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第6話 決意

数十分前のこと―


裕斗は眼鏡をかけた少女に案内された、本部と呼ばれる建物のある部屋の中に入れられていた。


その部屋の中には裕斗だけでなく、ルイーゼや眼鏡少女と同じような制服を着ている者達(兵士と呼ぶことにしよう)やこの国の避難民だろうか、さまざまな衣服を着た者が数人いる。


ちなみに中の空気は……最悪だ。


気が立っている者、震えている者、怯えている者など、この部屋にお浮ついている者は一人もおらず、いるだけで胃に穴があきそうな気分だった。


そんな空気の中、裕斗の耳に何かが爆発する音が遠くから聞こえた。


「爆発……?」


同じ部屋にいたほかの何名かも聞こえたようで、ザワザワと騒ぐ。


そんな中、ガチャリと部屋のドアが開き、1人の兵士の男が入ってきた。


かなり急いでいたのか、汗だくで、息も上がっている。


「お、おい!戦いはどうなった!勝ったのか!?」


扉の近くにいた中年の兵士が、入ってきた兵士の男に問いかける。

すると男は上げた息を整え、その唇の片端を上げた。


「ああ、ライダー……ルイーゼは、敵魔導騎士“ソルジャー”の撃破に成功した!」


次の瞬間、一斉に歓声が沸き起こった。


「うおお!マジか!あの嬢ちゃんやりやがったぜ!」


「ああ!正直あんなガキにやれるなんて思わなかったもんな!」


「まあ、何はともあれ一件落着だな!」


一件落着


その言葉を聞き、改めて事が片付いたのだと裕斗は胸を撫で下ろした。


そのときだった。突然、何かが破壊されるような凄まじい音が聞こえたのは。


―こ、今度は何?


少しして、また1人の兵士が部屋の中へと入ってきた。


「いったいどうしたんだ!?戦いは終わったんじゃないのかよ!」


避難民の男が入ってきた兵士に向かって叫ぶ。


対して兵士は沈鬱な表情で何も答えず、手に持っていた水晶玉を机の上に置いた。


ブゥン、と音を立て、水晶から光が放たれ、どこかの景色が映し出される。


そこには、壊された壁と、潰れた建物の上に倒れる青い魔導騎士の姿があった。


「は?」


「お、おい…これって…」


皆が絶句する中、斧を持ったモスグリーン色の魔導騎士が壊れた壁から入ってきた。


「ソ、“ソルジャー”!?」


「そんな!なんで奴が!」


「に、二体目か!」


壁から入ってきた新たな魔導騎士に、人々は大混乱に陥った。


「ど、どうすんだよ!?」


「加勢しに行くしかないだろ!“トリスタン”がやられちまった以上、俺たちがやらなきゃ……」


「無理に決まってんだろ!バカかお前は!」


「んだとぉ!?」


兵士達は口論となり、


「お、終わりだ……」


「い、嫌だ!死にたくない!」


避難民達は口々に絶望の声を上げる。


無論、裕斗も平静さを失っている。


―噓だろ噓だろ噓だろ噓だろ!?何で!どうして!僕はまた死ぬのか⁉またあんな痛い思いをしなければいけないのか⁉どうして僕がこんな目に⁉


「い…一体どうすれば…」


と、そのとき、倒れ伏していたルイーゼの魔導騎士が立ち上がり、腰に下げていた短剣を引き抜いて“ソルジャー”に向けて振りかぶった。


―む、無茶だ!あんな武器で敵うわけない!


案の定、“ソルジャー”は持っていた斧でこれを弾く。

お返しとばかりに、“ソルジャー”はもう一本の斧を振り下ろした。


ルイーゼはかろうじてこれを避けるが、次にしかけた振り上げに当たり、追撃のタックルをまともにくらった。


―ああ、やっぱりダメじゃないか。


そう思った裕斗だったが、ルイーぜの魔導騎士はすぐに立ちあがり、再び攻撃を仕掛けた。


―!?まだ動けるのか!?


