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2.姉弟のふりして

「でも、若い男女が連れ立ってお出かけしたら、それはもうデートだよね? 周りにはそう見えるよね? レオンもそう思うよね?」

「若すぎなのよレオンは! ガキでしょまだ!」

「でも、わたしはレオンのこと、立派な男の子だと思うな。頼りがいあるし」

「それはそうだけど! でも男性として好きになるかは別問題で!」

「それでねレオン、ふたりで行ってほしいお店があるんだけど」

「そうお店! デートじゃなくて敵情視察なのよ! デートじゃないの!」

「ふたりとも」


 床の掃除をしていたのだろう。モップを手にした十二歳の少年が呆れたような表情を私たちに向けていた。


 彼がレオン。十八歳の私には、恋愛対象にするには子供すぎる。


 呆れているのは、主にニナに対してのはずだ。私にではない。うん、そうに決まってる。


「順番に、落ち着いて話してくれ」

「あー。じゃあわたしから」

「いや! 私から!」

「だから、それだよ……」


 大人ふたりは、揃って子供に呆れられることになった。



「なんだよ。新しい店の視察なら、普通に言えばいいだろ」

「だってー。ニナが変なこと言うから」

「はいはい」


 少し後、私とレオンは並んで外を歩いていた。レオンは外出用のローブに着替えている。体をすっぽり覆うタイプだ。

 大丈夫。デートには見えないはず。お姉さんが生意気な弟を連れているようにしか見えない。これはデートではない。


 レオンの前で慌ててしまったことに関して、私は何も悪くない。変なこと言うニナが全部悪い。


 それにしても。


「その言い方だと、他のお店に行くのは慣れてるみたいね」

「うん。たまに行く。ニナと、姉弟を装ったりして」


 あいつ、自分でも行ってるんじゃない。

 まだ自分の顔と名前が広まる前で、有名になってから丁寧すぎる接客を受けて面倒になった、とかかもしれないけど。


「俺みたいな子供がいた方が、他所の店の偵察だって思われにくいから都合がいいんだとさ。子供相手の接客も学べるし」


 なるほど。それは確かにありそうだ。


「まあ、俺も一年くらいここで働いてるから、他所の店から顔を覚えられてるかもしれないけど」

「そういうものかしら」

「他所の店も、うちの店に偵察に来るからな」


 なるほど。どこの店もやることは同じか。特にヘラジカ亭みたいな、大きくて評判のいい店は同業者が集まることだろう。

 みんな研究熱心なんだな。


 となれば、ホールで働いてる、見てくれはいいけれど生意気な子供の顔は覚えられやすいか。


 たとえ、レオンが他人には生意気さを隠すくらいの分別があったとしてもだ。客にはまともに接してるんだよな。私にはクソガキなのに。


「なんか失礼なこと考えてるだろ」

「そんなことないわよ。私に、もっと優しくしてほしいなーとか、そんなことくらい」

「えへへ。お姉ちゃん大好きっ!」

「あ、やっぱりやめて。クソガキの方がまだ接しやすい」

「そっか」


 かわいい弟として振る舞おうとして、私の腕に抱きついたレオンを振り払う。そういうのは、なんか違うのよね。


「でも今から、俺たちは姉弟のふりをしないといけないんだぞ?」



 その方が怪しまれないから。


「よろしくな、お姉ちゃん」

「ユーファちゃんと一緒に行くべきだったわ」

「そうだなー」


 つい先日店の一員になった、レオンと同い年の少女のことを考える。

 無口で表情の変化に乏しい彼女は、レオンと行動するのとはまた違う気苦労がありそうだけど、少なくとも生意気なことは言わない。というか何も言わない。


 レオンの存在が周りの店にバレてるとなれば、今後は同じ役を彼女に任せるのもありかもしれないな。

 そんなことを話し合っていると。


「ここだな」


 レオンがひとつの店の前で足を止めた。


 周りを見れば、私が来たことのない通りだった。ひとりじゃたどり着けてないし、帰れない。最近この王都に移り住んだユーファも同じ。

 やっぱりレオンは必要だ。ムカつくけど。


 大通りから少し外れた道の一角に、その店は建っていた。大通りほどではないけど、人通りはしっかりある。周囲も何らかの店が建っているけれど、客足はしっかりあるようだ。


 目的の店も評判は本物のようで、既に中には何人もの客の気配がする。


 最近できた店とのことだけど、建物は古かった。掃除はしっかりされてるから、不潔感とは無縁だ。


 「定食 クリフォード」と書かれた真新しい看板が掲げられている。店名だろうか。男性の名前だ。店主の名前を店名にすることは、そう珍しくはない。庶民の間ではそうだと、最近知った。


「潰れたり移転した店の建物を買うか借りたんだろうな。入るぞ、お姉ちゃん」

「その呼び方慣れないのよねー」


 けど、私が姉として弟を連れてる設定は守ってあげよう。レオンの手を引いて店に入る。扉を開けると、カランカランとベルが鳴った。


 中はさほど広くはないけど、掃除が行き届いていた。飲食店では基本のことだ。汚い店で食事をしようとは誰も思わない。

 カウンターに八席と、四人がけテーブル席が三つ。合計で二十席。ヘラジカ亭よりは、席数はずっと少なめだ。


 ひとりでも、なんとか切り盛りできそうな規模だった。

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