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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第2章 争いの顕在化と変化する世界
20/54

2-4 核兵器の無効化実施その後

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

 核無効化の実施をしたのは米軍とNATO軍であったが、彼らは実施の翌日高々と成果を誇った。その中で、核無効化装置には1型、2型、3型があり、それらを開発したのは日本の自衛隊であることも発表した。更に、日本は無効化のためのミサイル発射にこそ加わらなかったが、仲間であるとも述べた。


 そして、その日にはアメリカ大統領、イギリス首相、フランス大統領が、それぞれに国民に向けて所有する核を廃棄することの理解を求め、それを世界に向けて宣言した。そして、それと共に、核を保有していると把握している中国、インド、パキスタン、イラン、イスラエルに向けて廃棄するように求めた。


 中国は原則受け入れ、インドとパキスタンは互いが廃棄するならと言う条件で受け入れた。イランは最初所有を否定したがCIAから証拠を突き付けられて認め、イスラエルが廃棄するならとし、イスラエルもイランが廃棄するならという条件だ。


 いずれも、認めなかったら、ロシア・北朝鮮と同じ処置をするという無言の圧力があったことで従ったことは事実である。中国は過去の振る舞いから、もう少しごねると見られていた。だが、アメリカ、欧州との貿易摩擦をこれ以上激化させたくなかったこと、もはや無用の長物になった核兵器というものを見放したのだと見られている。


 また、あっさり西側の軍門に下ったロシアを見て、明確に世界の孤児になったことを意識したのだろうとも見られている。また状況として、中国の歴史的な宿痾である暴動(内乱)が激化している。これは過去の王朝における貴族階級に代わる、共産党による専横と富の集中による一般国民の抵抗である。

 その状況で、共産党の指導部は取るべき道を迷っていることは事実である。


 ともあれ、地球上からの核廃絶の道筋は確定したが、実際の廃棄・処分にはさらに3年を要した。だが、1年後に条約が結ばれて、核無効化装置によって全核兵器が無効化された。無効化した核弾頭はまだ放射性物質ではあり有害物であるが、放射線量は大幅に減衰しており、連鎖反応は起きない。


 また、北朝鮮であるが、どうやら米軍の措置で核の全てが無効化された模様で、指導者の朴一族は中国への亡命を試みたが受け入れを拒否されたという韓国の調べだ。だから、北朝鮮の政権崩壊は待ったなしという世界中の情報機関の分析である。


 一方、軍事面で、日本の自衛隊が、地上5,000㎞の亜宇宙でミサイルを撃墜したという情報は世界の軍にセンセーションを起こした。アメリカには宇宙軍があり、無論宇宙空間での活動ができる。しかし、それは巨大なロケットで宇宙に船体を打ち上げての活動である。


 つまり宇宙空間に上がるには莫大な費用が掛かるのだ。しかし、ロシアのミサイルを撃ち落とした機体として紹介された『そら1号』は、大きさはそれなりであるが、ロケットを使わずそのまま5,000㎞の高空まで昇っていったという。


 実は自衛隊は、まだ『そら』シリーズを公開するつもりはなかった。しかし、府中基地から上昇し、降りる『そら1号』は、基地に張り付いているマニアにばっちり映像を取られ公開されてしまった。そうなるとマスコミの取材に応じざるを得ず、多機能機『そら』シリーズとして公開したのだ。


 直後から、在日米軍の司令官であるライム中将、及びイギリス・フランス・ドイツの他12ヵ国の大使館または本国から視察の申し込みがあった。むろん、その中には中国・韓国も入っているが自衛隊は防衛機密として大部分を断り、しぶしぶ先述の4国の視察を認めた。


 ライム中将からは、宮坂航空幕僚長に直々に電話があり苦情を言われた

「私達は、君らが重力エンジンというものを開発しているのは知っていたよ。しかし、わが国のどの科学者に聞いてもそんなものが実現できる訳はないとの答えで、近々に実現するとは全く思っていなかった。しかし、マスコミの報道をみると使ったんだろう?でないと、君らがやった飛行の説明がつかない」


