表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第2章 争いの顕在化と変化する世界
19/54

2-3 核兵器の無効化実施(2)

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字の指摘をありがとうございます。

 ボロドフ大統領は、全ての核ミサイルが全く機能しなかったことに大きなショックを受けた。それに、自分は全ミサイルの発射命令をしたのに、実際に発射されたのは10基のみである。そのうち、8基のみがまともに飛んで結局撃墜された。しかし、撃墜されたものも、本来であれば核爆発を起こしたはずだ。


 弾頭が生きていれば、ミサイルは破壊されても敵国上空で核爆発を起こすように設計されている。だから、その被害は甚大なものになるはずだ。更には、目標を外したミサイルも、国内に向かい破壊処理したもの以外は核爆発を起こしたはずだ。つまり、本来起きたはずの核爆発が起きていないことになる。


 ここにきて、ボロドフは始めて核無効化という西側の主張する仕組みが、実際に働いたと信じるようになってきた。さらに、国内からは敵ミサイルが落下したことによる被害が報告されている。その数は多いが、火災が起きているという報告はあるものの、大きな爆発は起きていない模様だ。


 ボロドフは、軍の参謀総長や軍の総司令官など部屋にいる5人の者達の内、総司令官のケレンスキーを問い詰めた。

「おい、これはどうなっているんだ?発射したミサイルは半分以下しかまともに飛んでおらん。それでも、半分は核爆発を起こしたはずなのになにも起きておらん。それに、国内がミサイル攻撃を受けたようだが、被害は極めて軽微であるようで、不自然だ」


「はい、これはアメリカやNATOの言うことが真実なのではないでしょうか。つまり、彼らは核無効化装置なるものを真実開発して、それをミサイルに積んで、わが方の核基地の核弾頭を無効化したのではないでしょうか。私が受けた報告では、いずれの基地も敵のミサイルが近傍に落下しております」


「と言うことは、わが国の核兵器は全て無効化されたということか?そ、そんな馬鹿な!まて、しかしまだ、艦船と潜水艦のミサイルがあるぞ」


「ええ、潜行している潜水艦のミサイルの弾頭は生きているでしょう。しかし、艦船を含めてそれ以外の核弾頭は全て無効化されたということです。残念ながら、わが国は兵力こそそれなりですが、核以外の兵器の質が、NATOなどに遥かに及びません。多分衛星国にすら及ばないでしょう。


 その状態で敵の都市を潜水艦の核で焦土化したら、どのような報復を受けるか。それに潜水艦の攻撃もその核無効化装置のために無駄かもしれません。うーん、多分無駄でしょう。

 大統領閣下、ここにおいては提言します。閣下の出された、全ての核ミサイルによる全方位攻撃を取り消してください。核弾頭なきミサイルを撃っても、旧型が多いですから大部分が迎撃されるでしょう。さらに敵の都市に落ちても被害は知れており、ただ相手を怒らすだけです」


「き、貴様、例の10発以外のミサイル発射の報告がないと思ったら、お前が止めておったな。うーむ、しかし。よし、いずれにせよ、これ以上のミサイルの発射は止めよ。さらに、西側の情報を集めて分析し、今後の方針を決める」


 ボロドフの半白の口髭が震えるのを見ながら、必要な連絡をするケレンスキーであった、しかし内心『耄碌じじいが!』と罵っていた。彼も、西側の発表はフェイクであると思っていた。しかし、核攻撃を食らう覚悟で、本当に我が国にミサイルを放ったということから、彼らのいうことは本当であると思い始めた。


 核兵器は使ってはダメな兵器である。都市を完全に焦土化して、多数の人々を焼き殺し後に何も残らない。占領して奪うものもないのだ。後に残るのは何世代に及ぶ深刻な憎悪であり反目であろう。


 人々は凶悪な核兵器を自らに使われることを恐れる。従って、核兵器を持って使えるということは、極めて大きな権威になるのだ。あの乞食国家の北朝鮮が、それなりに国家のまねごとをしておれるのは、核を脅しに使っているが故である。


 我が国だって、核兵器を脅しに使っていなければ、ウクライナの占領地域は全て返して、かつ莫大な賠償を取られただろう。その代わりに西側からの締め付けと完全な孤立が続き、わが国は遅れた貧しい国になっていっているが。そもそも、このくそ親父のような馬鹿が権力を握れること自体がおかしい!


