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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
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1-2 最初の開発品の製品化の始動

2話目です。1週間くらいは毎日公開出来るかな。その後は週に2話くらいアップ出来れば良いけど?

 ヒロ・ヤマナの宿った涼は、歴史を変えることの出来る特異点ともいえる存在ではあるが、今のところそうするような行動は控えている。だが、漸く必須のピースが揃う見込みが立った時点で、その行動はすでに始まっている。


 それは1年前のことであった。

 涼の作業小屋に、1人の男がやってきた。背広にきちんとネクタイを締めている。迎えた涼と母の綾子に差し出した名刺には東証1部上場の㈱マキノ工機の開発本部・課長代理である、山際清太とある。


 綾子は日向クリエイティブの名刺を出し、涼も研究所長の名刺を出すので、山際は驚いて見直す。

 その山際は涼の父の隼人の大学の工学部の同窓であり、隼人の電話とメールによる説得に応じてやって来たものだ。しかし、少々その触れ込みが途方もないものであるため、確認のため当面一人でやって来たという次第である。


 夫の仲の良い同級生であるため、互に数度会ったことのある母と大人2人の久闊の挨拶の後、山際が小屋にある作業台に載っているものを見て綾子を向いて尋ねる。それは、長さ幅共に50㎝余り、高さも50㎝余の箱状で、長さ1mほどもある太い丸鋼が4本立っているもので、主としてアルミ部材で作られているものだ。


「これがお話のあった、何でも切れるという万能カッターですか?」

「なんでもではないです。金属であれば基本的になんでもです」

 それに対しては、涼が応える。


「え、ええ。そうでしたね、金属のみと……、では早速試させて頂いてよろしいですか?」

 山際は半分信じられないながら、ひょっとしたら大変なチャンスだという思いもあって、内心焦りながら涼を見て了解を得ようとする。


「ええ、どうぞ。切断する試料は持ってこられたのですね?」

「はい、鋼鉄、鋳物、アルミ、銅、チタンにステンレスの端材を持ってきています」

 そう言って、山際は重そうに持って来て足元においたバッグを指し、ジッパーをひいてそれを開いて少し錆びたL型鋼を持ちあげる。規格は75㎜×75㎜の長さは300㎜程度か。それを作業台に上に置く。


「鋼製のL型鋼です。まずはこれを切って頂けますか?」

 その言葉に、涼が寄ってきて、型鋼を持ち上げ、万能切断機の水平方向に空いているスペースに、それを差し込んで置く。


「これでセットしました。このランプの赤は電源が入っていることを示しますので、その押しボタンを押せば切れます」

「な、なるほど、しかし部材を固定していないようですが、よろしいのでしょうか?」


「実際の装置ではバーニアをセットして固定し、厳密に長さを決めて切ることになるでしょうが、これは単に実証装置ですから、要はちゃんと切れればよいということで、振動がある訳でないし、固定していません」

「なるほど、簡単なものですね。つまり、これはこの上部のこのあたりからレーザーのような鋼鉄でも切れるビームのようなものが出てくるわけですね?」


「ええ、目には見えませんが、この装置の場合幅30㎝のいわゆる“刃”が形成され、対象の金属の分子構造を切り離す作用をします。この装置の場合は、その場の発信機をこのボルトの高さまで上げられるのでまあ、切断対象部材の高さは80㎝まで変えられます。つまり、この装置では幅30㎝、高さ80㎝まで切れるということです」


