3-2 2030年の日本の情景
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日本において、2030年は事件の多い年であった。
まず、ロシアと北朝鮮の核弾頭が全て無効化された。その件において、ロシアは日本とヨーロッパに向けて核ミサイルを放ったが、日本は本土外で迎撃して被害はないという結果に終わった。そして、その核の無効化において、実行したのは米軍とNATO軍であったが、その技術を提供したのは日本であった。
国民はそれを始めて知って、驚き恐怖した訳であるが、日本は自分の国で開発された核無効化装置を守りにしか使えなかった。さらに日本は、米軍とNATO軍が実施したロシアと北朝鮮の核兵器を無効化するという積極的行動は出来なかった。このことを知って歯がゆさを感じた者も多かった。
さらに、弾頭を無効化されたとは言え、ミサイルが日本本土に向かって発射されて、それを自衛隊が亜宇宙で迎撃した。それは、普通の感覚では称賛されるべきことであろう。しかし、それを国会において、批難した野党の議員がおり、少なからずの議員と、『市民』なるものが非難に賛同した。
非難の理由は、自衛隊が秘密裏に宇宙に昇って迎撃できるような兵器を開発し勝手に使ったということだ。つまり、その兵器が他国を攻撃できるからという非難の理由だ。彼らの論拠は全て憲法9条であり、彼等はいわゆる憲法9条信者である。
無論、それは強固な信念を持った少数であったが、基本的に無視され呆れられた。いずれにせよ、今回人類は、実際にある国が他国の都市に向けて大量破壊兵器を放ったということを知った。発射したものは、それに効果があることを信じていたのだ。実際には、それらの核弾頭はすでに無効化されていたのだが。
それを機に、核保有国であるアメリカ、イギリス、フランスが自国の核廃棄を宣言し、他の保有国に廃棄を迫った。核無効化ができるシステムが使えるという事実によって、核を公然・非公然に所有している国々は、抵抗の余地はなく廃棄を約束した。つまり、ようやく地球から核廃絶が確約されたのだ。
さらに、ロシアという『強国』とみられていた国が、その強国の根拠である強い武力を失った。彼等は歴史的にその武力をもって領土を拡大して、他民族を支配下に置いてきたことは事実である。だから、報復されることは確実であり、実際にまずウクライナでプチャーキンによって占領した地域を奪還された。
次にフィランドが動いて過去奪われた土地を『奪還』したが、ここまでは日本には直接関係はない。
しかし、シベリア共和国が独立して、彼らは日本を含めた先進国の後押しがあることを表明したのだ。シベリア共和国は、寒冷ではあるが面積900万㎢の広大さであり、資源の宝庫であることは確かだ。
無論ロシアが独立を認める訳はなく、早速攻撃機を送り込んできたが、後押しする国々の手助けで全機撃墜している。このために使われた兵器は、日本が作ってアメリカなどに輸出したものが貸与されたものだ。これもまた、野党の議員から非難された。
批難の理由は、主として日本がシベリア共和国の独立を仕掛けた、さらに日本が輸出した兵器が戦闘に使われてロシア兵を殺したということだ。その根拠はやはり憲法9条である。彼等の論では、どうも日本の兵器は使ってはいけないらしい。
ところで、11月1日に行われたシベリア共和国の建国宣言を機に、この国と結んだ条約で日本に北方4島が帰って来た。37万㎢の国土に0.5万㎢の国土が増えた訳だ。80年来の悲願達成であったが、実のところあまり国内は沸かず、それより友好国としてのシベリア共和国建国の方に関心が向いていた。
つまり、アクティの効果で賢くなった国民は近年の技術の進歩による効果を理解している。これは、重力エンジンによる交通手段の変革であり、すでにロシアのミサイル撃墜でその能力を証明している。
その前提で、首都ハバロフスクが日本と同じ時間帯で、アクセスが容易である広大なシベリア共和国への可能性をより感じているわけだ。
このように、軍事絡みの世界的な大きな出来事が起き、それに日本の技術が大きく絡んでいるが、実際には憲法の制約のために動けなかったという事実が残った。それによって、多くの人が変えなければならないと思うようになった。
ロシア事変後の世論調査において、憲法改正、特に9条改正に賛成の意見は驚きの75%に達した。これは、結局日本が核に対して安全になったと人々が信じたということが大きく影響していると分析されている。つまり、9条という守り神が無くても、日本の今の技術があれば自分で守れる。
さらに、この憲法は、今後の日本の立場を改善するうえで、またシベリア共和国の開発などを進めるうえで障害になると考える者が多くなったということでもある。
岸辺内閣は、高い支持率を背景に8月に解散総選挙に打ってでた。この高い内閣支持率は、近年の抜本的な設備更新による膨大な設備投資の増加による好景気と、かつロシアの核無効化の際の措置への高い評価のよるものと考えられている。
8月30日の投票結果は大方の予想通り、改憲勢力が3/4を占める勢いで、10月には衆参両院の2/3以上の賛成を取り付け、すでに原案が出来ていた改憲手続きに入った。実際に改正が成立したのは2030年12月10日であったが、憲法記念日は設けていない。これは今後も改正を視野にいれているからである。
