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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
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1-10 電子抽出型発電プラントの実証運転

楽しんで頂ければ幸いです。

誤字脱字の報告有難うございます。

 核無効装置の成功については、当分の間は高度な機密事項になることになった。その情報が洩れて、核保有国が使用を焦ることになると困るからである。幸い、装置そのものは規模が小さく、必要な数は1万程度であるため、量産してもそれほど目立たない。


 しかし、それに伴う防衛省内部の熱気と米軍との接触密度の高まりは隠しようがないとの判断から、ダミーのプロジェクトを立ち上げることなった。これは、宮坂空将の示唆もあって、「重力エンジンの開発」となった。嘘でやるより、無駄にならなくて良いということだ。それに、これであれば、防衛省、自衛隊が大騒ぎしても無理はない。


 そのため、電子抽出型の発電システム、さらに超バッテリーの実用化に、核無効化装置の実用化により、涼の提供したデータの信頼性が高まる形で弾みになることはなかった。そもそもこれらは、余りに既存の技術と乖離しているため、資金を投入し人材を集めることの正当性を説得が難しいという問題があった。それで、開発関係者は自分の組織内の説得に助かるという思いがあったのだ。


 とは言え、四菱重工が幹事での実用化は順調に進んでいる。結局、各5万㎾の出力の発電機本体はマキノ工機で作ることになった。これは、シリンダーの表面はマジカル・カッターによる部子レベルの平滑な切断面が必要であるため、実用化した技術の延長で円形のカッターを作ったマキノ工機しかできない。


 さらに、触媒回路は、現状ではマキノ工機でしか作っていない。また、発電体のシリンダーを1000℃に加温して、周囲と断熱する仕組みも、図面と仕様書があるわけであるので、小回りの効くこの会社であれば、製作に不自由はない。その点で、四菱重工は小回りが利かないというか、そもそもそのようなものは外注だよりになるので、試作機を作るのは得意でないのだ。


 さらに、この会社はすでにマジカルカッターという実例があるので、涼がもたらした資料の信ぴょう性を疑う者はいない。マキノ工機における試験機の製作は急速に進み、1.5ヶ月で試験の準備が整った。このことから、マキノ工機が、実際の施設の触媒回路を含む発電機本体を製作することが、なし崩しに決まった形である。


 実際には、10ユニットを組み合わせた出力50万㎾の発電機を、発電ユニットとして組み合わせた発電所になる。それに変電・送電・コントロール設備を組み合わせた全体を四菱重工がアセンブリして、任意の発電所を組み合わせることになる。

 なおこの発電ユニットでは、1ユニットが欠けても50万㎾の発電は可能である。


 さて、2028年7月3日に、マキノ工機の埼玉工場で初の電子抽出型発電機の実証運転が行われた。この時点では、四菱重工のユーザーである電力業界へのPRもあって、業界へこの実用化の話はすっかり広まった。そして、試運転の話を聞きつけて、その立ち合いを要望した人数が1万人を超えた。


 これは、政界、官庁、学会、各種研究所、電力会社さらに各種企業の人々であり、半分は海外からのオファーも含んでいる。

 しかし、とてもそのような多数の相手はしていられないので、経産省に仕切らせ、第1回として国内限定で、電力、大学と研究所を中心に参加者を200人に限って試験運転を行った。政界からは、閣僚限定ということで、経産大臣のみが参加し、官庁は資源エネルギー局長が参加している。


 学会は今まで付き合ってきた学者とその大学は優先的に参加をさせたなかで、当然のように参加を要求したT大学については断りたかったが、経産省が加えてしまった。電力会社はそろい踏みであり、見るからに意欲が他と異なる。電力会社は、燃料費の継続的な上昇の中で、電力費を上げるには国の承認が必要であるために、コストに追い付いておらず継続的な赤字に苦しんでいたのだ。


 この新しい発電システムは、その意味で彼らの悩みをいっぺんに解決できる代物である。そして、それが実現出来ているという確信があった。それは、四菱重工やマキノ工機側が外部のものを招いて試験を見せるからには、当然予備試験を行っている。その結果は知らせていないが、予定通り試験を公開するということは、すでに成功した実績あるはずだという判断だ。


