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第37話 同胞

「う、うう、ん……」


深い泥沼から無理やり引きずり出されたような覚醒とともに、裕斗は重い瞼を上げた。


どこか見覚えのある天井、一度か二度潜ったことのあるベッド。


それらを確かめながら、まだ意識のおぼろげな裕斗はここがどこなのか思い出せない。


「ここ、は……」


「あら?目が覚めた?」


と、赤髪の少女が裕斗を上から見下ろしているのに気が付いた。


「ヴァネッサ……?」


「俺もいるぞ」


彼女から少し離れたところを見ると、筋骨隆々とした小柄な男がいた。


「アルバート、さん……」


二人の名前を言って、自分がどこにいるのかを思い出した。


そうだ。ここは船に乗る際割り振られた自分の部屋だ。


そして、自分がなぜここにいるのかも思い出した。


「そうだ。僕…船が不時着した後、具合が急に悪くなって気絶したんだった」


「まあ、見た感じ軽い脳震とうだな。あんなに激しく揺れたんだ。なるのも無理ないさ」


「そう、ですか。……あれ?」


そこで裕斗は気づく。部屋の中に、眼帯をした、金の髪の少女がいなかったことに。


「ルイーゼは、どこに行ったんですか?」


裕斗が問うと、なぜか二人とも気まずそうにした。


「あーえっとだな。あいつは……」


「ルイーゼは今戦いに出ているわ」


「ッ!?」


ヴァネッサの衝撃の一言に裕斗は絶句した。


「お、おい!……いや、隠してたってしょうがないな。ユウト、これを見てくれ」


アルバートはそう言うと裕斗に水晶玉を見せた。


これは何度か見たことある。たしか、遠くの景色を映し出すことができる魔導具だ。


ブゥン、と音を立てて水晶から光が飛び出し、外の景色が映し出された。


「なっ……!」


それを見て、裕斗は絶句する。


ルイーゼの乗る“トリスタン”、他の隊員が乗る戦闘機が、暴走した魔導騎士の大群と戦っていたのだ。


困惑する裕斗にアルバートは口を開く。


「不時着した後のことだ。墜落音に釣られたのか、その周りをうろちょろしていた魔導騎士が寄って来たんだ」


「そんな……」


気づいて耳を澄ませば、破砕音のようなものが小さくきこえてくる。

どうやら戦場はそれほど遠くはないらしい。


「行か……ないと…」


裕斗は重い体を起き上がらせ、愛機の元へと向かおうとする。


「ちょっと、どこ行く気よ!?」


「僕も戦う。僕一人だけ休んでるわけにもいかないだろ」


「だからって…あんた今病み上がりなのよ!?そんな状態で行かせられるわけないでしょうが」


ヴァネッサは制止しようとする。

その表情は、必死そのものだ。よほど自分には戦ってほしくはないのだろう。


だが、裕斗はそれを振り払う。


「こんなところで呆けて死んじゃ、元も子もないじゃないか。だからお願い。僕を行かせてくれ」


「あんた…」


裕斗の真っ直ぐな眼差しを受け、ヴァネッサは少し考えた後、小さく嘆息した。


「分かったわよ。好きにしなさい」


「お、おい!」


「戦えない私たちが口出しできることじゃないわ。…けど、一つだけ約束しなさい」


「約束?」


首をかしげる裕斗に、ヴァネッサは「ええ」と言って、指をさした。


「必ず生きて帰ってくること。そして、絶対に無茶はしないこと。それを守れると約束できるなら、ここを出ることを許すわ」


ヴァネッサの条件に、裕斗は笑って返した。


「分かってる。心配しなくてもそのつもりだよ」


「だ、誰が心配してるってのよ!?私はただ当たり前のことを言っただけなんだからね!」


顔を赤くしてまくし立てるヴァネッサに裕斗は「はいはい」と返して、裕斗はベッドを飛び降りた。


まだ少し頭が痛いが、問題ない。裕斗は机上に置かれた通信魔導具を耳に付けた後、愛機である“ランスロット”の元へと向かった。


***


魔力接続開始コネクト・オン


裕斗は格納庫にある“ランスロット”に乗り込むと、その身を機体と接続した。


体に痛みが走るとともに、機体と一体になる感覚を覚える。


「シーラさん、聞こえますか」


自らの副隊長の名を呼ぶと、通信魔導具から驚いた声が返ってきた。


『ユ、ユウトさん!?大丈夫なんですか!?』


「ええ。ばんぜんではないんですが、短時間の戦闘なら可能です」


『…分かりました。けど、決して無理をしてはいけませんよ』


「もうそれに関しては釘を刺されてます」


裕斗は苦笑して言った後、操縦桿に力を込めた。


「榊原裕斗!“ランスロット”、行きます!」


ゴオ!と背中のスラスターから火が噴き、弾丸のような速度で飛び出した“ランスロット”は戦場へと飛び立った。


***


「アローレイン!」


少女の叫びとともに解き放たれた一本の矢は、上空で何本にも分裂。それらは雨のように降り注ぎ、魔導騎士のコアを射抜いていった。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


魔導騎士を葬った少女…ルイーゼは汗を流しうなだれた。


「魔力を絞ったとはいえ…やはり、消耗が激しいな…」


そう呟いたところで、こちらに近づいてくる何者かの気配を感じる。


振り返ると、一機の“ソルジャー”が剣を振りかぶってこちらに向かってきた。


「一機取り逃がしか!」


ルイーゼは舌打ちをしながら手に持った弓で敵機の斬撃を受け止めようとした。しかし、それは叶わず、力押しに負け体制を崩した。


「グッ!」


すぐに体制を立て直そうとするが、相手の方が早い。


“ソルジャー”の剣がルイーゼに向かって振るわれる。


――まず…!


