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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第3章 変貌する世界
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3-6 2032年5月12日、東海地震来る!

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 2030年9月1日に気象庁が発表したJMAF(Japan Meteorological Agency Forecast)と称される地震予報は、日本においては2032年5月12日の東海地震、その前にも5つのM4~M6級の地震を網羅している。ただ、これらは震度5強が最強であり、大きな被害は出ない見込みのものばかりであった。


 しかし、東海地震の後にはM8越えの海洋型の東南海地震、南海地震がその後5年以内に起き、沿岸を含めた内陸型のM6越えの震度6を越えるものがやはり5年以内に2件起きる。気象庁が持っている予測は30年後まであり、毎年5年後の予測を更新することになっている。


 気象庁が最初5年後までの地震予報(JMAF)を発表するにあたっては、大きな葛藤があった。気象予報の学者であり、技術者である彼等からすれば、根拠のないそのような予報は受け入れがたいということだ。まして、気象庁の責任において発表する等ということはとんでもない話だ。


 気象庁は国土交通省の管轄であり、長官の佐川良治は大臣の佐治健太郎と共に首相官邸に呼ばれていた。2030年8月10日のことであった。彼らを迎えたのは、首相と共に山根官房長官と春日防衛大臣であった。岸辺と山根は、8月31日の『憲法改正選挙』と銘打った衆議院選挙を控え、その準備の余念がないはずだ。


 だから当然選挙絡みのことであると思ったが、選挙に気象庁とは?と不思議に思いつつ来たのだ。通された応接室にはすでに首相と春日防衛大臣が腰かけていたが、山根官房長官が立ってソファを指して言う。

「本日は急に呼び立てて、申し訳なかったですね。重要な話でもあり、早い方が良いということでご足労頂きました。まあそちらに座ってください」


 2人が座ったところで山根も座り、机に置いていた薄い2冊の冊子の向きを変えて2人の前に置く。

「まず、それを読んでください」

 2人は、A4判のホッチキス止めした5ページほどの冊子の表紙を見て驚く。

「世界の地震予報、2030年9月~2035年8月?!」


 当事者である気象庁長官の佐川は、少々震える手でページを開く。そこには表があり、サッと目を通すと真っ先に日本の地震がリストにあるが規模は小さい。目を通しながら3ページ目に差し掛かって目を見張って叫ぶ。


「2032年5月12日、東海地震、マグネチュード8.1!震源静岡沖230km!な、なんですか!これは?」

 目を見開いて、山根に向けて叫ぶ。

「うーん、これも『R情報』だ。佐川さんも知っているだろう。R情報?」

「ええ、聞いたことはあります。未来からの情報という噂の?」


「そのお陰で我が国として、いや世界全体が大変助かっていることは事実だ。未来からの情報かどうかは何とも言えないがね。しかし、現状で判っている限り嘘はなかった」

「なんで、今の段階で出てきたのですか?」


「いや……忘れていたというのだよ。我々も今の時期は困るのだがね。解かるだろう?選挙でね。だけど、少しでも早い方が良いから来てもらった」

「忘れていた?」


「ああ、2日前に千葉の震源で地震があっただろう?最大震度4の。揺れて早く発表しなくては、

 と思いだしたというのだよ。それで、これを春日防衛大臣が預かったということだ」

 山根が隣の岸辺首相の顔を見て、それに岸辺が頷いて身を乗り出して言う。


「ゴホン、それで、この件は気象庁から発表してもらうしかないと思う。だが、ちょっと微妙な話だから、私からも佐治大臣を含めてお願いしたいと思ってね。呼びつけたようで申し訳ないが来てもらった。

