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第48話 決別

コンコン、と裕斗は扉をノックした。


「入ってくれたまえ」


扉を開くと、ユリウス。背中を向け、外を見ていた。


彼は振り向き、にこやかに言う。


「やあユウト君、また会えてうれしいよ」


「まあ……はい」


裕斗は適当に返しながら、部屋の真ん中へと移動した。


裕斗はオルトランデに戻ってすぐにユリウスと話すべく、彼のいる団長室へ訪れていた。


理由は当然、ルドルフ・ヴァーグナーのことを調べるため。


しかし、これだけならば隊長であるエルザが適任であっただろう。


だが、裕斗には一つ、彼から直接聞かなければならないことがあった。


――私たちはね。ある日、この世界に召喚された召喚者なんだ


脳裏で新堂英二の言葉が蘇る。


彼の言うことが正しいならば、各国で自分のいた世界から戦闘員として召喚されている可能性が高い。


もしかしたら、自分も召喚された可能性がある。この男、ユリウス・ヴァーグナーに。


理由は二つある。


一つ目は、彼が初めて自分が目覚めた近くの国の統治者であったこと。


二つ目は、何の疑いもなく自分を騎士団に入らせ、魔導騎士を与えたことだ。


いくら戦力が期待できるからといって、どこの出自かも分からない者に、貴重な魔導騎士……それも特別機を貸し与えるなど、普通は有り得ない。


少なくとも、少しは取り調べなどをするべきだ。


だが、ユリウスがあちらの世界の住人だからだと、得体の知れる者だと初めから分かっていたなら、納得がいく。


――だが、それでも……


ここまで考えて、ユリウスを黒だなどと推測したくなかった。


「ユウト君?どうしたのかな?」


グルグルと無意味に加速させていた思考を、ユリウスの言葉が絶った。


「あ、すみません。少し考え事をしていて」


「いやいや。謝らなくてもいいよ。それよりどうしたんだい?帰って早々話があるなんて」


「はい。団長に聞きたいことがあってきたんです。……その、団長はルドルフ・ヴァーグナーという名に聞き覚えはありますか?」


「ああ」


こくん、とユリウスは頷いた。


「といっても、私の先祖にそういった名前があるのを知っていたというだけだ。残念ながら、それ以外は知らないよ」


「……そうですか」


当てが外れたが、まったくといいほどではない。


今はそれに安堵し、もう一つの……裕斗にとっての本命をぶつけた。


「もう一つ、聞きたいことがあります。……団長は、別の世界の住人を召喚する術をご存知ですか?」


「……どういうことだい?」


その時一瞬だけ、ユリウスの目が鋭くなった気がした。


気のせいか?と思い、話を続ける。


「昨日、僕たちを襲ったライダーに、僕と同じ世界から来たという人がいました。彼らは言ったんです。自分たちはこの世界の住人に呼び出され、戦わされていたんだと。……そして、僕に言いました。僕も同じだと。ですから、その……もしやと思ったんです。あなたが僕を呼んだんだって」


「……そうか」


パチン、と指を鳴らす。


すると、後ろのドアが開かれ、剣を抜いた兵が入ってきた。


「な……なにを……。これはどういうことですか!団長!」


「君は知りすぎたんだ、ユウト君。ああ確かに、私は君を呼んださ。あの時は本当に困っていたからねえ。正直召喚は賭けだったが、見事に私は勝ち、君という駒を手に入れることができた」


クツクツと笑い、裕斗を見る。


「いやぁ君はよく働いてくれたよ。なにも知らず、魔導騎士を葬り、国の軍事を強化してくれた。こんなに役に立った道具は初めてだ」


裕斗を見る、蔑称の眼差し。その目には、人として見るものではなかった。


「……つまり団長は、僕を消耗品としか見てなかったということですか」


「そうだね。少々廃棄期限は早かったが、もう十分だ。安心して逝きたまえ」


ユリウスは兵士に指示を出すため、右手を掲げた。


「……そうですか」


信じたくなかった。


だが、これが真実なのだ。受け入れるしかない。


そして、次の行動へ移すのだ。


「それは残念ですよ。ユリウスさん」


次の瞬間、部屋が爆発した。


突然の爆風に巻き込まれ、兵士が吹き飛ばされる。


「ク…な、なんだ!?」


ユリウスは巻き上げられた砂に視界を遮られながらも、外を見る。


そして驚愕。


外から顔を出したのは“トリスタン”だったのだ。


「“トリスタン”だと!?ば…ばかな!通信魔導具で助けを呼んだ!?いや、それはない!ここに来る前に魔導具や武器の類がないか確かめた!それなのに……なぜ!?」


「ええ。確かに僕は魔導具を身に着けていません。服にはね」


「………!?」


困惑するユリウスに、裕斗は右肩を親指で指差しした。


「ここに来る前に、僕は右肩の中に通信魔導具を埋め込んでいたんですよ。分かりますか?筒抜けだったんですよ、みんなに」


「バ…バカな……」


「では僕はこれで」


“トリスタン”裕斗の手の平に乗ると、操縦室の扉が開き、裕斗を中へと入れた。


「ま…待て!」


ユリウスが追い付こうとするが、もう遅い。


扉は閉められ、“トリスタン”は本部を離れた。


「ありがとうルイーゼ。ついてきてくれて」


操縦席に座る彼女は、フン、と鼻を鳴らした。


「勘違いするな。別に国を見捨てたわけではない。私はただ、真実を確かめるためについてきたんだ」


「分かってるよ」


苦笑した時、右肩に埋め込まれた通信魔導具からエルザの声が聞こえた。


『ルイーゼ、ユウト。早く船へ乗り込め』


彼女い言われて空を見ると、船がそこに浮かんでいた。


「しっかり掴まっていろ。……とはいえ参った。私の魔力で無事船まで飛行できるかどうか」


「大丈夫」


裕斗はルイーゼの左手に手を置いた。


「魔力は僕の分も使って。そうすれば、船までいけるはずだ」


「助かる」


ルイーゼはグッ、と操縦桿を握った。


「いくぞ!」


ゴウ!と、スラスターの火が噴き、機体を押し上げる。


そしてみるみるうちに船へと近づき、開かれていた格納庫へと滑り込んだ。


「ふう、なんとか脱出できたね」


「ああ。しかし、これからどうする?後ろ盾もなく、帰る場所もない、この状況で」


「……分からない」


ルイーゼの問いに、裕斗は包み隠さず、正直に答えた。


「でも、帰る場所はある」


裕斗はオルトランデのある方を向き、言った。


「今は逃げるしかない。けど、いつか必ず、ここに帰ってくるんだ」


そう、裕斗は強く決意した。


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