3-8 2033年、国連改革と世界平和軍(GPF: Global Peace Force)の創立
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誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
国連は、2022年3月のロシアのウクライナ侵攻以来、機能不全に陥っていた。そもそもその成立が、第2次世界大戦の戦勝国(?)がでっち上げに近いものであるから,公正などはもともと頭になかった。その矛盾の根底が常任理事国という存在がある。
これらの国は、拒否権という切り札で安全保障にかかわるとされる問題はすべて拒否できる。この拒否権のために、どれだけの議事がストップしてきたか。無論、全てが有益なものではなかっただろうが、こういう仕組みは議論が無駄ということになりかねない。
そして、常任理事国という存在を支えていたのは、彼らのすべてが持つ核兵器であった。常任理事国の一員であるロシアが、隣国を武力で侵略するという、どうみても国際法に違反する行為に踏み切ったのも所有する核兵器あればこそである。
だが、ロシアは北朝鮮と共に強制的に核兵器を無効化された。そして、この無効化を実施したアメリカとNATOの加盟国であるイギリス、フランスは自らの核の放棄を表明し、他の保有国に廃棄を迫り合意を得た。核による恐怖の均衡の時代は終わったのだ。
だから、不法行為を犯した常任理事国ロシアの存在、また常任理事国の権威を支えてきた核が有効性を失ったこと、これらから国連は大きく改革しなければならないことは明らかである。これを、殆ど全ての論客、マスコミが声を大にして叫んだ。
しかし、現状において力を握っているGP8は、本当の意味で国連の場で議論するつもりはなかった。彼ら全てが過去の全てのグダグダの議論にうんざりしていたのだ。議論では何も決まらない。またこれは、多数決で決めてはいけない問題なのだ。とは言え、議論をする『ふり』はする必要がある。
過去国連で力を持つことのなかった日本は、まだ単純に他国の善意を信じるナイーブさがある。つまり、まだ狡猾さ、覚悟が足りないのだ。だから、国連では議論はしている『ふり』はするが、決して結論を出さないようにするという他の7か国の説得に屈した。
それは、時間を稼ぎ、こちらの準備が出来るまで待って、最終的には力で押し切るということである。つまり、時間をかけて相手をあやして、最終的にはGP8以外の声は無視するということであり、確かに、今の日本が最も苦手なことだ。
つまり、GP8は世界平和軍(GPF:Global Peace Force)が実効性を持った段階まで待つということだ。GPFは、アメリカに本部基地を置き、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、オーストラリアの8ヵ国に支基地を置くことで、世界の治安維持を担うというものだ
従来であれば、これだけ基地が分散しては軍としての機能を果たせないが、グローバルな通信網が発達した現在において、重力エンジン機を持つGPFであれば全く問題はない。そして、最終的なターゲットは国や地方が軍を持つことを禁止することだ。
つまり、最終的なターゲットはGPFを唯一の地球上の軍にする。そして、これが全地球上の安全保障を担い、地域紛争や大小規模の動乱を治めるということにある。軍の廃止については、アメリカ政府は歯切れが悪いが、本部基地をアメリカに置くことで、同政府は暫定的に合意している。
この全ての構成員が民主主義国であるので、国民にGPFを結成するなどのことは隠しておけない。なので、その経緯や目的などは公表している。その結果として、その理念と実効性に全ての国の国民の多くが大賛成している。その点は、むしろアメリカに積極的賛成者が多かった。
それは、長く彼らは世界の警察官として振舞ってきたが、国民としては誇らしいことではあっても、好ましいとは思っていなかった。『何で俺らが嫌われながらあいつらを守ってやる必要があるんだ?』ということだ。だから、その警察官を多数の国で行い、自分達はその一員でよいという点は好ましい。
とは言え、勿論積極的反対者も一定数いて、これはアメリカ人に多い。しかし、その数は10%に満たず公論になることはない。ここにおいて、GP8の各国政府はGPFが実効的力を持った時、それを背景に力で国連を改革するとは漏らしていない。これは、絶対の秘密事項である。
GPFが実効的力を持つというのは、1万人程度の軍を2時間以内に、さらに1万人の兵を半日以内、合計10万の軍を2日以内に、世界中どこでも展開できるという定義をしている。