まだどころではなかった。彼女は何度攻撃を受けても、何度吹き飛ばされても、必ず立ちあがり、剣を振るう。


「どうして…そこまで…」


なぜそこまで頑張れるのか。なぜそこまで必死になれるのか。裕斗には分からなかった。


だが、彼女の何度攻撃されても諦めない姿勢は、彼にある決心をさせた。


「そうだ…何を諦めているんだ…僕は」


裕斗はそう呟くと、おもむろに立ち上がった。


「お、おい。アンタ…?」


近くにいた男が何か話しかけてきたが、裕斗はそれに答えず、部屋の外へと飛び出した。


「お、おいアンタ!」


後ろからかけられる声も無視して飛び出した裕斗は、目的の場所に向かうべく下へ下るための階段を探した。


「確か、ここだったよな」


そう呟いたところで、出会い頭に誰かとぶつかった。


「うわっ!?」


「キャッ!?」


ゴチン!と割と派手な音が鳴り響き、両者は尻餅をついた。


「い、痛…」


「っ痛…て、ああ!め、眼鏡が!」


裕斗にぶつかった人物は衝突した際かけていた眼鏡を落としたのか、床に四つん這いになって手探りで眼鏡を探している。


「あ…あの。左側に落ちてますよ」


「え?…あ、あった。ありがとうございます」


落ちていた眼鏡をかけたその人は顔を上げた。


その顔には、見覚えがあった。


その人物は、裕斗をこの建物へと案内した少女だったのだ。


名前は確か…


「えっと、シーラ…さん?」


「あれ?どうして私の名前を…て、あなたルイーゼさんと一緒にいた!どうしてこんなところにいるんですか!」


「す、すみません!でも、僕には行かなくちゃいけないところがあるんです!」


裕斗はそう言い残し、通り過ぎようとして……


「―格納庫、ですか?」


シーラの声を聞き、振り返った。


「どうして…分かったんですか?」


こちらを振り返ったシーラは、先ほどとは別人のような声色で言った。


「ルイーゼさんと一緒にいたことから、あなたも魔導騎士に乗れることは容易に想像出来ます。……そして、あなたが戦うことを拒んだことも」


「……」


「答えてください。あなたはなぜ戦う意思を持ったのですか?もし安直な考えで戦いに望むのなら、やめてください。そんな薄い意思では、すぐに恐怖に飲み込まれてしまいますよ」


