大統領が、自国ファーストとの名目で防衛費の分担や様々な安全保障の面で無理難題を吹っかけてきている。この身勝手な主張に対して、日本の世論もうんざりしており、それに対して硬化してきているため政府もアメリカに安易に妥協できなくなっている。


 このため、沖縄の米軍を引き上げるブラフだったものが、いよいよ実施が迫ってきている事態になっていると見られている。それに、元々アメシカがロシア・中国などの日本への核攻撃に報復するかどうかは怪しいと見られている。


 それをアメリカの大統領が「俺の言うことを聞かないなら、防衛はしない」と公言する事態になっているのだから、どうしようもない状態である。嘗てないほどの核の脅威が迫ってきている状態で、丸裸の状態になっているだから、政府が焦るのも無理はない。


 後で判ったことであるが、防衛省は涼の発表したシステムに5分以上の可能性があると見ており、最悪実用化に失敗しても、核の発射を止めるブラフには使えると考えていた。このため、防衛省は専任チームを作って涼に補助につけて、マキノ工機以上に涼と日向家にのめり込むようになった。


 涼も「日本国の危機」と言われると、自分が知るところの近い将来の事実であるため、諦めて受け入れて、担当者の専門を指定して3人を事務所に常駐させるようになった。そのことで、彼の作業が大幅に早く進むようになったことは事実である。


 その結果、予定より数週間早く、防衛省の2人が見守る中でデータ取り出しに成功することができた。データは300年後も日本語であり、基本的には文法等は変わっておらず、防衛省のものも普通に扱える。データ容量は全部で5テラであるが、きちんと情報にダブりなしに整理されていて、テーマごとに関連する技術情報が引き出されることになっている。


 涼は、流石に防衛省に全部のデータを渡すことはしなかったが、核無効化の500Mほどのデータについては彼らの持って来たメモリーに入れて渡した。防衛省の2人の技官嵯峨野三郎・美山美鈴は、緊張した表情で自分のパソコンで渡されたメモリーの目次を確認して、顔を見合わせて頷き涼に言う。


「有難うございます。それでは我々はこれを持ち帰り、取りあえず内容を開けてみます」

 30代の嵯峨野主任研究官が、涼に言うのに涼が応じる。


「ええ、私は何が入っているかは大体解っていますので、明日10時お宅の研究所に行きますので、どう最も早く実用化できるか検討しましょう」

「はい、それではお暇します」

 2人が出ていく。


 その後、涼は受信したデータのバックアップを事務所に埋め込んだ秘密のサーバーにとり、発電関係のデータをハードディスクに入れて、事務所を出て待っている車に乗る。1時間ほどで四菱重工の埼玉事業所に着くと、ゲートを過ぎて中に入り、2階建ての建物の入り口でマキノ工機の山際が迎える。山際は涼を引き込んだ功績で課長に昇進している。


 結局、発電事業については、マキノ工機はノウハウを持たないということで、経産省の音頭で四菱重工が主開発者ということになったのだ。マキノ工機は触媒回路の製作と専用のマジカル・カッターを使ったシリンダーの生産を担当する。シリンダーの表面は、マジカル・カッターによる切削面が必要となる。


 会議室が準備されていて、20人ほどが待っているが、重工の作業服を着ている10人ほどの面々は、どことなく不機嫌そうである。マキノ工機からは山際と部下の村井が出席している。また東西大学の吉川教授が出席している他は知らない人たちである。


 例によって名刺交換が行われたが、重工のこのプロジェクトの責任者は50歳台の三村康夫、中央研究所の電力研究室長である。大学人は吉川教授の他は、早田大学の山根博人電気学科教授と吉田さつき助教授であり、他に経産省からは40歳台の審議官という肩書の白根という人が出席している。


 どうも、雰囲気的に実現性を疑っている様子でもあり、重工は発電所の建設の費用が大幅に安くなるのが面白くない様子だ。これは山際さんが涼にこっそり教えてくれた話である。大学関係は経産省から最高峰の大学とされるT大学に声がかかったようだが、全く相手にしてくれなかったそうだ。しかし、実現がはっきりしたら首を突っ込んでくるんだろうなと思う、涼であった。


 涼は、データベースからいきなり、300年後に励起発電システムと呼ばれる発電機のフローチャートと配置図、横断・断面図に、詳細図も含めて100枚ほどの図面を示し、個々に説明していった。流石に大部分の出席者がエンジニアであるため、特に重工の作業服のものは食い入るように画面を見ていた。


 涼は2時間ほど、それらを早口で一方的に説明して、30分の休憩に入った。夢中で見ていた重工の三村は部下の安井から話しかけられた。


「室長、あれは本物ですよ。書き方に違ったところはありますし、訳が判らない部分もありますが、判るところは極めて洗練されています。

 特に我々も良く解る変電の部分は、全く新しい設計ですが、確かにあれの方が効率は上でしょう。あれで十分画期的な発明ですよ。あの図面に仕様書もあると言いますから、あそこにあるメモリーは宝の山ですよ」


 三村は、はっきり言って、今回の話は面白くなかった。そもそも、聞いたような電子を銅から取り出すような発電システムがある訳がない。発電を専門にして、その効率を1%上げるのに心血を注いできた、自分であればこそ言えることだ。


