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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第3章 変貌する世界
33/54

3-5 2031年、尖閣事変

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 中国中南海(指導部)の主席の朱沢亜は、主席を14年続けた前任の蘇の後を2027年に引き継いだ。蘇の失脚は、不動産バブルが崩壊する中、尊大かつ強硬な路線のために、世界から包囲網を敷かれることによる経済不振の責任を取らされる形であった。現在蘇の行方は判らない。


 しかし、中国経済の奇跡の躍進を生んだ大きな理由は、実質的に不動産のお陰であった。これは値打ちが無かった『無』から、値を付けた『有』を生むという、経済を膨らませるマジックであった。しかし、これを使えない現在、朱に取れる手段が限られていた。


 とは言え、朱は取りあえず言葉の上では西側諸国などとの融和路線に舵をきった。その一環で、世界の敵になったロシアの唯一の味方という点は改めた。さらに過剰生産による飢餓輸出も先進国からの相殺関税の引き上げで出来なくなっている。

 しかし、世界中からの情報収集(スパイ行為ともいう)は更に力をいれて続けているし、軍備を縮小する気はない。


 一方で、実体経済は悪くなり続けているが、数字のみは横ばいのように見せている。しかし、輸出入統計、輸送量などは隠しようがないため、中国のGDP統計が偽りというのは定説になっている。なお、電力消費量は隠し、雇用統計は偽っている点は前政権の通りである。


 それらの結果、国内の大きな火だねになっているのが、真の失業率の増加と、有職者の実質賃金の低下である。つまり、国の財政の安定には不動産バブル崩壊による巨額の国内の負債と、効果のない投資の結果の欠損を現在の生産・通商の利益で補う必要があるのだ。


 だから、稼ぎに繋がらないものは切るしかないが、それが失業率の増加であり、賃金の低下に現れているのだ。そして、中国社会はアメリカも敵わないほどの格差社会である。さらに、すでに指導者たる共産党の贈収賄の巨額さと、権力に任せたやりたい放題の不法行為はすでに知れ渡っている。


 古来中国では全ての王朝が動乱によって潰れた。今回もそれに似ているが、違う面がある。それは、過去の時代の動乱は、食えなくなってやむに止まれず反乱を起こしたのだが、今回は基本的には飢えがない。それに、すぐにネットで晒される時代では、権力者と言えども一般人に対して表立って無茶は出来ない。


 その意味では、共産党政権は過去の王朝より、善政を施いていると言えよう。そして、今の時代の過去との大きな違いは、人々が『情報』をもっているということだ。

 つまり、人々は夢のような豪奢な生活をスクリーンで見て、それが一部の人々の実際の生活であると『知って』いる。そして、仲間の中からそういうレベルに昇った者がいることを『聞く』。そうして、人々の欲望はどんどん膨れ上がっていく。


 それでも、まだ自分の生活が年々良くなっていくなら良いが、悪くなっていくと『はじける』のだ。それでも、職のある人は押さえが効くが、ない人は失うものが無くなるため過激化する。さらに職のある人でも、不満は溜まっていくので、憂さ晴らしをしたくなる。


 例えば、人々を監視している公安職員は、監視対象が、明らかに暴動をやっておりその準備をしていても見逃し、あるいは却って焚きつけるなどの行為を行う。このことで、共産党が暴動を防止するための歯止めと考えて、大きな予算を投じて整備したシステムが機能しない。


 しかし、飢えている訳ではないので、あまり凶暴になることはなく、どこか冷静であり、効率的に権力を困らせようとする。このような、人々の権力への反抗心が起こすサボタージュや、暴動の頻発は不安定化を進めて確実に国の力を削いでいく、


 そして、指導部はじり貧のこの状況を変えたいと思っている。手段としては、アメリカにこそ劣るが、衆目の一致するところで世界第2位の軍である。主席の朱沢亜は、副主席の李と楊に首相の劉などの党首脳部を集め、3軍のトップである陸軍の白司令官、空軍の柳司令官、海軍の宗司令官を呼んだ。


 まず、朱主席の代弁者である李副主席が口火を切った。

「今日は忙しいところをご苦労であった。君らも判っているだろうが、わが共産党は過去数十年に渡り多額の予算を費やして、人民解放軍の軍備を整備してきた。そして、核以外にまともな軍備を持たないロシアは張り子の虎であることをすでに証明した。

 今や、わが人民解放軍が、名実ともに少なくとも世界2位であることは自他ともに認める所だ。無論アジアにおいては、1位であることは間違いない。そうだな?」


 李の問いかけに、60歳近い白陸軍司令官と宗海軍司令官は熱心に頷いたが、まだ40代に見え切れ者と評判の柳空軍司令官は首をかしげる。

「なんだ、柳空軍司令官は異議があるのか?」


 李が厳しい声で問うが、柳は淡々と答える。

「はい、日本が重力エンジン駆動の戦闘機を実用化しています。確実な情報ではりませんが、シベリア共和国でのロシアの攻撃機が全滅した件は、その戦闘機が使われたという情報があります。そうなると、日本は相当に厳しい相手であるかもしれません。ですから、確実にアジア1とは言い切れません」


