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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
15/54

1-15 加速するR情報の実用化、電子バッテリー及び熱供給システム

大変勝手で突然ですが、カテゴリーをSFの空想科学に変えます。

最初から、ファンタジーはどうかなとは思っていたのですが、内容がやはりSFかなと思いして。

元来SFファンなのです。

読んで頂いてありがとうございます。

誤字脱字の指摘を有難うございます。


 2029年春の段階では、電子バッテリーは、すでに㈱湯治電池において既存工場内に作られたラインで量産化に入っているが、バッテリー本体はまだ日産千基レベルである。しかし、新しい生産は閉鎖した電気メーカーの大きな工場をつかって、最大日産15万基の工場を建設中である。


 励起設備は、試作された湯治電気の工場内に設置されたものを改修して半自動化して用い、これにより製造されたバッテリーを励起して、日本及び海外の核無効化装置のバッテリーの供給や自動車メーカーの新車開発のために出荷している。


 だが、そのほかに現場での再励起が必要であるということで自衛隊、米軍、NATO軍などから緊急の要請があって励起設備を組み立てて送り出した。日本においては、自衛隊の朝霞駐屯所が核無効化装置の組立・配備ステーションになっているので、ここに励起設備が設置された。


 これらは、手作業を多用して1日百基程度を捌けるレベルの設備であり、自動倉庫機能を持った工場ではないため一部屋に収まる程度のものある。本格的な励起工場は、第1工場が埼玉に作られて、試験操業が行われた結果、問題点の洗い出しがほぼ終わったので、現在建設の発注が行われている。


 これは、経産省の肝いりで全国212か所の建設個所の選定がされた。また、さらには建設・運営を行う「DRUC社:電子バッテリー励起運営会社」が設立された。これは政府・自動車メーカー・湯治電池などの共同出資の会社であり、励起工場の早期建設のために設立された。


 建設は1年とされているので、1年後には日本のあらゆるところで、電子バッテリーの励起が行うことができるため、それを積んだ車の販売を行うことが出来る。一方で日本の自動車メーカー全てが、現在電子バッテリーを搭載する乗用車・商用車とトラック類の開発を行っている。


 各種トラックについては、車体そのものが高価であるので、モーター・電子バッテリー交換のユニットが開発され、一部で生産も始まっている。乗用車・商用車は、エンジンの代わりにモーターが必要だが、燃料タンクと車載バッテリーの代わりに、小さな弁当箱程度のバッテリーが搭載される。だから既設車の小改造では追いつかない。


 このように基本的に車体は小さくなる方向になり、かつバッテリーの価格は150㎾hで1基が12万円であり、2基設置して1基が空になったら交換となる。24万円のバッテリーで、燃料タンク、車載バッテリーの代わりになるので、価格は安くなる。


 従来の2千㏄以下の通常の車は、基本的に100㎾以下のモーター駆動なので容量150㎾hのバッテリーで十分であり、高級車あるいはスポーツカーは最大220㎾のモーター積むので、150㎾以上のモーターを積む車は基本的に300㎾hのバッテリーを積んでいる。


 普通の乗用車は基本的に容量150㎾hのバッテリーを積んで概ね500㎞~700㎞走る。2基のバッテリーを装着しているので、2基ともフル充電であればその1.5倍は余裕で走る。ちなみに、大型トラックは300㎾hのバッテリーを装着して、乗用車以上の距離を走る。


 自動車メーカーは、だから低価格路線と中高価格路線を2分化したが、幅はそれほど変えられないので、長さが短くなっている。また、これらの条件で普通車を設計していくと推進システムで異なるのはモーターのみである。だから、その小さい価格差を考えれば軽自動車相当の車を作る意味はない。


 このことで、概ね各メーカーの中級車は100㎾や75㎾、低価格車は50㎾に統一して、内装や電子機器の搭載などで差をつけることになった。ちなみに、これも経産省が主導して、全国で500台の既存のEV車のバッテリーのみを交換して運行試験をして不具合の洗い出しを行っている。


 ところで、励起工場の建設の主導もそうであるが、各メーカーの新タイプの車の設計を経産省が旗振りをして精一杯急がせた。如何に日本政府が脱石油を急いでいるかが、この一連の行動を見たら解る。

 これは、何しろ燃料油の輸入額は年に28兆円に達し、年に10%の値上げがされようとおり、5年後には買えないという事態が予想されているのだ。


 だから、経産省・国交省は自動車のみならず、船舶、航空機も燃料使用を止めて電動化しようとしている。船舶は、小型は電子バッテリー、中大型は電子抽出型発電機を搭載し、航空機は電気で動く重力エンジンの開発の促進が渇望されている。


 加えて、家庭・各種工場の石炭・石油・ガス燃焼ボイラ―等については、5年以内に禁止する方向で動いている。これは、電気による熱システムに切り替えるようにとの話である。この中で問題になるのは、大量に必要になるモーターであり、電力を熱に変えるヒーターなどのシステムである。


