第2話 魔導騎士
ルイ―ゼは裕斗を馬に乗せると、馬を発進させた。
「………………」
「………………」
最初、二人は無言だった。それが気まずくてしょうがなくって(聞きたいこともあったし)裕斗は口を開いた。
「ねえ」
「なんだ?」
ルイ―ゼは前を向いたまま聞き返す。
「君たちはあの騎士みたいなロボ…巨人と戦っているの?」
「そうだが…貴様、あれを知らないのか」
「うん。実はね…」
裕斗は話した。自分がこの世界とは違う世界にいたこと。事故で死んでしまったこと。気が付いたらこの世界にいたことを。
「そうか…」
ルイ―ゼはそう言って、少し黙っていた。噓をついているのではないかと疑っているのかもしれない。しかし、最終的には信じたのか話し始めた。
「…何百年も前のことだ。この世界は、魔獣と呼ばれる怪物達に支配されていた。
魔獣達は強力だった。奴らは人並み外れた力と、魔法と呼ばれる技を持っていたからだ」
―魔法…ラノベとかで見るアレとおんなじだよね?
「魔法って…君たちは使えないの?」
「残念ながらな。我々は魔法の源と考えられる魔力を持っていたが、それを魔法へ発展させる術を持っていなかったのだ。
…そこで人々は魔導具を開発した」
「魔導具?」
「魔道具というのは魔力を注ぐこと様々なに効果、能力を発動する道具のことだ。
まあ、それを使っても最初は魔獣どもとの差は埋まらなかったが…だが、長い時をかけ、ついに魔導具技術の集大成とも言えるものが開発された。
彼らは、騎士の姿を模した大型魔導具兵器…“魔導騎士”と名付けられた」
「魔導…騎士…って、まさか!」
「そうだ。貴様が壁外で見たあれが魔導騎士だ」
―やっぱり。…あれ?でも何でこの人達はその魔導騎士と戦っているんだ?
裕斗は疑問に思った。が、ルイ―ゼはすぐにその疑問の答えを言った。
「魔導騎士の力は魔獣に匹敵するレベルだった。だから、多大な犠牲はあったものの、魔獣どもを殲滅することができた。…しかしその直後、魔導騎士が暴走したのだ」
「暴、走…」
裕斗は耳を疑った。
「え?原因とかは分からないの?」
ルイーゼは自嘲気味に返した。
「ああ。何一つな。
我々は何も分からないまま、主力魔道具兵器のほとんどを失ってしまった。 それに加え、今や新たに魔導騎士を製造する技術を我々は持っていない」
「それって、けっこうやばいんじゃ…」
「そう。だから我々は戦わなければならない。彼らを使ってな」
「彼ら?」
その時、さっきまで走っていた馬がある巨大な建物の前で止まった。
ルイ―ゼが馬から降りる。
「あ!ちょっと!」
裕斗もあわてて馬から降りる。
ルイ―ゼは裕斗が降りたのを確認した後、建物の扉に近づき、それに触れた。
すると、ギィィ…と音を立て、扉が開かれた。外から差し込む光で、建物の中身が見える。
「な…!」
裕斗は建物の奥に見えるものに驚きの声を上げた。
そこには、巨大な騎士が二体、たたずんでいたのだ。
「これって…」
「ああ、魔導騎士だ」
ルイ―ゼはパチン、と指を鳴らした。パッと建物の中が明るくなり、二体の魔導騎士がはっきりと見えた。
右の魔導騎士は青を基調とした色の兜と鎧を装着している。高さは最初に見たやつと同じくらい。後ろには小型の剣と、右手には弓が握られていた。
狙撃タイプなのかと、裕斗は勝手に推測する。
左の魔導騎士は白を基調とした兜と鎧で、こっちも高さは同じ15mだ。彼(?)の兜の上には騎士型ロボットっぽくトサカがついている。そして腰には鞘に収まった剣があった。
「魔導騎士…暴走したんじゃなかったっけ?」
「大半は、な。だが少数は暴走せず、いくつかの国は魔導騎士を所有しているんだ」
「なんで、こんなものを僕に見せたの?」
裕斗はルイ―ゼの方を向いて聞いた。
「魔導騎士は中に人が入ることによって動き、操ることができる。しかし、操れるのはある適性がある者だけだ。だが…」
そう言うと、ルイ―ゼは右眼を覆っていた眼帯を外した。
あらわになった右眼は美しく輝く翠色の瞳で、まるで宝石のようだった。
「私の右眼は特殊でな。私はこれで見た者にその適性があるか否かを見ることができる。そして、見たところ貴様には適性があった」
そこまで聞いて、裕斗はようやく彼女の目的が分かった。
「じゃあ…僕に…」
ルイ―ゼはこくん、と頷き、白い魔導騎士の方を指さした。
「貴様にはあれに乗って戦ってもらいたい。私も適性はあるが一人では心もとないからな。
もう奴が…魔導騎士が我が国に迫っている。一緒に、戦ってくれ!」
ルイ―ゼはキッと引き締めた表情で裕斗を見た。
対して、裕斗は…
「そ…そんなの…」
わなわなと、唇を震わせて言った。
「イヤに…決まってるじゃないか!」
「な…!」
ルイ―ゼは目を見開いた。だが、すぐにその顔を怒りの表情に変え、裕斗に詰め寄り彼の服をつかんだ。
「貴様!分かっているのか!?今ここで戦わねば死ぬかもしれないのだぞ!?」
「そんなの知らないよ!君一人で戦えばいいじゃないか!僕を巻き込まないでくれ!」
「だから…!私一人では勝てる可能性が低いと言っているんだ!もし私が負ければこの国は魔導騎士に抗う術を失ってしまう!そうなればこの国にいる者は皆魔導騎士によって殺されてしまうのだぞ!それが分かっているのか!」
「だから知らないよ!戦っても僕は死ぬかもしれないだろ!なんでわざわざ死ぬ危険を冒さなきゃいけないんだ!」
裕斗の脳裏にはある記憶が思い起こされていた。
それは自らが前の世界でひき殺された記憶。死ぬ時に感じた自らの意識が途絶える感覚。
そして、文字通りの死ぬほどの痛み。
もう嫌だった。あんな思いをするのは…。
「頼むから…君たちの事情に僕を巻き込まないでくれ…」
顔をうつ向かせ、絞り出すような声で裕斗はそう言った。
「貴、様…!」
ルイ―ゼは声を震わせ、何かを言おうとした時、
「緊急、緊急です!」
その声とともに、1人の女の子が現れた。
ルイ―ゼはハッとして、女の子の方に向き直る。
「どうしました?」
「大変です!魔導騎士…“ソルジャー”がもうすぐそこまで来ています!急ぎ対処をお願いします!」
それを聞いたルイ―ゼはチッと舌打ちして、裕斗の服を放した。
「了解しました。すぐに準備をいたします。…この少年は、本部につれていってください」
ルイ―ゼはチラッと裕斗の方を見てから女の子にそう言って、1人格納庫の奥へと行った。
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