「君はあれだけの予算を費やしたわが空軍が、たかだか2年たらずで整備した小日本の空軍の装備のゆえに、全体として力で劣るというのか?!」

 李の目を三角にしての叱責にて、柳は苦笑いして返す。

「そう言われると、反論しにくいですが、確実ではないと申しました。また、宗司令官殿、日本が潜水艦に重力エンジンを積んだ艦を完成したということは聞いておられるでしょう?」


「うむ。無論、聞いている。あのような目立つものは隠しようがないだろう。ただ、動きが鈍く、使い物になりそうもなかったと聞いた。予算も1億ドル足らずと聞いておるから、大した性能ではないはずだ。海軍については、日本は確かに舐めていい存在ではないが、憲法からくる専守防衛の武装が彼らの弱みだ。ことに、空軍は数と最新機の性能で圧倒できるはずだぞ」


 宋の言葉に、内心で『余計なことを言いやがって』と罵しりながらも、柳は尚も続ける。

「たしかに、数は圧倒できるでしょう。それで、李閣下、どこを目標にするのですか?それと、いつでしょうか?それによって勝ち目が違ってきます。米軍が出張ってくるようだと無理ですから」


「うむ、魚釣島だ。電撃的に艦体で囲んで上陸し、基地を設営して海警の基地を作ることで我が領土であることを宣言する、そして、それを攻撃してくる日本海軍と空軍に打撃を与え、素早く引き上げる。そこに、米軍の絡む余地はない。また、軍でない海警の基地を攻撃は出来んはずだ」


 したり顔で言う李にイラつきながら、柳は『確かに米軍が出張るには時間が無さ過ぎる』とは思った。それに、どのみち、朱主席が軍の総司令官である以上、拒否という選択肢はないのを自覚しながら、尚も問う。

「半年前から出動準備の指令がでていたのは、このためだったのですか?」


「ああ、過去に大罪を犯しながら、知らぬ顔をして生意気な小日本を懲らしめるのは我が国の役目だ。そのために準備をしていたのだ。また、間もなく日米安保条約が失効する。その油断を突くのだ」

 李の教条的な回答にうんざりしながら、柳は腹を括って言う。

「なるほど、であれば早ければ早い方が良いですな。かれらの目が今はロシアに向いています」


「無論だ。朱主席閣下?」

 李は朱を振り返って、大げさに出番を作る。


「うむ、軍の総主席として海軍の宗上将、陸軍の白上将、空軍柳中将に命じる。魚釣島を占領して、海警の監視所を設置せよ。その出動は1週間以内だ。その際に必ず出てくる日本軍の軍用艦船、軍用機、また兵員を全て撃破せよ。さらに、監視所の設置が終了したら直ちに撤退せよ。わかったな?」

 朱主席の命令に、3軍の司令官は「「「は!」」」と敬礼と共に応じる。


 中国海軍は、2030年の12月25日から訓練航海をしていた。旗艦は最新の空母『広東』であり、さらに同型艦の空母『吉林』が続き、最新の055型駆逐艦の20隻が加わっている。大艦隊であるが、同じ型の空母、駆逐艦を揃えて艦体運動をスムーズにしようということだろう。


 それが、突然航路を変えて尖閣列島に向かったのは、1月1日の未明のことであった。全部で22隻の艦隊は、魚釣島、北小島、南小島から成る尖閣列島の周りを直径20㎞の円軌道で回り始め、駆逐艦1隻が最大の魚釣島に向かった


 その艦は駆逐艦に見せているが揚陸艦であり、ホバークラフトで兵員200人や各種機材を載せて上陸が迅速に行える。この揚陸艦から発進したホバークラフトが魚釣島に上陸したタイミングで、空母『広東』から奪還艦隊と呼んでいる艦隊の司令官である黄が、命令されていた宣言を、世界に向けて中国語で喋り次に英語に翻訳して放送した。


「私は、人民解放軍の領土奪還艦隊の司令官の黄中将である。私は今、日本が尖閣列島と呼んで領有権を不当に主張している魚釣島の沖10㎞を周回している。そして、たった今わが軍が魚釣島に上陸し、我が国の旗を立てた。これをもって、私はこの魚釣り島及び他2島を、日本から我が中華人民共和国が奪還したことを宣言する」


 しかし、その1分後、突然艦隊に向けて同じ周波数で日本語、中国語、英語での鮮明な放送が入ってきた。

「こちら、日本国自衛隊の尖閣派遣部隊の司令官、瀬川空将補である。我々は中国艦隊が占領したと称する尖閣諸島の上空に占位している。他国の領土に泥棒のごとく忍び込んでも、勝手に領有を宣言しても占領したことにはならない。人民解放軍の領土奪還艦隊と称する艦隊は直ちに退け、退かない場合には実力を持って排除する。