もはやこれまでかと思われたその時、ガキイイン!と鉄が鳴り響く音とともに“ソルジャー”の剣が薙ぎ払われる。


「な……!」


それを行った張本人…いや、この場合は張本機か。その機体は“ランスロット”だった。


“ランスロット”は“ソルジャー”を蹴とばすと、手に持った魔力剣の刀身を伸ばし、遠く離れた“ソルジャー”の核を切り裂いた。


「間一髪だったね」


そう言ってルイーゼの操縦室のホロモニターに少年の顔が映し出された。


「ユ、ユウト!?なぜここに!」


「みんな戦ってるんでしょ?なら僕だけ寝てるわけにもいかないじゃん」


「だからといって。…いや、いい。乗ってきたものは仕方がないからな。手早く片付けるぞ」


「うん」


裕斗は頷いて、一歩踏み出そうとした。


しかし


「待て」


どこからともなく聞こえた声とともに、裕斗の目の前の地面に何かが突き刺さった。


それは、純白の羽だった。


「羽?」


裕斗が羽の落ちた場所であろう上空を見ると、そこには一機の魔導騎士だった。


装甲は“ランスロット”と同じ白。両手には武器を持ってあらず、背中には天使を思わせる純白の翼が生えていた。


見たこともない機体のデザインに驚いたが、それを上回る衝撃があった。


その機体には、なかったのだ。


暴走魔導騎士の証であるコアが。


「なん…で…」


困惑する中、操縦室のホロモニターに一人の青年が映し出される。


年は18、19くらい。柔和で整った顔立ちをした、好青年という言葉が似合う青年だった。


見たこともない人物だが、この状況で映し出すということは目の前の機体に乗っている人物であることは火を見るよりも明らかだった。


「止めるんだ。君は彼らと争うべきではない」


青年は制止の言葉を言った。


「な、なにを言っているんだ!」


ルイーゼは一歩踏み出そうとする。


しかし、踏み出そうとした地面を上空から落ちた雷が貫いた。


「な……」


突然の出来事に啞然とするルイーゼ。


「誰だ!」


裕斗が周りを見回すと、一機の魔導騎士がこちらに近づいてきた。


紫を基調とした装甲、馬を思わせる四本足の下半身が特徴の特別機だ。


「ダメよー?彼の言葉を遮ったら」


声とともに、ホロモニターに女の顔が映し出される。


年は青年と同じくらい。長く艶のある黒髪に、ホロモニター越しに分かるグラマラスボディが目に映る妖艶な女性だ。


戦わなくても分かる。この二人は今まで戦ってきた敵の中でも別格の強さだ。下手に刺激しては不味い。


――とはいえ、相手の素性は確かめないと


裕斗は背中のスラスターを噴かして上空に昇り、青年と同じ目線に並ぶ。


そして、問うた。


「止めるんだとは、どういうことですか?」


「簡単なことだよ.僕たちは彼ら……そちらでは暴走魔導騎士というのかな?それらと協力関係にあるからさ」


そうして青年は目を細め、衝撃の一言を放つ。


「我が同胞よ」


「は?」


青年の言葉に、裕斗は眉を寄せた。


――ドウ、ホウ?一体奴は何を言っているんだ


「ダメよ英二。一から説明しないと分からないじゃない」


「ああ、そうだったね」


呆れるように言う女に笑顔で返しつつ、青年は続ける。


「まずは自己紹介をしようか。僕の名は新堂英二」


「私は須藤麻衣よ」


二人の自己紹介が終わると、青年…新堂英二は続けて言う。


「私たちはね。ある日、この世界に召喚された召喚者なんだ」


「な……!」


幾度目かの衝撃の言葉に、裕斗は目を見開く。


