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クリフォード亭の霊事件~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー短編~  作者: そら・そらら


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1.ある日のヘラジカ亭

 王都の中心部に店を構える居酒屋ヘラジカ亭の朝は、そんなに早くない。


 夕方から夜にかけて営業している酒場だから、朝早く起きる必要はない。かつてはランチ営業をしてはどうかと家族内の提案もあったそうだけど、疲れるからやめておこうとなったらしい。

 無理な労働はせず、体は労るべき。先代店主が病気で亡くなったことを考えれば、なおさらだ。


 というわけで、従業員たちは朝は遅くまで寝ている。


 もちろん、食材の仕入先である市場は朝から開いているし、新鮮な食材は早い時間に手に入れる必要がある。

 だからそれ専任の人員を雇っていて、朝から買い物に行かせている。


 主な従業員たちが働き始めるのは昼前くらいからだ。料理の仕込みや掃除なんかの開店準備をする。



 従業員のひとりである私、ルイーザが起きるのもそれくらい。

 同じく従業員の、レオンやユーファのちびっこコンビも、それくらいに起きる。


 子供は早寝早起きの方が良いのではと思うこともなくはないけど、ここで住み込みで働いているのだから仕方ない。



 少し前まで学生で、さらに前も淑女として朝から活動することを求められていた私にとっては、最初は慣れない生活だった。それでも今は楽しい。

 遅くまで起きて遅くまで寝ていい生活なんて。普通じゃなくて、なんだかワクワクしているのも事実。


 仕事は相変わらず、野菜の皮むきと皿洗いだけどね。それでも立派な仕事だ。


 ユーファはホールの仕事を主にやっている。私よりもずっとバランス感覚に優れていて、料理を運びながら転ぶこともないから向いている。

 小さい女の子が給仕をする姿はお客さんにも可愛いと評判だ。ちょっと羨ましい。私が給仕はできないのは重々承知してるけど羨ましい。


 ちなみにレオンも給仕の仕事をすることが多い。これも、可愛い男の子が運んでくれるとあって、お姉様方のお客さんから評判だ。これはこれで、なんかムカつく。


 とまあ、それが私の新しい日常なわけだけど。




「視察してほしいお店があるんだよねー」


 ある日の開店準備中。いつものように野菜の皮むきをしている私は、お店の給仕長であるニナに話しかけられた。

 給仕長なんて肩書は持ってるけど、私と歳が近いし彼女のフランクな性格もあって、気軽に会話できる仲の友人だ。


 私の雇用主は彼女の母親であって彼女ではないわけで、そういう意味でも対等な友達関係を築けていた。


 それよりも、視察?


「そう! 近くに新しい定食屋ができたらしくて。どんな感じか見てほしいなって。評判いいんだって」

「客を取られないように?」

「そういうこと! まあ、向こうはランチだけの営業だから、時間が被ることはあんまりないんだけどね。お酒の提供もメインじゃなさそうだし」


 うちは夕方からの営業だからな。


「でも、参考になることがあれば勉強したいなと思って。ルイ、行ってきてくれる?」

「いいけど、私でいいの? 料理のことなんか全然わからないわよ」


 新しいお店の偵察に行って、学ぶべきところがあれば取り入れる。ニナのその姿勢は立派だ。けど、私に行かせるものだろうか。

 評判っていうのが料理の味のことを言ってるなら、私は役に立たない。おいしかおいしくないかの違いしかわからない。


 ついでに言うなら、接客なんかの良さもわからない。さすがに、あからさまな態度の良し悪しなら判別がつくけど、細かな気遣いなんかの配慮が評判に繋がるなら私にはわかるものではない。

 ニナと、彼女の兄で料理長のニールで行くべき案件だけど。


「ほら、私も兄貴も母さんも、割とこの近所では顔が知られてるっていうか。行けば警戒されるかなーって。普段より気合いの入ったおもてなしをされそうで」


 確かにヘラジカ亭は、この辺りでは一番繁盛しているお店だ。評判もいいし、店構え自体も大きい。店主とその家族のことも知られている。

 近所に店を出す人間なら、当然意識するだろう。それは間違いないのだけど。


「だったらなおさら行きなさいよ。相手の本気を見られるチャンスよ」


 そこから学べることもあるでしょうに。

 私の指摘に、ニナはあからさまに目を泳がせて。


「あー。うん。そだねー。でもなんか、そういうのって……面倒くさくて。なんか肩が凝りそうで」

「まったく」


 肩肘張った対応は苦手そうだもんな、この子。


「とりあえずお願い! まずはルイが行って! 本当にいい店ってわかったら、改めて行くから! ……兄貴と母さんが」

「どうしてもニナは行きたくないのね。わかったわ」

「ありがとう! レオンも一緒に行ってくればいいよー。デートだと思って」

「でっ!?」

「いいじゃん。どうせふたりで行くつもりだったんでしょ?」

「そ、それはそうだけど!」


 私とレオンは基本的に、外出時にはふたりで行動している。


 けどそれは、私の体質とレオンの仕事のせいであって。別に私たちが付き合ってるとかの事実はない。というかありえないでしょ。あのクソガキとデートとか。


 でも。


「一緒に行くでしょ?」

「ええ……そうね……」


 この街のこと、私はまだ詳しくないし。ひとりで歩いたら迷子になるかも。王都って人が多いし複雑だし。


「レオンー。ルイが、デートに行きたいってさー」

「ちょっ!? 違うのよレオン! デートじゃないのよ!」


 とんでもないことをレオンに告げに行ったニナを慌てて追いかけた。レオンはホールの準備中だ。

面白いと思っていただけましたら、ブクマや評価、いいねや感想やレビューいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

作品本編「婚約破棄された公爵令嬢、生意気ネクロマンサー(ショタ)に助けられる」(https://ncode.syosetu.com/n7066hx/)もよろしくお願いします。

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