「ええ!ということは、当初から設計すれば、切れる幅と高さは拡大できるということですか?それはどの程度まで……」

「うーん、実際のところ幅で10m、高さは2mが限度でしょう。では、まあ論より証拠ということで、そこの押しボタンを押してスイッチを入れて頂けますか?」


「は、はい、では」

 山際は少し震える手で装置の横腹のボタンに指をあて、しっかり押し込み、放す。

 その結果は、かすかにブーンという音が聞こえ、置いたL形鋼が僅かに動いた。


「え!えらく反応が薄いですね。そう言えば、装置への給電はこの普通の家庭用の電線のようですが?」

 装置に繋がって、プラグをコンセントに差し込んである電線を指さして言う山際に涼が答える。


「ええ、もう切れていますよ。切断した面は反発するので少し、そうですね10ミクロン程度離れます。消費電力は500ワット程度ですので、この電線で十分です」

「ご、500ワット?たった?」


「ええ、レーザー切断に比べれば桁違いでしょう?」

 涼がニコリと笑って応じ、切断した型鋼の片方を取り出して、山際の前の作業台に置く。


 その型鋼の横腹は黒い肌に少し錆が浮いており、持ち込んだ状態の切断面も錆びているが、新たに切断した面は銀色に輝いている。山際は恐る恐る部材を取り上げ、切断面をしげしげと見つめ、指で触って言う。

「こ、これはつるつるですね。磨いてもこれだけの滑らかさは出ないと思います」


「うん、そうです。分子レベルで切り離していますから、たぶんどんなに磨いても、それだけの平滑性は出ないと思いますよ。その面は、凹凸がないので酸化しにくいというか、錆びにくいはずです」


 その後、山際は持って来た試料全てで、同じように簡単に切断でき、さらに長さ50㎝で太さ2.5㎝のステンレス鋼棒については50㎝の長さ方向に切断できることを確認した。その後、挨拶も上の空で熱に浮かされたような表情で装置を会社に持って帰った。


 涼は、山際には、先ほどテストをした試験機を貸与し、さらに『万能金属切断機』関連の特許出願明細書と涼の書いた仕様書、さらに理論的な説明をした論文を与えている。そう、当然ではあるが、すでにこの装置は特許の出願をして、審査請求も行っている。


 ただ、担当した弁理士によると、全く新しい概念が取り込まれているので、特許庁の審査官は審査しきれないということだ。

「ああ、そうでしょうね。これで認めたら審査官があほですよ。でも、装置が実働して世に広まれば、認めざるを得なくなりますから構いませんよ」

 弁理士に涼が言った言葉だ。


 ちなみに、特許は2つに別れており、一つは『物質に働きかけ、その形質変化を容易にする触媒回路』というものであり、いわば魔方陣とも言えるものである。そしてもう一つが、触媒回路と組み合わせた万能金属切断機である。確かに触媒回路を特許審査官が証拠もなしに認める訳はないよね。


 さて山際氏が会社に帰ってから、社内では当然のことながら大騒ぎになったらしい。

 ㈱マキノ工機は工作機械のメーカーであるが、どちらかというと製品の売上は木工機械が多く、様々なスキマ商品を次々に発売して、知名度はある。しかし、木造建築の工場における大型パーツ化の進みで主力の中小工務店向けの木工機械の需要が落ちており、じりじりと売上げを落としている状態であった。


 だから、なにか大型のヒット商品が欲しいところで、この万能切断機の話である。金属の切断は近年ではレーザー切断機が主流になりつつあるが、装置が非常に高価・電力消費が大という問題があり、なかなか中小の鉄工所では導入できない問題がある。


「聞いたところでは、この万能切断機の材料費は50万円程らしいです。一方で、この能力と使い勝手の良さから言えば、ユーザーは数百万しても買うでしょうよ。増して、加工のフレキシビリティが違いますから、レーザーのように少品種多数の加工とはわけが違います。世界に出せばどれだけ売れるか!」


 一通りのデモストレーションを終えて、どや顔で胸を張り、山際が帰りの1時間半のドライブ中に考えてきたセリフを言う。


「ふーむ」

 開発本部長のみならず、駆け付けてきた門田社長が、切断した鋼材の切り口をなでながら、唸り声の後言う。

「うむ、よくやった山際君。君の仲の良い同窓生がその日向涼君のお父さんの訳だ。これを貸し出してくれて、こうした書類をくれたと言うことは、わが社に製品化は任せてくれるということだね?」


