表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第3章 変貌する世界
32/54

3-4 2030年暮れ、世界の情勢

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 世界にとって2030年は、無論ロシアの核が無効化されたことが最大の出来事であった。しかも、ロシアは初めて都市に向けて核ミサイルを撃ち、結局それが核の無効化の証になった。


 その後の調査において、ロシアの首脳部は核無効化の技術を信じておらず、かつ自分の極超音速ミサイルが目標に命中することを信じていたことが判った。つまり、彼らはそのミサイルで数百万の人が死ぬことが解ってミサイルを発射した。その理由が『ロシアの威信』を守るためということだ。


 そのことで、ミサイル発射の決断をして命令したボルドフ大統領は、戦争犯罪人として捕らえられ国際裁判所で裁判中である。告発の内容と審議の状況から彼は死刑になると見られている。ボルドフの引き渡しは、次期政権を担ったアジゾフからむしろ積極的に合意された。


 このことで、人類は下らない理由により、少数の人間の決断で数百万の人が殺されるという瀬戸際であったことを知った。それが運よく核無効化という技術の実用化によって防がれたこともである。人々は、このことでロシア領に多数のミサイルが発射され、核無効化という結果になったことを歓迎した。北朝鮮も同じ目にあったことも、無法国家が力を失ったとして同じく歓迎された。


 後に、ロシア側が核ミサイル発射に踏み切ったのは、米軍とNOTO軍が核無効化のためにミサイル発射の準備をしていたことが原因と判った。しかし、結局はそれを信じずに、対抗のためにミサイルを発射したことがこの結果に繋がったわけだから、ロシアの免罪にはならない。


 米軍とNATO軍は、ロシア領内にある核兵器を無効化するために、爆発するものではなかったが、ミサイルを発射する準備を整えていた。これは、考えようによっては、敵本土を攻撃する行為であり、ミサイルの破片や残燃料のため被害を与える行為である。


 このような論で、ロシアと中国は米軍とNATO軍を非難した。しかし、世界はボルドフ大統領が、核ミサイルにより数百万を殺害することを承知で発射したことをより重視して非難した。


 そのような意思決定を、ロシア大統領という独裁者でかつ核を発射すると公言しているような輩ができること、さらにそのような兵器があるという点が問題なのだ。だから、この非難によってロシアは無論、中国も孤立を深める結果になった。

 世界は、そのような悪の兵器を使おうとしたロシアの核兵器を無効化した米軍とNOTO軍を讃えた。


 さらに、無効化措置の当事者であったアメリカと、NATOの一員であるイギリスとフランスが自分の核兵器を廃棄することを翌日宣言した。加えて自分達は、やむを得ずこれらを所有していたが、このような非人道的兵器は廃棄すべきと、他の保有国に廃棄を迫った。


 その結果として、他の保有国は中国を含めて廃棄に賛同した。それは、拒絶すれば世界の総意として、ロシアと北朝鮮と同じ目に合うのは解っている。さらに、核はすでに無効化できる兵器であり、持っている意味は薄いのであるから、ある意味当然である。


 その結果として、核兵器を恫喝に使っていた国々は国威を落とした。核兵器に、その存続と威信を全振りしていた北朝鮮が典型例であった。最貧国であり、平均では世界でも最低の生活レベルでありながら、一部の特権階級が圧政を敷いていて、多くの国民が強制収容所に収容されている。


 北朝鮮においては、核無効化の後一時朴総書記一族が中国に亡命するという情報があったが、現状ではまだその政権が続いている。これは結局、次の指導者がいないためであると見られている。2600万人の人口でGDPはわずか400億ドル、一人当たり1500ドルのGDPであり世界の最貧国である。


 実質的には国内に碌な産業はない。農業は改善の余地はあるものの、朴王朝の圧政に耐えてきた貧しい国民は素直ではあるが教育レベルが低く、近代産業において単純作業以外には使えないだろう。これらの理由で、隣国である韓国は係わることを忌避している。


 1990年、あの経済的に栄えていた西ドイツが、共産圏の優等生であった東ドイツを吸収した結果、同化のために長く巨額の予算を費やしたのは事実である。さらに、近年では北朝鮮と韓国では余りの生活レベルの差により、言葉も通じなくなっているとされる。


 その状況をみると韓国が統一を嫌がるのは理解できるが、国際的にはそれ以外に選択の余地はないと見られている。北朝鮮の現状は、すでに朴総書記の権力は失われているようで、軍の総司令官の白ジョンクが官僚群を使って政権を握っているが、対外的にどのように対応するか決めかねている模様だ。