 頭が沸騰する思いのケレンスキーであるが、なにもしない訳にはいかない。

「大統領閣下、潜水艦も含めて核攻撃は停止を命じました。後はいかが致しますか?」

 口髭を噛む相手からの返事は返ってこない。


「では、全軍に出しての動員令は解除します」

「な、何だ!軍は負けを認めるのか?」

 ボロドフは怒りの表情で怒鳴るが、ケレンスキーは平然と言い返す。


「はい、認めます。我がロシア軍には、すでに核兵器しか戦力がないと言っても過言ではありませんでした。閣下の前任の大統領が、通常兵器による愚かな戦争で戦力をすり潰し、しかも我が国が通常戦において劣った存在であることを世界に明らかにしました。


 この状態において、核無効化などのものが出てきた訳ですから、すでに勝てる要素はありません。後は閣下に退場頂き、西側に受けのよいアジドフを担ぎ出して、西側と和平をするしかないですな。我が国は全国土に渡って攻撃を受けて、効果のあるすべての兵器を失ったのですよ。すでに敗戦国です」


「このー!おーい、衛兵!こいつを牢にぶち込め!」

 ボロドフの叫びに3人の衛兵が入ってくるが、ケレンスキーは平然としている、彼が顎をしゃくったのを確認して、ボロドフを2人で抱え込み連れ去る。

「衛兵、なにをしている。牢にぶち込むのはケレンスキーだ」

 ボロドフは騒ぐが衛兵の拘束と連行は止まらない。


 日本政府の閣議は、日付が4月13日に変わった夜中の2時に一旦終えて、朝9時から再開した。やつれた顔の山根官房長官が、寝不足の顔を揃えた閣僚に言う。

「朝からご苦労様です。総理の言われたように、歴史は大きく動きましたな。多分、多くの日本国民が寝不足だと思いますよ。ああ、まず、軍事については統合幕僚長をお呼びしましたので報告願いましょう」


 官房長官の指示を受けて、寝不足で目は血走っているが、軍人らしくキリっとしている来栖幕僚長が、一礼して立って話し始める。

「はい、まず、ロシアから発射されたミサイルと、欧州と日本の迎撃についてはすでにご報告した通りです。欧州は破壊した破片でそれなりに被害が生じていますが、わが国は洋上の位置で亜宇宙において破壊したお陰で被害は生じていません」


 その報告に閣僚連は頷く。それを確認して、来栖は話を続ける。

「また、米軍とNATO軍によるロシア本土及び洋上への核無効化措置ですが、潜行中の12隻の潜水艦を除き、措置は完了したとの報告です。結局、ロシアは10基のミサイル発射後はミサイルの発射などの行動を起こしていません」


「ああ、来栖さん。てっきりボロドフ大統領は報復に世界中にミサイルを撃つと思ったが、違ったのかな?」麻山財務大臣が口をはさむのに、甲斐外務大臣が応じる。

「その点は、大使館から昨晩に報告がありました。ロシアで政変が起きたようです。来栖さんもご存じですね?」


「ええ、牢に入っていたアジドフ元首相から、アメリカ大使館に連絡があったようです。ボロドフ大統領は、すでに拘束されているそうです。軍と治安機関はアジゾフ氏を立てて、新たな政府を立てて西側と融和に転じるようです」


 来栖が咳ばらいをして、報告を続ける。

「それと北朝鮮ですが、把握していた5か所のミサイル基地と弾頭の格納庫は、3型を積んだアメリカのB2爆撃機で上空を飛んで処置しました。その際に、怪しいと見られていた地点の上空も飛んでいます。

 北朝鮮の場合、国を閉ざしているので場所の把握は難しいのですが、把握していた5ヵ所のうち4か所では反応がありました。もし残っていても、一番危ないソウルは2型で守られているので、大丈夫でしょう」


「うん、来栖さん有難う。まあ、これで最大の難物だったロシアと北朝鮮の核は片付いたわけだ」

 官房長官の言葉を引き取って、麻山財務大臣が言う。

「残った核保有の敵対国家は中国だね。さて中国がどういうリアクションを取るか?どう、甲斐大臣、外務省の読みは?」


「難しい所ですな。あるいは、沈黙の上で、これから起きる世界の核発絶の動きに乗ってくる可能性もあると見ています。結構彼らは、通常兵器に自信を持っていますし、元々他が持っているのに、自分が持っていない状況を看過できないということから、国際圧力を振り切って整備しましたからね」


