第30話 防衛
裕斗違は船に乗りこんで、暴走した魔導騎士の軍団が到着するであろうノウゼン北の国境の端まで来ていた。
裕斗は魔導騎士に乗っているため外の様子は見えない状況だが、通信魔導具からの情報によるとまだ暴走魔導騎士は到着していないらしい。
『そろそろ敵が来るみたいだから、落下の衝撃に備えなさい』
通信魔導具から聞こえてきた声の主はヴァネッサだ。本来裕斗をサポートするシーラがいないため、今回はヴァネッサがサポート役を任されている。
「了解!」
裕斗がそう言うと、格納庫の床が消失した。足場を失った裕斗の魔導騎士、“ランスロット”は重力に引かれて地面へと落下するが、これが初めてではない裕斗は難なく着地する。
「ふう…」
裕斗は一息息を吐き、周りを見回した。そして驚いた。
魔導騎士の数があまりにも多かったからだ。見る限り特別機はおらず、目に映るのは量産機の“ソルジャー”だったが、それで力不足とは感じないほどの圧倒的な大群。これならば国民もあまり心配しなかったのも納得だ。
――嫌な予感、当たりそうにないな…
裕斗はホッ、と息を吐いた。
「ユウト!来るぞ!」
「!」
ルイーゼの声に我に返った裕斗は騎士団のいる、その先を見た。
そこに、見えた。胸に赤黒い宝石を生やした、魔導騎士の大群が。
「来たか!」
裕斗は腰に差していた特殊兵装“アロンダイト”に手をかける。他の者も手に持った武具をより一層握りしめる。
やはり戦力的にはこちら側有利とはいえ、彼らもぴりついているらしい。
――まあそれもそうか。戦力はこちらが上とはいえ、もし守ることができなかったら、ノウゼンは滅びるもんなあ……
と、その時、ノウゼンの魔導騎士の群から一機、皆の前へと出た。その魔導騎士はダークブルーの鎧を装着しており、手には血のように赤い槍を握っていた。他の量産機とは違う雰囲気から裕斗たちと同じ特別機であることが分かった。
その特別機が敵に向けて槍を向けると、裕斗たちの魔導騎士のホロモニターに搭乗者の顔が映し出された。
その男はヴァネッサの兄、ケネス・ランドールだった。
「皆の者、聞け!」
彼の声が聞こえた瞬間、空気が変わった。
「恐れを抱くな!奴らを見よ!奴らは理性を知らぬ獣も同然、この時まで鍛え、研鑽してきた我らが負ける道理はない!さらに!貴様らには我がノウゼン騎士団総隊長、ケネス・ランドールと、我が愛機“セタンタ”がいる!」
「ゆえに!」とケネスは続ける。
「我らが負ける未来は有り得ない!この戦い、勝ち戦と思え!」
彼の演説が終わると、先ほどまでの空気が完全に変わった。
「お……」
その声は誰のものだったのかは分からない。だがその声を皮切りに人々は声を上げた。
「「「おお———!!!!」」」
そこにはもう、ぴりつき緊張していた雰囲気は消え去り、士気が限界突破していた。
これがカリスマというやつなのか、と裕斗は思った。
「さあ行くぞ!この俺に続け!」
ケネスは皆を先導し、大群の中へ突っ込んだ。
こうして、裕斗たちのノウゼン帝国防衛戦が始まったのだった。
***
暴走した魔導騎士は通常の魔導騎士に比べ、膂力、脚力ともに高い。
そのため、真っ向から挑んだとしても――裕斗のように例外がいるが――力不足で押し負けてしまうことが多い。
しかし、ノウゼンのライダーたちは違った。彼らは暴走魔導騎士の攻撃を受け流し、または二人以上で連携を組んで敵を屠った。
「おお、すごいなあ……」
裕斗は彼らの戦いを見て感嘆の声を上げた。
『ユウト、後ろ!』
「え?」
ヴァネッサに言われた通り後ろを見ると、一機の暴走魔導騎士“ソルジャー”が剣をこちらに向けて振るうところだった。
「うわっ!」
裕斗は慌てて“アロンダイト”でこれを防ぐ。そして逆に“ソルジャー”を弾き、お返しとばかりに“アロンダイト”をそいつ目がけて振るった。“ソルジャー”はこれをなんとか剣で防ぐが、勢いは殺しけれず、遥か彼方へと吹っ飛んだ。
裕斗は“アロンダイト”を後ろに下げ、姿勢を低くする。そして、乗機である“ランスロット”の背中にあるスラスターに魔力を込めた。
すると、スラスターから火を噴き、“ランスロット”は“ソルジャー”に急接近した。その勢いのまま、“ソルジャー”の核を切り裂き、“ソルジャー”は爆散した。
「油断しすぎだ、ユウト」
ルイーゼはそう言って機体の脚部に付いているスラスターを使い、裕斗に近づいた。
「ごめんごめん。でも、僕たちいなくてもどうにかなっちゃいそうなんだもん。……せっかく新しい装備付けたのに」
裕斗は“ランスロット”の背中と“トリスタン”の脚部に付いているスラスターを見た。そんな裕斗を見てルイーゼはハア、とため息を吐く。
「とは言え何もしないのは違うだろう。……私は後方を支援するから、ユウトは前方のサポートに行ってくれ」
彼女はそう言い残すとスラスターを噴かせ、後方へといった。
「あんまり戦いたくはないんだけどなあ……」
『文句言ってないで、さっさと行きなさい』
通信魔導具を通じてヴァネッサからも小声を言われる。
「はいはい」
裕斗は面倒くさがりながらもスラスターを噴かし、前方へと飛び立った。
***
裕斗が最前線へと向かうと、そこではダークブルーの魔導騎士が“ソルジャー”を押していた。
魔導騎士からダークブルーの魔導騎士に乗るケネスの楽し気な笑い声ga
聞こえてきた。
「ハハハッ!ほら、どうした!手も足もでないじゃあないか!」
ケネスの言うとおり、彼の振るう槍さばきに敵の“ソルジャー”は何もできず、むやみやたらに振るう剣の斬撃もケネスはすべてはじき返して見せた。
一方的とも言えるその戦いは、すぐに決着がついた。
「くし刺せ!ゲイ・ボルグ!]
ケネスがそう叫び敵機の右肩を槍で刺すと、次の瞬間敵機の体中から赤い棘が飛び出し、核を破壊、核は赤く輝くと音を立てて爆発した。
――うわあ、何あのえぐいの……
内部から破壊してとどめを刺すという、えぐい倒し方を目の当たりにして、裕斗は軽く引いた。
「フン、他愛もない。……ん?」
ケネスは何かを感じ取ったのか、その方向を見た。ユウトもつられてその方向を見る。
そこには背中に八本もの魔力でできた触手を生やした赤錆色の暴走魔導騎士がいた。量産機ではない、これは……
「ハハッ、特別機か!いいぜ!ちょうどザコどもにも飽きてきたところだ!来い!我が槍の錆にしてくれ――」
ケネスの言葉はそこで途切れた。なぜならば、謎の特別機が背中から生やした八本の触手のうちの一つが、その先端に着いた金属の刃で彼の機体を貫いていたのだ。
「ア……?」
「なっ……!」
『…………!』
あまりにも唐突な出来事に、刺されたケネスも、その場にいた裕斗も、妹であるヴァネッサも何も言えなかった。
ただ、
「総隊長ォ―――!!!」
誰かが叫んだその一言だけが、戦場に響いていたのだった。
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