1-14 加速するR情報の実用化、核無効化装置と電子抽出型発電システムの実用化
誤字脱字の指摘ありがとうございます。
楽しんで頂ければ幸いです。
核無効化装置は、当初の予定通り3つのタイプに分けられた。1つめの1型は、ミサイルに積んで基地にある核を無効化する攻撃型であり、径30㎝で長さは1.2mの空間に収まるように計画された。1型は最も数が多く、第1生産段階では5千ユニットを製造する。
これは、自衛隊への供給は500ユニットのみであり、他は米軍とNATO軍に供給される。実証実験の段階ではユニットに装備するバッテリーが出来ていなかったが、2029年初には湯治電機から150㎾hの出力のバッテリーの必要数は供給されている。
また、2型は迎撃型として地上置きであり、有効範囲が半径100㎞にもなるため、5m×5mの部屋が必要であり、5万㎾の電力供給が必要である。これは、当初は外部電力による給電を考えていたが、電子抽出型の発電機の実証を受けてこのタイプの専用の発電ユニットを備えることになった。
この設備は、基本的に自衛隊の諸施設、やむを得ない場合はその他の公共施設に設置することして、ある程度の人口密度の地域をカバーする全国52ヵ所を選択した。この施設は、世界から核兵器が無くなれば意味のないものになるが、攻撃型が他国頼りになる以上は、自己防衛にすべきということになったのだ。
それに、建物は既存のものを使うために、一か所の費用は5億円足らずであり、国民の生命財産を絶対的に核から守れるとあれば、『安い物』という閣議の結論であった。だから2型は、予備を入れて製作数は60基として製作が急がれた。
また、航空機に積んでパルスを投射する3型は、半径30㎞をカバーするが、レーダーなど電子機能が充実しているP-1ジェット哨戒機に積むことになった。これは基本的に2型の穴を塞ぐものであるため、現在配備されているP-1 40機のうち20機に配備する。だから、3型の製作数は予備を入れて30基である。
ただ、2型はアメリカと米仏独も都市防衛用として欲しがっており、3型は米軍とNATO軍が要求している。その要求数は、2型で250基であるが、2型は製作に時間を要することから説得して、3型の200基のみを緊急にそろえることになった。
このように第1次の製作数は、1型8千ユニット、2型60ユニット、3型230ユニットであるが、それぞれに全力で生産にかかった。組立の場所は防衛産業の2番手である、㈱石場重工であるが、心臓部のパルス発生機の製造者は中央研究所での試作から協力している丸住電気㈱である。
どちらも従来から防衛装備品の製作を行っており、セキュリティ面では問題ない。
また触媒回路は中央研究所の工作棟内で作られることになり、マキノ工機から制作に必要な工作機械を購入して設置し、指導員を呼んで製作の手法を研究員が身に付けた。つまり、核無効化装置の触媒回路の製作は防衛省で内作するということである。このための3種類の回路については、涼の指導で描いたものを使っている。
2029年春の段階で、日本では2型と3型の核無効化装置の製作と設置が完了し、少ない核物質対象であるが実証試験も終了した。日本に対し100基、NATOに200基、アメリカで500基のトマホークミサイルに1型の装置が装備された。これで『最小限』の準備ができたことになる。
現状で、最大の脅威と見られているのはロシアであり、核を使うと公言しているボルドフがすでに政権を握って、EU及び周辺諸国を始め世界に向けて恫喝を始めている。これは、ロシアへの世界からの締め付けさらに無視により、経済の落ち込みとハイテク製品が入って来ないことなどによって市民生活の質が落ちていることが原因になっている。
このため、国民感情が荒れてきていて、外に向けて感情をむき出すようになってきた。その状況からボルドフ大統領代理の過激な言葉が人気を得るようになっている。こうなった原因は、ウクライナ侵略によって西側の企業が大部分逃げ出し、残るは中国のみと言う状態になった。
そして、ウクライナから手を引いたといっても、核の脅しで東部の占領地域はそのままになっている。さらに、100兆円を要するという復旧にはロシアはまったく関与しようとしない。それどころか、実際のところ戦火に破壊されたウクライナ東部のロシアの占領地域の復旧は手つかずである。
このため、世界からは当然もっと孤立し、さらにこの地域のロシア系住民と言えど、ロシアに対して怨嗟の声を挙げている。とは言え、ロシアにそのような復旧にかかる余裕は全くない。基本的にロシアはソ連時代にそれなりの工業国であった。しかし、それは少数のエリートの設計した単一のものを、大量に作ることに特化していた。
基本的に、共産主義という仕組みは極端な上意下達である。下の者は上の言うことを聞いておけば良いという、社会的ルールに縛られている。これは、ソ連時代には例えば種類の少ない戦車や兵器を大量に製造するにはうまく機能したが、衆知を使えないソ連~ロシアの技術水準は世界から置いて行かれた。