 彼らは、試験に立ち会うメンバーとは別に、チームを作って四菱重工が出した資料から、自分の管内でそれを適用する検討にすでに入っていた。自分の会社の盛衰がかかっているのだから、当然真剣にはなるはずだよね。


 試験機は、立ち会う200人が入場については自由に見ることが出来るようにしていた。残念ながら本体のシリンダー周りは、1000℃という高温を保つ必要があるので、周りは厚さ1mの断熱材でくるみ、熱交換を行って外部への熱の放出を防いでいるため見えない。


 だから、外から見た試験機はステンレスの保護板に包まれた2.5m四方で高さ1.5mの単なる箱である。また、その上に0.8m角の箱があってそこから太い線がでていて、高架の電線に繋がっている。それでは何であるかさっぱりわからないので、透視図的に内部を示した図と、カバーを付ける前の写真が傍に設置されていて、どういう構造かわかるようしている。


 操作・監視は3mほど慣れた所においた机の上のパソコンで行っており、その画面は横においているディスプレイに映されている。参加者の質問には、10人ほどの説明スタッフとのネームプレートを付けた20代から30代の男女が逐次応えている。


 やがて、アナウンスがある。

「試運転立ち合いの皆様、只今より実証試験を始めますので、試験装置の前にお集まりください」

 説明も打ち切り、人々がぞろぞろと集まって来たところで、試験機の前に、作業服姿のさえない中年男性が立って、しゃべり始めた。襟にマイクを留めている。


「さて、本日はこの試運転においで頂き有難うございます。私はこの電子抽出型発電システムの実用化プロジェクトの責任者の三村と申します。今回の試験はマキノ工機さんの事業所で行いますが、これはマキノ工機さんが、発電機ユニットの製作を担っているからです。実際の発電所は、ご存じのように発電機はその一部であり、変電、送電、コントロールなどの施設と組み合わさって機能を発揮します。


 その意味で私と私の会社四菱重工は、発電を含んだ全体の実用化を担っているわけです。とは言え、本日の試験の趣旨は、電子抽出型発電システムという全く新しい発電の仕組みが、事実機能することを皆さんに確認して頂こうというものです。


 このシステムについては、すでに皆さんにお知らせしましたが、銅という金属から殆ど無限に電力を取り出せるというものです。これは、化石エネルギーの枯渇に苦しんでいるわが国のみならず、世界のエネルギー不足を解消できる切る札であると信じています。それを、今日皆さんは見届けられるのです。


 では、このディスプレイをご覧ください。このマークのこの部分にカーソルを置いて、クリックすれば発電システムがオンになります。発電量はこの画面の表の、発電出力のコラムで㎾で示されます。またその下のコラムは、発電量㎾hが示されます。この発電機の実用出力は概ね55万㎾ですので、1時間発電すれば発電量は55万㎾hとなります。


 ただ、実証試験ではわずかな唸り音は発生しますが、火が出るわけでなく、轟音もおきず、単にここの表示値が移り変わっていきます。ただ、発電時に本体のシリンダーの温度は、銅の融点寸前の1000℃に保つ必要がありますので、断熱及び温度交換はしてはいますが、ケースの表面温度は30℃程度です。


 その少し高い温度のみが、発電機らしい兆候であります。その意味では、折角遠路来て頂いたのですが、甚だ見ごたえがなく申し訳ないと、あらかじめお断りしておきます」

 そこで、一部から笑いが沸いたのを確認して自らもほおを緩め、また真剣な顔になって続ける。


「しかし、それが重要なのです。従来発電機と言えば、大量の排気ガス、轟音などと迷惑施設として、周囲の環境を大いに気を使う必要がありました。それが、この新たな発電システムはそれがほぼ全くありません。

 つまり、それこそ住宅地の真ん中にこの発電所を作っても、何ら問題はありません。だから、今後はこの方式の発電所は需要地に近い所に建設されるようになるはずです。


 さて、では実証試験をはじめます。基本的には2時間運転するまでが実証試験とします。とは言え、ずっと見ていても、まったく変わり映えがしません。ですので、あそこに見える棟にカフェテリアを設置していますので宜しければ、食事、または飲み物をお取りください。


 では、画面をご覧ください。今、このカーソルを合わせ、クリックします。それ、オン!

