表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第3章 変貌する世界
35/54

3-7 2033年春、日本の乗り物事情

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 日本では、町の風景はさほど変わってはいない。街並みが変ったわけでもないし、ビルの姿が変った訳でもなく、やはり電柱があって縦横に走っている電線が景観を損ねている。車がごちゃごちゃと走っている点も変わらないが、多数の車のエンジン音が殆どなく、控えめなクラクションの音が気になる程度だ。


 また、街中の空気が随分綺麗になっている。つまり、町の景色は変わらないが、環境面では大きく改善されたということだ。エンジン音や排ガスが減ったというのは、現状でほぼ80%の車がニューEVになったということを意味するが、騒音や排気ガスの多くを占めていた大型のトラックやバス類は殆ど100%である。


 これはトラック等が商用車なので、経済原則から概ね維持費が半分になるニューEVとせざるを得ないということだ。しかしトラック類は、まだ2/3程度はエンジン部のみを交換で済ませており、ぼろいボディのトラックはそれなりに走っている。


 一方で乗用車など小型車については、ガソリン車もまだ走ってはいるが、大分くたびれたものが多い。またニューEVは新しく、スタイルが多様で車体が短めである。この発売は、2029年秋なので新しいのは当然であり、エンジン部が小さいのでスタイルに融通が利くのだ。


 街中のガソリンスタンドは、殆どバッテリーの交換所になって、名前もEB(バッテリー交換所)という名前になっている。街中の大きな変化としては、スカイカーが2032年末を期して漸く日本でも解禁になったことで、上空を飛ぶそれらが見られるようになった。


 さらに、巨大なスカイキャリーが、街の遥か上空を飛ぶのが見られるようになっている。このように、上空300mから1,000m程度を飛ぶスカイカー、15,000mを飛ぶスカイキャリーなどまだ数が少ない。だが、稀に高空を飛ぶ飛行機が見られるのみであった空が、様々な人工物で占められるようになった。

 これは5年もすれば、様変わりするほどこれら飛翔体が増えると言われている。


 アメリカでは2030年、ヨーロッパでは2031年にスカイカーの販売は解禁されていたのに、重力エンジン発祥の地の日本におけるスカイカーの認可は難航した。それは、役人の頭の固さがあるが、やはり過密で電線が張りめぐらされているという都市の条件、更に日本人の完璧主義があった。


 スカイカーはやはりニューEVと違ってスペース上の制限が大きい。これはまず離発着場の規格化から始まった。規格の最小は4m×8mであるから、都市の個人の家では苦しい。都市内で最大の規格は100m×100mの1haであり、それ以下の様々な規格で発着場が建設された。


 スカイカーの実用化のために必要であるのは、3次元で動くスカイカーを、既存の構築物である建物、電柱、電線、塔のほか自然の樹木や崖などを避けて、また互いに接触しないように運転させることだ。このため、国交省はサイバー上で日本の3次元地図を作り、スカイカーが飛行可能なゾーンを決めた。


 さらに、このゾーンの中で空路を制定してスカイカーはそこを通るように規制することになった。空路は様々な高度で縦横に決められているので、運転者は容易にどれかを選んで概ね最短距離で飛べる。無論これらは目に見えないが、スカイカーに搭載しているAIは把握しており、運転者にもスクリーン上で見える。


 また、AIは交差するスカイカー相互と信号を交わしており、決して衝突することはない。このシステムを構築するのに時間を要した訳だ。なお、スカイカーの運転には免許証が必要であり、概ね30時間の講習と実地訓練を要求される。


 スカイカーの発着場のために、都市内では建物の屋上や高架式の他、空き地や小規模な農地が使われたが、販売解禁時には都心ですらある程度の発着場が整備されていた。スカイカーそのものは、普通のもので400~500万円であり、それほど高価なものではない。


 しかし、主として面積的に自宅に発着場を作れず購入を断念する人が多かった。とは言え、スカイカーの速度制限は、高度によるが最高時速300㎞である。つまり、100㎞圏内であれば30分以内で着くのだ。だから、多少経済的に余裕がある人は、発着場を作れる田舎に家を買って住みつく者も増えている。


 このため、田舎で従来全く値がつかなかった家や土地が売れるようになり、過疎地でスカイカーのオーナーによって人が増えているという現象が起きている。


 ―*-*-*-*-*-*-*-*-


 須崎英二は都心に勤める36歳のサラリーマンである。マンション住まいの彼等であるが、32才の妻好美の実家が都心から70㎞の山梨県小菅村にある。彼等には2人の子供がいて、長女の美奈は7歳、長男の祐樹は5歳であるが、2人とも学校と幼稚園になじんでいるとは言えない。