現実に、ロシアはICを始め、情報通信のパーツや本体を殆ど作れず輸入するしかない。その代わりに輸出できるのは石油・天然ガス、鉱物、木材などであり、全くの途上国型になっている。中国は門戸を開いていると言っても、中国自体が世界から孤立しつつある中で、世界から孤立した『途上国』ロシアは、必須の民生品にも事欠くようになっている。
つまり、どんどん貧しくなり遅れていっているのだ。この中で、あの全く大義のないウクライナ侵略を全体としては支持した民意はどこを向くか。要は、追い詰められた人々は、核を使っても欲しい物を取るという方向を向いており、それをボルドフが代表している形である。
彼の目は、差し当たって現在西側の援助で復興著しいウクライナ再侵略に向いており、米CIAの分析ではまず核を使ってある都市をせん滅して、住民を追い出すという行動を取ると見られている。その際にはEU、日本、イスラエルなど、全方向への核の脅しを行うだろうと言う。
まさに、ヒロの歴史の実現が近づいている形である。しかし日本については、すでに迎撃型の無効化装置でほぼ十分に守られているので、すでに歴史が変っている。また、EUについては、2型と3型で迎撃態勢を整えるまでは、行動には踏み込まないという意向である。
多数の大陸間弾道弾を持つアメリカに対しては、報復を恐れて手を出さないとのCIAの分析である。また、ロシアは、仮にEUや日本が核攻撃を食らっても、自国への攻撃を恐れてアメリカは反撃をしないという判断をしているとの読みだ。実際に、内向きかつ自国主義に陥っているアメリカをみると、その読みは正しいようだ。
アメリカとNATOが計画しているのは、長距離ミサイルによるロシアと北朝鮮の核兵器の無効化である。しかし、それは相手の領土にミサイルを撃つという戦争行動を取る訳で、大義名分が必要である。また、日本は憲法の制約上それはできないから、迎撃型で守っているのだ。
ついでに中国の核兵器も片づけたいのであるが、中国は表向きでは、あくまで『防衛のため』としか言っておらず、『攻撃』を公言しているロシアや北朝鮮とは異なる。つまり中国に対しては大義名分が立たない。
一方で、西側はロシアのボルドフの言動または何らかの行動によって、それを非難してそれを大義名分として、『攻撃』に踏み切る訳であるが、ロシアはその迎撃とともに全方位的に攻撃に踏み切る可能性がある。だが、実のところ、核については進んでいるロシアの迎撃能力は低いと見られている。
なにせ、ICTが全く遅れているのだ。そのロシアのレーダーシステムと、その情報を使って迎撃の指令、さらに的に向かって発進させる戦闘機または迎撃ミサイルへの適切な管制など、ミサイルを撃ち落とすほどの精度を出せるはずはない。つまりロシアの兵器体系は攻撃に特化しているのだ。
だから、米軍とNATOは判明しているロシア国内とベルラーシの88ヵ所の核ミサイル基地、及び爆撃機に積む核爆弾の12か所の格納庫の核弾頭を無効化することは難しくはないと考えている。つまり、トマホークミサイルをその10㎞以内に通過させればよいのであるが、その間に撃墜される可能性は低いということだ。
また、こうしたミサイル基地や核爆弾の貯蔵所の場所は、3重4重の情報源から得た情報で確実とされている。汚職が蔓延している共産主義国家では、どんな情報も金次第で得られる。
ただ、問題はミサイル攻撃を思わせる無効化装置を積んだミサイル発射によって、ロシアが本格的にEUなどに報復攻撃を行う可能性である。ロシアから飛来するミサイルは、トマホークで迎撃することで無効化できるが、10㎞以内に到達してパルスを照射できる確率は90%程度とみられている。
その意味では重要な地域は2型で守りたいし、3型を航空機に積んでミサイルに近接することでより確実に無効化したいということだ。万が一人口密集地に核ミサイルが落ちたら、数十万の犠牲者が出るので、慎重になるのも無理はない。従ってEU諸国に2型と3型がある程度配備するまでは、待つということになっている。
その間日本では1型、2型、3型の製造が全力で続けられている。なお、1型の各国への売値は1基当たり5千万円、2型が10億円、3型は5億円であり、十分ぼったくっているが、効果に比して安いと喜ばれている。ちなみに、こうした配備を進めていることは、非常に高度な体制で秘密にしている。
核無効化装置の配備が進んでいることが漏れて、体制が整わない内に攻撃が始まることは絶対に避ける必要があるからである。
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一方で、日本の国益に大きく係わる電子抽出型発電システムは、すでに既存の発電所に設置が始まっている。最初は老朽化が進む東京都の浜町火力発電所の48万㎾の発電機の代わりに、50万㎾の発電機が設置された。その時点では、マキノ工機にある実証機を含め、四菱重工の3基の発電機がすでに4ヵ月以上問題なく動いていた。
浜町では変電設備、送電設備、監視制御設備は既存のものを使うので、場内の空地への10m×20m×高さ3mの新設50万㎾の発電機の設置のほか、監視制御設備の改修が殆どの工事であった。この場合は、既存の発電機は当面撤去しないで、新設発電機を設置するものである。このために、監視制御設備の大幅な改修が必要になる。