「ええ、まあ。でも、『そら』シリーズが使えるようになったのは1ヶ月前ですよ。まあ、今回のロシア相手の騒ぎがあったものですから、無理をして飛ばしましたよ」


「うーん。政府から情報を制限するように言われているのだろうが、確かに我が国の国務省のやっていることは日本にとっては面白くはないだろうな。

 しかし、君の国では、最近では核無効化装置、電子抽出型発電システム、電子バッテリーやアルミのモーター、それに人の知能を向上させるアクティを出している。それを見ると、貴国を敵に回してはやっていけないと、言ってはいるんだがな。なかなか解ってももらえん。


 ただ、国防省と我が軍は、日本を強固な同盟国だと思っているし、今後の世界を平和に保つためには必須のパートナーだと思っている。まあ、君の権限の及ぶ範囲で良いので、出来るだけ協力してくれ」


 ライム中将の言葉に「出来るだけのことはする」という返事をした宮坂であったが、『残念ながら、俺もあなたも国の命令には逆らえないのだよな』そう思う。


 しかし、今回の核無効化の措置をみても、日本は、アメリカが作って日本人が後生大事に持っている憲法の制約のために出来ないことが多すぎる。その意味で、アメリカとは互に利用し合いながら、うまく目的を達するように行動するしかないと思うのだった。少なくとも喧嘩はしたくない。


 ライム中将が来るなら、自分が迎えなくてはならために出かける宮坂であったが、韓国大使館からの抗議を思い出す。彼らは、今日行われる視察に、当然韓国軍の将校が加われると思っていたらしい。しかし、もはや日本は、韓国軍に気を使う必要がなくなっている。


 北朝鮮は、各種ミサイルを揃えているため、それに核兵器を積んだ場合の対処が問題であったが近年の様々な開発で、通常の軌道のミサイルは開発済のA2-5Dミサイルで確実に迎撃できる。ロフテッド軌道を取るミサイルでも、今回のことから対処可能であることははっきりした。


 今後、自衛隊は日本海の5,000㎞上空に、AI制御で無人の亜宇宙ステーションを浮かべる予定である。これで、北朝鮮からのミサイルは完全に対処可能である。それに、入って来た情報によると、北朝鮮は近いうちに、今の指導者が排除され、政体が変って穏やかな国に替わるはずだ。


 ロシアも事実上無力化されたこともあり、恩着せがましくマウントを取りたがる韓国と付き合うことはない。昔はずっと謙虚に出ていたので、ずっと付き合い易かったのだけど、自信をもったせいだろうなと思う。自衛隊にはメリットはないので、政府にも知らせて韓国の視察を断ったのだ。


 府中基地のエプロンのコンクリート舗装に、そら1号と2号が居座っている。また少し離れて、実験に用いたF4Fの改造機が駐機しているが、翼がなく胴体だけの姿だ。そら1号と2号の濃い灰色に塗られたその丸っこい機体は、長さ10m、幅4m高さ3mあってずんぐりしていて中々大きく見える。


 着地した状態で、そりに4本脚で支えられた胴体は地上50㎝であり、横腹のハッチが開いていて、そこに斜路が渡されている。機体には、あちこちで溶接の跡が見えて、塗料も均一ではなく、如何にも改造を繰り返してきたというように見える。しかし、逆に存在感と古強者の雰囲気がある。


 宮坂が基地の司令官である田宮空将補と現場に着いた時は、アメリカ人としては小柄で茶髪のライム中将を含め5人の将校が2機の機体を様々な角度から見ていた。それに、イギリス軍3人と、フランス軍・ドイツ軍の軍服の将校がそれぞれ2人いる。それに自衛隊の迷彩服の案内者が10名いて説明している。