 どうも、迫力に欠けますな。とは言え、すぐには電力は出てきません。大体数分後に定格の2割から3割のところで、ポンと出力が現れるはずです。お待ちください。


 はい、出てきました、最初は1万3千㎾ですね。あとは5分程度で、リニアに増えていきます。………、2万㎾です。………はい3万㎾。………はい4万㎾です。ちなみに、発電した電力は当面は全て電力網に流し込みます。…はい公称の5万㎾です。……はい、ピークですね。5万6千㎾で最大出力に達しました。


 以上で、私の説明は終わらせていただきますが、今は11時15分ですから13時15分に再度2時間後の確認をさせて頂きます。なお、この試験機は、今後このヤマキ工機さんの工場の自家発電機として使われる予定になっています。それではご清聴ありがとうございました」


 話が終わっても半数程度は、まだパネルを見ているが、カフェテリアに行く者、または作業服を来た職員と協議に行く者達が半数ほどいる。電力会社の社員は、幹事会社の四菱重工の係員とそれぞれに協議をするべく、用意された会議室に向かう。


 小牧経産大臣は、西川資源エネルギー局長と生産側の四菱重工とマキノ工機の社員と協議することになっている。涼にも話があったが、出来るだけ露出は避けるということで出席はしていない。このための会議室が用意されて、協議が始まった。この前提として、2時間を待たず、すでに電気抽出型の発電システムが機能するのは実証されたという認識である。


 ただ、新しい設備というものは、不具合の発生はつきものである。そのため現在の実証機はマキノ工機の自家発電機として、連続的に運転される予定であり、不具合がでるならそれで修正していこうということだ。また、1週間後には四菱重工の3つの事業所に同じ装置を自家発電機として設置し、これも不具合の洗い出しに使う予定だ。


 部屋に落ち着いて、名刺交換の儀式と雑談の後に、小牧大臣が口を開く。

「いや、三村さんの言われる通り、運転そのものはあまり見栄えはしませんでしたな。しかし、5万㎾の発電機といえば大変なものですよ。巨大で複雑な装置が大量の燃料を消費しながらごうごう回って、ハア!と見てしまいますが、金もかかるだろうなと思わざるを得ません。


 それに比べると今日見せて頂いた電子抽出型発電機の貧相なこと。見るからにものすごく小さくて単純ですし、運転しても静かで動いているのかどうか分りません。でも、私たちが求めているのは電力なのです。出来るだけ安定して、安く得られる電力です。


 それが立派で見栄えがする発電機から出てこようが、今回の失礼ながら貧相な発電機から出ようが、どっちでも良いのです。しかし、安定して安いという命題からすれば、今日見せて頂いた装置は遥かに優れています。そうですよね?三村さん」


「はい、それは間違いありません。100万㎾の新設発電所で比べると、従来型で最も安い天然ガスの設備に比べて建設費で半分、運転費で1/7になります。㎾当たりの発電単価は1/5です。ちなみに、在来の発電所の発電機のみを交換する場合には、設備費は1/5になります」


 それを西川局長が、身を乗り出して眼鏡を掴みながら半ば叫ぶ。

「本当にそれほど下がるの?そ、それに燃料が要らないのですよね」

「はい、5万㎾の場合には、30㎏の銅シリンダーを10年に1回交換するのみです。また、そのシリンダーは再溶解して再生できます」


 三村とのそのやり取りを聞いて、小牧大臣が話を続けて言う。

「ふむ。西川局長が興奮して失礼しましたが、現在の我が国を取り巻く状況からすれば彼の興奮も無理はありません。皆さんご存じのように、すでに石油エネルギーははっきり枯渇の傾向が見えて、際限なく値上がりしようとしています。