 英二は妻の控えめでありながら、賢い所に惚れており、ちょくちょく訪れる妻の実家の、村役場勤めの義理の父と主婦兼農業の母も気に入っている。


 英二自身も長崎の田舎で育ち、東京の国立工業大学を出て、目黒区にある今の会社に勤めている。専門はメカトロニクスの設計であり、トミダ自動社のスカイカーの設計を手掛けた。彼は、定時に帰るというスタイルだが、数々の画期的な成果から同期でも最も優秀な技術者であることは認められている。


 だから年収は2千万円を超えていて、ゆとりのある生活であるが、どうにも今の都会の真ん中の生活になじめない。そこで、スカイカーというものを詳しく知って、それが小菅村であれば、行き来に30分も要しないことを思った。


 さらに勤務する会社には工場も併設されており、その上にスカイカーの発着場を作ることが決まった。顧客の工場に行くのに便利だということで決まったらしい。この頃、大手会社の工場や事務所には発着場を作ろうという動きが始まっている。


 そこで、英二は妻に相談したところ彼女は大賛成であった。田舎育ちの彼女も就職で東京にきたものの馴染んではいない。さらに、子供2人もお祖父ちゃんとお祖母ちゃんのところがいいと言っているらしい。


 そこで、祖父母の家の近所に、家を改装したものの住む予定の者が帰れなくなって空いている家があったのを思い出した。その家を見て、『ここに住むのもいいな』と思ったのだ。そういう経緯で、須崎は一家で小菅村に引っ越し、スカイカーで通うことになった。


 通勤時間は25分、以前も40分程度だったが今度は満員電車がなく、空中1,000mの途中の景色は素晴らしい。妻の好美は、両親に家の近所に住むようになって母の農業を手伝っており、馴染の人々との交流を楽しんでいるようだ。なにより、彼女は自然に囲まれた生活に心が安らぐという。


 子供は、同級生が僅か10人以下の学校に馴染むのに少し苦労したようだが、1ヶ月もすれば友達家に遊びに来るようになって、共にゲームに興じ、その後は野山を駆け回っている。


 ちなみに、5人乗りのスカイカーは400万円から1,000万円で売っているが、内装、航続距離、飛行高度制限等によって値段が変わる。英二が買ったのは、内装は標準で、航続距離は1,000㎞、飛行高度制限は1,500mのトミダAA-12というタイプで、購入費は460万円であった。


 このタイプは300㎾hの電子バッテリーが2基装着されていて、最大速度の300㎞/hで飛ぶと1,000㎞で1基のバッテリーが尽きるということだ。巡航速度の150㎞/hであれば1,500㎞を上回る。コストしてはバッテリーの交換費が月に2回で約2万円であり、ほぼ通勤費限度2万円で賄える。


 ただ、英二の場合には会社の発着場兼駐機場が使えるが、東京では使用料は通常1ヶ月3万円程度はかかる。なので、100㎞程度の通勤に使えば、月に6万円程度かかるということになる。


 スカイカーは日本では、現在まだ100万台弱しか製造されておらず、1年半の予約待ちである。英二はコネを使って早めに予約して買えたが、予約時の発着場は義父母の家の庭で登録するという裏技を使った。このように簡単に買えないから、小菅村では英二の他にはまだ1台しか持っている者がいない。


 こうなると、必然的にそのスカイカーで東京に行きたいという者が多くでる。英二もやむを得ず、休みの日には、順番に東京見物に送っていくようになった。最初は無論、義父母、義兄一家だが、順次親戚、子供の友達、近所の人になっていった。


 この状況を見て、小菅村では村の予算で8人乗り大型のスカイカーを買った。オフィシャルには、県庁などへの出張などの目的であるが、実際は村民の『視察』に使って喜ばれている。国はスカイカーの利便性をみて、その購入に当たって地方自治体に60%の補助を行っているのだ。


 英二は小菅村に住むようになって、会社の同僚や友人を連れて帰って泊めるようになった。その結果、彼らはすっかりこの地、または周辺の土地柄が気に入った。そのため、何人もが自分もスカイカーを買い、気に入った場所の民家を買って小菅村から東京へ通勤するようになった。


 田舎暮らしに憧れる者は多いが、実際に住むとその不便さが嫌になってすぐ飽きる者もまた多い。その点でスカイカーを持っていれば、気楽に都会や買い出しに行ける訳であり、不便さはあまりない。年をとって運転ができなくなればまた違うかもしれないが。


 ―*-*-*-*-*-*-*-*-


 ところで、2033年においてグラビィプレーン(重力エンジン旅客機)、ハイパーライナー(超高速旅客機)及びスカイキャリー(貨物航空機)はすでに部分的ながら就航している。


 グラビィプレーンは、既存の旅客機、あるいは貨物機のエンジン部を重力エンジンと電子抽出型発電機に交換して就航しつつある。これは、既存の4万機と言われる半数のエンジン部がすでに交換済である。交換用の機材は四菱重工が幹事会社になって交換パーツ化して販売している。