そして、傘下に世界平和情報局GPI(Global Peace Interagency)を持ち常時紛争の情報を集めて、展開先の状況を把握することにしている。情報なくして適切な行動はないのだ。
また、結局陸兵は必要であるが、敵性の勢力をはねつける戦力が必要であり、それが重力エンジン駆動の数々の戦闘機・戦闘艦である。これらは、日本名『しでん』のビー(Bee)型、それから、日本名『そら』のメテオ(Meteor)型の2つの小型機がある。
さらに艦と呼ぶ、万能戦闘艦『MPBS(Multi-Place Battle Ship)』であるPre-Galaxy型である。何れも、気密であるので宇宙まで飛翔でき、地球の周回が可能になっている。初代のMPBSは自衛隊で『おやしお改』と呼ばれて、尖閣沖事変で使われた。
なお、潜水艦改造型でない、オリジナルの艦も作られており、この場合Preが取れたGalaxy型になる。
『おやしお改』は、現在すでにGPFに籍を移され、ギャラクシーP1(PreのP)と呼ばれている。尖閣で司令官を務めた航空自衛隊の瀬川空将補は、GPFに派遣されて中将として勤務している。
なお、自衛隊は防衛軍に改名する予定であったが、GPFの構想が出てきた段階で、今後5年~10年をかけてGPF派遣軍を除いて解消していく予定である。
瀬川は尖閣の経験を買われた形で、ギャラクシーP1を旗艦としてGPFに属して勤務することになる。尖閣事変の段階では、自衛隊の旗艦は『おやしお改』と呼ばれたギャラクシーP1であったが、あの時点では、尖閣の上空3千㎞上空に占位していた。
その時点での日本側の戦力は、『おやしお改』に『そら型』5機、『しでん』型10機であった。『おやしお改』には電磁砲150㎜2門、25㎜電磁砲8基、バルカンファランクス2基、7-A-3対艦ミサイル発射機4基、3-B-2対空ミサイル発射機6基、250㎏爆弾投下機2基が備えられていた。
爆弾投下機には、花崗岩を1トンになるように加工した岩が100個積んであった。結局威嚇のために、この岩を1個落としたのみで中国艦隊が引き上げてしまったので『終わった』ことになった。
尖閣沖にいた中国軍は22隻の艦隊であったが、彼らは最新のJ7を主体とする攻撃機編隊300機を最寄りの空港に待機させていた。だが、瀬川空将補は、艦隊は岩による質量爆撃によって、攻撃機は電磁砲によって撃滅する自信があった。AIに制御された岩や電磁砲はまず外れることはない。
実際に、『おやしお改』から落とした岩は、狙った海面から数mのずれで落下しており、100個の岩のみで艦隊は撃沈できただろう。それにこちらには相手の攻撃は届かないのだから、こちらはまったくの無傷だ。あの時は、結局相手が引いてくれたので、威嚇以外の攻撃はしなくて済んだ。
敵とは言え数百の人命を奪うのは胸に来るものがある。それも相手が反撃できないことを承知の上でのことであるから余計である。結局彼の部隊が行った攻撃は、威嚇のために岩を落としただけであるが、AIとコミュニケーションを取って精密に狙った点に落とすのはそれなりの経験であった。
それと、部隊の編制、攻撃に岩を選んだこと、尖閣上空の占位の位置と高度さらに敵への放送など、司令官として戦時の緊張のなかで、十分な指揮ができたと思っている。その自信のもとGPFに集う各国の将校や将官に説明を行ったが、聞いたものは判ってくれたようだ。
GPFの戦術としては、紛争が起きた場合には、最初に戦闘機たるビー型と攻撃機たるメテオ型さらに重戦闘艦であるギャラクシーによって、空から威嚇し抵抗があれば制圧する。しかし、地上の紛争は歩兵が必要なので、まず即応状態においた1万の軍を、亜宇宙から送り込む。さらに必要があれば、その後詰めとして、追加の1万を送り込む。
これら2万は、即応部隊として本部に常駐する最精鋭の隊として最良の武装を施す。具体的には、小銃弾を防げる防弾チョッキ・プロテクターを着て、現時点で最強と言われるドイツのアサルト銃G37Kを装備する。彼らの重装兵器は、無反動砲、携行ミサイルなどであり、随伴の輸送機としてビートルと称するスカイカーの大型強化版機を兵20名ごとに割り当てる。
戦車の類は原則として持たず、ビー型とメテオ型によって航空支援で対応する。実際に、シベリア共和国の独立の際の戦役では、ビー型による航空攻撃のみで戦車を含む2万に近い軍を蹴散らしている。
GPFの陸兵の総兵力は10万であるので、さらに8万の兵を各国の支基地に駐在させる。これらの兵や装備の移送は、大気圏を飛ぶスカイキャリーと旅客用に改造した機で行う。運用する兵器は各国の銃器の他、無反動砲、携帯ミサイル、さらに重力エンジンを積んだ改造戦車を使う。
2033年3月、GPFは最低限の到達目標であるマーク1の準備が完了した。つまり、まず攻撃艦であるギャラクシーP1からP8の8艦が戦力化され、さらにビーA001~A100の100機、メテオA001~A0048の48機が揃った。