 これらの将校は、アメリカの場合にはライム中将を除けば在日米軍のパイロットであり、英、仏、独の将校の少なくとも一人は本国から飛んできたパイロットである。『そら』の乗せるという通知から、本国から急遽派遣されてきたのだ。


「ようこそ、この基地へ。私はこの府中基地司令官の田宮です。この基地は……」

 田宮が簡単に基地の説明を行い、宮坂が自己紹介と『そら』シリーズ開発の経緯を簡単に説明する。続いて、首からスマホを懸けた長嶋2佐が説明を替わり細かい説明をする。なお長嶋は、ミサイル撃墜の功績で2佐に昇進している。


「試作の重力エンジンが出来た時、試験を急ぎたかったので、最初はそこのF4Fの機体のエンジンを抜き取って、重力エンジンを装備して飛行訓練をしました。最初翼は残したのですが、結局邪魔なので胴体だけの不細工な姿です。ええと、今から、その改造1号機を飛ばして見せます」


 その言葉から5秒ほどを置いて、すでにパイロットが乗っていたF4Fの改造機が、スーと上昇して地上100mで停止する。動きは滑らかで、見た感じは完全に安定しているようだ。


「あれで、加速IGでの上昇により高さ100mで止まっています。加速が1Gの9.8m/秒^2ですが、この姿勢では最初はともかく空気抵抗が非常に大きくなります。空気抵抗と、止まるための逆の加速が必要ですので、あそこまで10秒ほどかかっています。


 ちなみに重力エンジンは重力操作装置にAIがセットになったものです。これは、人間ではとても重力操作装置を操っての機体の操作はできないからです。このAIを使った制御装置は、脳波を分析したイメージで命令を出すことができます。

 慣れる必要がありますが、限られたコマンドを使った操縦に比べて、はるかに多様な操作正確に指示できます。無理な場合にはダメと機が返しますからね」


 見学者の顔を見ると、既存のものと違い過ぎてイメージを掴みかねている。『まあ仕方がないよな』長嶋は思って、話を続ける

「このAIのお陰と重力エンジンの特性から、ジェット機を手動で操縦したのでは考えられないような機動が可能になります。やって見せましょう」


 長嶋はスマホに向かって命じる。

「磯部3尉、機動パフォーマンスNO.2だ。やれ!」

「了解!磯部3尉、機動パフォーマンスNO.2やります!」

 スマホから声が返って来る。


 突然、空に浮いた機が縦に2.5回回転して、最後で機首を鉛直に上に向き100mほど上昇して停止する。次いでその状態で縦に回転しながら落下する。100mの落下の後止まり、長さ方向にくるりと水平になりそのまま突進し始める。更に100m進むと鉛直に機首を立て進み始めるが、速度の慣性によるカーブを描いて斜めに上昇する。


 そしてやはり100m上昇した段階で、水平になって前進するとやはり速度の慣性によって斜めに上昇しつつ飛行する。それが最後のようで、300mほどの上空で減速してぴたりと空中で停止する。10秒ほどその状態を保ってから、しずしずと下りてきて、離陸した地点にぴたりと着陸する。


「相変わらずの変態飛行だな。なあ長嶋君」

 宮坂空将が長嶋に囁くが、見ていた現役のパイロットは皆顔色を悪くしている。自分が乗っているのを想像したのだろう。改造機に乗っていた乗員が機体にアルミの梯子をかけそれを降りてくる。全く普通に振舞っており正常な動きである。それを見ながら長嶋が種を明かす。


「皆さんはパイロットが目を回したと思ったでしょうが、実は機体の中は常に鉛直に1Gが保たれています。鉛直に機体が立っていても、パイロットは床に向けて普通に座っている感覚なのです。だから、全くそうした訓練なしに操縦が可能です。そして、パイロットはAIに命じる動作をイメージで伝えるだけで、何ら自分では操作をしていません。」