「ええ、社長。涼君、母上共にはっきり製品化は任せたいと言われました。ただ、外部への公表は少し待って欲しいということです。ただ、その間に生産の準備は進めてもらっても構わないとのことです」


「しかし、まだ高校生の涼君や、開発・製品化を知っているはずのない、日向のご両親が随分、売れる商品だという自信があるようだね。まあ、これほどのネタだから我々の常識からすれば当然だが」


 開発本部長の古田が言うと、山際が応じる。

「ええ、その点ではその涼君が当然と言う感じで、むしろお母さんが戸惑っている感じでした。それと、涼君の口ぶりでは、この装置に関しては、あまり大したものではないというか、まだ本番が控えているというか……」


「その点では、特許が2つに別れていて、こっちの『触媒回路』ですか、これがあって実際に機能するなら……、いや実際にこの切断機が我々の解らないメカニズムで機能するわけですから、機能するのでしょう。

 その場合、その回路が物質の形質変化を容易にするということですから、多分この切断機はほんの入り口かも知れませんね。これは大変なことになるかもしれません」


 そこに、山際の直属の上司である仁科が口を挟む。

「むう……、いずれにせよ。この装置は我々の知らないメカニズムに働いている。その応用は、知らない原理で動いている以上我々には見当がつかない。しかし、わが社がその最初かもしれないが応用を任せてもらったわけだ。ええと、山際君、相手の申し出たロイヤリティは、契約金1億円に加えて売り上げの10%だったかな?」


「ええ、そうです。この種の全く新しい発明品としては問題ない水準だと思いますが」

「うん、問題ないよ。なあ、川田常務?」

 門田社長は、横にいた法務・財務担当常務の川田に尋ねる。


「そうですね。これだけの大型案件は私も経験がありませんが、契約金は数10倍、ロイヤリティも数倍要求されるレベルだと思います。多分、金に困っていないのと、さっき山際君が言ったようにこの発明をさほど重視していないのではないでしょうか」


 これに対して山際が口を挟む。

「そう言えば、日向君は家の株の資産が相当あるようなことを言っていました」

 その言葉を受けて、門田社長が吹っ切れたように皆を見渡して言った。


「ふーむ、それは我々には面倒な交渉をしなくていい点は有難いことだね。川田常務、法務部を動かして、抜かりなく早急に契約を交わしてください。開発本部は出来るだけ早急に製品化のモデリングをしてください。今は居ないから私が伝えるが、企画部には売り上げ予想を立ててもらいます。


 それに基づいて、開発本部は生産本部と協働して、出来るだけ早く生産設備の計画を立てて下さい。それに基づいて役員会でその生産計画を吟味して承認します。皆もそうだろうけど、私は今回の案件はわが社の飛躍の大きなチャンスだと思っています。

 従って、大きなリスクを冒してでも、この万能金属切断装置の迅速な商品化を行い、早くから海外への売り込みも行っていくつもりです。


 山際君、本件についてはよくやってくれました。しかし、日向涼君についてはこれで終わりだとは思っていません。幸い君は、彼の父上から相談を掛けられるほどの友人関係にあり、これを今後も生かして欲しいと思っています。今日から君は、日向家の担当をしてもらいます。部下も好きなものを抜擢してよいから、是非とも涼君と良い関係を作ってください」


 その後、マキノ工機は全力で万能切断機の商品化に取り組み、涼が受信機と記憶装置を組み上げた時期には、マジカル・カッターという名で、すでに切断機を5つの型式でシリーズ化しており、価格も決定してすでに量産を開始し、コマーシャルを開始している。


 ちなみに、涼が試作した大きさのものが最も小さいMC-01の型番で、価格も安く250万円で売りだされる。他に世にない機器であるため、すでに一部のメーカーが機種によって行っているように、値引き不可として売りだすことにして、すでに小売店に配送が始まっている。