 選挙でちょっと私も山根さんも動けないからね」


 それから、2人の顔を正面から見て話し始める。

「佐治さんも佐川さんも、この情報が極めて重要であることは解ってくれると思う。ただ、どうやって入手したか、説明は難しいことも同様に判ってくれるだろう?」


 2人が頷くのを見て岸辺は話を続ける。

「最初、誰かが地震予測の手法を開発したとのことで発表しようかと思った。だが、その学者なりの名誉を損なうことになる、ということで断念した。それで、単純に政府から預かったということで気象庁で発表して欲しい。これが正しいかどうかは、事実が証明するからね。

 つまり、実際に起きた地震で、その正しさや精度を確認してほしいということだ」


 佐川はそれを聞いて確認するように言う。

「岸辺首相は、それだけこの情報に確信があるのですね?」


「正直、判らん。だが、僕もR情報によって変わりつつある日本を見ている。実際のところ、私の内閣がこれだけの支持を頂いているのはそのお陰であると思っている。それからすると、信じて良いと思っているから、君たちに来てもらった」


 答えた首相に山根が言葉を足す。

「それにだよ、佐川さん。仮にこれが嘘だったって、どれほどの害があるかね?当面近い時点の予報は大きな地震ではない。それで、嘘であることが判ればその後信用しないだけだ。政府と申し訳ないが気象庁が短期間笑われるだけだ。

 さらに、例えばその1/3が正しいとしても、これがどれほどの益を日本のみならず世界に及ぼすか……。本当に正しいとしたら、僕らは正しいと思っているが、正しいならどれ程ほどの益があるか」


 そう言った後に、山根は持っていたCDを机に置く。

「これは、それぞれの地震によって起きる具体的な被害だ。い、いや被害の想定だ。そこにある冊子は起きる地震のリストにすぎん。佐治大臣、これの値打ちが解るよね?」


「ええ!被害の……。無論わかります。それがあればどう手当すれば被害を防げるか判る訳ですから」

 佐治はCDを手に握って応じて言葉を続ける。


「これは大変なものです。これで、国内の地震による人的被害は少なくとも防げますし、インフラ被害も多分殆ど防げるのではないですか。それに、これは世界を網羅していますから、世界に及ぼす影響は極めて大きいですね。

 海外でも、インフラ被害は軽減程度でしょうが、人的被害は100%防げるでしょう。それに、避難を予めできるということは経済事情の悪い国にも福音ですよ」


 その話し合いから、防災の日の9月1日に、気象庁がその地震予報(JMOF)を発表したのだ。国交省は入手した詳細データを分析して、地震毎の日時、起きうる事象、対策の大枠を策定して、対象自治体と情報を共有した。県、市町村で手に余る対策は国交省が実施した。


 その結果、転んだとか溝に落ちたとかで負傷者は出たが、直接の死者はゼロで人的被害は完璧に抑えた。さらに家屋の全半壊は多数あったが、無論住民は避難していたし、運び出せる家具なども被害を免れた。加えて家屋については揺れの方向が判っているので、その方向の支持材で支えるなどで、倒壊を防げたケースもあり、重要なノウハウとして標準化された。


 また、被害が集中する(はずの)地区では補強をする家もあるが、脆弱としてあらかじめ引っ越しを選ぶ住民も多い。日本には膨大な数の空き家があるので、県や国は補助を付けて引っ越しを助成している。結局地震による避難所生活という者は殆どなくなった。


 とは言え、電力に水道と下水道は生活に必須のインフラである。これらが地震により部分的に破断する事は避けらないが、その対応策は確立されている。そして、全体を満遍なく対策することは資金の面で出来ないが、対象地区が判っており、その揺れの度合いも判っていれば対応はできる。

 結果的には、そのような方策で殆ど深刻な被害は生じなかった。


 JMAFにおいては、震度5弱以上の地震について予報をしており、それ以下のデータはない。日本においては震度5弱以下では殆ど被害はないが、構造物の耐震を考えていない海外では震度4でも、結構な被害が生じる。それを差別だと叫ぶ者もいるが、ない袖は振れないというものだ。