加えて、各2000人の兵と兵器を運べる兵員輸送機が揃った。これはサンライズと名付けられた重力エンジン機であり、001~010の10機が揃って2万の兵の輸送が可能になった。この輸送機は、形はスカイキャリーCE30と概ね相似している。
しかし、亜宇宙を航行する必要があるので、構造を強化し外壁である装甲板の板厚25㎜としてエンジンを強化し、かつ気密にしている。
現状のところ、各国の支基地に配備した兵8万のための輸送機がまだ完成しておらず、マーク2の達成予定の1年後になる予定である。なお、マーク2では、ビー型、メテオ型がそれぞれ2倍の機体がそろい、改造ではないギャラクシー2艦が配備される予定になっている。
GPFの兵備最終段階である2035年のマーク3では、Pre-ギャラクシーに加え、ギャラクシー8艦全てが揃い、即応部隊、支基地に配備した兵の関しても装備がさらに充実する予定になっている。マーク3において、GP8各国はGPF以外の軍を廃止する予定になっており、すでに大幅に減少する予算面での綱引きが始まっている。
このように、GPFが国軍の代わりを果たすことになる訳である。だから8ヵ国で、共同軍である総兵力12万人ほどのGPF空軍と陸軍のみの維持をすれば良いわけだ。このことで、その部分のみを見れば、軍事費は1/5~1/7になる。
しかし、実際には、各国は警察力を補強する警備隊を整備する予定である。だが、これはあくまで治安維持・災害対策のためであり、高価な正面装備は配備しない。だから、トータルとしてGPFを含めた治安維持のための各国の費用は1/2~1/3になる。
GP8は、GPFの装備がマーク1を超えた時点で、創立式を本部基地で実施した。2033年9月1日であった。本部基地はアンカンソー州のジャクソンビルにある、旧米軍リトルロック基地であり、名称がアースプロテクション基地と改名された。
『勝手なことをして!』と少なからずの国から思われながらも、GPFの名とその理念は基本的には世界の人々に受け入れられた。ただ、8ヵ国のみが、独断かつ勝手にそのような軍を立ち上げ、それが地球の平和を守ると息巻いているということは事実である。
しかし、8ヵ国の国民は、政府から盛んに広報されている自国の『善意』を信じているので、何らやましいことはないと思っていた。しかし、例えば中国は口を極めて非難しているし、韓国は理念とその効力は認め期待はしていても、日本を含めた8ヵ国が勝手にやったということを憤っていた。
しかし、8ヵ国の政府当局者はそのようなことは承知の上であり、『実績で示せば理解はついてくる』と思っていたので、不協和音は無視していた。
アースプロテクション基地には、あちこちに溶接跡が残る8艦のギャラクシ―が着艦し、ビー型100機、メテオ型48機が並べられる横に2万5千の兵が整列している。
またその正面には、GPFの将官が立ち並び、2千の招待客の席がある。出席者にGP8のトップが全て揃っている所を見ると、G7の会議以上に気合が入っていることが判る。また、マスコミの関心は極めて高く、報道陣のみで千人を越えていると見られている。
GPF総司令官、アービー・ウィルキンソン元帥(元米空軍総司令官・大将)が演壇に立ち、「総司令官閣下に敬礼」の声に一斉に敬礼する兵と将官に対し見事な敬礼で答える。さらに、「直れ」の声で手を下ろした兵と招待客に向き、まず招待客に一礼して語りかける。
「まず、ここに参集して頂いた皆様に感謝します。我々GPFの戦士は、必ずや地球の平和を守るという使命を果たして見せます」
さらに、GPFの兵の大軍を向いて言う。
「そして、我がGPFを構成する戦士の諸君!
君たちは本当の意味で、地球の人々の生命と財産を守り、あらゆる理不尽から守り抜くことで、地球の平和を守るための盾でありまた矛である。我々は現在アメリカ大陸の内陸部にいるが、一旦出動すれば数時間で地球のあらゆるところに到達できる。
つまり、我々の守備範囲は全地球であり、それ全体が即応範囲に入る歴史上最初の軍が我々である。そのためには、様々な新たなノウハウを身に着け、厳しい訓練を繰り返す必要がある。そして君たちはそれを楽々こなすだけの能力と意欲を持っている。
そのように身に着けた能力をもって、与えられた機材を十全に駆使して任務を遂行して欲しい。そのことで、君たちが地球の全ての人々への慈しみを持って、彼らのために全力をもって奮闘することを期待する」
この日から2日後、GP8は、国連ビルに非武装のGPFの兵を入れて、代表達に席に着くことを強制し、国連の新たな枠組みを発表した、そして、各国の国連大使の同意を要請し、彼らの本国の批准を迫った。




