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クリフォード亭の霊事件~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー短編~  作者: そら・そらら


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10/17

10.前の店。前の前の店

 ただし、当のクリフォードさんはそうは思ってないらしくて。


「霊は今も、ルイに憑いてるんだよな」

「そうなのよねー」


 ようやく判明した、ナディアさんあるいはあの店舗に関する死者。クリフォードの霊と見て間違いはないと思うけど、彼は今も未練を持っている。

 娘の行く末が不安だから、葬儀の後も冥界に行かず現世に留まり続けた。実際には、娘の店は繁盛しているから、心配することはないのだけど。


「あの店の様子を見て、それで満足してくれたらいいんだけどね」


 お葬式の時に、死者の霊が冥界へ向かう道が作られる。その時に未練があって道を渡らなければ、次は誰かに気づいてもらって再度お祈りされるまで道は作られない。結果として死者は永遠にこの世を彷徨うことになる。


「そうだな……娘さんは立派にやってるぞ。だからクリフォードさん。あなたは行くべき場所に行け。ほら」


 ローブの内側から小瓶を取り出したレオンは、中身を少しだけ手のひらに出して、撒く。カフェの中だけど、外だし気づかれない程度の量だ。


 これは塩。お供え物としては一般的なもの。

 お葬式と同じく、お供え物をして祈りの言葉を霊に語りかければ冥界への道が開く。レオンのそれは神父様のと比べればずっと簡素、というか下手でやる気が無くて雑だけど、効果は同じらしい。


 仮にクリフォードさんの霊が冥界に行ったなら、レオンにはその様子が見えるわけだけど。


「拒絶した」

「そっかー。何が未練なのかしら」

「ナディアさんについて、他に何かあるのか。それともそもそも、全然違う事情を探ってるのか」

「あのお店とか土地自体に、ナディアさんと無関係な霊が取り憑いてた可能性もあるって言ってたものね」

「あ、それはたぶん関係ない。あの店舗、前は別の食堂だったから。夫婦でやってたけど、高齢になったからナディアさんに安く譲って引退したそうだ」


 そこまで調べてたのか。


「そのご夫婦の周りに、死者は?」

「調べた限りいなかった。もちろん、そのふたりが大昔に関わった死者がずっと土地に取り憑いてたとかだったら、追えないけど」

「霊はこれだから……」


 人それぞれではあるけど、つまらない未練によって冥界行きを逃して、数十年とか数百年とかこの世を彷徨う霊もいるらしい。

 馬鹿みたいな話だけど、そうなってしまったのなら仕方ない。晴らしてあげないと。


 もちろん、そんな霊なら手がかりなんてないのだけど。わかってるのは、今あの土地はナディアさんの物で、お店は繁盛してるということ。

 それが原因の未練があるとすれば。


「ところで、その老夫婦のやってたお店は、評判良かったのかしら」

「え?」

「高齢化で廃業。だから潰れるほど評判が悪いわけじゃなかったのだと思うわ。けど、さらにその前はどうだったのかしら」

「前の食堂の前?」

「そう。もしかしたらだけど、更に前のお店の店主の霊かもって」


 土地、あるいは建物に取り憑いた霊だとしたら、ありえる。


「そのお店は、あまり評判が良くなくて潰れたのよ。店主は失意の内に亡くなった。そして、自分の料理は悪くない、この立地が悪かったんだと自分を納得させるために、後に続く店の様子を見届ける目的で土地に留まったのよ」


 建物自体は古かったし、前の店の更に前はあったと思う。


「……なるほど」

「ありえると思う?」

「正直、発想が飛躍しすぎてる」

「そうよね……」

「でも、可能性は無くはない。確かめてみる価値はあるかもな」

「え? 本当?」


 単なる思いつきに過ぎない説だし、本当だとしても昔のことすぎて確かめようがないと思ってたのに。レオンは協力してくれるらしい。


「万が一本当で、この通りを歩くたびにルイが転ぶようなことになっても困るし」


 私のこと考えてくれてるんだ。


「まあ、それが真実だとしたら、時間が経ちすぎて諦めの境地に達してて、道を開けばすぐに帰っていきそうな雰囲気あるけど。ほら、行け。お前の未練は当分晴らせないから諦めろ。さっさと冥界に行け」


 途中から霊に対する語りかけに切り替えながら、またも雑に道を作った。見たところ効果はないようだけど。


「私の考え、間違ってたのかしら」

「さあ。霊の未練が強すぎるだけかも。だから調べる価値はある。答えに繋がる何かがあるかもしれないし」

「でも、調べるってどうやって?」

「身近なところからやってみよう。すいませんマスター、お茶のお代わり。あと、訊きたいことがあるんですけどいいですか」


 朝からずっと席を占拠している気まずさから、追加注文をしたわけじゃない。


 元々このカフェを選んだのは、ナディアさんのお店がよく見えるからだ。いつの間にかその役目はおざなりになってたけど。

 ううん、全然やってないわけじゃないわ。たまに見てるし。


 店の前の行列は消える気配がなく、むしろ長くなる一方だった。昨日より確実に混んでいる。出てくる客の表情は満足げなものだから、本当に評判がいいのだろう。


 評判が評判を呼んでこうなったわけだ。


「あのお店の前のお店について、伺っていいですか? ついでに、さらに前のお店がどんなのだったかも」


 昨日ナディアさんのお店に来ていてヘラジカ亭にも来ていたカフェのマスターは、レオンに尋ねられて昔を思い出すような顔をした。

 ナディアさんの店は数日前に開店したわけだけど、その前の老夫婦がやってたお店の前となると相当昔だ。というか。


「前のお店は、私が子供の頃からありましたから。さらに前は覚えていません。ですが、金物屋があったと聞いていますよ」

「金物屋ですか」

「ええ。それを改装して食堂にしたと、そこの老夫婦から聞きました」

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