この改正は構成を余り変えずに条項の中身のみを変えており、9条関係では、侵略の禁止は謳っているが、防衛軍の設置を明記し、防衛の定義を規定している。さらに、時代にそぐわない条項は改め、改正に必要な国会の賛成数は1/2以上で、さらに国民投票による賛成多数の票決が必要としている。
さらに、この年の9月1日の防災の日に、気象庁から重大な発表があった。それは、2032年5月12日に、東海地震が発生するとの予報である。発生地点は静岡県沖230㎞で、M8.2の海洋型地震である。浜松の震度6強が最大震度で、浜松付近で高さ5mの津波が押し寄せるとしている。
すでに、静岡県は国土強靭化による防潮堤の整備が終わっており、津波による被害は最小に収まるとしている。しかし、震度6強は必ず被害が生じるレベルであり、補強対策が必要である旨が勧告された。
それと同時に気象庁は今後5年間の世界の地震の予報を出した。そして、これは大騒ぎの元になった。この予報は日時、震源の位置と深さ、マグネチュード、地域ごとの震度が示された詳細なものであった。
ところが、気象庁はこの予報について、これは自ら予測したものでなく、政府から与えられたものであると述べており、気象庁としては真偽は保証しかねると言った。しかし、真偽・精度については今後起きると予想されている地震が証明するはずであり、それが合致していれば我々も信じると言う。
ここで、敢えて発表したのは多数の命と財産がかかっており、内容が正しければそれらを救うことができるからである、とも述べている。その途方もない発表を行った主任予報官の顔は苦渋に満ちており、冗談ではないことは明らかである。
しかし、予報を示された国によっては、人心を惑わすとして日本政府に抗議をする首脳もいた。ただ、気象庁は直後の9月5日午前11時に、津軽沖でM6.2の地震を予報しており、その結果を見て信ぴょう性を判断すべきと紳士的に応じている。
結果として、予測通りの地震が起き、更には10月6日に予測したトルコの地震も的中させた。前者では、最大震度は5弱であったので、避難していた人は無論、建物にも被害はなかった。後者については、震度6弱の最大震度であったが、建物被害は全壊が2千戸を超えていた。
しかし、人々は予報によって避難していたので、予報を無視して死んだ2人がいたが、その予報がなければ数百人の被害が生じたと感謝された。貧しい人々にとっては、予報により先だって財産を持ち出せたので助かったと感謝する者が多かった。
それ以降は、日本の気象庁の予報は、各国の建設機関のバイブルになった。彼らはその予報に従って、インフラの補強、町づくりの変更などを行なっている。ただ弊害もあって、耐震補強については対象地区のみに限られるようになったので、その分のインフラ投資が減少したと建設業の者を嘆かせている。
ちなみに、その予報はJMAF(Japan Meteorological Agency Forecast)と呼ばれており、そのネタがどこから来たか、大いに不思議がられた。予報官がJMAFに触れる時の表情から、その発表は彼らの本意ではないことは明らかであった。事情通は、R情報と同じ元ネタだと言いあっているようだ。
その後は世界中で地震による死傷者は殆どでなくなり、インフラも事前に手当を行うので被害は大いに減った。しかし、「直前に予報を出されても対策をする時間がない、だからもっと早めて欲しい」との要望が多くなった。そこで毎年5年後の予測を発表することにしている。
ちなみに、日本では現在、激しい勢いで産業設備が更新され、業界の再編も急速に進んでいる。電力に関しては、電子抽出型発電システム設置が必死に進められている。10月末において、石油と石炭由来の発電所の100%がすべて電子抽出型に切り替わった。
残りは原子力、太陽光、風力、水力などであるが、これらも1年以内に切り替わる予定である。
電気料については、産業用がすでに1/2になっているが、家庭用は3/4とまだあまり下がってはいない。産業用については引き下げ率が高いのは、早めに下げて電子抽出型の自家発電に移行するのを防ごうという狙いである。
また、実際のコストの低減に比べ、引き上げ率は低くなっている。その理由は、発電機を始め多くの不要になった設備の償却を行わなくてはならないので、その費用を補填するためである。このように、原価に対する売値を恣意的に調整することは国が主導して積極的に行っている。
これは、R情報による技術の導入によって、国全体に起きる産業上、雇用上の激変を乗り越えるための措置である。例えば、電力の場合には、電子抽出型発電システムの導入により、燃料費の大幅な削減ができる。さらに設備が安価かつ簡易になることで、設備のメンテナンス費、管理人件費も大きく下がるであろう。
原油は輸入だからまだよい。しかし原油の輸送は基本的に国内の業者がやっている。さらに、精製や輸送やメンテナンス及び管理は基本的に日本の業者が受注してやっている。これらの代替は、電子抽出型発電システムのメンテナンスや管理であるが、その費用は従来の1/3程度と算定されている。
つまり、それだけの需要が消えてしまったのだ。