 しかし、どちらかというと社内営業が下手な自分では、今回の新発電機の開発責任者の任命を断れなかった。会社も別の開発で前向きの防衛省が政府を焚きつけた結果、政府筋から通産省を通じてきた話を断れなかったために、三村などがスケープゴートになった訳だ。


 しかも、この新システムによる発電機のコストは現状の1/5以下という噂があり、そんな安い設備など作りたくないという話も漏れてきている。しかし、三村として会社の利益は小さくはなっても、対象の施設は実現すれば凄いことになるという思いがある。なにしろ燃料費が不要で、ダムのような大げさな施設は不要だ。


 しかし、どう考えても対象の施設は実現不可能だとしか思えない。しかし、100枚もの明らかに発電施設であることが判る図面を見せられて、このようなものを嘘で作る訳はないと思う。それは信頼する部下である安井の言う通りで、彼が指摘した変電設備について彼の言うように思った。


 あれは多分本物だ。彼は確信して、周りの連中がどう思っているか探るよう見渡した。結果として、一人として白けている者はおらず、殆どものが考え込むか、熱心にディスカッションをしている。『なるほど、それなりのエンジニアが見れば、嘘のものではないことは解るのだな』と思い嬉しくなった。


「うん、安井君、はずれを押し付けられたと悲観したけど、これ歴史に残るプロジェクトになるぞ。これが実現したら大変なことになる、間違いなく現在の発電所はスクラップになって、全てこのシステムに更新だな。今、石油のみならず石炭もどんどん値が上がって電気代の上昇が止まらなくなっているが、これがあれば、燃料が全く要らないのだからね。世界の構造が全く変わってくるよ」


 三村が考え込んでいる安井に話しかけると、彼も頭を上げて目を輝かせて応じる。

「私は10歳の息子がいるのですが、『お父さんは何をしているの?』と聞かれたのですよ。それに対して、私ははっきり胸を張って応えることができませんでした。まあ重要でないとは言えませんが、細かい改良の仕事だけでしたからね。しかし、これの開発とは言えませんが、実用化は胸を張れますよ」


「うん、そうだね。まあ、図面を見せられたが、原理と働きは確立されているのだろうけど、産業の体系が違うから、相当に現状で調達できる機器や部品と置き換える必要がある。当面は1ユニット5万㎾の試作が出来れば、事業として動き出すので、それほど規模の大きい話ではない。


 とは言っても、わが国が追いつめられていて、状況は日々悪化する状態からすれば、1日でも早く実用化を進める必要がある。試作と実用設計を同時に勧める必要があるだろうな。安井君、明日から忙しくなるぞ。僕はここの事業所長の村井取締役に話しておくよ。彼には事業所の部下から、報告が行くだろうけどね」


 時間がきて、涼が再度演壇に立って聴衆を見つめるとまったく始まった段階から比べて、人々の熱意が伝わって来る。そのことで、本物の設計図を見せ説明したのは正解だったと思う。専門のものから見れば図面の数々がフェイクのものでないことは一目瞭然のはずだ。


 涼としてはこれらを実用化に参加するメンバーには図面・仕様書を提供するつもりである。時間短縮のためには必要なことであるが、考えなくてはならないことは、世界の混乱期を除くとしても100年余りの時の間の技術進歩の数々が盛り込まれているため、特許を取ろうとすれば対象は数百はあるだろう。


 涼は方針を決めていたので、それを含めて話し始める。

「皆さんには解って頂いたようですが、先ほどお見せした図面は、実際にそれによって50万㎾の発電所が作られたものです。ですから、その通りに作ればその大きさの発電所が出来ます。しかし、残念ながら図面にある装置、部品等で今の世界にはないものが多くありますで、その代替品を作るか調達する必要があります。


 しかし、当面必要なのは実用の実証に使う1ユニット5万㎾の装置のプロトタイプの試作機ですので、それほどの手間はかからないと思います。多分、ここにいる皆さんであれば、1ヶ月程度で作れるのではないでしょうか。まあ、勝手にハードルを上げたと怒られるかもしれませんが。


 ところで、皆さんは先ほど見せた図面に今の時点とは違う、または進んだ部分があったのに気が付かれたと思います。そして、私はこうしたもので、現時点の既存のものより良いものであれば、真似して頂きたいと思います。そして、私は先ほどお見せした図面を含むデータを一式四菱重工さんにお渡しします。


 そして、四菱重工さんと経済産業省の判断で、今日の出席者を中心にデータを渡してください。私自身としては日本国内に限れば、この設計データが流れるのは構わないと思いますが、そうすると必ず外国にも流れ、結果としてまた互いに貧乏に向かった競争になります。


 そして、このデータに含まれる新規性のあるノウハウの取り扱いですが、このデータを公開された既知のものとして扱ってください。つまり、自由に使ってよいけど、権利主張はできないものとして扱って下さいということです。私としては特許庁にこのデータを渡すつもりですので、特許は申請しても成立はしないはずです。


 ここで、私が説明してもそういうものがあると言う程度しか頭に残らないと思いますが、データにどこにどういう資料があるかという意味で、あと1時間程度で説明したいと思います」



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