「……」


裕斗は何も言わなかった。


しかし、恐る恐ると、その口を開いた。


「正直に言うと…そんな、大層な理由じゃないです。

僕は、彼女の戦う姿を見ていた。あんな短剣一本で、あんな斧を二本も持った相手に向かって行った。勝てるわけないのに……果敢に、戦っていた。

それを見ていたら、これから自分は死ぬんだって戦うことを放棄していた自分が馬鹿らしくなって……」


だから、と裕斗は拳を強く握りしめた。


「生きているのなら、せめて最後まで、できる限りあがいてみよう。そう、思ったんです」


裕斗の言葉に、シーラはふぅ、とため息をついた。


「……分かりました」


「!行って……いいんですか?」


「はい。少なくとも、あなたがヤケを起こしていないということが分かったので。……とはいえ、階段をくだっていくのは時間がかかりますね」


そう言うと、シーラは近くの窓を開けた。


「何してるんですか?」


「ちょっと掴まっててください」


「え?」


どうして?と言い終わる前にシーラは裕斗の手首をつかみ、窓から飛び降りた。


「ああああああ!」


急速に迫る床。


もうダメ!死ぬ!と思った瞬間、シーラのはいていた靴の裏から風が吹き出し、フワッと一瞬浮いて着地した。


―し、死ぬかと思った……


「大丈夫ですか?いきますよ」


「は、はい……」


裕斗は返事をして、先を行くシーラの後をついていった。


—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


格納庫にたどり着いた裕斗とシーラ。


シーラは格納庫の扉に手の平をそえる。

ギィィ……と音を立て、格納庫の扉が開き、その奥に、白い鎧を着た魔導騎士が立っていた。

その胸には、まるで所有者を求めるように操縦室の扉が開いていた。


と、裕斗はそこで気が付いた。


「あ!そういえば梯子はしごとか無しにどうやって乗り込めばいいんだ!?」


「ああ、それなら問題ないですよ」


「え?それってどういう意―」


裕斗が言い終わる前にシーラは彼の体に腕を回し、抱き寄せた。


―え?なに?ちょ、胸が当たってる!……じゃない!なんで今ホールドしたの?……あ、まさか


「では、しっかりつかまってくださいね」


「いやちょ、シーラさん―」


直後シーラの靴裏から風が吹き出し、裕斗の体に急激なGが襲った。


「せめて心の準備をさせてくださいよおおおおお!」


裕斗が情けない声を上げる間も二人の体は開いた操縦室へと向かい、とん、と操縦室のふちへと着地した。


「ひい、はぁはぁはぁ……」


―も、もうやめてくれ……


心の底から懇願しながら心臓をバクバクさせている裕斗に、シーラは「これを」と、ポケットからあるものを渡した。


「これは?」


見た感じ、丸く平べったくてとても小さい。


「通信魔道具です。魔導騎士に乗ってからの指示はこれで行いますので耳に取り付けておいてください」


「ああ、はい」


裕斗は受け取った通信魔道具を右耳の穴に取り付けた。


「付けましたか?」


「あ、はい」


「では、私が降りたらまず後ろの操縦席に座ってください。そこからの細かい指示は通信魔道具を使って出します」


「分かりました」


裕斗が頷くと、シーラはフッ、と少しだけ笑みをうかべた。


「それでは、ご武運を」


そう言うと、シーラは縁から足を外し、裕斗の視界から消えた。


「ご武運を、か……」


そうだ、と裕斗は心の中で思った。

今から自分は命をかけた戦いに挑む。油断なきよう、しっかりと気を引き締めなくては。


裕斗はキッ、とした顔つきで魔導騎士に乗り込んだ。


操縦席に座ると同時に、操縦席の扉が閉まり、室内は真っ暗になる。


しかし、それは一瞬のことで次の瞬間パッと明るくなった。


『乗りましたでしょうか?』


耳に取り付けた通信魔道具からシーラの声が聞こえた。


「あ、はい……」


『それでは操縦桿を握り、あぶみに足をかけてください』


―ええと、操縦桿……鐙……


裕斗はそれっぽい物を握り、足をかけた。


「はい。OKです」


『では次に、魔力接続開始コネクト・オンと言ってください。そうすれば魔導騎士は起動します』


「分かりました」


裕斗はすう、と息を吸い、叫んだ。


魔力接続開始コネクト・オン!」


パッ、と真っ暗だった操縦室が明るくなり、前の壁に外の光景がホロモニターのように映った。


次の瞬間、裕斗の全身に痛みが走った。


「ガッ!?」


突然の痛みに裕斗は驚きの声を上げた。


『!大丈夫ですか!?どこか怪我でも……』


通信魔道具越しにシーラの心配げな声が聞こえてくる。

それに対して裕斗はうめき声を漏らしつつ「大丈夫です」と答えた。


ぶっちゃけそれほど痛くはない。


それよりも、だ。


裕斗は今日初めてこの魔導騎士に乗ったはずなのに動かし方分かるような気がするのだ。


とりあえず動かしてみようと裕斗は壁に映ったホロモニターらしきものを見ながらかけていた鐙を動かした。


ガシャン、ガシャンと音を立て、機体が歩を進める。


―歩いた!


『動かせますか?』


「はい。動かせます」


裕斗は返事を返しつつ、機体を格納庫の方へと歩かせた。


ドゴォォン!と、外へ出たと同時に破砕音が鳴り響く。


「!」


すばやく目を向ける。


遠くだし家々に遮られて何も見えないが、悠長にしている場合ではないことは裕斗でも分かった。


「早く行かないと!」


今すぐ駆けつけたいが、障害物となる家々が邪魔だ。


この機体の強度なら破壊したところで大丈夫だとは思うが、中に住民がいないとは限らない。


どうすれば―思っていると、


『住民のことなら大丈夫です。すでに避難は完了しています』


「!じゃあ……」


『はい。思いっきりやってください!』


裕斗はフッ、と口元に笑みを浮かべた。


「了解!」


裕斗は機体を屈め、走る体制をとる。


そして―


「榊原裕斗!“ランスロット”、行きます!」


その名を呼び、ゴッ、と風を切るスピードで走り出した。

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