 北朝鮮のように口には出さないが、中国も明らかに核兵器を恫喝に使った国であった。しかし、彼らは周辺諸国においては圧倒的な経済力を持っている。だから、それほど国際的な立場に変化はなかった。だが、その世界の工場の立場には黄信号が灯っている。そして、経済の陰りのために、国内の暴動が激化している。


 ちなみに、ロシアにおいて暫定大統領になったアジゾフであるが、実際には何ら指導力を示せなかった。その理由は、経済の混乱、さらにウクライナの領土奪還、それに続くフィンランドの領土(奪還)の侵攻、とどめはシベリア共和国の独立であった。まだ強国ロシアを忘れられないロシア人は荒れ狂った。


 結局、アジゾフは警備もままならぬクレムリンにおいて、『愛国者』の護衛に射殺された。その後、ロシアは軍人崩れ、マファアなどが跋扈する内乱状態に突入して、略奪・強盗・殺人が頻発する状態になった。そのため、アメリカを中心に国連で強引にロシアと北朝鮮の治安維持の決議を行った。


 2029年の時点で、国連は完全に機能不全に陥っていた。なにしろ、ロシアが拒否権を持つ常任理事国なのだから、少なくとも安全保障においてはまともな審議が出来る訳はない。確かに環境問題や貧困撲滅、さらに難民援助などにおいては、国連はそれなりに機能を果たしている。


 しかし、一方で様々なプロジェクトが、国連からの金に依存している『プロ』専門家の生活の糧になっていることも確かだ。そこで、アメリカを含むG7の国々は、誰の目からみてもロシアのために国連がおかしいことになっている状況を利用した。


 それは、安全保障において、ロシアの無力化を境に、常任理事国のアメリカ・イギリス・フランスを含むGP8(Global Power 8:G7+オーストラリア)として決めて力で押し切ることにしたことだ。つまり弱者尊重の公平ごっこの遠慮はやめたのだ。


 そして、国連がすでに時代にそぐわなくなっていることを表明して、近年中に国連を一旦解散し、新たに再組織することを合同で表明した。その際にGP8が合同で世界平和軍(GPF: Global Peace Force)を結成することも表明した。むろん中国は猛烈に反発したが、当面正式組織を発足する前の過渡的措置であるとして押し切った。


 日本も、この動きの一員として行動している。ただ日本は憲法という弱みがあり、その点を揶揄された。だが、10月の憲法改正の採決でようやく他国と横並びに立てることになった。日本は12月の憲法改正後ただちにGPFに参加つまり、一員として派兵することを表明した。


 結局、日本はGP8に参加することで、安全保障の共同体に参加することになった。そのため、中国が日本のみに戦争を吹っ掛けることは出来なくなった。方向は異なったが、中国の暴発を防ぐ日本政府の狙いは成功したのだ。


 GP8の他のメンバーにとって、日本は唯一の非白人国であり、かつあの憲法を持つという点で異分子であった。だが、必須なピースでもあった。もともとGPFの構想は、岸辺首相がヨーロッパを回った時に持ちかけた構想であったのだ。


 その根底は、地球のどこにでも2時間以内で行ける重力エンジン機の活用で、1部隊を揃えれば地球全体をカバーできることだ。つまり、地球全体をカバーできる公正な勢力が、数が少なくとも強力な武力を持てば、世界全体の安全保障を担えるということだ。


 しかし、このためには重力エンジンとその動力源の電子抽出型発電機が必要である。各国はすでに後者の技術を手に入れ発電所を建設しつつあるが、前者はまだ殆ど技術を手に入れていない。つまり、重力エンジン駆動の機体や艦については現状では日本の独壇場であり、その参加が必須になるということだ。


 このことで、各国は個々に軍を持つ必要はなく、国内の治安維持部隊のみを配備すればよい。そのためのGP8各国のGPFへの費用分担は、現在の軍事費に比べ遥かに少ない。


 それにも係わらず、『そら』や『しでん』さらに、万能戦闘艦『MPBCS(Multi-Place Battle Ship) などの重力エンジン駆動の部隊に敵う軍隊は当面はない。軍事的には、いかなる地域紛争でも容易に鎮めることができるし、仮に国家全体が立ち向かってきても対処できる。


 GPF(世界平和軍)はいずれ、近い将来設立する国連に代わる機関の軍にすべきである。『それでも、手綱はGP8がきちんと取っておく必要がありますが』と岸辺は各首脳に囁いたものである。そして、岸辺はその場合の費用の概算を示し、GP8各国の劇的に下がる負担を示した。


 さらにGPFのみが世界の軍隊として役割を果たし、各国の軍を廃止すれば、世界の軍事費の推算2兆4千億ドルが多分1/3~1/5程度になりるはずであることを示した。また、それだけの費用が使えれば、貧しい途上国への援助の代替になる