 経産省所轄の産業技術研究所のエネルギー室長の城山真紀は、R情報から画期的な石油エネルギー脱却技術が生まれていることに注目していた。その結果、電力の確保については、今後問題なくなる見込みである。一方で鉱物系燃料を不要にするために、今後ネックになるのは銅線を巻いて作るモーター、ヒーターのための抵抗値の高い金属を用いるヒーターの原料確保である。


 それらは、R情報ではすでに解決されているのではないかと彼女は考えた。そこで、大臣室を辿って涼に連絡をとったが、彼は忙しく対応できないということで、R情報にアクセスできる彩香を紹介された。


 彩香は涼が様々な開発で活躍していることは当然知っており、羨ましくもあり、またその疲れた様子に気の毒でもあった。彼女は基本的に家での勉強はしないので時間はある。中学では部活とネットサーフィンに時間を使っていたが、高校では部活は止めて前から興味のあったR情報を読み解きにかかった。それには、技術の停滞期が半分程度はあったが、300年間の人類の英知の進歩が示されている。


『ほうほう、意外に人の生活スタイルは変わっていないんだ。つまり、生活に係わる進歩・開発は余りないのだね。やっぱり目につくのは、結局『触媒回路』からみの開発だね。やはり、200年後の触媒回路の開発が人類の進歩のきっかけになったわけだ』などと、R情報を自由に閲覧できる立場を満喫する彩香であった。


 彼女は情報を自分なりに整理して、2028年暮れには内容を概ね把握した。そこにタイミングよく城山真紀のアポが入り、R情報発の開発に係わってみたかった彼女はすぐに応じた。彼女が出歩くのは、余り好ましくないので家の近くの応接室に相手を呼んだ。


 そこは、涼関係の来訪者が割に多いことから、日向家として自宅に近いビルの1室を応接室として借りているのだ。むろん、防衛省の関係諸施設の檻のなかにある。城山は45歳、理系のキャリアであり、中背であるが色白ですらりとした美人である。同じ年の総務省に勤める旦那と8歳の息子がいる。


 城山は、部下の柿本誠司という大柄だが地味な感じの部下を連れてきている。彩香はいかにもキャリアウーマン然とした城山を素直に素敵だと思った。また、横にいる柿本が兄の涼を思わせ、ほっこりした。つまり、初対面の相手に好意を持ったのだけど、こういうのは大事だよね。


 母の綾子が立ち会っているので、例によって名刺を交換する儀式を行う。彩香は持っていないが、受け取りはする。その後挨拶を終えて、城山は早々に要件を切り出す。

「早速ですが、彩香さんはR情報と言われるデータベースにアクセスでき、その研究をされているとお聞きしましたが、そういうことでよろしいのでしょうか?」


「はい、そうですね。その通りです」

 彩香が応える。

「であれば、ご相談したいのです。ご存じの通り、現在我が国では、電子抽出型発電システム、電子バッテリーと呼ばれる実用化がすでに終わり、その量産・普及にかかろうとしております。そして、それらは石油などの燃料消費を削減するのに大いに役立ちますが、それでは不十分です。


 ご存じのように、石油はすでに確認された資源量が減少に入って久しく、そのための思惑買いもあって急速に価格が上昇しています。石炭は資源量にはまだ余裕はありますが、石油につられる形でやはり値上がりしています。さらには、石油・石炭、天然ガスも二酸化炭素の発生源でして、地球温暖化防止のためには是非とも使用量を減らす必要があります。


 だから、我が経済産業省は是非とも、鉱物系の燃料使用量の削減というか、使用をゼロにしたいのです。そこで、問題になるのは、電子バッテリーによる自動車の駆動の場合は使用するモーターで、その巻き線に使っている銅の資源です。世界の全ての車をEV車にした場合、必要な銅を確保することは困難とされています。


 また、石油・天然ガスや石炭は家庭や工場などのボイラーで大量に使われていますが、さらに、鉄を始めとする精錬には石炭が使われています。これらの熱源は電力にしたいのですが、基本的には高周波または電気抵抗が大きい合金によって熱を出すヒーターが使われます。そして、それらの合金にはレアメタルを使われているので、その資源量と価格が問題になります。


 先ほど言ったモーターに関しては、現在でも銅の巻き線の代わりにアルミを使ったものが出来ています。ただ、腐食とか効率が低いとか、むしろコストが高いといろんな問題があるようで、普及には少し時間がかかるようです。しかし、R情報には完成形があるのではないですか?」


「ええ、そう言えばありますね。アルミの合金による鋳造ですから、材料費は別として製造コストは圧倒的に安くなるはずですよ」

 あっさり言う彩香に、城山と柿本は「「え!」」と言って一瞬呆ける。


「そ、その合金の成分というのは、レアメタルを含んではいないのでしょうか」

「えーと。ジュラルミンと同じ成分でしたよ。銅と亜鉛とマグネシウムでうーんと割合は数%だったかな」

「そうですか。それは是非今後作られる電子バッテリー適用の車に使いたいものです。なにせ、銅の資源量が9億トン、アルミが300億トンですからね。そして、銅は需要が多くて価格がどんどん上がっています」