 また、石炭は、気象変動の原因たる温暖化の原因が二酸化炭素とはっきりしてからは、事実上使えず、それも値上がりしています。さらに問題は、石油は供給そのものが滞る傾向が見えています。


 一方で原子力は、比較的コストは安定していますが、これも石油の供給のひっ迫から核燃料の値上げが続いており、まだまだ利用に際して人々の抵抗が大きく、新設はとてもできない状況です。このように、我々政府もエネルギー状況には出口が見えずまったく困り果てているのですよ。


 それでさっきの私の話に戻ると、はっきり言って少々割高でも継続的安定的に電力の供給ができるなら、我々は飛びついたでしょう。それが、このような、設備が従来と比べならないほど、コンパクト、かつ全くの無公害、さらには圧倒的に低い維持費、加えて資源の供給の心配がないときていますからね。


 本当に我が省にとっては夢のような心地ですが、それのみでなく首相を始め我々政府としても大変感謝しています。さきほど首相に電話しましたが、大喜びでしたよ」


 そう言って大臣は言葉を切り、真剣な顔になって正面の企業側に向かい身を乗り出して言う。

「そこで問題は時間です。現在、本当に我が国はせっぱ詰まっているのです。それこそ、1日でも早く今の発電システムをこのシステムに入れ替えたい。是非それをお願いしたいのです!」


「ええ、我々もそう思って、この実証機を作るには無理に無理を重ねてやってきました。大部分はマキノ工機さんの努力ですがね。さらには、発電ユニットの設計に基づいて、それが成功すると信じで製造ラインの設計も進め、資材調達を始めています。


 今日お見せしたように、発電ユニットは設計通り稼働を始めました。しかし、全く新しいシステムが実証を行ったばかりで、その実機を大量に作るというのはとんでもないことです。その意味で、我々は今日の試験機の他に私共の会社に置く試験機を3台準備しているので、少なくとも半年はそれの結果を見て本設の建設に入ろうと思っていました」


 三村の言葉に、西川局長が口を挟む。

「我々もその点は局内で揉んだのですが、そのリスクの話は出ました。しかし、この電子抽出型発電機は極めて単純で、可動部はほとんどありません。従って普通起こる初期故障は殆どないとの意見が大半です。どうでしょう、その点は?」


「ええ、その通りです。私もそのように考えてはいますが、それはユニットを組んだマキノ工機の柳さんに応えてもらいましょう。柳さん?」


「はいマキノ工機の柳です。この試験機の製作のチーフをやりました。とは言え、実際にはこの情報提供者に聞き倒してようやくできたというところです。一方で、私はこの装置に関しては、温度条件を保つための加温や温度交換など、あるいは変電とか従来からある装置が故障・不具合はあると思いますが、本体に関しては殆どないないと思います。だから、今後不具合がでても対応は難しくないように思いますよ」


「そうですよね。であれば、当面既存の発電所の発電設備のみを入れ替えるのです。この面積であれば、50万㎾級でも既存の発電所に面積的には十分入ります。そうすれば、既存の発電機も生きているので、不具合が出ても止めて修理や改修ができます。そういう意見なのです」


「なるほど、ただ、我々は電力会社の人たちともはや協議を始めていますが、彼らは今言われた方向で準備を進めています。一方で彼らは不具合のことはそれほど気にしておらず、とにかく運転費を大幅に下げられるという点に、関心は集中しています。しかし、監督官庁である資源エネルギー局がそのような意向であるということなら、彼らも助かりますよ」


 そのような話で、方向はまとまり、経産省が主導して建設を全力で後押しすることが合意された。また、その後2時間、実証機は問題なく運転されたことが確認されたので、実証試験は成功裏に終了した。ただ、その装置には、その後2ヵ月に渡ったマスコミを含んで多数の視察者を受け入れることなった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告をしているものですが、今までの作品内容や誤字の傾向から想像できる作者様の人物像を勝手に妄想的に推察させていただきます。的外れなこともあるかと思いますが、ひとつよろしくお願いしま…
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