 上記の強度の地震の回数は、日本は世界の2割を占めている。実際、リストに載っている海外の地震の回数は日本のだいたい4.2倍であった。その中で最大のものは、2031年4月に起きた、倒壊家屋が2万戸に及ぶ中国山海省の地震であった。


 これに対しては、中国政府は、住民をあらかじめ空けさせた家に避難させて、軍が重機と共に待機していた。だから、人的被害はなく、インフラの復旧も最短であり、避難していた住民も壊れなかった2/3ほどの家に帰れた。結果として殆ど大きな被害は起きなかった訳だ。これには、流石に中国政府も気象庁に感謝している。


 そして、直近では日本の最大の地震である、2032年5月12日に起きる『令和14年東海地震』に対する準備は着々と進んでいる。もはや、予報が出されて1年後においては、その時点で『予報』とその精度を疑うものはなかった。


 国交省と殆どの被害を受ける静岡県は、その時点では半信半疑ながら、予報の詳細を徹底的に分析して、2031年の春には詳細な対策を組み上げていた。幸いにして、国土強靭化構想によって建設された防潮堤は、予想される最大津波高さ5mに対応できる。なので、津波に対しては、河川や港にできるその隙間の対処のみで済む。


 さらに、静岡県における東海地震による被害は早くから予想されていたために、この県における耐震対策は徹底したものであった。公共建築物、電力、上下水道、道路、港などインフラの補強は殆ど済んでおり、予報のデータと照合しても、追加で必要な措置は少なかった。


 後は個人所有の建物であるが、震度5弱以下の地域をC地区、震度5強の地区をB地区、震度6弱の地区をA地区、震度6強の地区をAA地区と分類した。幸い、今回では震度7の地区はない予報である。記録の残る限り海洋型地震で震度7は観測されていないので、今回もそうなったということだ。


 C地区においては、老朽化して脆弱な家屋の持ち主に対しては引っ越しを提言している。しかし、こうした家屋の住民は高齢者が多く、経済力もない場合が多いので国の補助の元、自治体が空き家への引っ越しを斡旋している。


 B地区においてもC地区と同様であるが、対象の家屋の範囲が広がっている。


 A地区においては、対象家屋について、まず航空写真による簡易耐震診断を行う。そこで引っかかったものについては、大丈夫と診断されたもの以外は、目視点検による診断に基づいて、引っ越しの斡旋、短期の転居の斡旋を行っている。


 AA地区においては、新しい建物また丈夫そうな建物については、目視点検に加え、設計図書のチェックにより、診断して小被害で済むかどうかの判定をしている。その他のものについては、引っ越しの斡旋、短期の転居の斡旋を行っている。


 いずれにしても当日の当該時間は、AA~C地区の住民について、県知事から建物からの避難命令が出ることになっている。さらに、静岡県には本州の交通の大動脈である国道、東名・新東名などの高速道路、東海道線・新幹線などの鉄道が通っている。


 これらについては、国交大臣の命令で、静岡県の大部分で、当日の当該時間と点検で安全が確保されていることが確認するまでの時間は、通行禁止であることが決められている。むろん、空港、港も同じ扱いである。


 かつて、地震予知会というものがあって、いくつかの地震の前兆現象が起きたら、その会長が先述の交通網を止める提言をして、政府が命じるという仕組みがあった。命令から1日程度はまだよい、しかし1週間過ぎてもなにも起こらなかったら、誰がその影響の責任を取るかということである。


 幸い、そういう事態は起こることなく、『責任を取れない』ということで、地震予知会は解散したが、これは正解であったというべきであろう。今回の場合は、はっきり日時を指定しているので、誤っているとして損失が生じるとしても、長い時間ではない点で問題になりにくい。


 この日本の東海地震への備えについては、多くの地震国からの視察者が訪れた。そして、長い時間をかけてやってきたインフラの補強を讃嘆し、震度によって地区を分けての対応策を称賛した。後者は東海メソッドとして、予報がある場合の標準的な手法として世界に定着した。