費用としては、新設発電機より制御装置の改修の方が1.2倍費用を要したくらいで、工事期間はこちらが2倍以上要している。だが、火力発電所を更新するよりは1/5程度の費用で納まっている。しかも、更新の場合には新設発電機は敷地に収まらないので、建設期間は発電を停止する必要がある。
浜町発電所の改修に要したのは、実質5か月であり、すでに1ヶ月運転して、細かいトラブルはあったが送電は止めないできている。1ヶ月の運転費の比較がでており、従来の石油炊き発電機の場合が、13円/㎾hであったのものが、2.3円㎾hという結果であり、東電の関係者の間で快哉が沸いたと言う。
この浜町のケースをたたき台にして、経産省は全電力会社の発電所の交換にGOの指令を出している。むろんそれに先立って、各電力会社は発電設備の交換計画を提出している。基本的な計画は、既存の発電所の発電機の交換である。これは、既存の変電、送電設備が使え、配電網を変えなくて済むから当然である。
その意味で、もっとも設置位置として適しているのは原子力発電所である。これらは基本的に人口密集地を避けているが、当然需要地までの送・配電網がある。つまり、浜町発電所と同様に、発電機を設置すれば、基本的に直ぐに発電所として機能するのだ。むろん監視制御システムの改修の必要があるが。
現在全国の総発電能力は、太陽光なども含めて2.7億㎾である。そのうち、現行で最も発電単価が安定している原発の発電能力は約0.34億㎾であるが、過去のある首相の停止命令という愚行のため、まだ半分しか稼働していない。
なお、1昨年2027年の日本の総発電量は2.7億㎾の発電能力に対して、約9,000億㎾hであるので、発電機の稼働時間は3,333時間である。つまり年間の稼働日数は139日であり、年間の38%しか動いていない。これは太陽光・風力など不安定な施設が比較的多いことによるものである。
原発は、比較的長時間継続的に動くということで、優れた発電機と言われているが、定期点検で長期の停止がある。その意味ではこの電子抽出型発電システムは、連続運転を全く問題としないのでもっと優れている。電子抽出型発電システムの普及により、電気料が10円/㎾hを切ると計算されていて、現在の産業用の30円/㎾hの1/3になると予想されている。
その場合には、電気消費量は産業用を中心にずっと増え、1.5倍程度になると予測されている。仮に近い将来の必要総発電量が1兆3500億㎾hとして、発電機の稼働率を75%とすると、13500億㎾h/6570h=約2億㎾の発電能力が必要である。つまり、50万㎾の発電ユニットを400基設置する必要がある。
経産省は2029年度中に、100基つまり0.5億㎾、2030年に150基つまり0.75億㎾、2031年に150機0.75億㎾の設置を終わらせる予定を立てている。結局マキノ工機は、国内向けのみで年間発電機ユニットを150基の製造能力を持つ必要がある。
また、それとは別に、経産省と外務省から、海外向けに同じく150基の発電ユニットの製造能力を持つことを要求されている。大体世界の需要は日本の15倍程度と見込まれることから、日本の整備が一巡した後には、300基1.5億㎾の発電ユニットを輸出可能である。
これは世界の需要が30億㎾とすると、20年を要することになる。
しかし、外務省は電子抽出型発電システムが、余りに既存の設備に対して大きな優位性があるために、他国は20年を到底待ってはくれないと考えている。加えて環境省も、現在の地球温暖化の影響に激化を考えれば、できるだけ早くこのシステムの普及を目指すべきとの強い意向である。
それは一つには、環境面では世界からの評判が良くない我が国の印象を変えたいという目論見からの意見である。実際にこの発電、さらに自動車排ガスを無くすことの出来る電子バッテリーは、二酸化炭素の排出量をドラスチックに減らすことができる。
しかし、マキノ工機の立場から言えば、今年は年間100ユニット、来年に300ユニットの発電システムの供給はどうにか可能である。しかし、そのための投資は莫大であるので10年程の時間をかけて償却したい。一方で、当該発電システムの寿命、つまり更新時期は20年程度後と見込まれる。
すなわち、需要が一巡すれば、工場は遊ぶことになる。その意味で、世界中に例えば5年以内に設置するほどの工場建設はやりたくない。だから、マキノ工機は3千ユニットの工場を限度としたいと回答している。
結果として、国は早くこのシステムを導入したければ、それを要望する国の負担で償却の費用を負うという申し入れをすることになった。
とは言え、その程度の負担をしても、電子抽出型発電システムの導入は有り余るほどのメリットがあることは歴然としている。だから、実際にはほとんどの国が自己負担での工場建設を希望した。むろん数と場所は厳選したが、マキノ工機はその建設に追われることになった。




