第21話 救出
「ん…うん…?」
重いまぶたを、赤髪の少女ヴァネッサは開いた。
「ここは…」
ヴァネッサはキョロキョロと周りを見渡す。
周りは真っ暗で何も見えず、何も聞こえない。真っ暗なその場所は、まるで深海の中のようだった。
「何なのよ、ここは…」
ヴァネッサは状況が分からず、苛立ちを覚えた、その時だった。
――憎い
「……?」
声が聞こえた気がして、再度周りを見回そうとした。
その時、どこからともなく現れた黒い手が、ヴァネッサの手をつかんだ。
「なっ!?」
驚きながらその手を振りほどこうとするが、さらに何十本もの手が伸びて彼女の体に絡みつき、動きが完全にできなくなった。
――憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
「あが、が…あ…」
体を万力のように締め上げられ、息をすることも、思考を巡らせることもできない。
「だれ…か…」
かろうじて動く右手を、救いを求めるようにあげるが、当然誰も手に取るはずもなく、彼女の意識はプツン、とその場で途絶えた。
***
「ヴァネッサ!?ヴァネッサ!?」
再度裕斗が呼びかけるが、ヴァネッサから何も返事が来ない。
「ユウト!下がれ!」
裕斗が振り返ると、ルイーゼのトリスタンが弓を構えていた。
「もう奴は手遅れだ!被害が出る前にここで叩くぞ!」
それに対し、裕斗は首を振った。
「嫌だ!ヴァネッサをここで死なせるわけにはいかない!」
「分かっているのか!このままではお前も死ぬぞ!」
ルイーゼの言葉に、裕斗はビクッと肩を震わせた。
自分が前の世界で、一度命を落としたことを思い返す。
「僕だって……死にたくない」
「だったら!」
「けど!他に方法はないの!?助けることはできないの!?」
裕斗のその言葉に、ルイーゼは目を丸くした。
「……ユウト、なぜそこまでして……」
「なんででもだ!僕のわがままだけど、彼女を死なせたくない!だから……お願いだ!どれだけ低い可能性でもいいから助ける方法を教えてくれ!」
「…………」
裕斗の必死の懇願に。ルイーゼはハァ、とため息をついた。
直後、モニターに映るヴァネッサの“ソルジャー”の核よりも上の部分から横に赤い線が引かれた。
「これは……」
「そこに沿うように斬れ。そうすればあの者を斬ることもなく引きずり出すことができる。……難易度は高いがな」
「!」
裕斗はそれが何を意味しているのかを理解し、彼女に笑顔を向けた。
「ルイーゼ!」
「勘違いするな。あの者も貴重なライダーの一人だからな。死なないに越したことはない、それだけだ」
ルイーゼの言い分に、裕斗は苦笑いした。
――まったく、素直じゃないんだから
「ありがと…ね!」
裕斗は渾身の力を込めて“ソルジャー”の槍を押し返す。
押し返された“ソルジャー”は体制を立て直し、何度も槍を裕斗の“ランスロット”に向けて振り回した。しかし、その斬撃を裕斗の“ランスロット”は剣ですべて弾き落とす。
暴走した魔導騎士は並の魔導騎士に比べ力が強くなっているため、力勝負に持ち込まれると通常は不利となってしまう。
しかし、魔導騎士の燃料は魔力であり、その魔力が多ければ多いほど力が増すため、実質無限の魔力を持つ裕斗の乗る“ランスロット”は(剣と同様込められる魔力に限界があるが)暴走した魔導騎士を超える力を発揮する。
ゆえに、力勝負において裕斗に分がある。
「たあっ!」
ビュン!と裕斗は斬撃を放つ。
ガキン!と“ソルジャー”は槍をもってこれを防ぐが、体制を大きく崩した。
――まずは武器を奪う!
裕斗は持っていた剣…“アロンダイト”に大量の魔力を流し込む。すると、魔力でできた刃が光り輝いた。
「ハァッ!」
裕斗の振り上げた一閃が“ソルジャー”の槍を真っ二つにする。
「これで…終わりだ!」
返す刃で“アロンダイト”が赤い線に沿って“ソルジャー”を斬る。泣き別れになった“ソルジャー”の上半身の大部分がゴトン、と落ちた。
「ッ!」
裕斗はとっさに剣を捨て、バランスを崩し倒れる“ソルジャー”をつかむ。
上から露わになった“ソルジャー”の操縦室にはぐったりと倒れるヴァネッサの姿があった。
「ヴァネッサ!」
裕斗は彼女を握りつぶさないよう掴み、操縦室から引き上げた。
と、そのとき、ガコン!と機体の腹に衝撃が走り、裕斗は吹き飛ばされた。
「グフッ!」
裕斗は体の痛みを抑えながらなんとか受け身を取り、蹴りをいれた犯人たる“ソルジャー”を見た。
上半身の大部分を失った“ソルジャー”だったが、残った足を使って裕斗にせまる。
――まだ動けるのか!
「ルイーゼ!」
「分かっている!」
裕斗の呼びかけに答えるように、ルイーゼが魔力で形成した矢を“ソルジャー”の核に向けて放つ。
彼女の放った一矢は核を打ち抜く。バキィン!と音を立てて核が砕け、“ソルジャー”は爆散した。
「ユウト!大丈夫か!」
倒したのを確認した後、ルイーゼは駆け足で裕斗に近づく。
「ああ、うん。大丈夫だよ」
裕斗はモニターに映る彼女に向かって手を振りながら、握っていた“ランスロット”の右手を開く。そこには、眠りにつくヴァネッサの姿があった。
モニター越しではあったが、彼女が寝息を立てていることから生きてはいることが分かり、裕斗はホッ、と胸をなで下ろした。
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