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クリフォード亭の霊事件~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー短編~  作者: そら・そらら


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16.なんて都合のいい人材

「お、父さん?」

「ナディアさん。クリフォードさんは、まだ働き盛りなのに亡くなった。過労と、教会から聞いています」

「そ、それは……」

「立派な人でした。毎日の仕事をしながら、ナディアさんを大切に育てていたんですから。特に食事には気を使った。心の貧しい子に育てたくはないと、手間をかけておいしいものを作った」


 ああ。立派だとも。料理に手間をかけすぎて、それが仕事や他の要因と積み重なって過労で死んだとしても、彼は間違いなく立派な人物だった。

 そしてナディアさんは、父の教えをしっかりと受け取った。彼の料理のこと含めてだ。


 父のやり方そのままで大量の客を相手に料理を作れば、いずれ父と同じく過労で死ぬことだけ、考えていなかったらしいけど。


 そこまでお客さんが来ることを想定していなかったのだろうな。小さい店で始めたのだし。

 この料理のやり方が娘に伝わって苦しめてしまったのが、クリフォードさんの未練の正体だ。


「ナディアさん。あなたがこのまま料理を続けると、また倒れます。それはクリフォードさんの望むことじゃない」

「で、でも。わたしは、お父さんの料理をみんなに食べて貰うために。みんながわたしと同じように、幸せになるために」

「立派です。けど、クリフォードさんの料理を作る限り、彼はこの世から去れない」

「じゃあ、どうすれば……」


 店をやるなとは言えない。それではナディアさんがやりきれない。

 これからは料理の手を抜けとも言えないな。急に味が変わったら、お店の評判がガタ落ちだ。それはクリフォードさんも望んでないだろう。


 だとすれば。


「人を増やすしかないんじゃないかなー。手間がかかる料理なら、作る人を増やしてしまえばいい」

「やだ……」


 実際にそうやって店を大きくしていったニナの呟きだけど、ナディアさんは拒絶を口にした。


「お父さんの料理はわたしの物だもん。他の人に作らせたくない!」

「そうだよねー。気持ちはわかる」


 このお店をひとりでやっていこうと考えたのも、そんな理由か。


 この料理はナディアさんにとっては大切な思い出。他人の手を加えてほしくないものなのだろう。

 ニナは否定されても、そんなナディアさんに寄り添うような態度を見せた。


「ナディアさんは偉いよ。ちゃんと自分を持ってる。すごいって思うな。うちの店なんて、ちょっと評判の店のことを聞いたらすぐに人を行かせて技を取り入れようって考えてるんだから。うちも、死んだ親父のレシピがちゃんと残ってるってのにねー」

「死んだ、お父さん?」

「そう。先代が亡くなって、家族で店を引き継いだのが、今のヘラジカ亭。その時からレシピの改良も積み重ねてます」


 でね、と、ニナは少し区切りながらナディアさんの向かいに立った。


「よりお客さんに喜んでもらえるようにレシピを変えることを、わたしの父が嫌がるとは思わない。きっと、クリフォードさんも同じだよ」

「そう……なの?」


 ナディアさんは、父親の霊がいるはずの方を見た。霊の意志を読み取ることはできないけど、なんとか見定めようとするように。


「それに、クリフォードさん流の料理を他の人が作れるようになれば、もっと多くの人が喜んでくれるよ? それって素敵なことだと思わない?」

「……うん。けど、いきなり人を増やすなんて言っても。わたし、誰に頼めばいいかわからない。飲食店やってる知り合いなんて」

「あの。それならひとり、心当たりがあります」


 ナディアさんは人を増やすことに同意しかけている。だったら畳み掛けよう。ぴったりな人がいるし。


「料理人になるために、どこかのお店で修行したいって思ってる方なんです。料理の腕はわからないですけど、接客の仕事は慣れていて、すぐに働けますよ。男性なので力仕事もできますし……あと、お茶を淹れるプロです」

「そ、そんな都合のいい人が」

「はい。すぐ近くのカフェにいます。とりあえず給仕として、雇って、人柄が気に入れば料理も教える、ということでどうでしょう」

「え、あ。あー……とりあえず、その人に会ってから考えますー」


 あ、いつもの口調に戻った。



「は、初めまして! ナディアと申します! ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

「はい。よろしくお願いします、ナディアさん」


 少し後。例のカフェまで駆け込んでマスターと息子さんに事情を説明したところ、面白そうだと乗り気になってくれた。急なことだけど、元から望んでいたことでもある。

 というわけで、息子さんが早速ナディアさんに挨拶に向かい、私たちは少し離れた場所から見守っているというわけだ。


 息子さんは顔立ちも良くて物腰も丁寧だから、ナディアさんが緊張しているように見える。けど、悪いことじゃない。打ち解ければ、きっといい関係になれると思う。


「マスター、本当にいいんですか? 私から言ったことですけど、やっぱり突然すぎて」

「いいんですよ。元々、私と妻だけでやっていたお店ですから。それに最近は、娘も店を手伝うようになってきました。仕事の負担は変わりませんよ」

「あ、娘さんもいらしたんですね」


 子供がひとりとは、確かに言われてなかったな。


「息子がしたいようにさせる。それが親の役割です。ここから先は息子の判断に任せますが、きっと、うまく行くでしょう」

「ええ。私もそう思います」

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