 真剣な顔で自分を見つめるパイロット達を向いて少し悲しそうに長嶋は続けて言う。

「私もパイロットですが、Gに耐えるために体を鍛え、機動によって目を回さないように訓練機で振り回されてきました。その自分の受けた訓練は何だったのかと悲しくなります。しかし、ご覧の機動にはジェット機は全くついて来ることはできません。それはご理解頂けたかと思います」


 それをパイロット達は口々に同意する。それを見て長嶋は続ける。

「この機動の他に、重力エンジン機は最大のアドバンテージがあります。それは、簡単に高高度に上がれることです。残念ながらこの改造機は気密が不十分なので無理ですが、このそらシリーズは可能であり、実際に先日5,000kmの高みに昇ってきました。


 そして、重力エンジン機は電力で駆動します。その点で、このF4F改造機もそうですが、電子抽出型発電システムを積みますので、動力面では殆ど無限の飛行時間かつ航続距離を持ちます。とは言え、この『そら』で2日分の生命維持機能を持つのみですからその制限はあります」


 そこで、宮坂空将が口を挟む。

「現在我々は、この『そら』より小型の、今飛ばしたF4Fの改造機より少々大きいレベルの戦闘機を作っています。それは当然完全気密で、宇宙空間に昇れる機能を持ち、24時間の生命維持装置を備えています。我々は、『そら』による訓練飛行において、すでに1時間で地球1周しています。


 従って、地球上のどこでも、そう1時間半あれば行ける訳です。これが意味することは、ある位置にある基地から世界中が行動範囲になるということです。つまり、地域ごとに機体を配備する必要はないので、作戦に必要な機体の数は大幅に少なくできるということです」


 それを聞いた全員が、ショックを受けた顔をしている。とりわけ上級管理者であるライト中将は考え込んだ顔である。パイロットにとっても、失業の可能性のある話であり深刻な問題ではある。


 その後、そら1号と2号に分乗して視察者全員が機内に乗り込んだ。これらの機は短時間の場合にはパイロットを除き最大乗員数6人乗れるのだ。この機に窓はあるが、圧力に耐えるために径30㎝の丸型のハッチであり、操縦席と副操縦席の2つと横腹に4ヵ所である。


 しかし、外を見るには基本はスクリーンを使う。そのスクリーンは、操縦席と副操縦席に加え乗客に向けて大型スクリーンがある。乗客として乗ったパイロット達は、離陸のアナウンスにより陸がぐんぐん遠ざかるのを見るが、機体の動きは感じるものの加速を全く感じない違和感に驚いていた。


 画面に示される速度計や高度計、地上と位置関係を示す線図などで、現在45度程度の角度で上昇していることがわかる。ジェット機は、上昇中に普通はアフターバーナーを焚かず重力に逆らって上昇するため、この機のような高加速はできない。


 そして、その加速は何時までも続く。高度はすでに20㎞を越えておりジェット機の到達最大高度を越えつつある。今や機は完全に鉛直方向に上昇している。


「只今、20㎞の高度を越えましたが、目標は5,000㎞の高度です。通過するだけでしたら、30分で到達しますが、停止する必要がありますので、速度がピークの時点から逆に加速の必要があります。従って、平均速度は小さくなりますので、出発から1時間と21分で到着の予定です」


 機長の、三原3尉から説明がある。しかし、頭脳明晰なエースパイロットであっても、通常は説明があったような計算は必要がない。だから、頭の中で概算して『おお、合っているな』と理解する者が半分ほどもいるが、それだけ優秀なメンバーが揃っているということである。


 その後、目標の高度に達した面々は、まさか宇宙に行くことになるとは思わす、半ば夢心地で本国または任地に帰り、絶対に『そら』シリーズを入手すべきと、強固に主張することになった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  米・英・仏・独の軍人たちは少なくとも空戦能力では今後の日本に対抗できないことを完全に理解していましたね。重力エンジンは海中でも機能しますから海戦能力にも劣ることも理解するでしょう。あとは…
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