 また、マジカル・カッターの製品化の途中で、涼は同じ原理に基づいた金属の接合機の開発を持ち掛けている。


 涼はすでに、シリーズ化と設計・試作が出来た段階では、自分の受信機と記憶装置の組み立てに完全に目途がついたために切断機の外部への公表に合意している。

 涼は、入り浸ってくるマキノ工機の社員に最初はうんざりしていたが、自分の進めている工作の部品調達に非常に有用で、相談相手にもなることが判ってからは、彼らの存在を有難いと思うようになった。ボッチは寂しいものなのだ。


 結果として、マキノ工機は涼のために常時2~3人の社員が拘束されるようになったが、お陰で涼が『画期的な設備のノウハウを受信するために受信機と記憶装置を組み立てている』という情報を得ている。


 ヒロは未来の大人としての知識と人格を持ってはいるが、涼という存在の中では『従』の立場である。このため、涼の高校生として、まだ未熟な人格であれば、しばしばというか入り浸っている20代の数人からおだてられれば、いい気になっていろいろ喋るよね。増して魅力的な女性であれば。


「ねえ、涼君。その受信できるという情報はさぞかし凄いものなのでしょうね」

 涼の横に座った新開真紀が聞く。彼女はまだ大卒2年目であり普通に見て美人だ。

「まあね。あの切断機なんて問題にならない程度にはね」


 美人に聞かれて涼は、鼻の下を伸ばしながら椅子の中で寛いで言うと、真紀が返す。

「前に、その情報によって現在の世界の抱える問題点を解決できるとか言っていたわよね。それは例えば、核兵器を無効化するとか、エネルギーの問題を解決するとか。さらに水不足の解決、資源枯渇の解決とか。どうなの?」


「ええ!いいとこ突くなあ。まあ、どうせ僕だけじゃ何もできないからなあ。はあ…………。まあ、僕のことが世間に知れるのは遅い方がいいし、マキノさんであれば、秘密は守ってくれるだろうし」

 この点は前から考えていた涼は、真紀ともう一人の村井成人に向かって真面目に言う。


「だけど、マキノ工機さんだけでは、実用化は無理だよ。少なくとも、電力、交通、防衛などを専門とする企業を巻き込む必要がある。さらに防衛・制度の変更が絡むから国を巻き込む必要がある。理論確立は無論すでにしているけど、学会の中でいわゆる現在の空間・物理とかなり異なる現象を理論確立しなきゃならんから、大学をも巻き込む必要がある。

 でも、そうして僕が思っていることが実現出来たら、今後日本人のみならず人類が被ることになるはずの、多くの禍を避けることができ、いわゆる科学は多分200年は進むね」


 ヒロが半分表面に出てきて、真面目な顔になった涼の言葉に、同僚のやり取りを横で聞いていた村井は流石に口を挟んだ。

「涼君。と言うことは、その受信が成功した場合にはその内容を開示するのだよね?」


「うん、協力してもらったお陰で、もう1ヶ月もかからず成功すると思うので、その節はそうだね、説明会を開くよ。とは言え、お宅の会社の人だけであればよいけど、色々声をかけて集めるのは不安があると思うから、あらかじめ限られた人に僕の構想というか意図を説明した方がいいかな?」


「それは是非。というか、時間を短縮するには出来たら早めにやってもらうと有難いですね。わが社の無理の効くメンバーを集めますので」


「うーん、そうだね。色んな所に声をかけるのだったら。時間がかかるな。あまり時間がないし、そうだね。全体的なことを聞いてもらうか。なにか、お宅の会社におんぶにだっこになっちゃたな」

 村井の言葉を受けて、応じる涼に村井が宥めるように言う。


「いえいえ、涼君の言う歴史を変えるというほどの技術の実用に携われるなら、弊社も金の面のみならず大きな利益があります。では、そのように段取りをさせて頂きます」



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