 ちなみに、途上国において、家は必ずしも大きな財産ではなく、むしろ家にあるテレビ、冷蔵庫などの家電や自動車などに値打ちがあると見做している。だから、地震の予報によって、それらを保全出来る方に有難さを感じる者が多いようだ。


 そして、5月12日がやってきた。予報の時間は、午前11時21分である。日本のみならず全世界が、その瞬間を見ようとテレビまたはスマホの画面を観ている。日本のテレビ局も当然、様々な場所にカメラを据えて、それぞれに取られてきた対策を中心に解説している。


 静岡県は、震度6以上の地域を立ち入り禁止に指定しているので、当然マスコミも入れない。NHKは、震度5弱のB地区に入る静岡市役所の屋上にカメラを据えている。市役所の17階の上の屋上からは市街地や海もはっきり見え、絶好のロケーションである。


 B,C地区も建物からの避難が命じられているが、市役所等の職員及び許可を得たマスコミの者は良いことになっている。ただそれは安全が確認された建物である。無論、静岡市役所は安全を確認されている。


 女性アナウンサーの三輪美並は、ヘルメットを被りパンツルックの姿で、カメラに向かって床に立てた大きな時計を指さしながら、マイクに語りかける。


「只今、11時20分です。予報では地震発生が11時21分、震源はここから230km沖です。

 先ほど言いましたように、地震のP波が先に来ますので、初期微動として弱く揺れて、その後1分ほど遅れて本震であるS波が来ます。

 ああ、揺れました。揺れました。只今、11時21分の50秒ですか、あと1分、あと1分です。では失礼して腰かけさせて頂きます」


 そう言った彼女は、床に敷いたマットに座る。

「屋上には20人ほどの市役所の方がおられますが、皆さん腰かけられています。さて、間もなく1分ですが……、ああ、来ました、揺れています。ああ、カメラさん!大丈夫?!」


 視聴者はカメラが大揺れに揺れるのをはっきり見ている。しかし、カメラの鹿山大輔は足を踏ん張って耐え、アナウンサーの美並にピースサインを示す。揺れは1分ほどで収まったが三輪にとっては1時間ほどにも感じた。だが、収まったのを感じるとサッと立ち上がりながらマイクに向かって言う。


「ああ、揺れは収まりましたね、ではまず街並みを見てみましょう」

 そして小走りに屋上の手摺を目指し、カメラの鹿山もついてくる。

「ご覧ください。あそこに土埃が立ちのぼっていますが、全体には余り被害はないようですね」

 その言葉とともに、カメラが海側の街を見渡す。


 カメラは今度は穏やかな海を捉える。

「それと、今回の予報では津波もあり、この静岡市では波高3.5mの予報になっています。現在は干潮に近いということで、高さ5mの防潮堤で十分防げるということになっています。津波の到達に30分程度と計算されていますので、11時50分程度に到達するはずです」


 その後、画面は一旦市役所を離れ、11時50分前に再度帰ってくる。

「皆さん、あれをご欄ください。1㎞ほど沖に白波が立っていますよね。あれが津波です。あれは、水に立っている波ではなく、あの白波からずっと高さ3.5mの高さの水が続いているのです。だから、津波のエネルギーは大きいのです」

 ………

「来ました、津波が防潮堤にぶつかります。ぶつかった!波しぶきが上がった!越えてくる水があります。でも量は少ない。超える水は収まった。耐えました、防潮堤は耐えました!」


 かくして、海洋型の大地震である東海地震は、転んでけがをした人が10人以上出たが、それ以外の人的損害はゼロであった。だが物的損害はあり、被害額50億円を超えると見られている。しかし地震後につきもののインフラによる混乱はほとんどなく、避難所生活も必要なかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  今作は地震の予知技術ではなく未来情報による地震予報ということになりましたが、今後30年間の地震データが有るのなら地震発生の予兆をより正確に観測することが出来るかもしれませんね。いつ起こる…
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