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第22話 告白

「う…ううん…」


パチリ、とヴァネッサは呻きながら目を覚ました。


「ここは…」


キョロキョロと目で見回し、そこが自分の部屋であることが分かった。


「…………」


まるで悪夢を見ていたかのようだった。


だが、何も覚えていない。覚えているのは、自らが気を失う瞬間までだった。


「いったい…なにが…」


「あ、目ぇ覚めた?」


ふいに、少年の声がした。目を向けると、黒髪の少年、サカキバラ・ユウトが心配そうにこちらを見つめていた。


「アンタ……っ!」


体を起き上がらせようとすると、体に激痛が走った。


「無理をするな」


そう言ったのは、眼帯をした金髪の少女、ルイーゼだった。


「救出は成功したが、魔導騎士で引き上げたからな。骨の何本かは折れてしまっている。……今は魔導具で治療中だが安静にしていろ」


ルイーゼの言う通り、ヴァネッサの体には治癒用の魔導具である包帯巻かれていた。この包帯は内部から治療してくれる代物であり、かすり傷程度ならものの数秒で治してしまう。

それをもってしても体に激痛が走るということは、自分の体は思った以上に深刻らしい。


「そう……」


ヴァネッサは体を起こすのを諦め、再び体を寝かせる。


「ヴァネッサ、何が起こったのか覚えてる?」


裕斗の質問に、ヴァネッサはふるふると首を振った。


「何も覚えていないわ。ずっと…悪夢を見ているようだった。…良ければ教えてくれないかしら?一体何が起こったのか…」


「…………」


裕斗は迷ったようにルイーゼに目を向けるが、いう決心がついたのか話し始めた。


そしてヴァネッサは知る。

自らの魔導具が暴走したこと、それが裕斗たちに襲い掛かったこと、そして自分は救出されたが魔導騎士は大破し、もうこの世にはないことを。


「そう……」


――もう私は、ライダーではないのね


ヴァネッサは裕斗たちから目をそらし、思ったことを口にした。


「なんで…助けたの?」


その物言いに、ルイーゼは食って掛かった。


「…貴様!なんだその言い方は――」


しかし、そのルイーゼを裕斗は手で制する。


「なんでって……どういうこと?」


「アンタは自分のために戦っているんでしょ?それなのに、たいして仲良くもない私を助ける道理なんてないじゃない」


自分が彼からよく思われていないことは彼女が一番承知している。

それなのに、なぜこの少年は自らも死ぬかもしれないこともかえりみず自分を助けたのか、それが彼女にはまったく分からなかった。


「言っとくけど、帝国に恩を売りたいとかなら骨折り損よ。私、あそこにとってはいてもいなくても変わらない立場だから」


「いや、そんなんじゃないよ。ただ……」


裕斗は少し気まずそうに頭をポリポリとかいた。


「怒るかもしれないんだけど……実は昨日、君が夜遅くまで鍛錬をしているのを見たんだ」


一瞬、静寂。


「……は!?」


その後、ヴァネッサの声が部屋中に響き渡った。


「み、見たってアンタ……う、噓でしょ!?」


「噓じゃないよ」


ふるふると裕斗は首を振る。


「君の槍さばき、本当にきれいだった。……それに、その手の豆、相当練習していたんだね」


ヴァネッサはハッ、と自分の手を握る。握った手から通じて、デコボコした手のひらの感触が返ってくる。

その痛々しい手が、彼女のこれまでの努力を物語っていた。


「……何なのよ、さっきから。確かに私は何年も槍を握って研鑽を積んできた。そうするしか、方法はなかったから……」


ヴァネッサの家は名家であり、何代も騎士団員として戦果を残したエリートであった。しかし、その分力が全てであるという考えが根付いており、非力な女であったヴァネッサは家では下で見られていた。


だから彼女は槍を握った。


いつか家族を見返すために、血反吐を吐く思いで、必死に槍を振るい続けた。もっとも、彼女の努力が認められることはなかったが……。


「笑えるでしょ?あれだけ偉そうなこと言っておきながら、才能のなかった私は一心不乱に、それこそ死ぬ思いで槍を振るっていたんだから」


「いいや。そんなことない。むしろ逆だよ」


「逆?」


ユウトは少し苦笑しながら話し始めた。


「……僕も、才能なんてものは何もなかった。勉強も運動も、努力してもいつも壁にぶつかって……ああ、自分には才能がないんだって言い訳して逃げてきた。……けど、君は違う。才がなくたって決してあきらめず、努力を続けてきた君を僕は心から尊敬する。だから……」


少年は優し気な笑みを浮かべ、言った。


「あんなところで死んでほしくない。そう思ったんだ」


「――――――」


その言葉は、ヴァネッサにとって衝撃だった。


死んでほしくない、なんて今まで言われたことがなかった。


家族から忌み嫌われ、差別されてきた彼女をこの国に送ったのは半ば追放目的だったし、今回の件も彼らにとってはなぜ生き残ったのかと悲しむところだろう。


それなのに、この少年……サカキバラ・ユウトは違う。

彼はヴァネッサの存在を否定せず、それどころか今までの努力を認め、尊敬してくれた。


「ヴァネッサ?どうかしたの?」


ユウトに言われて、ヴァネッサはハッ、とした。


「な、なんでもない!少し一人にしてくれないかしら!」


ヴァネッサは裕斗たちから顔を背け、布団に覆いかぶさる。


「うん。安静にしててね」


裕斗はそう言って、席を立ち上がる。

そんな彼に、ヴァネッサは頬を赤くしながら勇気を振り絞って言った。


「…………ありがとね」


「?うん」


裕斗は何で感謝されたのか分からないまま生返事し、ルイーゼとともに部屋を出た。


「……………………」


二人が出た後も、頬が赤いままで、胸がドキドキとうるさい。


「何なのよ、この気持ち……」


ヴァネッサは体を苛む痛みも忘れ、高鳴る胸をギュッと抑えつけた。


***


部屋を出た後、ヴァネッサがなぜ感謝の言葉を述べたのかなんとなく分かったルイーゼはフッ、と口元に笑みを浮かべた。


「素直ではないな」


「え?それ君が言う?」

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