 甲斐の回答に麻山が付け加える。

「それに、もはや脅しの相手として見ていた、日本、韓国には核は意味がありませんし、インド、東南アジアにも早晩無意味ですからな。もはや核兵器の意味はなくなったね。ところで、核無きロシアはどうなるかな。あるいはどうするのかな?」


 麻山の言葉に小牧経産大臣が応じる。

「うーん、ロシアはウクライナという大きな負の資産があるからね。これから苦難の道だと思うよ」

 これに、甲斐外務大臣がコメントする。


「ええ、多分領土は毟られますよ。差し当たってウクライナの東部は確実ですし、多分少し古い時代に奪った領土も賠償に譲ることになるでしょう。フィンランドなんかも返せと言うでしょうね。我が国も違法占領されている北方領土は返してもらいます」


 さらに、麻山財務大臣が言う。

「だけど、北方領土なんかは、ロシアにとって負の資産だろう。ウクライナは別かもしれないが、あの1億5千万の国民であの広大な国土を使うのは無理だよ。だから、コンパクト化して、効率よく国土を使えばもっとロシアは豊かになると思うな。そもそもロシア人は領土に拘りすぎだ」


 それに対して、相川文科大臣が自分の持論を述べる。

「ええ、私もそう思うな。また、思うにロシアの最大の問題は、彼らが共産主義のくびきの犠牲者ということだ。本来そうじゃないはずだが、共産主義というのは上位下達、上が絶対で議論を許さない。このために、相互監視がないから容易に腐敗が生じる。さらには、人材が育たない。

 あれだけ、国土と資源があって人口も多いのに、今後の進歩の糧であるICTに全く乗れていないというのはその表れだよ。だから、少なくともロシア流の共産主義を滅ぼさないとあの国の将来はない」


 そこで話が逸れたのを是正しようと、山根官房長官が手を広げて言う。

「まあまあ、討論会ではないのですから、その辺で。差し当たって首相が、国民に状況を説明しなくてはなりません。ロシアの政変を除いて、すでに報道されていますから、この政変の件も含めて、顛末と今後の国の方針を総理に発表してもらいます。だから、ここでその内容を揉む必要があります」


「まあ、そうですね。だけど、今日のところは、総理の昨日の談話の続きで、先ほど話にでた結果と今後の核廃絶の道筋の確認でいいのでは。ロシアでさえ手を上げたのですから、核廃絶の後戻りはないでしょうよ。ちょっと心配なのはアメリカと中国ですが、甲斐さん大丈夫ですよね?」

 春日防衛大臣が応じ、そこで出た質問に甲斐外務大臣が応じる。


「ええ、間違いないと思います。アメリカは、大陸間弾道弾の大規模なリプレースを迫られており、莫大な予算が必要なのです。それで議会で揉めています。それに、通常兵器では彼らは絶対の強者ですから、軍事力世界一はより鮮明になります。


 もともと、核兵器は貧者の兵器と言う側面があるのです。北朝鮮の僅かな数のそれが大きな力を生んだことは否定できないでしょう?それに中国は先ほど言いましたが、自主的に放棄する可能性が高いと思います。もし、しなかったらアメリカお得意の、脅しか嵌めて因縁をつけてのミサイルによる無効化ですね」


「であれば、問題ないですね。核は嫌な兵器だと私も思いますよ。早く核廃絶にしてほしいです」

 春日防衛大臣の言葉に続き、小牧経産大臣が意見を述べる。

「これで、強面のロシアの現体制は崩壊するわけですよね。その場合、どう見てもシベリアはロシアにとって持て余す存在になると思うのですよ。実はうちの省にもシベリアのそれなりの立場の人から、結構真面目なオファーがあるのです。


 要は日本に出てきてくれということです。彼らもロシアの体制は崩壊間近とみていて、その前提で日本の最近の数々の開発を知っていて期待している訳ですよ。一部の製品は持ち込んでいますからね。シベリアは資源の宝庫と言いますが、どうも公表されている以上にあるようです。

 エネルギーでは、問題なくなった日本ですが、まだ資源についてはネックになっています。これは、乗ってみる手はあると思いますよ」


「うん。小牧さん、いい話ですね。それについては、また次の閣議で揉みたいので具体的にペーパーに纏めておいてほしいですね。今日のところは、これで国民の前で昨日から今日の話をしておきます。

 それにしても、わが国では被害が出なくて良かった。まったく、自衛隊の努力のお陰だ、会見でもよくその活躍を伝えておきますよ」

 高井首相が春日防衛大臣に向けて軽く頭を下げ、春日が頭を下げてそれに応じる。



2025年、11/27文章修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