 なお、魚釣島に上陸している部隊にも告げる。直ちに撤退せよ」


「おい、どうなっている!上空と言っているが、なにもレーダーには入っていないぞ」

 黄中将の言葉に、計測班の王中尉が計器を調整しながら応じる。

「敵の放送の電波の方向は直上です。我がレーダーの測定範囲は上空500㎞です。ですからそれ以上であれば、把握できません!」


「馬鹿な、彼らはそれ以上の高空にいるというのか?!」

 艦長の馬大佐が叫ぶ。

「ええ、それはあり得ます。彼らは重力エンジン機であると思います。これは、空気に依存しませんから、機体が気密であれば、いかなる高空でも昇れます」

 航空参謀の來が艦長に応じる。


「ということは、上空に日本の編隊がいるということか?」

 艦隊参謀長の陳が自問するように言い、話を続ける。


「つまり、彼らは少なくとも500㎞以上の上空におり、我々の攻撃の範囲外のある訳だ。日本軍が出て来たら、我々の空母機を発進させ、かつ陸上から300機の味方戦闘機・攻撃機を呼ぶ予定であった。しかし、わが艦隊と同様に日本軍は味方戦闘機・攻撃機にとっても攻撃範囲外であることは間違いない。


 彼等がこの状態を続けるなら、『敵がでてくる』という条件は満たせても、肝心の攻撃ができない。だから、敵を撃滅する、あるいは出来るだけの被害を与えるという命題は達成できない。

 一方で、敵は重力が味方しているので、攻撃法は様々に考えられる。普通に考えれば、爆撃でも500㎞又は1000㎞の高空からの爆弾が当たればこの『広東』でも轟沈だな」


 それに対して司令官の黄が目を怒らせて怒鳴る。

「なんという、敗北主義だ!参謀長ともあろう者がそのようなことで……、何だ?」


 その瞬間、ショックウェーブが駆け抜け、数秒遅れてドォーンという暴風を伴う大音響が響く。『広東』の艦橋にいた皆は、艦の揺れとともに艦側方面に巨大な水の球が出現したのを見た。


「あれが彼らの攻撃ですよ。幸い直撃を外してくれたようですが、多分岩を落としたのだと思います。大気との摩擦で赤熱した岩によって、多分水蒸気爆発が起きたのでしょう。皆揺れに備えよ!」

 陳参謀長が冷静を装って言うが、声が震えている。そして、彼は押し寄せてくる大きな波を見て叫ぶ。


 大きく揺れて倒れた者もでた艦橋の皆が、ようやくまともになった時を狙ったように、再び日本側から、日本語の後中国語の放送があった。


「どうですか、人民解放軍の領土奪還艦隊の諸君。君たちには反撃の手段がなく、一方的に攻撃されるのみという立場は?この場面のために、君らの自慢の攻撃機の大編隊が準備していることは承知しているが、ここに来ても意味がないことは理解しているだろう?


 さて、1時間以内に君らの艦隊が帰還のコースに入らなければ、今度は個々の艦を狙ってさっきと同じ岩を落とす。ただの岩に撃沈されるという世界初の経験をしたければ、残って貰っても良いが。それに、上陸した者達も同じく1時間以内に引き上げにかかれ。

 魚釣島は無人島だよ。我々が好きなように攻撃できることは解っているだろう。


 今日は、日本では最大の祝日であるめでたい元旦なのだよ。君らの正月が違うといって、こんな日にこういうことを起こす君らは迷惑千万な存在だ。はやく引き上げてほしいと思っている。いいか、1時間で帰還の行動を起こさないと、艦隊と上陸部隊を狙って攻撃する」


 その知らせは、すぐに中南海に入った。

「なんだと!引き上げるというのか?!あ、あれだけのことを世界に向けて言っておいて」

 李副主席が黄司令官に怒鳴るが、横目で日本軍が隊の近海に落とした岩による大爆発の映像を見ていた。それは、部屋にいる全員が呆然と同様に見ている。


「ま、まだ攻撃機が出動していないではないか。だから、まだ手を尽くしておらん!」

 それに対しては、その部屋にいた、空軍の柳中将が応じる。

「相手が攻撃圏内にいないのに、出動してどうするのですか?」


 暫くの沈黙の後、渋面の朱主席が絞り出すように言う。

「うむ。上陸隊と共に、艦隊を引き上げさせよ。………。この結果は、日本の重要な機密を探れなかった情報部の責任でもある。のう楊副主席?」


 朱とはそりの合わない楊は、議論は無駄と思って黙って頭を下げた。だが、最近日本において機密情報を得ることが極めて難しくなっていることは、すでに朱以下に報告してある。そして、軍事的な行動を取る時はそのことを十分に頭に入れて置くべきとも言っている。

 ただ、楊は長老閥の代弁者という立場があるので、朱は彼を処分はできない。


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[気になる点] 》「あれが彼らの攻撃ですよ。幸い直撃を外してくれたようですが、多分岩を落としたのだと思います。大気との摩擦で赤熱した岩によって、多分水蒸気爆発が起きたのでしょう。皆揺れに備えよ!」  …
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