 莫大な燃料を使う航空機の場合、自動車におけるトラック類と同様に、交換の遅れは明確に利益の大きな減少に繋がる。このために、オーナーがあらゆる政治力を使って交換パーツの入手を急がせた。そのせいで四菱重工以下の会社が大わらわになっている訳だ。


 このため、オリジナルのグラビィプレーンの建造の遅れが出ている。ジュラルミン製の機体は、すでに既存の航空機製造会社が製造を請け負って500機以上できている。しかし、重力エンジン部と専用の発電システムが、既存機の交換用を優先した為に揃わないため、100機余りのオリジナル機体機が完成しているのみである。


 これらは、購入した航空会社が試験的に運用しており、特に速度・飛行の安定性などで、改造した機よりはっきりした優位性が出ている。ただいずれも、AIによりコントロールされた重力エンジンを使っているので、安全性に差はない。つまり、コストには差が殆どないので、改造機はその寿命が尽きるまで、使われるだろうと想定されている。


 一方で、ハイパーライナー(超高速旅客機)は、すでに大ヒットの兆しが見えている。従来の航空機と速度が大差ないグラビィプレーンに比べ、亜宇宙に上昇して超高速で飛ぶこの機は、乗り物という従来の常識を超えている。


 ハイパーライナーで、東京の羽田を15:30に発つと、1.5時間後の現地時間8:00(日本時間17:00)にロンドンシティ空港に到着する。9:00に顧客のオフィスに行って会議などの仕事をして、シティ空港を現地時間17:00(日本時間2:00)に発つと、羽田に日本時間3:30(現地時間18:30)に着くことになる。


 極めてロスなく仕事ができるが、機への搭乗の手間を考えると、この人は概ね日本時間の14:00~5:00(翌朝)までの労働時間になる。途中の移動時間は眠れるだろうから、一日で19時間の労働時間はさほどハードとは言えないが、徹夜するに等しい労働である。だから、数日は徹夜をした如く眠いだろう。


 一方で、従来の航空機で10数時間かけて移動する場合も同様であるが、現地で数日滞在する場合には9時間の時差に適応する必要がある。このために行と帰りのダブルで最低1週間は時差ぼけで辛い思いをすることになる。


 このため、却って楽であると、ハイパーライナーを使った『カミカゼ出張』と称する上記のようなスケジュールの出張が多数派になった。


 近年においては、あらゆる書類はWEBを通じてやり取り可能で、テレビ会議も普通であるので、面談が必要な場面は少なく長い時間の面談は不要だ。だから1日あれば通常用は足せる。だから、『カミカゼ出張』で済む場合も多い。


 ところで、ハイパーライナーによるフライトは、一回のトリップ当たりのクルーと機体の拘束時間が圧倒的に減る。発電機について、コストは実質的に設備費の償却費であるので、機体の一部と考えて良い。また、機体の費用は従来のジェット旅客機と差はない。つまり、この拘束時間の比がコストの比になる。


 結局、飛行時間1~2時間を要するグラビィプレーンによる国内路線のコストと、2時間以下のハイパーライナーによる長距離フライトでは、コストに差がないことになる。しかし、国境を超えることで手続きの煩雑さはでてくるし、クルーの質も異なる。


 このことから、ハイパーライナーによる長距離フライトのチケットは、国内便の倍程度に落ち着いた。結果として、人気は沸騰したのだが、残念ながら就航している現在のハイパーライナーの機体は、320機に過ぎないので、このチケットは所謂プラチナチケットとなっている。


 なお、全く新しいタイプで鋼製のこの機種は現状では四菱重工の独壇場である。ハイパーライナーには、シリーズ化されたGE-SLS150、GE-SL320、GE-SL500がある。需要の膨れ上がりから、最大の定員500人のGE-SL500が現在220機就航しており、残りの大部分が320人乗りのGE-SL320である。


 スカイキャリー(貨物航空機)については、重力エンジンの活用による船舶の代替として構想された。これも現状では四菱重工の独壇場であり、各荷物室容量1万、2万、3万㎥であるGE-C10、GE-C20、GE-30の3機種を建造している。


 現状ではまだ就航しているのは420機であり、各シリーズの機をほぼ等分に建造してきた。1回当たりの就航の短さ、荷積み荷下ろしが大幅に省力化されていることから、実際の就航によってはっきりコストの優位性が現れている。この結果、世界の運送業者から注文が殺到しているところである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  過疎地もスカイカーにより人が集まるようになっていくわけですね。逆に都市部の過密が緩和されるということであり、日本全体の人口分布が平準化の方向へといくのでしょうか。  さすがに都会でも農業…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