召喚者ということは、彼らは自分と同じ世界から飛ばされてきたということだ。


それに、新堂英二と須藤麻衣。名前の響きから、彼らは日本人なのは明らかだった。


なるほど、ならば彼らが自分を同胞と言ったのも納得がいく。


だが、どうしてこの世界に召喚されたのか。なぜ敵対するのか、それがまだ分からない。


「召喚された、とは誰に、どんな目的があってですか?」


「無論、この世界の住人に。僕らは戦わされるためだけに呼ばれたのさ」


「戦う、ためだけ?」


「そうさ。どういうわけか、僕たちの世界の住人はこの世界の奴らよりも魔力が高く、100%の確率で適性を持っている」


だからなんだろう、と英二は続ける。


「僕たちは召喚され、暴走魔導騎士と戦わされた!僕たちは、来る日も来る日も、休むことも逃げることもできず、殺されたら次の犠牲者を召喚する程度の消耗品だったのさ」


英二の怒気を含んだ声。それは、この世すべてを呪わんばかりの怒りをはらんでいた。


「だから僕たちは復讐する。僕たちをいいようにしたこの世界の連中を、一人残らず根絶やしにするんだ。……君も、同じだろう?召喚され、無理やり戦わされている」


「違う!ルイーゼたちは僕を都合のいい消耗品だなんて考えていない!」


「……本当にそうかい?」


「なに!?」


「人間とは本音を隠すものだ。表面上は君と仲良くしているが、頬音は君を都合のいい道具くらいにしか思っていないかもしれない。……いいや、そうに決まっている。奴らは、救いようのないクズばかりだ」


「だから、ね」と、英二は裕斗に向けて手を差し出した。


「共にこの世界を滅ぼそう。我々と、復讐を果たそうじゃないか」


***


「……仮に仲間になった時、今この場にいる他のみんなはどうなりますか?」


一瞬の沈黙の後、裕斗は問うた。


それに対し、英二は当然のことのように返す。


「無論殺す。彼らもこの世界の一部だ。なのに殺さないのは、おかしいこと……」


「なら断ります」


英二が言い終わる前に、裕斗はきっぱりと返した。


「……なに?」


「ルイーゼたちを殺すのは許さない。もう彼女たちは、僕のかけがえのない仲間なんだから」


裕斗は最初、自分が生き残るためだけに戦ってきた。


だが、今は違う。


共に笑い、励み、死線を潜り抜ける中で、徐々にルイーゼたちはかけがえのない存在になっていったのだ。


そのみんなを平気で殺すと言うような奴らと、仲間になんてなれるはずない。


「……そう思っているのは、君だけかもしれないのに?」


「そんなわけないだろ」


キッ、と鋭い目つきで英二を睨む。


「彼女たちが僕をどう思っているのか、それは僕が一番よく分かっている。だから、僕は彼女たちを裏切らないし、君たちの仲間になることはない。」


「…………」


勧誘を断られ、英二は心底残念そうに目を閉じた。


「そうか。残念だよ」


天使の翼から羽がバラバラと抜け落ち、手に集まる。すると羽は武器の形を作り、その手には純白の剣が握られていた。


ぱちりと開いた瞳には、明確な殺意が見てとれる。


「ならば殺そう。同胞になるべきだったものよ」


刺し穿つことを宣言するように、純白の剣を裕斗に向ける。


「こい!」


裕斗は迎え撃つように剣を構えた。


「榊原裕斗!“ランスロット”!」


「新堂英二、”ルシフェル”……」


「「行くぞ!」」


両者の名乗りとともに、白と白の魔導騎士は互いに衝突した。

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