 興奮に顔を少し紅潮させた山城は、表情を改め再度尋ねる。

「先ほど言ったように、熱源としての鉱物性燃料の消費も極めて大きい訳ですが、電力を通じてヒーターを使うのではなく、電力を熱に変換する効率の良い方法はないのでしょうか?または、電子抽出のような形で原子から直接熱に変換する方法ですね。何かありませんか?」


「そう、基本的には高周波による熱発生を使っています。ヒーターは殆ど使われていないですね。高周波は必ずしも効率は良くないですが、電子抽出型の電源であれば、さほど気にする必要はないでしょう。様々なタイプがありますから、それぞれに使い勝手のよいものを選べば良いと思いますよ」


「な、なるほど、それでそのデータは頂けるのでしょうか?」

 それに対しては、彩香が母を見て、それまでの、会話を静かに聞いていた母の綾子が応じる。


「ええ、管理者の息子の涼の了解を得て、情報セキュリティのアドバイザーを務めて頂いている、防衛中央研究所の法務部とも協議しますが、基本的には大丈夫のはずですよ。だけど、それは組織つまり、産業技術研究所への貸与をするということですが、そのための契約書も残します。


 これは情報のやり取りの手続きですが、少なくとも情報を海外を含めて金に換えるなどをしないためです。また、お渡しする方が、それが実用化に繋がるためにちゃんと行動してもらわないと困ります。これは城山さんの場合はその情報を受け取って、それをどうされるかをここで伺います」


「ええ、まず頂く情報については研究所に属しますが私が管理します。そして、まずやることは頂いた情報を読む解くことで、それぞれの用途に使える技術とその実用化方法を整理します。

 ただ、先ほど聞いたモーターに関しては、電子バッテリーを搭載する車に使いたいので、超特急の実用化が必要と考えています。だから、これについては、とり急ぎこちらで資料の内容を把握できれば、すぐさまモーターメーカーを呼んで試作に入りたいと思っています。


 また、他の熱利用ですが、まず用途ごとに適用できる技術を整理します。そして、目途が付いたものからメーカーを呼んで実用化を進めていきます。いずれにせよ、他の事例と同様に実証試験機をまず組み上げて、ユーザーに周知して実用を進めます。


 実用の目途が付いた段階で実施を強制する法制化、補助金制度の創設を行います。しかし、実際には強制しなくても歴然としたメリットから、事業者は変換を実施するしかないと思います。ただ、国としては設備投資への補助金、これ借款でいいでしょうが、それとは別に償却の住んでいない設備への補助は必要でしょう」


「ええ、解りました。十分信頼してお任せしてよろしいと思います。そうね、彩香?」

 綾子の言葉に彩香は大きく頷く。

「ええ、勿論。これから大変でしょうが、頑張ってください。私は、皆さんと同様にこの情報だけが頼りですから、生じる問題の解決のお手伝いを出来ないと思います。ただ、関連するものでこうした情報は欲しいと言うことがあれば、相談に乗れます。また、困った点は兄に聞けばわかるかもしれませんから、その場合は相談してください」


「ええ、その場合にはお言葉に甘えます。それと、この情報のロイヤルティの件ですが、この情報は公知のものとして扱うということでよろしいのですね?日向家の皆さんの権利主張はされないと」

「はい、私共としてはそれで結構です。ただ、様々な技術を実現に当たって、私共が動いた人件費は頂くということです」


 そこに柿本が口を挟む。

「でもよろしいのですか?この情報の権利を主張すればノーベル賞だって取れるでしょうし、ロイヤルティを主張すれば莫大な富が得られますよ」


「ええ、この情報については、わが家の者は単に紹介しただけですので当然です。それに大きな財産があるより、皆が健康で元気に働くのが一番です」

 綾子は笑顔でそう言うが、心の中では懺悔する。


『涼の情報で株の莫大と言っていい収入があるし、マキノ工機や大山製薬からのロイヤリティはちょっと言えないわ。なにか、涼に似た彼は感激しているようだけど、ちょっと心が痛むわね』


 このように、またしても経産省主導でR情報による諸システムの実用化が始まった。中でもアルミ鋳造モーターについては、急遽開発が決まり、新型車への適用が決まったが、当然新型車の設計試作に係わる訳である。また、大きなコスト減になることが確実で採用は避けられないことから、追加の作業が必要になったメーカーの技術者は髪を掻きむしったと言われる。


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[気になる点] 》 各種トラックについては、車体そのものが高価であるので、モーター・電子バッテリー交換のユニットが開発され、一部で生産も始まっている。乗用車・商用車は、エンジンの代わりにモーターが必要…
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