 ヨーロッパの国々とオーストラリアはこの構想に賛成した。しかし、軍事的にも超大国のアメリカは難色を示した。軍事力は力の源泉であることを彼らは信じているのだ。しかし、GPFが最終的に唯一の軍であることは棚上げにして、暫定的にGPFを結成することには賛成した。


 彼等は、日本も加わるこの組織を通じて、近年あり得ない進化を遂げつつある日本の軍事技術を入手しよういう狙いがあったのだ。かくしてGPF(世界平和軍)の結成は合意された。そのテストケースが、シベリア共和国独立の際の共和国防衛のための派兵である。


 ロシアの治安維持のためには、そのシベリア共和国防衛のために集まっていたアメリカ、イギリス、フランスの兵と『そら』と『しでん』をロシアに送り込んだ。兵はシベリア共和国とヨーロッパから輸送機で2千名を最も治安が悪いモスクワに2031年の春に送り込んだ。


 その後、憲法を改正した日本も加わり兵力を増強して、2031年の秋には国連軍の名で1万5千の軍となった。残念ながら、2031年春の時点では重力エンジン駆動の兵員輸送船はなかったが、送り込んだ『そら』や『しでん』を擁する空軍力は非常に強力である。


 だから、これらの空軍は、基本的にシベリア共和国を基地として、NATO軍またはシベリア共和国を経由したアメリカや日本の輸送機で運ばれた兵員とともに、ロシアの治安維持に当たった。


 このように、昨今の世界のホットスポットはロシア周辺であるといえよう。しかし、日本発の技術革新は、その他の世界にも大きな影響を及ぼし始めている。


 ひとつにはアクティの世界への普及がある。このサプリメントの確認されている基本的な作用は、知的な記憶、認知、判断の機能が早さも含め10~15%上昇する。さらに、知的活動の持続力が15~25%上昇する。つまり、少し賢くなってかつ粘り強くなるのだ。

 これは元が低い人ほど上昇の度合いが大きい傾向がある。


 例えば、オフィスで作業している人であれば、早く正確に作業が進み疲れにくくなるので、ずっと好調が持続できる。そもそも、仕事において出来る人と出来ないと人(と言われる人も含む)の差は、さほど大きくない。だから、個々人が10%ほども有能になったとすると、全体としては非常に大きい。


 通常、利益を目的とする組織(会社など)においては、その10%ほどが利益のほとんどを稼ぎ、10%は殆どなにも貢献せず、残り70~80%が10%を支えるという構造になるそうな。それで、どうしようもない10%を切ったらどうなるかと言えば、70~80%からまた10%が出現するらしい。


 そして、これらの全体がそれほど潜在的能力に差がある訳でないのだが、全てが先述のように知的レベルと持久力が上がったら?やはり、全体としてのパワーが上がったらしい。例えば、ルーチンワークでは全体としては20%ほど早く仕事を終え、かつミスは大幅に減っている。


 しかし、必ずしもそれで業績が上がる訳ではない。なぜなら、同業他社も同じ状況であるからである。でも、業務に余裕が出た人々は、賢くなった頭でその改善にかかるようになる。そうなると、業務のシステムが効率良くなり、ますます早く正確に仕事が終わるようになる。


 働き方改革なるものが言われてきて、さほどの効果は出ていなかったが、アクティの効果で事務的な仕事はほぼ定時で終わるのが普通になった。さらに、ミス等のための手戻りも減っている。そのため、サービス業においては、顧客の満足度が明らかに上がっている。


 加えて、生産現場においては、無数の改善・改良が出てきた。その結果、日本の企業から出される製品は数年の内に明らかに質が高くなっており、加えてより便利に良くなった新製品が続々と生まれている。

 ために、同様なものでも品質が明らかに高いことから110円/ドルのレートに変動は余りないが、輸出は明らかに増加しつつある。


 それに、アクティは衰えた知的機能を改善するのに効果があり、認知症患者ははっきり減少した。さらに高齢者が知的な意味で活発になった結果、体力の改善にも取り組むようになる。その結果、高齢者の医療費が大きな割合を占めていた国全体の医療費が40%以上減少している。


 これは、日本での事例であるが、すでにアクティが普通に使われている先進国においては、同様な効果がでている。しかし、生産現場での改善はそれほどでもないようで、これは協力ということに抵抗がない日本人に比べて、個人主義の強い国であるためと分析されている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  世界に紛争を抑止する圧倒的な軍隊が存在するというのは理想ですが、その為に必要なのは世界の各国が有る程度同じ価値観でまとまっていることが必要だと思っています。  同じ価値観を有していな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