自動車関連はもっとひどい。車体はそれほど変わらないだろうし、当面は更新需要が膨れ上がるのでむしろ潤うだろう。しかし、複雑なエンジンとその周りの様々な設備が不要になる。数百万台の車の製造のためのこれらの需要は莫大であるが、その代替が電子バッテリーと鋳造になって安価になったモーターである。
それだけではない。燃料は不要になるということは、原油の輸送、精製、精製した燃料の運搬、給油が不要になるのだ。救いは、給油については代わりにバッテリーの励起と輸送、交換が生じる。このことである程度の代替が可能になるが、やはりここでも、他の莫大な需要が無くなってしまうのだ。
また、鉱物由来の燃料の大口消費者である産業及び個人消費者の熱利用についても、すでに技術的なハードルは越えて、切り替えの実施段階に入っている。
とは言え、先述のように、電力の切り替えはすでに終了しつつあるが、自動車のEVへの代替、熱源の代替には5~6年の時間を要する。従って、その対策もそれだけの猶予があることになる。
これらの効果は、石油・石炭という近い将来の枯渇が目に見えている資源を使わなくなる。かつ地球温暖化の原因である二酸化炭素の発生量を無くすことになる。このように、国にとっては必要な事業である。一方で、日本の産業・経済・社会に混乱をもたらし、一部の者達に不利益を与えるものでもある。
しかし、国としてもバランスを考えれば、石油・石炭の莫大な輸入による費用が不要になることで支払いを減らせる。また、短期的かつ多様な設備の代替需要は、生産設備の入れ替えと大幅に増加する生産そのものにより、全体としてはマイナスを十分に上回る効果がある。
さらに、輸出額の増加がある。もともと日本は、人々の必須のサプリメントであるアクティの効果で、製品・サービスの改善が進み競争力が上向いていた。そこに、まずアクティの効果が知られ、これは先進国の殆ど全ての人々、途上国においても一定の所得層には必須のサプリメントになっている。
この輸出額と現地生産の利益は莫大である。
また、マジカル・カッター、マジカル・ペイストも様々な派生型が作られて、世界中に大量に売れているため、すでに現地生産も始まっている。加えて、電子抽出型発電システムは、早く導入すればそれだけ利益が出るというものなので、取りあえず輸出のできる日本の製品は世界中で奪い合いになっている。
さらに電子バッテリーを用いたEVは、これも従来品に比べて使わないという選択肢はない。だが、適当な配置の励起工場の建設が必須になる。石油事情のひっ迫から、この導入も時間との勝負である。なので、電子バッテリー輸出の余力があり、かつ励起工場については、建設・運転の指導ができる日本企業が引っ張りだこになっている。
こうして、消えていく業種の人々はそれなりの訓練が必要であるが、これ等の増加した需要は労働力の吸収には十分なボリュームがある。しかし、使えなくなった施設の償却が必要であり、これはこれで大きな金額になる。これは、国が一旦引き受けて、安くなった諸々の料金や、価格で長い時間をかけて吸収することになっている。
さて、R情報により実用化が始まった、電子抽出型発電システムと、ニューEV及び電力から熱への変換システムの導入は、実用開発も終わりロードマップに乗って推進されている。一方で、軍事利用はすでに進んでいるが、民生利用が遅れている重力エンジンの活用がクローズアップされている。
それはずばり、スカイカーにスカイキャリー(貨物飛行機)及びハイパーライナー(超高速旅客機)である。もっとも関心が高いのは乗用車の飛行機版であるスカイカーである。
重力エンジンの実用化が防衛省で始まったとのアナウンスの後すぐに、涼を各自動車メーカーの者が訪問して、重力エンジン駆動のスカイカーの開発への協力が要請された。涼のことは公表されていないので、防衛省のルートを使っての接触であった。
だが、実は涼はすでに乗用車に積めるレベルの重力操作機は開発済であった。だが、大気圏外に出て運動でき、火器のコントロールもできる戦闘機レベルのAIは明らかにオーバースペックである。そこで、AIをどうするか悩んでいたところに訪問があったのだ。
涼は大きすぎる市場と道路交通法との調整を考えて、相手を一社に絞るのも危なそうなので、経産省に中に入らせた。その協議のうえで、最大手のトミダ自動車を幹事会社にして、涼のデータをベースにしてAIの最終化を含め国内メーカーの共同開発となった。
彼等には、日本で実用化するには道路交通法などの関係があって、実用はいつになるか判らないので、アメリカ辺りから売った方が良いとアドバイスしている。また、既存の道路との関係や飛行ルートの決定、安全措置を含めて経産省を通じて国交省で調整が必要であることを示唆した。
実際に、アメリカでスカイカーの販売が始まったのは2030年春であり、ニューEVの販売と同時になった。このスカイカーは電子バッテリー駆動であるが、300㎾hのものを2基積んでいる。なお、アメリカのEVはすでに100万台を超えている。
なので、パッケージが売り出されてバッテリーのみの交換を行うケースが多く、励起工場がある程度数が揃った段階で改造が始まっている。
日本はこの時点では、100機ほどのプロトタイプのスカイカーが出来ており、試験的に飛んでいる。ここから涼も1台を手に入れている。だが、道路交通法との調整にまだ1年以上かかる見込みだ。




