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6.見覚えのある客

 実際、ナディアがどういう形で死者と関わっているのかは不明。その死者のこと自体知らないとか、昔の知り合いが既に死んでいることをまだ知らないとかの可能性もある。


「不用意に真実を明かして警戒されるのもまずいわよね」

「ルイ、お前意外に考えて行動するんだな」

「でしょ? ……ちょっと私のこと馬鹿にしてない?」

「してない。褒めてる」

「そう。レオンの仕事のやり方、なんとなくわかってきたから。慎重に行くべき場面って思ったのよ」

「正しいと思う。具体的にどうすればいいかは、考えてるか?」

「……あのお店の常連客になって、ナディアさんと仲良くなる」

「ありだな。それで毎回店の中で転べば、俺たちになにかあるって感じて霊の話も信じてもらえるようになるかも」

「それは遠慮したいわね。というか、毎回決まってお店の中で転んだら迷惑でしょ。営業妨害よ」


 悪意があるって思われるわけにはいかない。


「そうだな。じゃあ、俺とくっついて動けばいい。転けそうになったら支えてやる」

「いつもそうしなさいよね」


 私よりもずっと背の低いレオンに支えられることに不安がなくはないけど。レオンごと倒れたら、それも嫌だな。


「とりあえず、周りから探ることにしない?」

「わかった。じゃあその方針で。あの人の周りの死者についても調べないと」

「できるの?」

「クリフォードっていう名前がヒントかな。とりあえずここの周りの教会を当たって、そういう名前の死者がいないか調べてみる。ナディアさんの関係者がいるとは限らないけどな」


 レオンは、とある教会に依頼されてネクロマンサーの仕事をすることもある。そこの神父とも親しい仲だし、その神父は他の教会の神父と仲がいい。役に立つかどうかは別として、情報は集まる。


 店主の名前でもないのに、店名に掲げているのは怪しいし。ナディアさんの、亡くなった親しい人の可能性は高い。

 そう方針を決めながらヘラジカ亭まで戻ってきて。


「おかえりー。どうだった、そのお店」

「あー。ええ。おいしかったわ。具体的には、えっと」


 そうだった。新規店舗の偵察に行ってきたんだった。

 私が転んだことを知らないニナに笑顔で尋ねられて、必死に店内のことを思い出した。


 レオンの方が早かった。


「若い女がひとりでやってるらしいから、丁寧な接客とかはできてない。忙しそうだったし。けど本人の人当たりはいい。料理は、めちゃくちゃ旨い。手間がかかってる……だよね、お姉ちゃん?」

「え、ええ。そんな感じよ。あとお姉ちゃん言うな」


 からかってるのか。


「そっかそっか。詳しく教えて。うちの店の参考になるかもしれないし。わたしがというより、兄貴の参考だけどね!」


 私たちのやりとりを慣れたものだと、ニナは笑って見つめながら返事した。


「ふたりとも、楽しいデートだったみたいで何よりだよ!」

「いやいや。デートじゃないってば」

「ねえレオン。わたしもお姉ちゃんって呼んで?」

「えー。嫌だ。なんか恥ずかしい」

「そっかー」

「いや、どういうことよ。私相手なら恥ずかしくないの?」


 てか恥ずかしがってたでしょ、さっき。


「それよりニナ。あのお店に霊がついていた。明日から調査したいから、ちょっと仕事を休む」

「こら、話を逸らさない。重要なことだけど」

「そうなの? わかった。もちろん、ルイも一緒だよね?」

「ニナも。当たり前のように受け答えしないで。疑うか驚くかしなさい。そんなにちょうどよく霊の案件に当たるとか、すごい偶然でしょ。本当だけど」

「良かったねルイ! レオンとデートの続きができるよ!」

「だから! そうじゃないのよ! もうっ!」


 ふたりして私をからかうんだから。

 私なんかより、ニナの方がずっと姉っぽい。やっぱり、一緒にいた時間の長さだろうか。


 少しだけ、ニナに嫉妬してしまった。




 明日からナディアさんの調査をするからヘラジカ亭でのお仕事は控える。だからといって、今日の仕事をサボっていい道理はない。


 ここに住ませてもらって多少なりとも給金も貰っているのだから、働ける時は働かないと。このお店は夕方からの営業だし。

 というわけで私は、厨房にて座って皿洗いの仕事中だ。


 なんで座っているのかといえば、立って仕事をしたらなにかの拍子に転んでお皿を割ってしまうかもしれないから。


 危機意識は常に持つべきだ。


 レオンはホールの仕事をしているはず。客から注文を受けたり、料理を運んだり空いたお皿を下げる仕事だ。


「なんか、見覚えある客がいるんだよな」


 洗い場に重ねた皿を持ってきながら、レオンが釈然としない様子で言う。


「常連さんじゃないの?」

「ううん。見たのは昼間。ナディアさんのお店にも客として来てた」

「へー」


 レオンは私をからかいながら、客の出入りを観察していた。なんとなくでも顔を覚えているのもいたのだろう。


「ほら、あそこのテーブルに座ってる、小太りの男」


 ホールを覗き見ながら、レオンが指し示してくれた。

 小太りと言うな。恰幅が良いと言いなさい。見たところ、身なりも良くて所作も美しい。礼節をわきまえた立派な紳士だ。

 けど。


「見覚えがない……」


 私は料理に夢中になってたから。他の客なんか意識して見てないし。

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