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クリフォード亭の霊事件~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー短編~  作者: そら・そらら


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12/17

12.朝のナディアさん

 その日から三日間ほどは、クリフォードやナディアさんのことを忘れてヘラジカ亭で働くことに集中した。


 といっても、相変わらずの野菜の皮むきと皿洗いだけど。構わないのだけどね。必要な仕事だし、私はこれをやるのが一番向いている。仕事にも慣れてきて、効率も良くなってきた。

 やっぱり、こんな仕事でも専門でやる人員って大切なのよね。厨房で、それぞれ手分けして仕込みや料理をしている店員たちを見ながら納得する。


 けど、ナディアさんはそうじゃない。ひとりで店を切り盛りして、あらゆる仕事を自分でやらなきゃいけない。大変だろうな。


「気になるのか、ナディアさんのこと」

「あなた、人の心を読む力とかあるの?」

「ねえよ、そんなもの」


 質問に質問で返した私に、レオンは律儀に答えてくれた。


 その辺の霊が見える力があるなら、他にも見えるものがあるかもと一瞬思ったけど、違ったか。もしあるなら、この子は言ってくれてるだろうし。


「何か気になってうわの空になってるのは、見ればわかるんだ。で、今気になることなんかナディアさん絡みくらいだろ」


 レオンが私の隣に座って、山のように積まれている野菜の皮むきを手伝いながら説明した。


 私よりも手際がいい。普段やってる仕事ではないけれど、そもそもナイフを使うのに慣れているからか。

 彼の説明も納得の行くもので。


「え、ええ。その通りよ」

「気になるなら様子を見に行こう」

「いいの?」

「しばらく時間を置こうって言ったのはルイだぞ。ルイの判断で動いていい」


 ぶっきらぼうな言い方だけど、私の意思を尊重してくれるのはわかる。


「まあ、今日はナディアさんも忙しいだろうから、明日の朝だな」

「また早起きするのね」

「早起きするの、気持ちいいって言ってなかったか?」

「結局寝ちゃったし」

「外でお茶を飲むのも気持ちいいからなー」


 呑気な。



 その日は早めに仕事を切り上げさせてもらって、早めに寝た。


 いつもと違う時間だし寝付きはそんなに良くなかったけど、問題ない。また眠たくなった時は、なんとかしよう。またカフェで寝る以外の方法を考えなければ。

 起きたのは、この前と同じくらいの時間帯。朝の清々しさを感じながら、眠い目を擦りつつ支度をする。


 レオンは既に起きていて、店先で誰かと談笑していた。


「その人は?」

「うちに毎朝、材料を届けてくれる担当」

「あー」


 うちにはその専門の店員がいる。目の前の、中年の人の良さそうな男性がそうだったのか。


 いるのはわかってたけど、ちゃんと対面するのは初めてだった。彼は、親しげにペコリと頭を下げてから店の中に荷物を運び込んでいく。

 レオンは私が来るまで、その手伝いをしてたのか。


「ナディアさんの風貌を伝えて、そういう人を最近市場で見かけないか訊いたんだ。朝早くから市場に来る人なんて、同業者がほとんど。仲良くなることも多いし毎朝似た顔ぶれになる。新入りがいれば気づきやすい」


 なるほど。ここでも同業者の繋がりって生きてくるんだ。


「で、ナディアさんは確かに最近、毎朝市場に買い出しに行っている。日が経つにつれて、買う量も増えていってるそうだ」


 お店の客足が増えるのに比例してなんだろうな。


「それから日が経つにつれて、顔色が悪くなってるそうだ」

「どういうことよ」

「わかるだろ? ここから先は実際に確かめてみよう」


 うちの従業員が市場から戻ってきてるなら、ナディアさんもそろそろ戻る頃合い。レオンは彼女に会うべく、足早に店の方へ歩いていった。


 店は開店前というわけで閉まっていて、中に人の気配はない。と思ったら、数日前と同じようにナディアさんが荷車を引いて歩いてくるのが見えた。

 確かに、彼女の背後にある食材は多くなってる気がする。車輪で運んでいるとはいえ、引っ張るのは女性には重労働だ。荷の積み下ろし作業なんかもあるし。


「お、おはようございまーす。ごめんねー。まだ、お店開くまで時間かかるからー」


 店の前にいた私たちに、ナディアさんも気づいた様子。私たちのことはちゃんと覚えていて、気さくに挨拶をしてくれたけど、その口調に元気がない。

 元々のんびりした話し方をする人だったけど、今のはまるで消え入りそうな声だ。


 目が血走っていて、しかも濃い隈ができている。荷車を引く足取りもおぼつかなく、フラフラとしていた。

 同じ市場から同じような時間帯に出て、ヘラジカ亭の買い出し担当よりも遅い時間に帰ってきたのは、この心配になるほどの足取りのせいだ。


「おはようございます、ナディアさん。あの、大丈夫ですか? なんだか、元気がないような」

「大丈夫大丈夫ー。元気ですよー。あはは、このところ、ちょっと忙しかったのかなー。お店やるのも初めてだしねー」

「ええっと、押すの手伝いましょうか?」

「いいですよー。ひとりでやれますってー」


 そちらに駆け寄って隣を歩きながら尋ねたところ、彼女は力のない笑顔を見せた。

 どう見ても大丈夫じゃない。


 やがて店の前まで着く。ナディアさんは荷車の上から肉の入った大きな紙袋を持ち上げると、そのまま店内に入ろうとして。


「今日もおいしい料理、作らな……きゃ…………」

「ナディアさん!?」


 バタンと大きな音と共に、地面に倒れ込んだ。

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