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クリフォード亭の霊事件~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー短編~  作者: そら・そらら


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11.カフェの今後について

 そっか。金物屋が閉店した理由はわからないけど、飲食店じゃないのか。だったらそこの店主の霊が、今もこの世に留まる程の未練があったとして、私の推測は正しくはないな。


「老夫婦のお店って、どんな感じでした? ナディアさん……あのお店と似てました?」

「いいえ。どちらもいい店でしたが、良さの種類は違いますね。前のお店は……家庭的でした。ほっとするような雰囲気があったというか。今の彼女のお店は、料理に関して真摯さがありますね。おいしさを追求したというか」

「なるほど……」

「もちろん、料理については素人の意見ですけど。ご参考に」

「でもマスター、最近このカフェでも、料理に力を入れようとしてると噂ですけど」

「ははは。さすが、ヘラジカ亭さんの従業員さんですね。耳が早い」

「いえ。俺も噂で聞いただけですから」

「え」


 マスターがレオンのことを認識していて、レオンもそれを平然と受け入れてる状況に私だけが混乱していた。


 いや、考えてみれば当然か。マスターは昨日ヘラジカ亭に来てたし、レオンはそこでホールの仕事をしていた。子供が酒場で働くのは目立つ。

 だから顔を覚えられたのか。レオンも当然、それを織り込み済み。というか親しく話しかける口実にすらしてしまった。


「料理をやりたいと言い出したのは息子なんですよ。店の魅力を増やしたいって。私はお茶を淹れるくらいしか能がなかったのですが、面白いなと思いまして。手分けしていろんなお店を巡っているところです」

「得られるものはありそうですか?」

「いやはや、なかなか難しくて。食べただけでは何とも。やはり、どこかのお店で修行するのが一番なのでしょうね」

「いいんですか? 人手が増えて余裕ができたから、新しく始めようという話ですけど」

「息子がやる気なんですよ。せっかくなら、ある程度極めたいと。……やりたいと言うなら、やらせてあげてもいいかと」


 なるほど。このマスターが主体となってるわけじゃないのか。


 息子さんは、将来的にはカフェに腰を落ち着けたいと考えている。けど、その前に少しだけ寄り道もしたいってことか。

 厨房の方にいる息子をちらりと見たマスターの目は、優しかった。


 息子のしたいようにさせたい。親の愛情がそこにあった。


「修行先の見当はついているんですか?」

「いいえ、しばらくいろんなお店を見て回ろうかと考えているだけです。ヘラジカ亭さんで検討することはありえますか?」

「どうでしょうね。最近、従業員がふたり増えたので。末端の店員の俺が決めることでもないですし」


 ふたりとは私とユーファのことだ。あまり急に人を増やしても指導する側が大変。まあ、ニナたちに相談すれば乗ってくれるとは思うけど。


 ヘラジカ亭の秘伝のレシピを、いずれ別の店に落ち着く人間に見せるかどうかは、わからないな。


「ま、それぞれお店に事情はありますよね」


 マスターの方も、本気で言ったわけじゃないらしい。そもそも決めるのは息子さんの方だし。


 軽い冗談といった形で受け流してから、彼は仕事に戻っていった。




「結局、何もわからなかったわねー」


 カフェを出てヘラジカ亭へ帰りながら、私は一日何もしなかったのではという不安と共に言った。

 カフェでお茶飲んで寝ただけ。あとは他愛もないお喋りだけ。


 まあ、レオンとゆったりした時間を過ごすのは楽しかったけど。霊を祓うという口実でヘラジカ亭での労働力を減らしている状態だ。申し訳ない気持ちもある。


 レオンは気にしてない風だけど。


「そうだな。じゃあ、明日はナディアさん本人に直接訊いてみるか。一日開けたから、またお店に行ってもそこまで不自然じゃない」

「たった一日よ。割と熱心なリピーターよ」

「だな。向こうも顔を覚えてるだろうし」


 店内で二回も転けた姉弟とか、インパクト強すぎよね。


「というか、何を訊くつもりなのよ。あなたのお父さんかこの土地の前の持ち主の霊がいる。あなたじゃなくて私に取り憑いてるから、なんとかするために事情を訊かせてくれって?」


 振り返れば、日が傾き始めてるのに店の前にはまだ客が待っていた。さすがに、本当なら閉めなきゃいけない時間だし、新しく並んだ客は断られているのだろうけど。


 ナディアさんはかなり忙しく働いてるはずだ。なのに明日も変わらないだろう。わけのわからない理由で話しかけてくる客なんて、いい迷惑だろう。あと、どうせまた店の中で派手に転ぶし。


 営業妨害もいいところだ。


「もう少し待たない?」

「え?」

「あのお店、今は繁盛してるでしょ? けど、もう少し日が経てば落ち着くと思うのよ。それか人を雇うとかで。今はナディアさんに稼がせてあげた方がいいかなって」

「いいのか? ルイに憑いた霊を祓えないぞ?」

「いいのよ。どうせ他に何百体もいるんでしょ? そりゃ、冥界まで行ってもらえるなら嬉しいし、いずれそうするつもりだけど、数日なら気にしないわ」


 一体くらいの増減は誤差みたいなものだ。


「わかった。ルイの意思を尊重する」

「ありがとう。あなた、やっぱり優しいわね」

「うるさい。……ナディアさんが、誰から料理を学んだのかを知りたかったんだ」

「え?」


 今度は私が訊き返す番。


 確かに、彼女に何を尋ねるつもりかと私は言ったけど。律儀に答えてくれるなんて。


「前の店とは料理の系統が違う。親は料理人じゃない。だったら、あの料理は誰から習ったのかな」

「独学じゃない? お客さんを感動させる料理を研究して、手を込ませ続けたら、ああなった」

「あるかもなー」

「レオンはどう思ってるの?」

「わからないけど。他のお店に通いまくったのかも。色んなお店の看板メニューを分析して、自分なりに組み合わせて調理法を作った」


 ああ。飲食店の人ならみんなやってるという、他店の偵察か。ありえるな。


 正解がなにかは、結局はわからないのだけど。

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